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第59話『兄妹喧嘩』


 無理やり転送され、その影響で気を失っていたヒツギは目を覚ますとその場所は終わりの見えない白い空間だった。

 コツコツと杖をつきながら歩くドラスをヒツギは睨みつける。

 

 「これはどういうつもり? 勝手にいなくなっておきながら、ボクが新しい仲間と一緒にいたら連れ戻しに来って」

 「あそこにいたらお前はヴァサゴにいずれ殺される。だからそうなる前に助けてやったんだ」

 

 ドラスの言葉にヒツギは怒りで震えた。拘束魔術で動きと魔力を封じられており、それを無理やり外そうと力を入れる。

 

 

 「私の拘束魔術は腕の力程度で破壊できるような代物じゃない。ましてや魔力すら封じられたお前に出来るはずがないだろう」

 「ボクは健司達と一緒に戦うんだ! ボク達はヴァサゴなんかに負けない!」

 「拘束も自力で解けないような奴がヴァサゴを倒すなんてバカバカしい」

 

 ドラスは鼻で笑う。

 

 「さぁ、私たちの住むべき場所へ帰ろう。人間がヴァサゴに滅ぼされたところで私たちにはなんの影響もないのだから首を突っ込む必要も無い」

 「嫌だ! ボクはあんな場所へは絶対に戻らない、ボクには新しい居場所ができたんだ」

 「何故そこまで拒む?」

 「それは……あの……」

 

 ドラスに聞かれヒツギは俯きながらゴニョゴニョと何かを言ったがドラスには聞こえなかった。

 

 「まともな理由はないようだな」

 「ま、待ってよ! 理由だったらちゃんと……」

 

 ヒツギはそこまで言ったがそこから先は言わず悔しそうな表情をした。

 

 「……分かったよ。ドラスの言うことは聞くよ……だからこの拘束を外して、腕が辛い」

 「はぁ、外してやるが私に逆らうようなことをすれば、分かっているな?」

 「分かってるよ、それくらい」

 

 ドラスは訝しげな顔をしながらごねるヒツギを黙らせるために拘束魔術を解いた。

 

 ドラスがヒツギに背を向けた瞬間にヒツギは魔力で剣を作りドラスに背後から切りかかる。

 

 「馬鹿め」

 

 しかしそれはギリギリのところを杖で止められ弾き返された。

 

 「聞き分けの悪い妹だ。何をそこまで人間に固執してるのか知らんが聞いてわからん馬鹿には体に覚えさせるしかないようだな」

 「ドラスの所へは絶対に帰らない。あんな場所にずっと居たから気づけなかったけど外の世界は素晴らしいんだ! だからボクはこの世界を守りたい、それにドラスの料理不味いし」

 

 ドラスは大きなため息をつく。

 

 「食事など栄養が補給できれば十分だ。それにお前が私に本気の勝負で勝ったことがあるか?」

 「何年も前の話だよ? ボクも成長してるんだから昔みたいには行かないよ」

 

 ヒツギは笑ってみせるが、実際そんな余裕などない。

 ドラスに勝つビジョンが浮かばない、魔法だけの勝負ならまだしも体術まで使われたらヒツギに勝ち目はない。

 

 「どうした? 早く攻撃したらどうだ?」

 「うるさい! 滅びの狂宴に現れし竜神よ、全てを消し去る力を持って我が標的を消滅させよ」

 「我が身を守りし光の鎧。神撃を拒絶せん」

 

 ヒツギは右腕を前に出し詠唱を始めた、それに合わせドラスも杖を召喚し、前に突き出し詠唱を始める。

 

 「《竜神ノ咆哮(ドラゴン·ブレス)》!」

 「《守護壁(ガーディアン)》」

 

 ヒツギの前には赤黒い魔法陣が現れ、魔法陣の色より赤色の強い光線が広い範囲で放出される。

 ドラスの前には神々しい光を放つ魔法陣が現れる。

 ドラスの魔法とヒツギの魔法がぶつかり合い、ヒツギの《竜神ノ咆哮(ドラゴン·ブレス)》が四方へ飛び散る。

 防がれたことに驚きの隠せないヒツギに対して、ドラスは表情を変えずに杖をコツコツと鳴らしながらゆっくりと歩み寄る。

 

 「そ、そんな……魔法なら負けないはずなのに……」

 「人間などとのうのうと暮らしているお前とは違って私はヴァサゴと人ならざる力を持つ人間を殺すためにすごしてきた。ヒツギも私に協力しろ」

 「嫌だ。ヴァサゴだけなら協力するけど健司を、みんなを殺すのは許さない……! だから、ドラスは妹のボクが止める!」

 

 ヒツギは力強く言葉をつなぐが少し体が震えている。実の兄と殺しあう感じたことの無い恐怖。しかし、最初から覚悟はしていた。

 いつかこんな日が来ると。

 

 「天に轟く雷光よ、眩い閃光と共――」

 「遅い」

 「――ッ!」

 

 五メートルほどの距離を一瞬にして詰めてきた。

 

 ヒツギは腹部に杖の持ちてがめり込み、体内の空気を強制的に外に出され動けなくなった。

 

 殺し合いや戦いに抵抗がある訳ではなく、戦うことに恐怖があるわけではない、それでも体が震える。

 なぜ体が震えるのかヒツギはようやく理解した。それは自分が殺されたあとに健司達が殺されるビジョンが浮かんだからだった。

 

 「健司……ごめん……」

 

 ヒツギはボソリと呟く。

 

 ドラスは大きく足を振り上げ、ヒツギを思いっきり蹴り飛ばす。

 ノーバウンドで壁に激突し、少し壁が崩れた。

 ヒツギは壁にもたれかかる。

 

 「せっかく健司に相棒として認めて貰え始めたって思ってたのになぁ……」

 

 痛みを堪えながら音として発されているかもわからないほどか細い声で呟く。

 

 近づいてきたドラスはヒツギに対して最後の問いかけをした。

 

 「これが最後だ。私と一緒に来い」

 「嫌だ。大切な相棒は裏切れない」

 

 そうか、と小さく返事をしたドラスは銃を突きつけるように杖の先端をヒツギに向ける。

 ヒツギは目から流れそうになった涙をぐっと堪えた。せめて自分が殺されるだけで済むようにと願いながら。

 

 「死ね……」

 

 ヒツギはぎゅっと目を瞑ったがドラスの魔術がヒツギの体はいつまでたっても貫かれなかった。

 そっと目を開けると何度も目にしたロングコートが視界に入り、壁へ飛ばされているドラスが目に入った。

 

 「け、健……司……?」

 

 驚きが隠せなかった。

 ヒツギが居る空間は外から入るにはこの空間の創造者が許可しない限り入ることはできない。

 

 「ヒツギ、なにカッコよく死のうとしてんだよ。惨めで醜くても俺達は誰一人死んじゃダメなんだよ、分かってんのか?」

 

 顔を近づけ健司が聞いてくる。

 表情は少し怒っているようだった。


 「あ、諦めるつもりなんてなかったけど……それにどうやってここにきたの?」

 「ヒツギが空間に取り込まれる瞬間に入り込んだ。意識が持ってかれたから、さっき無理やり戻して今に至る。それにしてもお前の言ってたドラスがまさか兄妹とはな、まさに兄妹喧嘩だな」

 

 ヒツギは、なんて無茶なことを、と思ったが健司の行動をとても嬉しく感じてしまった。

 さらに、ヒツギとドラスの殺し合いを、兄妹喧嘩と表現する健司に少し笑いがこみあげた。


 「でも、健司……ドラスは……」

 「お前の兄貴だろ? それでも、関係ねぇよ。俺はお前の盾だからな」

 「そうじゃなくて、ドラスの強さは異常だから」

 「ああ、それか。分かってる、獅郎より強いかもな……実際勝つビジョンが浮かばない」

 

 それでも、と言いながら立ち上がり、一応で持っていた量産型の魔法器の刀を構える。

 

 「でも、なんとかなるだろ。と言うかなんとかしてみせるから」

第59話を読んでいただきありがとうございます。

第60話『完璧な技術』は5月1日に投稿するのでよろしくお願いします

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