第61話『精霊は勝者に微笑む』
何百度と交わり、火花を散らし続ける健司とドラス。最初は互角に見えていた両者だったが徐々に健司が押され始めた。
「く、くそ……!」
「そろそろ限界みたいだな。早く諦めてくれれば死ななくて済むぞ?」
ドラスの言葉が本当に慈悲なのかは健司には分からなかったがここで諦めればヒツギが連れていかれる状況で諦める訳にはいかなかった。
「仲間は見捨てねぇ!」
力強く答える健司をドラスは冷めた目で見下し、ため息をつく。
「ならば死ね」
そう言いながら少し距離を取ったドラス。それを追いかけるために健司が一歩踏み出した瞬間に健司の足元に魔法陣が展開された。
無数の魔法陣から出てきた鎖によって身動きが取れなくなってしまった。
「しまった!」
「《設置式拘束》。魔力は封じることは出来ないが聖絶を使ってもこれは破れない」
健司は鎖を引きちぎろうと腕に力を込めるが鎖はビクともしない。
ドラスは細い刃の切っ先を健司に向け一気に距離を詰め、強力な突きを放つ。
「鬼を舐めるなよ」
健司の右腕が黒く染まり銀色の模様が浮び上がる。しかし、ドラスはもう目の前にいる。
切っ先が眉間を突き刺すギリギリで健司はコークスクリューブローのように全身をねじりこみ拳を放つ。
「聖絶の刃!」
拘束魔術を引きちぎりながら健司の拳はドラスの体へ深々と突き刺さり、ドラスを後方へと吹き飛ばした
「ガハッ!」
見えない壁に衝突し静止したドラスは白い地面に血を口から吐き出し赤く染めた。
「確かに少し舐めすぎていたようだな」
立ち上がるドラスは四つの魔法陣を展開し、その全てを健司に向ける。
魔法陣からは一体ずつ魔法陣の色に合わせたそれぞれの色と属性を持った精霊が現れた。その色は右から赤、青、黄、緑の四色だった。
精霊の目の前に魔力球が作られる。それぞれ色に合わせて属性が違い右から炎、水、光、風の力が込められた。
「《精霊ノ怒号》!!」
放たれる四つの属性の砲撃は螺旋を描きながら一つの束となり健司に近づいてくる。
健司はドラスの魔術を迎撃すべく魔力を込める。健司の右脚が黒く染まり金色の模様をうかべる。
「はぁぁぁぁあ!」
どんどん魔力を込めることで金色はさらに輝きを増し、体を取り巻く赤い靄がさらに色濃くなる。
「破滅の刃!!」
近づいてくる四属性を一つにした砲撃を健司は破滅の刃で相殺しようとと力を振り絞るが相殺することは出来ず砲撃に飲み込まれた。
「健司!」
見えない壁にもたれ掛かるように座っている健司の体は水と光により体にはいくつか風穴が開き、炎により皮膚が焼けただれ、風により切り裂かれており生きているのが不思議なくらいと状態となっていた。
「ヒツギ、最後のチャンスだ。おとなしく私についてくればこの男は殺さない、それに今この男に治療をするのも許してやる」
健司のそばへ行き杖の先を突きつけるドラスは最後の選択の余地をヒツギに与えた。
「させ、るか、よ……」
ボロボロで傷だらけの体を健司は無理やり起き上がらせるが力が入らず両足がガクガクと震え、起き上がるだけで体から大量の血が流れ足元は血の水溜りが出来ている。
震える足に力を込めて、上がらない腕を無理やりあげてドラスを殴る。しかし、力なんてものは一切入っておらず撫でているようなものだった。
「もう、だれ、も……失わねぇ……仲、間は、家族……は、俺、が守、る……」
「もういいよ、もうやめてよ健司……お願いだから、やめて……」
動く度に血を傷口から溢れさせ、ふらついて今にも倒れそうな健司をみてヒツギは涙を流す。
「早く決めなければこの男は本当に死ぬぞ? 魔術はそこまで万能ではないことはヒツギが一番よくわかっているだろう」
ドラスは諭すように言葉を放つ。
「分かったから! ついて行くから早くこれを解いてよ!」
ヒツギがそう叫ぶと同時に拘束魔術が消滅し、自由が戻った。
「健司!」
ヒツギはすぐに健司に駆け寄って魔術を使い健司の怪我を治していく。
「ばか、やろう……」
健司は朦朧とする意識の中呟いた。
「ボクがついて行く条件として健司達には手出ししないって約束して欲しい」
「私の人ならざる力を持つ人間を皆殺しにするというもう一つの計画を破棄しろということか?」
ヒツギは無言で頷く。
「抵抗せずについてくるというのならその願いを聞きいれてやろう」
ドラスは細い刀身を杖の中に戻す。
ヒツギは健司の治療を終えると立ち上がりドラスについて行くように後ろへ並んだ。ドラスは再びヒツギに拘束魔術をかけた。
ドラスは転送魔法陣を目の前に作りだしその魔法陣をくぐろうとしたときに背後からもの音が聞こえた。
振り返ると健司が量産型の魔法器を握りしめ、ドラスに飛びかかるように斬りかかっていた。
ドラスはため息をついて杖から再びレイピアのように細い刀身を引き抜きフェイシングのように突きを放つ。
左目、右肩、心臓、脇腹の計四箇所にほぼ同時に放たれ、あの細い刀身から作られたとはとは思えないほど大きな風穴が健司の体に開く。さらにドラスは健司を思い切り蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた勢いでギリギリかわ一枚程度で繋がっていた右腕が地面に接触すると同時に千切れその場に転がった。
「健司!」
ヒツギは急いで健司のそばへ駆け寄り傷口を抑えて止血しようとする。
魔術の使えないヒツギはたた傷口を抑えることしか出来ない。それに既に心臓を貫かれ血の水溜りだけを作り健司は動かない。
「いやだ……死んじゃやだよ健司……君は家族の敵をとるんじゃなかったのか……?」
ヒツギの目から大粒の涙がボロボロとこぼれ健司の血出てきた水溜まりに落ちる。
ドラスが一歩足を踏み出し近づこうとするとヒツギは怒りと殺意に満ち溢れた顔をドラスへと向ける。
「なんで健司を殺した! 約束が違うじゃないか! ボクがついて行けば手は出さないんじゃなかったの!?」
「ああ、抵抗しなければ手は出さなかった。だが、その男は無謀にもお前を連れていかれまいと抵抗した」
「こんなことして、健司を殺してボクがついて行くと思ってるの?」
ヒツギはゆらりと立ち上がるとヒツギを拘束していた拘束魔術が勝手に解かれた。
魔力は感情に左右される。
怒りに身を任せたヒツギは魔術を無理やり使い拘束魔術を解いたのだった。しかし、そんなことをして体がタダで済むはずもなく鼻から血が垂れる。
「いいや、だがヴァサゴを倒すにはお前の力が必要だからな」
ヒツギは涙と鼻血を拭い、複数の魔法陣を自分の周囲に展開する。
「詠唱無しで同時に複数の魔術を使用するつもりか? そんなことをすれば底なしの魔力を持つヒツギであっても、ましてや拘束魔術を解くので凄まじいダメージを体は受けているはずだ」
「うるさい! 今はもうお前を殺すことが出来るならどうなったて構わない」
ヒツギが魔術を発動させようとしたが複数の魔法陣は消滅してしまった。しかし、それはドラスによって消滅させられたのではなくヒツギが止めてしまったのだった。
「健、司……?」
死んだと思われていた健司が立ち上がっていたが目に光はなく、傷がふさがっている訳でもなく血が流れている。
「俺が、守る……」
口が少し動き極々小さな声で呟いた。
第61話を読んでいただきありがとうございます。
第62話『守れるなら……』は5月13日に投稿するのでよろしくお願いします




