第58話『事件は突然に』
一通り話を終えたボスは疲れを少し顔に浮かべながら背もたれに大きくもたれかかりため息をついた。
「皐月族と鬼虎族は蒼太と吹雪鬼が死んだ数十年後に出来たらしくてな。最初は鬼の力を受け継ぎ続けていたんだが何十代目かで一度だけ力が制御出来なかったらしくそれ以来鬼の力を持つ者を赤子の時に殺す風習が生まれた」
「そう、だったんですか……」
健司は少し暗い顔をしながらも納得したような様子ではあった。
「それにしても十数年前に、目覚めたボスがどうやってこんな施設を作ったんですか?」
「そう、それなんだが蒼太と吹雪鬼や二人の子供が協力者を用意してくれていたんだ。そして何世代にも渡ってこの施設を作っておいてくれたんだ」
遥の質問にボスは自慢げに答える。
「魔導書エイボンはどこにいるんですか? エイボンがいればかなりヴァサゴを倒せる可能性が上がるんじゃ」
「それが分からないんだ」
紫菀の言葉にボスはため息混じりに答える。ボスは一枚のメモを全員に見えるよう机の上に出した。
「このメモに遥の名前が書いてある。それにヒツギと薫那とマシロの名前もある」
「あ、ほんとだ」
健司がメモを手に取ってみると横からヒツギが覗き込んできた。
「エイボンはそのメモだけを残し私が目覚めた時にはもう居なくなっていたんだ。だからそのメモを頼りにお前達にたどり着いたんだ」
「でも、健司や紫菀の名前は書いていない。代わりに鬼人と魔人って書かれてる」
「これって俺たちのことを表してるよな。鬼人って明らかに俺のことじゃん」
鬼人という言葉が健司のことを表しているということに誰も疑問や違和感はなかったが魔人という言葉に紫菀とマシロ以外の全員が疑問を覚えた。
「魔人とは酷い言われようだな」
「魔人ってなんだよ」
「そう警戒するなよ健司」
「にぃにはね! 悪魔と人のはーふなんだよ!」
マシロの言葉にボスやヒツギや薫那も含めて全員がその言葉でフリーズする。
「だから俺は人間と悪魔の二種類の魔力回路を持ってるんだ」
「ま、待って、ボクはまだその話について行けてるが他が全然理解出来てないよ」
ヒツギに止められ紫菀は少し訝しげにするが閃いたように話題を変える。
「俺や健司が魔人や鬼人としてこの戦争に参加しているのは分かるが遥はなんでエイボンに選ばれたんだ?」
さっきまで紫菀に向いていた話の視点が一気に遥へと向いた。
「私達もそれが気になりかなり調べたんだが有力な情報はなかった。ただ推測ではあるんだが飛行機事故にで生き残ったことが原因の可能性がある」
ボスの言葉に遥は飛行機が墜落する直前の映像がフラッシュバックした。
「あの時、もしかしたら……」
遥が何かを言いかけた時、軍服を着た青年が勢いよく扉を開けて中へ入ってきた。
「失礼します! ただいま未確認飛行物体が高速で接近中です! あと数秒後にはこの施設にぶつかります!」
「なに!?」
ボスが席から立ち上がった瞬間、何かが壁を突き破り中へ侵入してきた。
「お、お前は……! 何故こんな所にお前がいるんだ! ドラス!」
「ヒツギ、お前を迎えに来た」
現れたのは整った顔立ちにヒツギと同じ藍色の長髪を持つ男だった。その男は持っている杖で地面を叩き黒い魔法陣を展開させた。そしてその魔法陣に自分とヒツギを吸い込ませる。
「てめぇ! 待やがれ!」
魔法陣が消滅するギリギリの所で健司は魔法陣の中に飛び込んだ。
残された全員が呆然と立ち尽くす。
「薫那はあの男のこと知ってるか?」
遥が口を開く。
「ええ、あいつの名前はドラス。ヴァサゴを抜けば悪魔の中で最も強いと言われてる男。そして、ヒツギの兄よ」
遥の話も中途半端に終わり、ヒツギの兄のドラスという悪魔に対する疑問が大量にある中、紫菀は口を開いた。
「健司とヒツギが黒い魔法陣に吸い込まれたが二人は無事なのか?」
「あの魔術は術者が作った空間に移動する魔術だからあれで死ぬことは無いわ。でも無理やり乱入した健司がどうなったかは正直わからないわ」
薫那の顔が少し暗くなる。
「俺達には何が出来る?」
遥の質問に薫那は重々しく諦めのため息をついた。
「残念だけど何も出来ないわ。作り出された空間の出入りは制作者が権利を持っている。出る方法は術者を殺すか頼んで出してもらうかの二択よ」
「一つだけやれることあるよ?」
割り込んできたのはマシロだった。
「ひつぎちゃんに教えてもらったの! 空間魔法は場所をくり抜いて空間を作るから歪みが必ずあるって」
「つまり空中に浮いてる透明の箱があってそれは何かしらの歪みがあるから見つけることが出来ると?」
「にぃにの言うとうり!」
マシロは自慢げに胸を張る。
「やれることが出来たわね。二人を信じて歪みを探し迎えに行くって言うね」
「ああ、まずは歪みを探そう。マシロは歪みって言うのがどこに現れやすくてどうやって見つけれるか聞いてないか?」
遥の質問にマシロは「うーん」と少し考え込んだがすぐに閃いた顔を向けた。
「ひつぎちゃんが言うにはそこには実際に存在するはずがないものだから見ればわかる! と思う……あと、ひつぎちゃんなら見つけれたと思うけどしろ達じゃ無理かな」
最後は自信なさげに言ったが単純に言えば手当り次第目で見て探すしかないということだった。
「よし、手間はかかりそうだがやるか。ヒツギ程じゃなくても薫那とマシロも魔力を感知できるだろ?」
遥はそう言いながら壊れた壁から外へ出て行く。それに続くように紫菀も外へと出ていった。
「出来なくはないけど……あまり期待しないでよね?」
「しろもがんばる!」
薫那とマシロも二人に続く。
「軍用車両を使って怪しそうなところを片っ端から調べていくので」
「ああ、頼んだ。こっちでも創作してみる。なにか分かったら連絡する」
第58話を読んでいただきありがとうございます。
第59話『兄妹喧嘩』は4月24日に投稿するのでよろしくお願いします。




