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第53話『タイムリミット』


 「ぐ……ごぶぅっ……」

 

 飛び散る鮮血。

 漂う鉄クサい匂い。

 

 吹雪鬼は固く閉じたまぶたをゆっくりと開けるとそこには振りおろそうとした腕や体の計六箇所を魔法陣から生えた槍によって貫かれてるヴァサゴがいた。

 

 「間に合って良かった」

 

 聞こえてきた安堵の声の方を見るとそこには蒼太が横に本を浮かべながら魔法を使っていた。

 

 「そうくん? なん、で?」

 「説明すると長くなる。とりあえず言えることは僕も吹雪鬼たちと一緒に戦えるってことだ!」

 

 蒼太は槍に貫かれ、動けなくなったヴァサゴを蹴り飛ばす。ヴァサゴは軽く五メートルほど飛んで行った。

 

 「その本に何かあるみたいだね」

 「まぁ、そういう事だ」

 

 吹雪鬼は立ち上がり蒼太の横に並ぶ。

 

 「なんだぁ? 随分頼もしい増援が来たもんだ。久しぶりだな、エイボン」

 

 ヴァサゴは立ち上がりながら笑みを作りゆっくりと近づいてくる。もちろん蒼太の攻撃による傷はなくなっている。

 

 「エイボン、あれはどういうことだ?」

 『魔力の大量消費による瞬間完全回復だと思われます。それに魔力の量が桁違いなのでほぼ不死状態になってます』

 「えっ! 本が喋った……!」

 

 吹雪鬼の驚きを無視してエイボンから帰ってきた返事は絶望的なものだった。しかし、蒼太の表情は曇らない。

 

 「何か対策はあるんだろ?」

 『さすがです、マスター。私たち魔導書はヴァサゴを倒すのではなく封印するためにも生み出されました』

 「時間が無い。端的に話してくれ」

 

 横で話を聞いていたディランが会話に割り込んできた。

 ディランの視線の先にはもう既に準備万端のヴァサゴが攻撃を開始しようとしていた。

 

 『ヴァサゴを私の力で封印します。しかし、これは元々十二冊の魔導書全てで発動します。私一人だと発動までかなり時間がかかります』

 「つまり、私達は時間を稼げってことなのね!」

 

 ヴァサゴの攻撃を吹雪鬼とディランが受け止める。蒼太は強くにぎりしめた拳を腹へ叩き込む。

 めり込んだ拳から魔法陣が展開されその魔法陣は圧縮され爆発する。

 

 爆発をギリギリでヴァサゴは回避し、これまでで一番の笑顔を浮かべた。

 

 「十二冊の魔導書を使っても発動まで少なくとも十分はかかる魔法をたった一冊の魔導書で発動だと? 単純計算で一二〇分もかかるのに耐えることが出来るのか?」

 

 時間にして二時間、実際それくらいの時間はかかるとエイボンも予測はしているがこれ以外にヴァサゴに勝つ方法が思い浮かばない。

 

 エイボンは魔導書の姿から人の姿へと戻り、魔法陣を複数個展開する。

 

 「できるだけ早く演算を終わらせますがかなり時間はかかると思ってください」

 「無防備になるエイボンを守りながら二時間死なずに耐える、か……」

 「ひ、人の姿になった……」

 

 吹雪鬼はさらに驚いた。そんな驚きを無視して蒼太の表情が曇る。

 

 「やるしかねぇだろ」

 「小さくても見えた希望だからね」

 

 ディランと吹雪鬼は腹をくくり一歩前へ出る。蒼太は前に出た二人の背中を見てヴァサゴを見据える瞳を決意の色に染め、一歩前へでる。

 

 「随分と盛り上がってるわね」

 「おせーんだよ、楓華」

 

 突然後ろから聞こえた声にディランは振り返らずに反応する。

 

 「演算の手伝いをさせてもらうわ。悪魔が一緒に演算すれば心強いでしょ?」

 「助かります」

 

 来て直ぐに状況を判断した楓華はエイボンと同様に複数個の魔法陣を展開する。

 

 魔法陣を展開すると楓華の周囲を何十枚もの本のページを切り取ったようなものが浮遊している。

 そして楓華の目の前に並ぶ二冊の本を見てエイボンは目を丸くする。

 

 「そ、その本は……?」

 「魔導書ソロモンとピカトリクスよ」

 

 魔導書はヴァサゴにエイボン以外が破壊され、ただの本になっているはずだった。

 

 「ヴァサゴにやられたせいで意思はなくなったけど魔導書としての根本的な力は消えてないから演算の時間は大幅に削れるはずよ」

 

 エイボンと楓華の演算をヴァサゴに邪魔されないために蒼太と吹雪鬼とディランはヴァサゴに向かって走り出す。

 

 「四十分は稼いで!」

 

 ヴァサゴに対して真っ先に距離を詰めたのはディランだった。

 振るわれる大剣は重く素早い。

 

 ヴァサゴはその一撃を難なく受け止める。しかし、攻撃はそれでは終わらずディランの後ろを走っていた吹雪鬼がすきの出来たところを狙う。

 

 「鬼術(きじゅつ)三重奏鬼(トリオ)!」

 

 吹雪鬼が攻撃をするギリギリでディランは距離を一度取り、三人の吹雪鬼がディランに襲いかかる。

 

 三方向からの完璧なコンビネーション攻撃をヴァサゴはギリギリではあるが回避し続けている。

 

 「砲撃槍(ゲイ・ボルグ)!」

 

 放たれる魔法は上手く吹雪鬼には当たらずヴァサゴに当たる。

 砲撃槍(ゲイ・ボルグ)を食らったヴァサゴは少しだけよろめく。

 

 ヴァサゴはよろめきながらも吹雪鬼の分身二体を消滅させる。

 

 「休ませる間は与えない!」

 

 そこに追い打ちをかけるたのは蒼太だった。エイボンと契約することによって使えるようになった魔法。

 

 「愚者の門(ヘパイストスゲート)·《アンリミテッド》」

 

 展開された一〇〇を超える魔法陣はヴァサゴを囲む。その一つ一つから出てきたのは多種多様の武器。

 その武器は同時に高速でヴァサゴに向かって飛んでいく。ヴァサゴは自分の方に飛んでくる一〇〇を超えるの武器を最低限なぎ払い、かすり傷や多少腕に突き刺さるくらい無視して蒼太との距離を詰める。

 

 「まずはお前が死ね」

 

 弓を引くように握っている剣を引いて一気に蒼太の体めがけて突き刺す。

 

 「ぐあぁ!」

 

 避けようとするも間に合わず左肩に突き刺さる。ヴァサゴはその突き刺さった剣を下に振り下ろし蒼太の腕を断ち切ろうとする。

 蒼太は刃をつかみそれをなんとか阻止するも素手で刃をつかみ血が地面にぽたぽたと滴る。

 

 「鬼術(きじゅつ)·《ヴァジュラ》!」

 

 吹雪鬼の放った一撃をヴァサゴは剣から手を離し避ける。蒼太は直撃はしなかったものの爆発で軽く吹き飛んだ。

 

 「悪い、助かった」

 

 蒼太は肩に刺さった剣を引き抜き、赤く光る魔法陣を傷口に押し付け傷口を焼き止血する。

 

 「なかなか楽しませてくれる人間達だ。だが、魔法発動まで耐えることが出来るのか?」

 

 ヴァサゴは笑いながらそう言い放ち、蒼太が引き抜いた剣と同じものを再び作り直した。

 封印魔法発動まで残り三十五分。

第53話を読んでいただきありがとうございます。

第54話『正義の味方』は4月3日に投稿するのでよろしくお願いします。

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