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第50話『鬼神解放』


 観客はあまりのことに呆然と真っ二つの王様と血に濡れた化け物、浮遊する四つの魔方陣、崩れ落ちた街を眺める。そして数秒後にようやく理解する。

 

 ヴァサゴが現れた。

 

 「全員逃げろ!」

 

 ディランの叫び声に反応したのか観客は全員我先にと闘技場から出ていこうとする。

 

 「あれがヴァサゴなんですか?」

 「お前は……」

 

 観客が逃げ惑い混乱する中、ディランに話しかけてきたのは蒼太だった。

 

 「僕は皐月 蒼太って言います」

 「確か、吹雪鬼の知り合いだったな。ここはもう危険だ、人間のお前は早く逃げろ。出来ることならあの混乱している人達を楓華と一緒に誘導してくれ」

 「……分かりました。吹雪鬼をお願いします」

 

 蒼太はそう言って逃げ惑う人々元へと向かった。

 

 「お願いしますだって」

 「ああ、ここでまともに戦えるのは俺と吹雪鬼だけだろう。歴代優勝者も所詮は人間、当てにはならない」

 「私もなるべくすぐ戻るわ」

 

 ディランは自分の武器を取りに一度その場を離れ闘技場の地下へと向かう。

 

 その頃、王様を殺された現状でいくら相手があのヴァサゴであろうとも兵士や優勝者が黙っていられるはずもなく武器を構え襲いかかる。

 

 「待って! 今行ったら!」

 

 吹雪鬼が止めようとした時にはもう既に手遅れだった。

 

 「ここにいる何人の人間が俺を楽しませてくれるか……なっ!」

 

 ヴァサゴが右腕を勢いよく振るう。次の瞬間、ヴァサゴに挑もうとした二十人ほどの一般兵は全員細切れとなった。

 

 兵士と同様に挑もうとした八人の歴代優勝者のうち一人は武器の破損、三人は重症、もう一人は生きてはいるが助からないほどの重症、残りは即死だった。

 

 「一撃でこれか……期待はずれだな。あと、残念ながら増援は来ないぞ? ここにいる兵士と門番以外は式の直前に皆殺しにしたからな」

 

 ヴァサゴは溜息をつき重症の三人のうち一人の元へ近づく。そして、目の前に何も言わず立ち止まる。

 

 「うっ……うおぉぉぉぉお!!」

 

 重症の体にムチを打つように力を込め、握る巨大なハンマーをヴァサゴのこめかみへ命中させる。

 確実に決まった感触が手に伝わりニヤリと笑ったがその笑顔は一瞬で消える。

 

 「人間にしては大きな体、人間にしては強い力。しかし、人間にしてはと言うだけで人間の領域を出てない」

 

 ヴァサゴのこめかみへ叩きつせられたハンマーにヒビが入り、砕けた。

 そしてヴァサゴは呆然と立つ男の心臓を抜き取る。心臓は未だに抜き取られたことに気づいていないのかどくどくと脈を打ち、脈を打つ度にちぎれた血管から血液が吹き出す。

 

 「そ、そんなバカな……」

 

 力なく呟く。

 

 「残念ながら事実だ」

 

 ヴァサゴは手の上で脈を打つ心臓を握り潰す。血と肉片が闘技場の砂を彩る。

 

 「……っ!」

 

 吹雪鬼が修羅刀を強く握り前に出ようとすると唯一さっきのタイミングで攻撃を仕掛けなかった中年の男に止められた。

 この中年の男の名はジャック·クラーク、初代優勝者で歴代最強を言われており、吹雪鬼もこの男の実力は戦わずとも理解していた。

 

 「今行けばヴァサゴを倒す鍵となる嬢ちゃんが死ぬことになる。俺はそれをみすみす見逃す訳には行かない」

 「だけど……!」

 「嬢ちゃんはやつを倒せる一撃をやつに悟られずに溜め続けろ。そしてここぞという時にやつを殺すんだ」

 

 吹雪鬼は死を目前にしてもなお果敢にヴァサゴへ挑む男の姿を見る。

 

 「鬼神解放、修羅刀(しゅらとう)·《鬼気共鳴(きききょうめい)》」

 

 吹雪鬼は髪と目が薄く光り、修羅刀を引き抜き、刀へありったけの魔力を注ぎ込む。

 

 「うぉぉお!」

 

 ジャックと吹雪鬼がやり取りをしている間に壊れた武器を捨てた優勝者が別の優勝者の剣を使い背後からヴァサゴを切りつけようとしたがそれも片手でとめられた。

 ヴァサゴに握られた剣はビクとも動かず、すぐに剣を手放し距離をとる。

 

 「今のはおしかったな」

 

 ヴァサゴは持った剣をやり投げのように構え、投げた。高速で投げられた剣はとった距離を一瞬で埋めてしまい胸部の鎧を貫通しそのまま勢いを殺さず、優勝者ごと壁まで突き刺さる。

 心臓を貫かれ壁に剣を使って貼り付けられたその姿は藁人形のようだった。

 

 「次は誰が死ぬ?」

 

 ヴァサゴは再びゆっくりと重症の二人に近づく。その途中に虫の息でその場にうずくまる優勝者の顔を踏み潰した。

 

 「ひっ……」

 

 その光景に一人が恐怖に声を漏らす。

 

 死ぬことが約束された未来。

 その恐怖に震えが止まらなくなる。

 

 吹雪鬼は飛び出して助けそうになるのを必死でこらえる。

 

 「嬢ちゃん、吹雪鬼だっけ? 俺が戦っても殺されるのは変わらないだろう」

 

 ジャックは使い込まれているが綺麗に手入れをされている刀を鞘から引き抜く。

 

 「だから、あとは任せた。あと、九十秒は稼いでなんとかしてやつの隙を作る。世界を救ってくれ」

 

  ジャックの顔は決意に充ちていた。しかし、その決意は戦うことでも勝つことでもなく死ぬことへの決意だった。

 

 「やぁ、ジャック。お前が相手をしてくれるのを待っていたよ」

 

 完全に怯えている男を殺そうとするのを一旦中止してジャックの方を見たヴァサゴの顔は満面の笑みだった。しかし、その笑顔は直ぐに心配そうな顔に変わる。

 

 「しかし、良かったのか? さっき死んだヤツらやここで怯えているこいつと一緒に戦った方が俺に勝てたんじゃないのか?」

 「分かりきったことをいいやがって」

 

 ジャックはヴァサゴを鼻で笑う。

 ヴァサゴも心配そうな顔から一転、狂気じみた笑みを再びうかべる。

 

 「ああ、そうだな。こいつらがいたら逆に足でまとい、全力を出す前に俺に殺されるな」

 

 ヴァサゴはそう言いながら逃げようとした男の顔を蹴り飛ばす。

 頭蓋骨や脳、血や目玉が辺り一面に無残にも飛び散った。

 

 「さぁ、遊ぼうか」

 

 ヴァサゴの足元に黒い魔法陣が出現し、ヴァサゴはそれに手を突っ込み禍々しい形をした剣を取り出した。

 

 刀を構えたジャックは脱力から一気に加速し五メートルほどの距離を一瞬で詰め、刀を振るう。

 その一太刀をヴァサゴはギリギリで受止め、鉄と鉄がぶつかり合う甲高い主が響く。

 

 「流石だ、他の優勝者とは訳が違う」

 「今ので切り倒されてくれれば俺としては良かったんだがな」

 

 そこから続く剣と刀の攻防戦。

 人間が戦ってるとは思えない速度での戦闘をジャックはヴァサゴ相手に繰り広げる。

 

 周囲に響き渡る凄まじい金属音。

 しかし、人間離れしたスピードでの戦闘はヴァサゴとは違い人間であるジャックが長時間続けるのは厳しく、顔に苦悶の表情が浮かぶ。

 そしてついに体力の限界が来て剣筋が乱れた瞬間にヴァサゴに刀を弾かれ、手から離れてしまった。

 

 「しまった!」 

 

 ヴァサゴはニヤリと笑う。

 

 振り下ろされる剣。

 

 「二分は稼いだ。これは上出来だな」

 

 ジャックは死を覚悟する。その時、巨大な斧がヴァサゴに向かって飛んでくる。

 ヴァサゴは咄嗟にガードするも異常なまでの威力に吹き飛ばされてしまう。

 

 ヴァサゴにガードされは巨大な斧はジャックの傍に落ち、それを美しくも狂気的な大剣を持った男が拾い上げる。

 

 「地下から使えそうなもの持ってきてたけど見たところ使っても無駄そうだな」

 

 背負っているカバンをその場に投げ捨てるように置き、持つ大剣の切っ先をヴァサゴに向ける。

 

 「俺もまぜてくれよ?」

 

 ディランは笑みを浮かべる。

 

 「真打登場ってわけか?」

 

 ヴァサゴは何事も無かったかのように立ちあがり、握る剣の切っ先を向ける。

第50話を読んでいただきありがとうございます。

第51話『切り札』は3月23日に投稿するのでよろしくお願いします。

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