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第63話『作戦は博打となる』


 一瞬で距離を詰められた。

 健司が相手だったということもあり完全に警戒心を解いていた遥と紫菀は反応に遅れた。

 

 「ヤベッ……!」

 「しまった……!」

 

 振り下ろされる爪。

 健司の動きに反応できたビリーは反応が遅れた紫菀と遥の首根っこをつかみ引きずるようにギリギリのところで回避させる。

 

 「隊長ありがとうございます」

 「すみません、助かりました」

 「気を引き締めろ。ここは戦場だぞ」

 

 ビリーと同じように回避した薫那に抱きかかえられていたマシロは紫菀の元へと駆け寄った。

 

 「にぃに、大丈夫?」

 「あぁ、大丈夫だ。マシロ、滅龍大剣(ダインスレイブ)。全力で殺さないように健司を助けるぞ」

 「分かった」

 

 マシロは紫菀の体格には不釣り合いな禍々しい大剣へと姿を変えた。

 

 「薫那は俺達が健司を止めてる間にヒツギの所へ行って作戦を考えさせろ」

 「遥は分かってるの? 健司は今ヒツギ以外が攻撃対象でヒツギに近づいたら容赦なく殺しにくるのよ?」

 「そうみたいだな」

 

 健司とドラスが目の前で戦っているのを見て遥はため息混じりに返事を返す。

 つい数十秒前に健司が遥達に攻撃を仕掛けた直後にドラスがヒツギへ接近した。すると健司はすぐさま方向転換しヒツギを守るようにドラスへ攻撃し始めた。

 

 「ヒツギも動き出したようだが俺と遥と紫菀の三人でもあの状態の健司を止めることが出来るのか?」

 「それにめちゃくちゃ強いって評判のドラスまでいますから」

 

 紫菀はビリーの言葉に苦笑いを浮かべながら答えるが現状はとても笑える状況ではないのが事実。

 

 「腹括りますか……隊長合図をお願いします。それと同時に俺と紫菀が突っ込みますから」

 「ったく、ほんとに全力で守りなさいよ。私はあんた達と違ってあの一振で死亡確定なんだから」

 

 文句を言いながらも薫那は両ももにつけているホルスターから銃を引き抜く。

 

 「お前達、くれぐれも無茶はするなよ……作戦開始だ!」

 

 走り出す紫菀と遥。それに続くようにビリーと薫那も走り出す。

 

 「火焔(カグツチ)!」

 

 複数の火の玉を健司に向かって投げつける。突然の攻撃を健司は右腕で受け止めると火の玉は爆発し目の前が見えなくなった。

 

 爆煙の中から一つの人影が現れる。

 

 「捕食者(プレデター)カラドボルグ!」

 

 爆煙から飛び出してきたのはビリーだった。包帯型の魔法器の捕食者(プレデター)は血の色に染まり腕に巻かれた包帯が一度解け、刃の形へと腕へ巻き直され腕は刃へと変貌した。

 

 健司の爪とビリーの刃。それはまるで獣同士の戦いのようにも見えた。

 健司の背後から回り込むように紫菀と遥も加わるが健司の攻撃は緩むどころかさらに激化していく。

 

 腕を切り落とそうが足を切り落とそうが殺さずに健司の動きを止めればあとはヒツギの回復魔術と健司自身の治癒力で助かる。そう考えていた三人だったがそう上手く事は進まなかった。

 遥や紫菀は背後から腕や足を切り落とす勢いで剣を振り下ろすが断ち切ることが出来ない。

 

 「どういうことだマシロ! お前で断ち切るどころか折ることすら出来ないなんて」

 「わかんないよ! けんじの骨が硬すぎるの!それにすぐ傷が治っちゃうから意味ないよ! 」

 

 殺さないと言っても手加減をすれば一瞬で殺されかねないこの状況。遥も紫菀もビリーも心を鬼にして健司に攻撃を加えるが健司は全くの無反応だった。

 

 「紫菀! 隊長! 避けろ!」

 

 右腕に貯めた炎を一気に放出し、健司の全身が炎に包まれる。しかし、その炎から健司の左手が飛び出し遥の首を掴む。

 

 「くっ……!」

 

 もう一発顔に向けて炎を放つとさすがに手は離れなんとか逃げ出すことが出来た。

 

 「大丈夫か?」

 「なんとか大丈夫です」

 

 この状況を早くなんとかしたいと切実に願う三人は横目に薫那がヒツギの元へ行けたことを確認する。

 

 「ヒツギ!」

 「薫那!」

 

 駆け寄ってきた薫那にヒツギは驚きの表情をするが状況は誰よりも理解しているためすぐに真面目な顔に戻る。

 

 「ボクに近づいちゃダメだ! 健司はボクに近づく生物を見境なく攻撃してる!」

 

 ヒツギにしては珍しく切羽詰まった焦りの混じる表情だった。

 健司は三人と交戦してはいるが隙あらばヒツギの元へ行こうとしている。

 

 「分かってるわよ! だからヒツギにこの状況をなんとかする作戦を考えてもらうためにわざわざ危険を冒してまで来たのよ」

 

 ヒツギは一瞬ほうけた顔をするが少し呆れたように、しかし、嬉しそうに笑みを作る。

 

 「ほんとに君たちには叶わないや」

 

 焦りや不安や戸惑いや恐怖、後悔や後ろめたさ、そんな感情が入り混じったヒツギらしくない表情は消え、いつもの表情になった。

 

 ヒツギが作戦を伝えようとした時、健司と戦う必要の無くなったドラスがヒツギを連れ去ろうと接近してきた。

 

 「邪魔するんじゃないわよ!」

 「薫那!」

 

 ヒツギを守るように前に立った薫那は両手に握る二丁の銃をドラスに向け引き金が引かれる。

 当然ドラスは放たれた弾丸をかわそうとするがそれよりも巨大な弾丸が横から飛んできた。

 投げ飛ばされた紫菀だった。

 

 あまりにも予測外のことにドラスは紫菀と共に吹き飛ばされた。

 健司を止める人が一人減ったことにより健司を抑え込めず健司は薫那に襲いかかったがギリギリのところで遥とビリーで防ぎ再びヒツギと薫那から距離をとり戦闘が再開された。

 

 「いてて……なんか俺吹き飛んだら誰かにぶつかること多いと思わねぇか?」

 「しろもそう思う」

 

 剣を杖のようにして紫菀は立ち上がりドラスを見下ろす。

 

 「今だけでもいいから共闘しないか? お前にとっても健司をあのまま見過ごすわけにもいかないんだろ」

 「それに私が乗るとでも思っているのか? ならば滑稽だ。ここでお前たちが皆殺しにされても何も困らない。肉体さえあれば最悪それだけで十分だ」

 「肉体さえあればだと?」

 「ここで死ぬがいい、人間」

 

 ドラスは魔法陣の中へと消えていった。

 

 「ドラスのやつあんたが目的じゃなかったの? 帰って行ったわよ」

 「必要なのは肉体。いつでも奪えるってことなんだよ……きっとね……」

 

 ヒツギはわかりやすく悔しがる。

 

 「まぁ、いいわ。作戦を説明するね」

 

 ヒツギは魔法陣を展開したまま健司を助ける作戦の説明を始めだした。

 

 「この弾丸は魔力を操作するための魔法陣が三〇〇近くの埋め込まれてる。それを薫那に託すよ」

 「分かったわ」

 

 渡されたのは対物ライフル用の巨大な弾丸だった。

 

 「これで完璧に心臓を撃ち抜いて欲しい、弾丸は強制的に体内で止まるから。そうすれば魔力を直接操作して鬼の力も収まるかもしれないから」

 「これ健司は死んだりしなわよね?」

 「ボクがそんな元も子もないようなことをすると思う? 撃ち抜いてくれたらあとはボクがなんとかするさ」

 「なんとかってそれは、随分と博打な雰囲気があるわね」

 

 「ダメかい?」といつもの調子で聞くヒツギにたいして薫那は首を横に振る。

 

 「ヒツギを信じてやるしかないわ」

 

 その言葉と同時に薫那は動き出しスナイプポイントを探し始めた。

 

 「健司、今助けるから」

 

 魔術で遥達三人のサポートを始めた。

第63話を読んでいただきありがとうございます。

第64話『三重式魔術』は5月25日に投稿するのでよろしくお願いします。

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