第57話『少しの間の平和』
吹雪鬼ら以外の人達はもう馬車によってそれぞれの国に運ばれ賑やかだった遺跡も随分静かになった。
「なぁ、少し話があるんだが」
ディランが何か話を切り出そうとした時に吹雪鬼と蒼太とナツキを迎えに来た馬車が来てしまった。
「あ、ちょっと待ってもらうように僕が言ってきますね」
蒼太が急いで馬車に乗っている運転手に言いに行こうとすると吹雪鬼に袖を掴まれとめられた。
「あ、あの……馬車には帰ってもらうよう言ってきてくれない?」
吹雪鬼の顔は朱色に染まっていた。
「帰ってもらうようって僕達はどうやって国に行くのさ?」
「わ、私の家で暮らさない? あと、お母さんとお父さんにも報告したいしさ……」
ほんのり朱色に染っていた頬は更に赤みを増して、吹雪鬼は俯いて目を逸らした。
「ほ、ほら! ヴァサゴを倒した私達が普通の国で静かに暮らすのは無理があるんじゃないかなって思ったりもするし!」
蒼太は吹雪鬼の考えにも一理あると馬車に乗る運転手を国に帰ってもらうよう言ってきた。
「それでディランさんはさっき何を話そうとしたんですか?」
蒼太が話を戻してくれたことでディランはようやく話を始めることが出来た。
「ヴァサゴを封印した時にあいつは一時休戦だって言ったんだ。つまりヴァサゴはいつか復活するってことになる。だからそれの対策を練らないと」
「でもヴァサゴがいつ復活するかなんてわかりませんよね? 私達が生きてるかも分かりませんし、後世に伝えていくくらいしか」
蒼太は吹雪鬼とディランの会話を聞いて他に対策を考えてみるが大した案は浮かばず、ヴァサゴを封印したエイボンと楓華を見る。
「ヴァサゴはどれくらいの確率でどう言ったふうに復活するかわかるか?」
「一刻を争う時でしたのでマスター達には詳しく言いませんでしたがあれは厳密にいうと封印魔法ではないんです」
エイボンの突然のカミングアウトに三人は思考が一瞬停止する。
「あれは対象の肉体を魔力に変え、一つの魔力結晶に変える魔法なんです」
「つまりどういうことだ?」
蒼太はエイボンの説明に眉をひそめる。
「つまり、ヴァサゴはあの街のあった場所に沈んだあの宝石に変化したのです」
「それって聞く分には封印より辛い状況だと思うのは私だけ?」
「吹雪鬼様のおっしゃる通り普通は復活なんてできません。しかし、ある条件が揃えば確率はかなり低いですが復活できるんです」
エイボンの言葉に息を呑む。
「その条件は三つ。一つ目は自分の魔力に適合する肉体を用意する。二つ目は肉体は消滅しても意思や記憶、わかりやすく言いますと魂を消滅させないこと。最後にその魂を用意した肉体へ移すことが出来れば復活完了です」
「復活までどれくらいかかる?」
ディランの質問にエイボンは少し悩ましい顔をする。流石のエイボンでもその年数を的確に予測するとこは難しかった。
「ヴァサゴの口ぶりからして一つ目の肉体の用意は完了してるでしょう、二つ目はさっきはざっくり説明しましたが実際はもっと段取りがあるのでそれから肉体へ魂を移し完全復活するには……三〇〇から四〇〇年はかかると思います」
そんな桁外れな年数を生きることが出来るはずもないのは考えなくても分かっている。しかし、ディランの表情は曇らない。
「そこでだ、エイボンに頼みがあってな。俺と楓華をヴァサゴが完全復活する十数年前におくることは出来るか?」
ヴァサゴの提案にエイボンは基本的に無表情の顔を悩ましそうにする。
「方法はあるにはあるんですが過去に事例がないので上手くいくか分かりませんがやってみましょう」
そう言うとエイボンは遺跡の奥へとどんどん進んで行き、蒼太と初めて出会った場所まで来た。
「マスター、私はこれからスリープモードへ移行し、封印と似たような状況になります」
「つまり、お別れってことか?」
「はい……しかし、もし再びマスターに私の力が必要となった時はまた出会うことが出来るでしょう。ほんの少しの間でしたがお役に立てて光栄でした」
「ああ、ありがとな。エイボンもゆっくり休んでくれ」
エイボンは少し頭を下げ、蒼太に別れを告げると本の形をしたくぼみをもつ台座の前に立つ。
「私が必要とされる時に目覚めるのを同様に楓華様とディラン様も目覚めるようにすれば……」
魔法陣をいくつか展開しなにかブツブツ呟いているエイボンを見ながら吹雪鬼がため息をついた。
「ディランさんや楓華さんとはこれでお別れなんですね……」
「そうね、短い間ではあったけど吹雪鬼に会えて本当に楽しかったわ」
楓華は吹雪鬼をそっと優しく抱きしめた。吹雪鬼は楓華の胸の中でほんの少しだけ涙を流した。
「じゃあな、蒼太。吹雪鬼とナツキと幸せに暮らせよ? 守るものが多いんだからな」
ディランはナツキの頭を撫でる。
「ディランさんも未来を救ってください。僕達はこの時代でできることを最大限しますので」
五人で別れを惜しんでいると準備を終えたエイボンが戻ってきた。
「これでエイボンとの契約も解除されるのか?」
「はい、これであなたは私のマスターではなくなります。今までお世話になりました」
エイボンは少し頭を下げる。
「またいつか、私の力が必要になった時に再び会いましょう」
「合わない方がいいのかもしれないがまた会えるのを楽しみにしている」
「はい、楽しみにしておきます。それではそろそろ始めましょうか」
「あ、そうだ!」
始めようとしたエイボンを吹雪鬼が引き止めて鞘がつき金棒の姿となった修羅刀をエイボンに渡す。
「受け取って。もし、鬼の力を次ぐ人がいたらその人に渡して欲しいの」
「分かりました。それでは開始します」
エイボンがそう言うとディランと楓華はエイボンと共に激しい光に包まれ、二人の姿は消え、台座には一冊の本が差し込まれていた。
「さぁ、帰ろうか」
蒼太はニっと笑って吹雪鬼と共にナツキと手を繋ぎ吹雪鬼の案内で家まで何日もかけて帰り、墓参りをした。
それから十年後。
吹雪鬼と蒼太は人里離れた家でかつての英雄とは思えないほどのんびりゆっくりと暮らしている。
「お母さん! お父さん! ただいまー!」
「お姉ちゃん待ってよ〜」
ナツキも随分と大きくなり、弟の面倒をよく見る良い姉になっていた。今は弟と馬で近くの城下町の学校に通っている。
「もう10年か……平和だな、吹雪鬼」
「ほんとに平和だね」
この世界で戦争や犯罪が無くなるなんてことはない。実際に蒼太と吹雪鬼の仕事は王様の警護などといった傭兵まがいのことをしている。
それでも平和と言えるほどヴァサゴの存在は人々の頭の中から消え始めていた。
「ディランさん、楓華さん、だいぶいい時代になりましたよ」
吹雪鬼はそっと空を見上げて微笑んだ。
第57話を読んでいただきありがとうございます。
第58話は少しお休みを頂いてから投稿するので4月21日に投稿しようと思います。




