第55話『人間の力』
攻撃をする度に血が舞う、攻撃を受ける度に体がふらつく。誰がどう見ても蒼太は限界だった。
「蒼太はもう下がれ。そんな状態で戦い続けたら本当に死んじまう」
「ディランさんは僕の心配よりも前の的に集中してください。僕は大丈夫ですから」
蒼太の息は乱れ、じっとしていてもぽたぽたと血が地面に滴り落ちている。
「随分苦しそうだな? あんなガキを守ったせいで世界が終わるなんて笑えないよな」
「てめぇ……」
嘲笑うように蒼太を見下すヴァサゴに蒼太は怒りをあらわにする。
「両親を失い途方に暮れていた少女を助けるために世界を救うことを捨て、自らの命をも落とした。なんてシナリオも悪くないと思ったんだがな」
「どういうこと?」
何か含みのある言い方をするヴァサゴに吹雪鬼は眉をひそめた。
「どういうことって、あのガキは俺が事前に仕込んでおいたものだ」
ヴァサゴの言葉に三人とも息を飲んだ。
「この戦争を見せているこの魔力陣、お前らの言葉で言うと魔法陣だな。これを使いあのガキに言ってやったんだよ」
ヴァサゴは歪んだ笑みを作り、見せつけるように、自慢げに、話を続ける。
「お前の親はこの瓦礫の下で死んでるってな。そうなりゃあのガキは大泣きして親を探しまり現実を受け入れようとしない。だが、否が応でも時間が経てば受け入れてしまう。完全に絶望したガキは母親と父親を呼び続ける」
ヴァサゴがそこまで言った時、我慢しきれなかった吹雪鬼がヴァサゴに斬りかかった。
「おいおい、話をさえぎるなよ。怒りで動きが早くなっても単調だから絶対に当たらないぞ」
その一撃は虚しくも軽々ととめられてしまう。ヴァサゴは吹雪鬼の腕を掴みディランへ向かって投げつける。
ディランはそれをなんとか受けとめるも吹雪鬼は怒りで冷静さを失いかけており、すぐにヴァサゴへ再び斬りかかろうとする。
「落ち着け! 吹雪鬼!」
「ふざけないで! 人の心を! 命をなんだと思ってるの!」
吹雪鬼とは思えないほどの怒り方だった。
「言っただろ、俺は人間に愛着すら湧いているって。だから俺は慈悲深くそのガキに言ってやったんだよ。そこにいれば正義の味方が助けに来てくれて、お父さんとお母さんに合わせてくれるってな」
ヴァサゴはディランを考えもなしに吹き飛ばし攻撃を加えていたのではなくナツキの元へと誘導していたのだった。
そして、吹雪鬼達が必ず助けようとすると見込んでナツキに攻撃を仕掛け、殺すつもりだったようだ。
「話はそれで終わりか?」
声を発したのは蒼太だった。
「終わったんならその口閉じろよ」
蒼太は一瞬でヴァサゴとの距離と詰めがら空きのヴァサゴの腹に深々と拳を突き立てる。
「ゴブッ!」
「グダグダ喋ってくれるからかなり回復することが出来たよ」
そこから続けて三発四発と続けて拳が振るわれる。しかし、ディランにとってこれは痛みであってもダメージではない。
蒼太の拳を掴みヴァサゴは不思議そうに問いかける。
「随分と静かな怒りだ。何故そんなに落ち着いているんだ? 人間はこういうことで感情的になるんじゃないのか?」
「半分怒りで半分感謝だ」
「感謝だと?」
ヴァサゴはさらに訳が分からないと言った表情を浮かべる。ヴァサゴはこの話をすれば怒りを露わにすると思っていたのだ。
「お前がすぐにあの子を殺さなかったから、まだ助けることかできた」
「なるほど、そういう考え方をするんだな。どっちにしろあのガキもお前達が助けた人間も死ぬんだがな」
ヴァサゴは蒼太の答えに納得する。
「封印魔法まで残り五分ほどか……そろそろあの二人を殺しに行くか」
「そうはさせるか!」
ディランと吹雪鬼も戦いに加わりヴァサゴの移動を食い止めようとする。
魔力リンクも使い、魔法の出し惜しみはせずに限界を既に振り切っている体にムチを打つように戦い続ける。
「お前達はゲームオーバーなんだよ」
さっきまでのように攻撃を食らうことも無く、一歩一歩確実に楓華とエイボンの元へと近づいていく。
「なんで急に攻撃が通用しなくなってるの?! さっきまでは戦えてたのに」
「くそ、魔力が桁違いにデカくなってやがる。こんなってありかよ」
ディランと吹雪鬼は肩で息をしながら通用しない攻撃で果敢に立ち向かう。
「一方的に勝ったところでなんにも楽しくないだろ? だからさっきまでは防御をほとんどしないのと魔力を抑えて戦ってたんだが」
ヴァサゴは吹雪鬼の首を掴む。
「カハッ!」
「そろそろ本気で終わらせないとな?」
ヴァサゴは掴んだ吹雪鬼を蒼太の方へ思いっきり投げ飛ばした。
「吹雪鬼!」
蒼太は投げ飛ばされた吹雪鬼を受けとめることが出来たが今度はディランが投げ飛ばされてきた。
「ウソだろ!」
蒼太は吹雪鬼を離し、ディランを受けとめるも吹雪鬼よりも重量のあるディランはさすがに受け止めきれず軽く吹き飛ばされる。
「まだまだ飛んでもらうぞ?」
ヴァサゴは吹雪鬼との距離を詰め、固く握り締めた拳を全力で振るう。
吹雪鬼はそれを修羅刀でなんとか防ぐもそのまま吹き飛ばされた。
蒼太も今度は受け止めることが出来ず真横をすごい速さで通り過ぎた。
蒼太はディランと共にヴァサゴへ再び攻撃しようとした時にはもうヴァサゴは目の前にいた。
「しまった!」
「お前らも吹き飛べ」
咄嗟にガートするが吹雪鬼と同様に二人とも吹き飛ばされる闘技場の壁を壊し、エイボンと楓華の前へ戻ってきた。
封印魔法発動まで残り二分。しかし蒼太も吹雪鬼もディランももう戦える状態ではなくなっている。
吹雪鬼達がとんできた方向からヴァサゴが瓦礫を蹴散らし現れた。
「あとちょっとだったのに……」
楓華はヴァサゴを睨む。
「く、そぉ……」
ディランは立ち上がろうとするが体に力が入らず立ち上がることが出来ない。
ヴァサゴはゆっくりと戦いの余韻を楽しむように剣を上にあげる。
「やめろぉ!」
ディランが叫んだ時、一つの人影がヴァサゴに向かって猛スピードで近づいていく。
「俺がいて良かったって思わせてやるって約束しただろがァ!」
全身に爆薬をまとったジャックだった。その爆薬はディランが地下から持ってきた全ての爆薬だった。
「うおぉぉぉお!」
雄叫びを上げヴァサゴに向かって全力でタックルをし、握る刀を突き刺す。
不意をつかれたヴァサゴはバランスを崩し、そのまま押されジャックと共にディランの《ロンギヌス》によって開けられた穴へと落ちていく。
「き、貴様!」
「一矢報いてやったぜ」
全身につけた爆薬に火をつける。
「馬鹿にした人間のせいで負ける気分はどうだ? ましてや完全に舐めてた俺にやられるんだからな」
ジャックはニヤリと最高の笑みを作る。そして、細い穴の中で大爆発を起こす。
ジャックの持っていた刀の持ち手の部分が爆風によって打ち上げられディランの前に突き刺さった。
「そ、そんな……」
「バカ野郎が……」
悲痛な声を漏らすディランと吹雪鬼だったがエイボンがそれを良しとしない。
「まだ終わってません! あの穴からヴァサゴを出させないでください!」
その声にいち早く反応したのは蒼太だった。素早く穴の上に魔法陣を作りだした。
「愚者の門·《アンリミテッド》」
降り注ぐ無数の武器。
「うおぉぉお! 砲撃槍!」
二人とももうほとんどない魔力をさらに絞り出す。二人の鼻や耳から血が垂れてくる。
「悪しき魂を」
「悪しき肉体を」
楓華とエイボンの詠唱が開始した。
「強き魔力をもって封じ」
「強き想いによって滅す」
ディランと蒼太の魔力が完全に切れ、無数の刃と砲撃の雨はやみ、ヴァサゴが這い上がってきた。
しかし、魔法は既に発動している。穴の上に青く輝く巨大な魔法陣が三つ展開されその三つの魔方陣はヴァサゴを取り囲み宙に浮かせた。
「まだ終わらない!」
ヴァサゴの体は既に上半身と右腕のみとなっていたがその残った右腕に魔力をこめ、放たれた。
放たれた砲撃は詠唱途中で無防備となっているエイボンと楓華に一直線で近づいてくる。
「はあぁぁぁあ!」
しかし、それを吹雪鬼がギリギリのところで一刀両断。
「二人は私が守ります!」
吹雪鬼はヴァサゴの放つ砲撃を鮮血を撒き散らしながら一発もうち漏らさず防ぎ続ける。
「「悪しき存在を封印せよ」」
魔法陣から青い電気が走りヴァサゴが突如魔法を使うのをやめ、苦しみだした。
「一時休戦だ……だがおまえら人間はまた楽しませてくれるんだろ?」
さらに青い電気は勢いを増す。
「「《アポカリプス》!」」
詠唱を唱え切った瞬間、ヴァサゴを取り囲んでいた三つの魔方陣は圧縮され、強い光を周囲に放った。
瓦礫や建物が全て地面に飲み込まれ、ヴァサゴがいた穴のところから街の地面がどんどん光り輝く宝石のような不思議な石に変わっていった。
「今度こそほんとに終わった」
吹雪鬼はその場に倒れ込んで動けなくなってしまった。エイボンと楓華も吹雪鬼と同じ調子で倒れ込んだ。
ヴァサゴが封印されたと同時に世界中にあった魔法陣は消滅し、世界中が完成を上げた。
曇っていた空は晴れようやく世界は救われたのだった。
第55話を読んでいただきありがとうございます。
第56話『家族の形』は4月8日に投稿するのでよろしくお願いします。




