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第66話『旅支度』


 ドラスとの一件から三日後、ようやく健司は目を覚ました。見慣れた天井から自分が寝ているのは自分のベッドであることを認識する。

 

 体を起こすとそこにはベッドに顔を埋めるように眠っているヒツギの姿があった。

 

 「どれくらい寝てたんだ……?」

 「三日間だよ」

 

 声がした方を向くと遥が立っていた。

 

 「三日も寝てたのか」

 「ああ、三日間ぐっすりだったよ。ほら、お見舞いのリンゴだ、じゃあ任務があるから俺は帰るな」

 

 そう言って遥は部屋を後にした。

 

 「腕が引っ付いてるし左目もある。心臓も無傷……魔術ってここまで修復できるものなのか……?」

 

 ドラスに貫かれた場所に触れて傷などを確認するがそれらしき傷は体のどこにもなかった。

 

 「う……うぅん」

 

 眠っていたヒツギがむくりと起き上がり眠たげに目を擦り、ぼんやりとした顔で健司を眺める。しかし、その顔からすぐに眠たげな雰囲気は消え去り目に涙がたまる。

 

 「健司……!」

 「お、おい!」

 

 ヒツギは健司に飛びつくように抱きつき健司の胸に顔をうずめ、嗚咽を漏らしながら鼻水と涙を服に擦り付ける。

 

 「……ヒツギ、汚い」

 

 その言葉にバッとヒツギは鼻水と涙まみれの顔で健司を睨みつける。

 

 「き、君ってやつは! ボクがどれほど申し訳なく思って、どれほど心配してたと思って……!」

 「申し訳なく? 何か申し訳なく思うことがあるのか? 俺の傷もヒツギが魔術で治してくれたんじゃないのか?」

 「やっぱり意識はなかったんだ……」

 

 ヒツギは涙と鼻水を拭いて真面目な雰囲気に戻して何があったかを隠すことなく全て話した。

 

 「俺が鬼の力に……」

 「それと、これからが本題でもあるんだけど聞いてくれるかい?」

 「あ、ああ。話せよ」

 

 ヒツギは一度、一呼吸置いてから話を始めた。

 

 「ボクは本部を出ていこうと思うんだ。ドラスとの決着をつけるために」

 「そうか……それでいつ出るんだ?」

 

 健司はヒツギの言葉に驚きもせず案外すんなりと受け入れてくれた。

 

 「出れるなら今日にでも出ようと思ってるけど。健司は意外とすんなり受け入れるんだね」

 

 ヒツギは自分が健司にとって引き止めるに値しないその程度の存在でしか無いと言われてるような気がして複雑な気持ちになった。

 

 「家族の問題だからな。お前が決着をつけたいなら俺が止める理由はない」

 

 そう言って健司はベッドから起き上がり服を着替え、遥が見舞いでくれたリンゴをかじりながら任務に行く時のように準備を始めた。

 

 「健司? 何してるの?」

 「ここから出ていく準備だよ。あれ? レイジングブルがない」

 「あ、レイジングブルはボクが少し改良するために預かって……ってそうじゃないよ!」

 

 ヒツギは立ち上がり健司のそばまで来て準備をしている健司の手を止めさせる。

 

 「これはボクの問題だから、健司が僕と一緒にここを出ていく必要は……」

 「別にヒツギが出ていくら出ていくわけじゃねぇぞ? 俺には俺の目的があるんだよ」

 

 そう言って健司は再び手を動かし準備を再開し始めた。

 

 「修羅刀を探しに行く。ついでにエイボンも見つけれたらって考えてる。そのついでにお前ら兄妹が周りを気にせず決着をつけれるよう周囲のアンデッドとかを相手してやるよ」

 

 準備を終えた健司はヒツギと向き合うようにベッドに腰掛けた。

 

 「ヒツギが決着をつけるって決めた以上はヒツギとドラスの戦いには手を出すつもりは一切無い。仮にヒツギが死ぬことがあったとしてもだ」

 「健司……ありがとう」

 「まぁ、そのあとで十中八九ドラスと俺は戦うことになるだろうけどな」

 

 笑う健司につられれてヒツギも笑う。こんなふうに軽口を叩いて笑うのは久しぶりのように感じていた。

 

 「それで、レイジングブルの改造ってのはなんなんだ?」

 「改造した効果はここと出てから試すとして、とりあえず使用感に問題がないか確めに行こう」

 

 そう言われてヒツギについて行き、着いた先は少し怪しい雰囲気の漂う研究室だった。

 現代的なビーカーや顕微鏡などの道具やラベルの貼られた薬品などが綺麗に並べられてる中に一際目立つのはページを開けたまま置かれている三冊の羊皮紙で作られた古ぼけた本だった。

 

 「この本は……」

 「魔導書だよ。楓華が使ってたソロモンとピカトリクスと僕が元々持ってたラジエルの書さ。あとそこの本棚に二冊、ガルドラボークとアルマデルの書が置いてあるよ」

 

 本棚を見てみるとズラリと分厚い本が並ぶ中に金色の魔方陣の描かれたひと目でわかるような二冊の本があった。

 

 「この二冊以外の本棚にある本も魔法陣なのか? 表紙とかやけにシンプルだけど」

 「残りはボクが書いた本だよ」

 「ヒツギが?」

 

 健司は魔導書とヒツギが書いた本を手に取り、中を見比べてみた。確かに魔導書はまず文字が読めなかったがヒツギが書いたという本は内容は理解できなかったが読むことは出来た。

 

 「ヒツギの本も魔術に関することみたいだけど魔導書とは違うのか?」

 「ボクのは魔術の取扱説明書と実験のレポートをまとめたもの。だから魔導書みたいに本自体に特殊な力があるわけじゃないんだ」

 

 ヒツギの話を聞きながら健司は何となくヒツギの書いた本を眺めているが何一つ理解できなかった。

 頭が痛くなる前に本を本棚に戻して座っているヒツギの近くに椅子を置いて腰掛ける。

 

 「レイジングブルはどこにあるんだ?」

 「これだよ」

 

 アタッシュケースを取り出したヒツギはロックを外し中を健司に見せた。

 中にはレイジングブルがたしかに入っていた。銀色のボディに特徴的な少し平たいバレル、健司がカスタムとして変更した木製のグリップもそのままで何が変わったのか全くわからなかった。

 

 「何が変わったんだ?」

 「鬼の力を制御するのをサポートできるようにしたんだよ。でもあくまでサポートだから健司自身が鬼の力をある程度まで使いこなせる必要があるんだけどね」

 

 どれどれ、と健司はレイジングブルを手に取って弾が入っていないことを確認して構えてみる。

 ハンマーを下ろし引き金を引くとカチンと金属音が響く。使用感はなんの問題もなかった。

 

 「持ってる感じは改造前と一緒かい? なるべく変わらないようにしたんだけど」

 「あぁ、なんの問題もないな」

 

 くるくるくるとレイジングブルを回し、ホルスターに片付けた健司は立ち上がってかけてあるヒツギの上着を手に取りヒツギに投げた。

 

 「さぁ、レイジングブルも帰ってきたわけだしヒツギもそろそろ準備しろよ?」

 「う、うん」

 

 ヒツギは急いで準備を始める。と言っても健司もだが二人とも大して多いなカバンを使うわけでもなく健司は軍用のレッグポーチでヒツギは軍用ウエストポーチ。

 必要最低限のもののみを入れた。

 

 健司はコートを羽織り、ヒツギは羽織ったコートの上からウエストポーチをつけ本部から出るための出撃口へと向かう。

 

 「健司、ありがとう」

 「何が?」

 「ううん、なんとなく」

 

 ヒツギは健司にバレないようにひっそりと嬉しそうに笑みを作った。

第66話を読んでいただいありがとうございます。そして投稿が遅れてすみませんでした。

第67話『それぞれの仕事』は6月15日に投稿するのでよろしくお願いします。

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