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第54話『正義の味方』


 肉体は既に限界、魔力も無限にある訳でもなく、そんな状態で戦いを続け封印魔法発動まで残り二十分程となった。

 残り二十分。聞くだけなら大して長い時間ではない。しかし、この現状で二十分なんて時間は無謀すぎる数字だった。

 

 「まだ立てるか?」

 

 傷だらけのディランが膝をつき剣を杖のようにしている吹雪鬼と蒼太に問いかける。

 

 「立てるも何も正直に言って限界なんてとうの昔にすぎてますし、立つしかないじゃないですか」

 「そうくんに同じく」

 

 蒼太と吹雪鬼は力をふりしぼり立ち上がる。そしてまだまだ余裕を見せつけるヴァサゴを睨みつける。

 

 「しぶといな。さすがに飽きてきた」

 「あと二十分は少なくとも戦わないといけないからな。しぶとくないとやってられないだよ」

 

 ディランは笑みを見せる。

 

 「とりあえず時間稼ぎの為にも場所をちょっと変えようか」

 「そんな誘いに乗るとでも?」

 「いいや、強制連行だ」

 

 ヴァサゴの背後に吹雪鬼が現れ腕を掴み思いっきり投げ飛ばした。

 宙を飛ぶヴァサゴに追い打ちをかけるように蒼太がかかと落としをする。

 

 民家に落下するがその落下先にはディランが待ち構えてた。

 無数の魔法陣がヴァサゴの方を向き、落下途中のヴァサゴに向けて砲撃が始まる。

 

 「ぐぁぁぁあ!」

 

 ヴァサゴが断末魔をあげる。

 

 「鬼術(きじゅつ)十重奏鬼(デクテット)!」

 

 ヴァサゴが地面に着地した時には既にディランの姿はなく上空から十人の吹雪鬼が降ってきた。

 

 「鬼術(きじゅつ)・《ヴァジュラ》!」

 

 放たれる十の斬撃。

 一つ一つが致命傷レベル。

 

 超回復により実質不死となっているヴァサゴだがこの斬撃を十も受けて死なない自信は無かった。

 かと言って全てを受け止めることが出来るはずもなく三つは魔法で相殺し、二つはぎりぎり交わしたが残りは直撃していないものもあるがくらってしまった。

 

 全身に走る痛み、手足がちぎれかけ、顔の半分以上がもっていかれた。

 完全回復まで少なくとも三十秒はかかるとヴァサゴは予測するがそんな回復の間を与えられるはずもなく、身動きの取れないヴァサゴにディランと蒼太が距離を詰める。

 

 「魔力増強(エクシード)!」

 「愚者の門(ヘパイストスゲート)!」

 

 ディランが展開する赤紫色の魔方陣、蒼太が展開する黄色の魔法陣からは機械的で巨大な銃口が現れた。

 

 「《ロンギヌス》!」

 「《ブレイカー》!」

 

 放たれる二色の砲撃は容赦なくヴァサゴに直撃しそのまま後ろの街まであとかたもなく撃ち抜いた。

 ちぎれかけていたヴァサゴの手足は完全に無くなり、全身の皮膚はほとんどはがれ肉が剥き出しになっている。

 

 「完全回復まで一分、足だけに集中して回復すればなんとか回避できるようにはなるか」

 

 ちぎれた足の断面が修復のためぶくぶくと血が沸騰するように溢れ、その血が形を作っていく。

 

 ヴァサゴの修復をしている最中で一つ疑問が生まれた。何故これほどまで急激に吹雪鬼達が強くなったのか。

 闘技場から出る前まではヴァサゴが上回っていたはずだが、魔力がかなり消費されているにも関わらず吹雪鬼に投げられてから強さが逆転した。

 

 謎を解くために接近してくる吹雪鬼ら三人を観察する。すると不自然な光がまたに見える。

 その不自然な光が見えたところで足の修復が完了し蒼太の振り下ろされる刀をギリギリで避ける。

 

 「チッ、そういう回復の仕方もあるのか」

 「応用だな」

 

 舌打ちをする蒼太を煽るようにヴァサゴは半分以上グチャグチャになった顔で笑みを作る。

 

 「砲撃槍(ゲイ·ボルグ)!」

 

 ディランが背後から魔法を放つ。その時に再び不自然な光が見えた。

 ディランの砲撃槍(ゲイ·ボルグ)を回避しながらヴァサゴはなぜ吹雪鬼達が急激に強くなったかを理解した。

 

 「《魔力リンク》か」

 「《魔力リンク》だと?」

 

 聞きなれない言葉に三人の動きが止まる。

 

 《魔力リンク》それは他者と魔力をリンクさせることで魔法の演算などを早めることが出来る。そして消費魔力をリンクしている人数分の一まで下げることが出来る。

 

 「《魔力リンク》は相手を一切疑わない絶対的信頼が必要なんだが……」

 

 ヴァサゴは観察するように三人を見てからブッと吹き出すように笑った。

 

 「まさか無意識で発動しているなんて思いもよらなかった。信じる心はなんとやらってわけか?」

 

 ヴァサゴはため息をつく。

 

 「最っ高に楽しいなぁ?」


 ディランとの距離を詰め、ディランを思いっきり蹴り飛ばす。しかし、それでは終わらずさらに追撃する。

 もう既にヴァサゴの体は治っていた。

 

 追撃をなんとか避けることが出来たディランはそこから体勢を立て直し、追いかけてきた吹雪鬼と蒼太と攻撃を始めようとしたその時、七歳くらいの少女が瓦礫の山の前で泣いていた。

 

 「お母さん……お父さん……」

 

 瓦礫の隙間からは人の手足のようなものがギリギリ確認できた。そしてここはヴァサゴが最初に放った魔法で破壊されは場所だった。

 

 「救助し損ねてたか!」

 

 親も既に死んでいたのなら人数確認の時に名前があがらないわけだ、と蒼太に焦りが見えた。

 

 「お前らはこういう時にどういう行動をとるんだろうな。助ける? 見捨てる?」

 

 この少女をヴァサゴが見逃すはずもなく、三人をチラッと見てニヤリと笑い魔力を溜めた魔力球を放つ。

 

 誰よりも先に動いたのは吹雪鬼だった。少女の元へ駆け寄り、抱き寄せて少女を守ろうとした。

 その次に動いた蒼太が二人を守るために魔力球を弾き返そうとした時、さらにヴァサゴの口角が上がった。

 

 「死ぬ前に覚えておくといい、そういう正義感は身を滅ぼすんだよ」

 「蒼太! ダメだ!」

 

 立ち上がろうとしていたディランが叫んだがもう手遅れだった。

 

 弾き返すギリギリで魔力球が強く光を放った。そして目の前で大爆発を起こした。

 爆発に吹き飛ばされた蒼太は吹雪鬼の真横で倒れ込む。体の各所から血を流し意識は朦朧としている。

 

 それでも蒼太は手をついて立ち上がろうとする。守られた少女は自分が守られたということだけを認識しいた。

 

 少女を避難させる時間を稼ぐためにディランはすぐさま立ち上がり、一人でヴァサゴを相手する。

 

 「ご、ごめんなさい……」

 

 自分を守ってくれた人が血だらけになっている。これくらいのことしか理解できなかった少女は何故か蒼太に謝った。

 

 「謝らなくていい。立てるか?」

 

 自分の傷も無視して蒼太は少女に戦場にいるとは思えないくらい優しく声をかける。

 少女はコクコクと頷き立ち上がった。それを見て蒼太は優しく微笑み少女の頭を撫でた。

 

 「さぁ、ここから逃げるんだ。ここから森へ向かってまっすぐ進み続けるんだそうすれば遺跡がある。そこに行けば助けてもらえる」

 「で、でも……ナツキは……」

 

 幼い少女の瞳から大粒の涙がボロボロとこぼれ出だす。吹雪鬼の胸に顔をうずめて、ごめんなさい、ごめんなさい、と少女は謝り続けた。

 

 「助けて……」

 

 そして少女は最後に消え入りそうな声でお願いした。親が死んだ今、少女は誰にも頼ることが出来なかった。

 そんな最中に助けてくれた吹雪鬼と蒼太にあまえてしまうのは当然だったのかもしれない。

 

 「ナツキっていうんだね。大丈夫、大丈夫だからここはお姉ちゃん達に任せて」

 

 吹雪鬼はナツキを優しく抱きしめ、頭を撫でてやった。

 

 「うん……」

 「俺とこのお姉ちゃんはあいつを倒してみんなを守らないといけないんだ。だから、ナツキも頑張って一人でも行けるか?」

 

 たった一人でかなり距離のある遺跡までいけと言うのは七歳くらいの子供には無理があるのは蒼太も重巡承知している。

 蒼太は痛みに震える指先でナツキの涙を拭ってたあげた。

 ナツキは涙を必死に堪えて蒼太が示した方向へと少しづつ進んでいく。

 

 「頑張る……」

 「ナツキ、振り返らずに進むんだぞ?」

 

 蒼太は血だらけの体を持ち上げ、ヴァサゴを今までで最も恐ろしいと言える形相で睨んだ。

 

 「場所を変えようか?」

 

 ヴァサゴとの距離を一瞬で埋め、横に薙ぎ払うように蹴り飛ばし二十メートル以上吹き飛ばした。

 

 ナツキが我慢できずに振り返った時にはもう既にそこには誰もいなかった。

 涙を拭い再び歩き出す。

 

 蹴り飛ばしたヴァサゴの近くへ行ったまではよかったがそこで蒼太は膝をついた。

 地面はぽたぽたと落ちる蒼太後で染っていた。ようやく互角まで来たと言うのに振り出しに戻るどころか最悪の事態となった。

 

 「残り十分くらいか。吹雪鬼はまだ動けても蒼太はもうきつそうだな」

 

 叩きつけられたのは絶望的な数字だった。

第54話を読んでいただきありがとうございます。

第55話『人間の力』は4月6日に投稿するのでよろしくおねがいします。

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