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第62話『守れるなら』


 一歩、また一歩と健司はドラスとの距離を埋めていく。もちろんドラスもただ突っ立っているだけでなく魔術を放つが健司に右手で虫を払うように簡単に弾かれる。

 

 身体中を血で染めていたがその血は右腕へと集まっていき服はいつもの色に戻った。それだけでなく、そこらじゅうにある健司の血が右腕に集まる。

 転がる腕の横を通りすぎる時に無数の触手のように変化した血に拾い上げられ飲み込まれる。

 

 そして最後に量産型の魔法器を血液で作られた無数の細い触手をまとったような腕に取り込む四本の大きな刃ががさらに指のように生え禍々しい見た目へと変化した。

 

 「化け物め……」

 

 ドラスは吐き捨てるように言う。

 腕が完成すると次は穴の空いていた体が煙を上げながら塞がっていき聖絶(アナテマ)を使っている時の模様が全身に浮び上がり、普段は紅くならない右眼も紅く染まった。

 

 「まずい! 鬼の力の暴走で聖絶(アナテマ)まで暴走しかけてる?! 早く止めないと!」

 

 ヒツギは健司に仕掛けた制御魔法陣を展開し鬼の力を押さえ込もうとする。

 

 「くっ……力が強すぎる」

 

 合計五つの魔法陣が健司の周囲を漂うが健司の鬼の力が収まる様子はまったくない。

 健司の紅く染った両目は虚ろなままで、それはまるで動く人形のようだった。

 

 「ヒツギ、あの男はこの空間に閉じこめる。私達は直ぐにここから出るぞ」

 

 ドラスはヒツギの腕をつかみ強引に魔法陣をくぐらせようとする。

 

 「離せ! 健司はボクが止めないと!」

 「もう遅い! 見てわからないのか! 人間は身の丈に合わない強大な力を求めあの男のような誤った存在が産まれるんだ! 救う価値などあるのか?」

 

 ドラスが無理やり魔法陣をくぐろうとしたその時、魔法陣に八本の亀裂が入りその亀裂通りに魔法陣が壊れ消滅した。

 消滅した魔法陣の後ろには禍々しい刃の爪を持つ右腕を振るったであろう体制の健司がいた。

 

 ヒツギがさっきまで健司がいたはずの場所を見てみると魔法陣は切り裂かれ、消滅していた。

 

 振るわれる健司の右腕の爪は容赦なくドラスへと襲いかかる。しかし、ドラスはギリギリのところで杖を使い受け止めたが勢いは殺せず吹き飛ばされた。

 健司が右腕を振る割れたことで起きた突風によりヒツギは軽く吹き飛ばされた。

 

 「け、健司……?」

 

 ヒツギは恐る恐る呼びかける。

 健司はヒツギの呼びかけに反応することも無く真っ直ぐドラスの方へと向かっていった。

 ヒツギは起き上がり目の前に来た健司を見上げる。健司の目に光はなく、顔に感情はなかった。

 

 「け、健司? ボクだよ、ヒツギだよ? 分かる? ねぇ、鬼の力なんかに負けないでよ」

 

 ヒツギは健司に呼びかけるが健司はそれに一切の反応を見せずヒツギに四本の爪を向ける。

 ヒツギはそれに動じることなく健司に向けて信頼の眼差しを向ける。

 

 健司はヒツギをしばらくじっと見つめてからゆっくりと手を下ろし、見えない壁に向かって歩き出した。

 見えない壁に左手で位置を確かめるように触れふと右手をおおきく振りあげ巨大な爪を振り下ろした。すると四本の切れ目が生まれ、そこから外の風景が見えた。

 

 もう一度大きく振りかぶったその時、健司の足元に巨大な魔法陣があらわれそこから無数の帯状の魔法陣があらわれ健司を縛り付けた。

 

 「いくら暴走し、強大な力を手に入れようと魔力と身体能力も封じ込める《滅魔拘束(イレーズバインド)》からは逃げられないだろう」

 

 そう言ってドラスは背後から健司の心臓を魔神器で貫いた。しかし、焦りを見せたのは健司ではなくドラスの方だった。

 

 「剣が抜けない……!」

 

 健司は体に巻き付く《滅魔拘束(イレーズバインド)》をつかみ、いとも簡単に引きちぎった。

 次に胸からとび出る刃をつかみそのまま無理やり引き抜き、振り返るように回し蹴りでドラスを蹴り飛ばした。持ち手の部分が引き抜く時に身をえぐり大量の血が吹きでたがその傷も一瞬で修復した。

 ドラスの剣を置いてから健司は再び壁に向かって攻撃を始めた。何度も傷をつけているうちに空間は少しずつ形を維持することが困難になり崩壊し始めた。

 

 「そうはさせるか!」

 

 ドラスは高速で移動し、地面に転がる魔神器を拾い上げられ健司に突き刺そうとした瞬間に完全に空間は崩壊した。

 

 無理やり空間が破壊されたことにより健司を中心に周囲が爆風が包み込まれる。

 

 「あれは……健司か?」

 

 少し離れたところから健司の姿を見つけた紫菀は息を呑むように呟いた。

 ドラスが作りあげた空間が破壊される少し前にこの場所を特定した遥たちだったが突然の爆風に驚き急いでいたここまで来た。

 健司を中心に草木が外側へと倒れており、健司が爆風の中心であることは容易に理解できた。しかし、そんなことよりも健司の化け物じみた右手に目がいってしまう。

 

 「俺たち随分最悪なタイミングで健司とヒツギを見つけちゃったことになるのか?」

 「遥はもちろん作戦があるんだよな? あの完全にヤバイ状態の健司は何とかするような作戦が」

 「そ、それは……まさかこんなことになってるとか思ってもみなかったから」

 「ちょ! あんた達! 健司が動き出したわよ」

 

 健司はその場でキョロキョロと何かを探しているかのようにあたりを見渡す。そして遥達と目が合った。

 距離にして三十メートルほどの距離。ただの人間なら四秒から五秒は多くてもかかるこの距離を健司は一秒にもみたない、しま感で埋めてしまった。

 

 健司が探していたのはヒツギに近づこうとする生物だった。

第62話を読んでいただきありがとうございます。

第63話『作戦は博打となる』は6月18日に投稿するのでよろしくお願いします。

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