第65話『仲直りはプリンのように甘く』
ボスに呼び出され遥は地味に遠い紫菀を呼び出しに部屋の前まできたが、すごく入りずらい雰囲気になっていた。
「あー! にぃにがしろのプリン食べたー!」
マシロの声が部屋の中から聞こえてきた。
「プリン食べたくらいでそんなに怒るなよ。新しいの買ってやるから」
マシロは目尻に涙を浮かべながら紫菀を睨む。
「一緒に食べようと思ってたのに……」
「え? 何て?」
聞き取れなかった紫菀が聞き返すとマシロはキッと紫菀を睨み、
「にぃにのバカー!」
ドアをから飛び出した。
「あ! マシロ!」
紫菀の声で止まるはずもなく、そのまま何処かへ走って行ってしまった。
ここでようやく、遥が来ていたことに紫菀は気がついた。
「遥……いたのかよ」
「ボスから招集がかかったんだけど……大丈夫か?」
少し面倒な状況を見られてしまったと紫菀はバツが悪そうに頭をかいた。
「どうする? マシロを追いかけるか?」
「いや、ボスの方を優先するよ」
「そうか」
紫菀が着替え、二人でボスの部屋へ向かった。話の内容は健司のことや健司を助けた時の報告だった。
そんな話し合いをしている時、
「う、うぅ……ぐず……にぃに……の……バカぁ……」
泣きながらマシロは自分がどこにいるかもわからずトボトボと歩いていた。
「あれ? マシロちゃん?」
「なんで泣いてんのよ?」
飲み物を片手に持っている、ヒツギと薫那が心配して声をかけてきてくれた。辺りを見渡してみると、いつの間にか本部の一般人の保護された街に来てきた。
一週間ほど前までは街はかなりめちゃくちゃになっていたにも関わらず今はもうある程度修復されていた。
下にある魔宝石の存在は素早い修復によって街の人に知られることは無かった。
正に平和そのものであるその街は昔の世界のように多くの人が行き来していて、とても賑わっていた。
「ひつぎちゃん……かなちゃん……うわぁぁぁん!」
「わっ!マシロ?!」
「マシロちゃん!?」
突然マシロに抱きつかれ、薫那とヒツギは尻餅をついた。
「いたた……マシロちゃん、急に飛びついたら危な――」
「う、うう。ぐす……ぐず……」
ヒツギと薫那の間で泣きじゃくるマシロを見て、二人は顔を見合わせた。
「マシロ、なんで泣いてるか私達に教えてくれる?」
「うん……」
三人はベンチに腰をかけた。
「はい、オレンジジュース」
「ひつぎちゃん、ありがと……」
マシロはストローをくわえ、オレンジジュースを飲んだ。
「それで? なんで泣いてたのよ?」
「にぃにと、けんかした……」
「紫菀とマシロちゃんって喧嘩するんだ。なんかとても意外だよ」
ヒツギと薫那は意外そうに話を聞く、紫菀とマシロは本当の兄妹のように仲が良い。
「にぃにがしろのプリン食べたの」
「プリン?ここに来て買いに行ったの?」
ヒツギが聞くとマシロは首を横に振る。
「ううん、はるかがくれた」
「あいつ……」
薫那は頭を抱えた。
「食べた後、紫菀なんて言ったのよ?」
「新しいの買ってやるから怒るなよ、って言ってくれた」
「だったら、マシロも少しは悪いんじゃないの? 確かに食べちゃった紫菀は悪いけど新しいの買ってくれるって言ったんでしょ?」
薫那はとても優しい声音でマシロに聞く。
マシロは少し俯いた。
「しろ、にぃににごめんなさいしたい」
「じゃあ、帰りにプリンでも買わないかい? 二つ買って二人で食べたらいいよ」
「そうね。そうしましょう」
三人はこの街一番美味しいと言われている、ケーキ屋のプリンを買いに行った。
「にぃに、許してくれるかな……?」
「許してくれるよ。実際プリン食べたの紫菀なんだし」
ヒツギの言葉に安心したようにニッコリと微笑むマシロ。
ケーキ屋の中は沢山の美味しそうなケーキやプリンやクッキーが綺麗に並べられていた。
「どれも美味しそうだね、マシロちゃんはどのプリンがいい?チョコ?カスタード?」
「普通の黄色いヤツ」
「だったらカスタードね。じゃあ、これを買って紫菀と食べなさい」
「でも、しろお金持ってない」
「それくらい、ボク達が買ってあげるよ」
そう言って、ヒツギはクリームの乗ったカスタードプリンと抹茶のロールケーキを頼み、薫那はいちごのショートケーキを頼んだ。
「かなちゃんとひつぎちゃんもはるかとけんじと一緒に食べるの?」
「うん、せっかくだしね。健司の目が覚めたら一緒に食べようかなって」
「私も食べたいしね。ここのは美味しいって評判だからね」
三人はケーキ屋の箱を抱えて自分たちの部屋へ向かった。
マシロは不安そうにケーキ屋の箱を冷蔵庫に入れる。
「ただいまぁー」
「にぃに……」
「あ、帰ってたのか……」
「にぃに、その……ごめんな――」
「今朝は悪かった」
マシロの声を遮るように紫菀が目をそらしながら謝った。
「え……あ……しろも、ごめんなさい……プリン買ってきたから、一緒に食べよ?」
冷蔵庫から出した箱を見せた。
紫菀は優しく頷きスプーンを出した。
「にぃに、美味しいね」
「ああ、そうだな」
仲直りできて満足そうにプリンを頬張るマシロの頭を紫菀は優しく撫でる。
第65話を読んでいただきありがとうございます。
第66話『旅支度』は6月8日に投稿するのでよろしくお願いします。




