第64話『三重式魔術』
健司を見下ろす位置となる崖をスナイプポイントとして魔法陣から対物ライフルのダネルNTWを取り出しバイポッドを立てて、うつ伏せになりスコープを覗く。
「ヒツギもなかなか無茶言ってくれるわね。あんな動く的に当てれるかしら」
スコープから目を離しダネルNTWからマガジンを引き抜きヒツギに渡された弾丸を眺める。
マガジンに弾丸を込め、マガジンを装填し再びうつ伏せになりスコープを覗くが高速で戦闘を繰り広げている健司を追うことが出来ない。
「あー! もう! 邪魔!」
一瞬狙いが定まったと思えばそのタイミングで紫菀や遥やビリーが射線に入る。
「ヒツギ、あの三人に射線に入るなって言って! それと健司の動きを止めるようにもね!」
魔法陣から無線を取りだし怒鳴るようにヒツギへと伝える。
「わ、分かったよ」
通信用魔法陣から飛んできた薫那の怒鳴り声に少しビクッとなりながらヒツギは三人のそばに通信用魔法陣を展開する。
『あーあー、三人とも聞こえる? 今薫那が健司の心臓を特殊な弾丸で撃ち抜くから射線に入らないで。あとはボクが健司の動きを止めるから準備が終わるまで時間を稼いで』
ヒツギの伝言を聞いた三人はアイコンタクトをとり薫那の位置を確認し再び息を合わせ健司の相手をする。
「隊長はなんか作戦ありますか?」
紫菀がビリーに聞くとビリーは皮肉な笑顔を作った。
「今更作戦でどうこうできる状態じゃないだろう? 俺が言えることは互いの動きをよく見て合わせろだ」
それを聞いた遥と紫菀は違いない、と言って武器を構え直す。
「どうせすぐに修復して大したダメージにならないんだから派手にいこうぜ」
そういう紫菀に向けられた目を見て遥は紫菀が何をしようとしているか理解した。
「時間は俺が稼いでやる」
ビリーは二人の前に出る。
「火焔!」
「支配域!」
紫菀は手を前に出し力を込めると地面が少し揺れ始めた。紫菀はさらに力を込め続ける。すると、健司を取り囲むように六ヶ所の地面が円柱状に飛び出した。
高い柱となった地面はくねくねと生き物のように動き、それはまるで地面から顔を出した龍のようだった。
「《泥傀儡演舞》アースドラゴン」
ビリーは地面の柱に囲まれた状態から抜け出し、健司もそれに続いて抜け出そうとした瞬間に動き始めた。
六ヶ所の地面の龍が顔を叩きつけるようにして健司の逃げ場をなくした。
「うわ、えげつねぇ魔法……」
少し引き気味の遥だったがそう言いながらも十個ほどの火の玉をつくりあげた。
「連華ノ蛍火」
凄まじい音ともに火の玉から数の光線が高速で弧を描きながら放たれた。
健司のいる場所は攻撃により立ちのぼる砂埃で全く見えなくなっていた。
「こんなのはどうだ? 業火ノ鱗!」
紫菀が操作しているアースドラゴンに炎がまとわりつき、その方は龍の顔が造形され炎の龍が出来上がった。
続けられる攻撃の数々。しかし、その攻撃全てが健司にとって大きなダメージとはなっていなかった。
「今の健司の動きは生半可な拘束魔術じゃ止めれない」
ヒツギは足元に一つの魔方陣を展開し、詠唱を始める。
「全てを抑え、全てを封じ、全ての自由を奪い去る。与えるものは屈辱なり。魔滅拘束」
帯状の魔法陣が健司の近くを浮遊する。しかし、健司はそんな魔法陣には目もくれず遥達を殺そうとし続ける。
「力を抑えるものは魔力なり、封じるもの力なり、魔を持って力を征する。《金剛拘束》」
今度は紫色の光を放つ魔法陣が健司の近くの地面に展開された。
「魔を滅し、力を砕く、万物を封じ、自由を奪う。与えるものは絶望のみ《絶対拘束》」
これを唱えたことで合計三つの拘束魔術が健司の近くに設置された。
「混ざる三つの魔力。一つとなりより強大なものへと変わる。三重式魔術:《究極ノ拘束》!」
三つの魔方陣は重なり混じり合い、そして、健司に向かって近づき、健司の動きを絶対拘が健司に絡まり付き全く身動きが取れなくなった。
「薫那! 今だ!」
ヒツギの叫び声とほぼ同時くらいに凄まじい銃声が辺り一面に銃声が鳴り響く。
弾丸は真っ直ぐな軌道で健司の心臓に着弾し貫通せずに心臓に突き刺さった状態で留まった。
「ぐ……がっ……」
さっきまでどんな攻撃を受けようとも全く反応を示さなかった健司が心臓を抑え苦しみ始めた。
苦痛に耐える声を漏らしながらも健司は戦う姿勢を見せる。
前に進もうとするが足に力が入っていないのかそのまま崩れるように倒れる。
それでも化け物じみた禍々しい腕の爪を前に突き出し進み続けようとするも腕は形が保てず五本の爪のうち一本がぼとりと落ちた。
遥達は健司のそんな姿を見て、もう武器を構えることが出来なかった。そんな中、ヒツギが駆け足で健司に近づき健司を抱きしめた。
弾丸によって空けられた健司の胸を塞ぐように手を添えて健司の魔力を直接操作し始めた。
崩れ始めた腕は時間が巻きもどるように修復されていき完全に元の禍々しい腕に戻ったところで禍々しい腕は完全に消滅し、元の人の腕が現れた。
「健司、助けるのが遅くなってごめんね。ボクはもう大丈夫だから今日はもうゆっくり休もう、ね?」
健司はヒツギに抱きつく形となりながら意識を失った。ヒツギは健司の頭を膝の上に置いて健司の深い紫色の髪に指を通す。
「ったく、人騒がせなやつだ」
遥は眠る健司の顔を覗き込む。
「みんな、助けてくれてありがとう。本当にゴメン……謝って許されるなんて思ってないけど――」
「あー、聞きたくない聞きたくない」
遥の横に立つ紫菀が耳を抑えながらヒツギの話を中断させる。
「そこはありがとうだけでいいんだよ。仲間なんだからさ、助け合うのは当然だろ?」
ヒツギは少しの間ポカンとした顔をしていたがすぐさまぷっと吹き出して笑った。
「ホントに君たちには感謝しかないよ。でも、これだけは聞いて欲しいんだ。ボクは本部を出ていくよ」
本部を出ていくといったヒツギから表情からは後悔や後ろめたさなどはほとんど感じられずはなくって普通の会話の延長線上で話すかのようだった。
「何言ってるのよヒツギ。あんたが出ていく理由なんてどこにもなきじゃない」
「そうだよ、ひつぎちゃんなんで出ていくの? シロたち何も怒ってないよ?」
驚きを隠せない薫那とマシロの焦った表情を見てヒツギは優しく微笑んだ。
「二人とも違うんだよ。確かにみんなに迷惑をかけたと思うし健司は死にかけたし正直どう顔向けしたらいいか分からない、でもそれが理由じゃないんだ」
それまで微笑みは真剣なものに変わり、話しなが健司の髪に触れていた手を止めた。
「ドラスとはしっかりと決着をつけたいんだ。これはボクの問題だから」
「健司にはなんて言うつもりだ?」
ビリーにそう聞かれヒツギは呆れたような嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ちゃんと話すよ。もし健司が起きる前に何も言わずに出ていったらすごく怒ると思うから」
「そうか」
ビリーはそれ以上何も言わずにヒツギの膝の上で眠る健司を起こさないように背負った。
「任務完了だ。さぁ、帰ろう」
第64話を読んで頂きありがとうございます。
第65話『仲直りはプリンのように甘く』は6月1日に投稿するのでよろしくお願いします。




