第51話『切り札』
新たに現れた自分と戦ってくれる最高の相手にヴァサゴは満面の笑みを作る。
「楽しいぞ……ここまで俺を楽しませてくれる人間がいるとは思わなかった!」
「残念だが俺は戦争を楽しめるタイプの人間じゃないんでな」
ディランは嬉しそうするヴァサゴを面倒くさそうに眺める。
「おっさん、あんたは早くここから逃げろ。ここはもう人間がいていい場所じゃない、避難した人の安全を守ってやってくれ」
「一度戦場に立ったというのにおめおめと逃げろというのか?」
ジャックは不服そうに立ち上がる。
「そうだ。あんたじゃ何も出来ない、それくらいあんたほどの実力者ならわかってるはずだ」
「すまんがそれは出来ない。一矢報いてやらねば俺の気が済まない、足でまといにはならない。むしろ、俺がいて良かったって思わせてやろう」
ジャックはそう言って再び武器を構える。そんなジャックの様子を見たディランは少しため息をつく。
「はぁ……好きにしろ」
「私も戦います。いつでもいいのでヴァサゴに確実なすきを作ってください」
修羅刀に魔力を溜め続けていた吹雪鬼はディラン達が話し終わるのを待っているヴァサゴを睨みつける。
「無意味な作戦会議は終わったか?」
ヴァサゴは嫌味を言ってくる。
「ああ、終わったよ」
言葉と同時にディランは動き出す。
再び鳴り響く金属がぶつかり合う甲高い音。ディランの剣を振るう速度は大剣を使っているとは思えないほどのスピードだった。
ディランをサポートするようにジャックは大きく回り込みヴァサゴへ背後から斬り掛かる。
ヴァサゴは振り返らずに砲撃を放ち刀を弾き、もう一撃で吹き飛ばす。そして、ディランの大剣を受け止めた時に何十発もの砲撃をディランの腹に撃ち込んだ。
「どうして人間がここに残っている? 残れば死ぬことくらいわかっているはずだろ?」
ヴァサゴはゆっくりと腹部を押さえ立ち上がるジャックの元へと近づく。
「ここに人間が混じったところで足でまとい。それに無駄死にするくらい理解出来ているはずだ」
「足でまとい? 無駄死に?」
ジャックはゆっくりと立ち上がり、怒りをあらわにした目でヴァサゴのことを睨みつける。
「そんなこと、俺が一番よく分かってるんだよ! それでも戦わないといけないんだ!」
勢いよく怒鳴るジャックはその勢いに任せてヴァサゴに向かって走りだす。
「いい目だ。そういう感情こそお前ら人間の醍醐味ってもんだ」
ヴァサゴは自らジャックとの距離をつめ腹に峰打ちをいれ、ジャックの顔に触れる。
バチッと小さく静電気のような音が聞こえた次の瞬間にその音は連続して聞こえた。
「ぐがぁぁぁあ!」
叫び声をあげるジャックの体は音に合わせ痙攣している。
叫び声すら出せなくなったジャックの体からは嫌な煙が上がり周囲には肉が焼け焦げる匂いがした。
「雷系統の魔法か……?!」
「魔法、人間はこれを魔法と呼んでいるのか? 悪くない呼び方だ」
ディランの声にヴァサゴは自慢げに大袈裟に笑ってみせる。
ディランはそんなヴァサゴを睨みつける。
「おー怖い怖い、安心しろこの男は殺しちゃいない。まだまだ楽しませてくれるだろ?」
「俺達はお前を楽しませる気は無い」
「そうかもしれないが現に人間は俺を楽しませてくれている」
ヴァサゴは楽しそうに語り始める。
「同じ種族で無駄に殺し合い、わざわざ破滅へと自ら近づき続ける人間を数百年と見てきて今では愛着すら湧いている」
ヴァサゴの話し方はまるで人間の全てを見通したかのような話し方だった。
「俺の持たないその負の感情とやらを俺に見せてくれ、怒れ、憎め、殺意をいだけ」
ヴァサゴの言葉には嘘も偽りもない。
心の底から愚かな人間を愛している。愚かだからこそ見ていて面白い、愚かだからこそ愛でる価値がある、愚かだからこそヴァサゴを飽きさせない。
「狂ってるよ。お前」
ディランは楽しげに語っていたヴァサゴの背後へ回り込みゼロ距離で全力の魔法を放つ。
「砲撃槍」
何千発と放たれ続ける光線。
周囲にヴァサゴのものと思われる血が飛び散る。それでもディランは砲撃の手を緩めない。
「狂ってるさ。悪魔だからな」
砲撃により舞い上がった砂埃の中から血塗れになった腕が伸びディランの首を掴む。
「ゴフッ!」
「こんなに体がえぐれたのは初めてだよ」
砂埃が消えヴァサゴの姿が見える。
化け物と言わんばかりだったヴァサゴの容姿は体の至る所に風穴を作り、皮膚は溶け肉が剥き出しになり、左腕は今にもちぎれそうだった。
「ガッ……グググゥ……」
首を絞められるディランの喉から気味の悪い声が漏れる。
ディランは首を閉められながらも力を振り絞り、ヴァサゴの顔目がけて魔法を放つ。
ヴァサゴの顔は仰け反ったがディランの首を掴むての力は緩まない。
仰け反った顔をヴァサゴが戻すと頬の肉がえぐれ、悪魔らしい牙が剥き出しになった。
「そうだ、もっと必死に抵抗しろ。ここまで俺に傷を負わせたんだからもっと楽しませてくれよ」
牙をむき出した狂気的な笑みを浮かべ、さらにディランの首を掴む手に力を込める。
「チェ、チェッ……ク、メイ、トだ。くそ、野郎」
ディランはニヤリと笑う。
「チェックメイトだと?」
「はぁぁあ!」
ヴァサゴが首をかしげた瞬間に吹雪鬼がディランの首を掴むヴァサゴの腕を一刀両断する。
「ガハッ! ゲホッゲホッ!」
ディランは手が離れたため地面に落ち、尻もちをつく。
「ここまで気配を消せるとは! いいぞ! 最っ高に楽しくなってきた! だが、片腕くらいでいい気になるなよ!」
ヴァサゴは吹雪鬼の腹に深々と蹴りをめり込ます。
吹雪鬼の体はくの字に折れ曲がり、あばら骨が砕ける嫌な音が響く。
しかし、蹴りを入れられた吹雪鬼の姿が歪みそのまま消滅した。
「まだまだァ!」
吹雪鬼が今度は背後から背中を切り付ける。それに反応しヴァサゴは吹雪鬼を殴り飛ばす、すると再び消滅する。
「なるほど、自分の分身を出し三対一で戦えるようする魔法か」
「ほとんど正解」
吹雪鬼の声が聞こえた。
「なに?」
ヴァサゴが怪訝そうな顔で声のする方を見ると四人の吹雪鬼の姿があった。
「鬼術・四重奏鬼」
「なるほど、二体が限界って訳でもないようだな」
分身をバラバラで戦わせていたさっきとは違い本体も含む四人での同時攻撃。
自分の分身と言うだけのことはあり、四人ので攻撃は互いの隙を無くし、ヴァサゴも面倒くさそうな顔をする。
「分身を見極め、本体を潰すよりも一度に四人とも殺せたら話は早いよなぁ?」
突如切断したはずのヴァサゴの腕が切断面から生えてきた。そして四人の吹雪鬼の足元に一つずつ魔法陣が現れる。
「まずい!」
四人のうち一人だけがその魔法陣から離れた瞬間に三体の分身が氷漬けにされ、氷柱が完成した。
「お前が本体か……」
避けた吹雪鬼との間合いが一瞬で詰められ、掌に展開された魔法陣が吹雪鬼に向けられる。
放たれる魔法陣からの無数の剣。それは吹雪鬼の体を貫き、吹雪鬼の体を引き裂いた。
「なに!?」
しかし、切り裂いた吹雪鬼は煙のようになり消えていった。
そして突如、ヴァサゴは何かに掴まれる両足首を掴まれ足元の方を見ると鎖が巻き付けられていた。
「さっきの分身に私はいないよ」
本体が現れたかと思えばさらに透明になった二体の吹雪鬼がさらにでてきてた。
魔力で構成した鎖を作りだしヴァサゴを拘束した。
「鬼術・七重奏鬼。切り札は最後まで取っておくものだから」
吹雪鬼がそう言うと吹雪鬼の力で透明になっていたディランがヴァサゴの真上に現れ、超高密度な魔力球を両手に溜めていた。
「魔力増強·《ロンギヌス》!」
その両手の魔力球を合わせあなたれた一撃は凄まじい赤紫色の光と轟音を辺り一面に放ちその威力に地面は八メートル近い穴を作り、周囲の建造物にはヒビが入り、古い建物は倒壊した。
「終わった、のか?」
「みんな生きてますか……?」
ディランはその場に座り込み、吹雪鬼はディランやジャックが生きていることに一息ついた。
「ホントに生き残れてよかった……」
「ああ、そうだな」
安心しきった吹雪鬼だったが背後に感じた気配に嫌な汗が吹きでる。
「あの一撃はさすがに相殺しきれなかったがこうして生き残ることも出来た。あの攻撃は死んでもおかしくなかった」
吹雪鬼の背後に立っていたのは紛れもなくヴァサゴだった。
「吹雪鬼! 逃げろ!」
「――ッ!」
貫かれる皮膚の音、生暖かい鮮血が辺り一面に飛び散り、赤の斑点模様が地面につけられた。
第51話を読んでいただきありがとうございます。
第52話は少し間を開けさせていただきたいので3月30日に投稿させていただきます。




