第56話『家族の形』
ディランはジャックの刀の持ち手を拾い上げ、笑みを作って空を見上げた。
「ほんと、あんたがいて良かったよ」
安心して座り込んでいた吹雪鬼達だったが地震のように地面が揺れ始めた。
「マスター! この地面はあと数分で沈みます! 早くここから避難を!」
エイボンの言葉どうりどんどん揺れが激しくなり、宝石のようになった部分がどんどん落ちてゆく。
「エイボン! 転送魔法を使え!」
「すみませんマスター……封印魔法を使ったので、転送魔法を使うほどの魔力は……」
蒼太の命令にエイボンはしゅんとした表情で頭を下げる。
「全員走れぇ!」
ディランの掛け声とともに全員がいっせいに走り出す。その間にもどんどん地面は落ちていく。
もう既に限界を迎えているというのに最後の最後で走らされるなど誰も予測していなかった。
そして、ギリギリのところで宝石の地面から飛び移りなんとか助かった。
「あ、危なかったぁ……」
吹雪鬼が安堵の声を漏らし、落ちていった宝石の地面を眺めているとディランが大きく平たい石を持ってきて、なにか文字を掘り始めた。
その間に全員エイボンの残り少ない魔力で魔法で応急処置を済ませた。
そしてディランはその石を目の前に広がる巨大な穴の前に突き刺した。
勇敢にも悪魔ヴァサゴに立ち向かいこの世界を守った英雄ジャック·クラークここに眠る。
刀の持ち手を墓石の前に突き刺しディランは歩き出した。
「どこへ行くんですか?」
「遺跡にいる人たちのところに行くんだよ。街はなくなっちまったからな」
「じゃ、じゃあ僕が案内します!」
蒼太に案内され遺跡に着くと既に中から人が出てきており、吹雪鬼達を見つけるや否や大歓声を上げ取り囲んだ。
この大歓声を吹雪鬼達は素直に喜ぶことが出来なかった。戦っていない人は生きている喜びだけを感じているのだろうが吹雪鬼達は死んでいった人を思うと複雑だった。
吹雪鬼と蒼太は大歓声と取り囲む人の中からあの少女の姿を探す。
ウィルサレムから遺跡までは子供の足で進むには厳しい距離であるため遺跡にたどり着くことが出来たのかが気がかりだった。
大衆から少し離れた後ろの方でおばあさんと手を繋ぎ、俯いている少女が一人。
ナツキだった。
「ナツキ!」
吹雪鬼が名前を呼ぶと大衆はさっきまで上げていた大歓声を少しずつ止めていき、ナツキまでの道を開ける。
吹雪鬼は走り出しナツキを抱きしめた。力強くしっかりと涙を流しながら抱きしめた。
「良かった……無事で、本当に良かった」
ナツキは驚いた顔をしたがその顔はすぐに泣き顔へと変わり、吹雪鬼の肩に顔を埋めて大声で泣いた。
ナツキと一緒にいたおばあさんが言うには魔法陣による映像を見ていた何人かの人が馬を出しナツキを救助しに行き無事に保護されたのだった。
そして、ナツキは自分のせいで吹雪鬼達が死んでしまうと泣き続けたようだった。
それから数日後、ある程度回復した吹雪鬼と蒼太とディランは各国の王に衣食住と職を与えてくれるよう頼むと快く受け入れてくれた。
各国からの迎えの馬車が来る前日は宴が開かれた。全員があの戦いがなかったかのように笑顔で楽しんでいた。
その楽しむ声が少し遠くなった月明かりに照らされた場所に二つの人影。
「な、なぁ吹雪鬼」
「な、なに? そうくん」
「俺たち同じ国に行くことになってるだろ? それでさ、あの……」
蒼太は覚悟を決めた表情を作り、吹雪鬼を真剣に見つめる。
「俺と結婚してくれないか?」
吹雪鬼はその言葉を理解するのに数秒かかり、理解した途端にボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。
突然の涙に蒼太があたふたしていると吹雪鬼は泣きながら笑い。さらに蒼太を困惑させる。
「すごく嬉しくて。そうくん、不束者ですがこれからよろしくお願いします」
秘密裏に楓華と一緒に買いに行った指輪を吹雪鬼の左手の薬指に付ける。
税員が離れた場所で騒いでいたはずだったのに湧き上がる歓声。どこまでも野次馬のような人間ばかりだと蒼太と吹雪鬼は笑った。
そして朝を迎え、各国からの迎えの馬車が次々と現れた。
全員が一つの国に行く訳では無いのでここで何人かの人とはお別れとなった。
家族や恋人などがなるべく同じ国に行けるように分けたのだがやはりそれも完璧には出来ず一部別れを惜しむ人達もいた。
そんな中、親もいなくなったナツキは誰が育てるかの話し合いが勧められていたがその話し合いをするまでもなく決まった。
一組また一組とどんどん馬車で運ばれていく。そして最後まで残っていたのは吹雪鬼達だった。
「ナツキはこれからどうすればいいの……? お父さんもお母さんもいない」
ナツキが不安そうな顔で吹雪鬼を見上げる。吹雪鬼はそんなナツキにしゃがんで目線を合わせる。
「ねぇナツキ、もし良かったら私とそうくんと一緒に暮らさない?」
「え……? いい、の?」
「ああ、もちろんだ」
蒼太もしゃがんでナツキと目線を合わせる。
「お父さんとお母さんにはなれないかもしれないが代わりになれたらなって」
「ナツキはいやかな?」
ナツキは蒼太と吹雪鬼に抱きついて嬉し涙で半泣きになりながら答えた。
「一緒に暮らしたい!」
子供を持つにはまだまだ若い年齢の二人だったがナツキを抱きしめる姿は本当に親のようだった。
「傍から見れば若い夫婦と一人娘って感じね。見てて微笑ましいわ」
「いやいや、さすがに若すぎだろ」
ディランは思わず苦笑い。しかし、ディランも少しは三人が仲のいい親子に見えてはいた。
第56話を読んでいただきありがとうございました。
第57話『少しの間の平和』は4月10日に投稿するのでよろしくお願いします




