第48話『鬼と悪魔』
さっきまでの賑わいが嘘のように静かになった客席。
決勝戦。吹雪鬼とディランが闘技場の真ん中で向きあっている。
試合開始の合図と共に爆音と大きな砂埃が二つ立ち上った。
ギチギチと鍔迫り合いをする吹雪鬼とディラン。巨大な大剣と金棒がぶつかると火花が辺りに飛び散った。
パワーはディランの方が優勢であり吹雪鬼は少しづつ押され始めた。
「思ったよりあっさりだな」
「やっぱりディランさん相手じゃ人間相手の時と同じじゃダメそうですね」
ディランの言葉に対して吹雪鬼がそう答えると押され始めていた吹雪鬼が今度は逆にディランを押し始めた。
この瞬間に客席は再び歓声に包まれた。
「鬼の力を甘く見ないでくださいね」
「おもしれぇ、だったら俺も悪魔の力を見せてやるよ」
ディランの背後に二つの黄色い光を放つ魔法陣が現れる。吹雪鬼はそれが何なのか一瞬分からなかったがその正体はすぐに見せつけられた。
「砲撃槍!」
魔法陣が強く光り、光線が発射された。
吹雪鬼はその光線をギリギリで回避し、鍔迫り合いを終わらせた。
「近接ばかりだと思ったか?」
「まぁ、確かに近接だけだろうと少したかをくくってました」
吹雪鬼の頬を嫌な汗がつたう。
「なんとか近接戦に持ち込まないと……」
吹雪鬼には遠距離で戦うすべがなかった。つまり、吹雪鬼に出来ることは相手の攻撃を避けながら距離を詰め、近接戦を行うことのみ。
「まだまだ行くぜ!」
さらに魔法陣を増やし、動き回る吹雪鬼に向けて発射される。
光線は地面に当たれば砂を巻き上げる。爆風に背中を押され吹雪鬼は前へ吹き飛ばされる。
すぐに立ち上がろうとする吹雪鬼に向けて三発発射される光線。
「鬼神解放……!」
吹雪鬼に三発の光線が直撃。
爆発が起こり煙で吹雪鬼がどうなったのか認識することが出来ない。
ゆっくりと煙が消えていくと、煙の中に赤と紫の光がゆらゆらと揺れている。
煙のなかで突風が巻き起こり煙は消え、そこには目は赤く、髪の毛先の方を紫に光らせる吹雪鬼が立っていた。
煙の中で生まれた突風は吹雪鬼が金棒を振って起こしたのだった。
「本気で行きます」
吹雪鬼は金棒の先端をディランへ向ける。
「そう来なくっちゃな」
それに対してディランは笑みを浮かべ背中につけられている斧を外し、片手で握っていた大剣を両手で握り直した。
吹雪鬼の姿がぶれたと思った時には既に吹雪鬼はディランの懐まで近づいていた。
距離にして約十メートルを一秒ほどで埋めた。さっきまでのスピードより格段に上がっていた。
振り下ろされる大剣を吹雪鬼は素手で受け止め、右手に握られている金棒をディランの横腹へ振るう。
ディランは砲撃槍でギリギリ金棒を撃ち落とし、吹雪鬼と距離を取った。
大剣は剣としての切れ味は確かに低いものではあったが素手で受け止めれるほどでは無い。
「お互いに化け物ってことか……」
「人間相手にこんな力使えませんからね」
吹雪鬼はニヤリと笑ってみせる。それにつられてディランも笑みを浮かべる。
再び出現する魔法陣。
「同じ技がいつまでも通用すると思ってるんですか?」
「まさか、そう言う吹雪鬼はパワーとスピードが少し上だからって勝てると思ってるのか?」
二人の意地の張り合い。
バチバチと二人の間に見えない火花が散る。
吹雪鬼は再び光線をかいくぐりながらディランとの距離を詰め、接近戦へと持ち込む。
「お前こそワンパターンだな」
「飛び道具がありませんから」
放たれる光線と振るわれる大剣。それを受け止め、避け、互いに相手を倒せる瞬間を見計らう。
「ディランさんは体術は出来ますか?」
「普通くらいだな」
「なら良かったです」
ニヤリと笑う吹雪鬼は金棒の先端を大剣の手元に当てる。
「修羅刀《鬼気共鳴》」
吹雪鬼がそう呟くと金棒が前方へと吹き飛び刀の部分が姿を現す。しかし、一度刀を出した時とは段違いの勢いで射出されたためディランの手に握られた大剣は金棒もろとも吹き飛んだ。
「体術が出来るかってこういうことか」
吹雪鬼はディランに武器を取りに行かせないためにすぐさま攻撃へと移る。
そこから始まる素手対刀。
吹雪鬼の握る刀。吹雪鬼は修羅刀と言っていたが蒼太の時とは雰囲気が違った。
「奇妙な武器だな」
「特注品です」
「まだなにか力を隠し持ってそうだな」
吹雪鬼の攻撃をギリギリで回避したディランは吹雪鬼と一度距離を取った。
「戦っていればわかります」
吹雪鬼はいたずらな笑みを浮かべる。
ディランは大剣と斧の位置を確認するが両方とも少し遠い。取りに行こうとすればすぐさま吹雪鬼が邪魔をしに来れる距離だった。
「砲撃槍」
ディランは魔法陣を大量に出現させたが、その数は今までのように一個や二個ではなく一〇〇を超えいた。
「光線の正確な操作は無理だがこの数の光線を避けきることが出来るか?」
魔法陣から一気に放たれた光線に吹雪鬼は完全に逃げを失った。
「避ける必要なんてありませんよ!」
吹雪鬼は自分に飛んでくる光線を次々と切り裂く。しかし、それはさっきまでとは違い切った光線は分散せずに修羅刀へ吸収されていく。
「魔力の吸収があの剣の特徴ってわけか」
ディランはそれでも砲撃を止めるどころかさらに砲撃速度を上げた。
ディランの魔力がなくなるのが先か吹雪鬼のスタミナがなくなるのが先かの戦いになった。
闘技場に響く爆音、吹雪鬼が切らなかった砲撃が地面に着弾し大量の砂が巻き上げる。
次々と巻き上げられた砂はやがて二人の姿を見えなくさせた。
それでも終わらない砲撃。
「おいおい、あの嬢ちゃん死んだんじゃないのか?」
「でもあの男一切攻撃をやめないぞ」
観客もあまりの光景にさっきまでの熱は冷めてしまい静かにざわつき始めた。
その時、吹雪鬼がいるであろう砂が巻き上げられた場所から赤黒い光が発せられた。
「鬼術・《ヴァジュラ》!」
吹雪鬼の声が聞こえたとディランが認識した時、前方から赤黒い斬撃が飛んできていた。
集められた魔力が圧縮し、斬撃として放つ。修羅刀の一撃必殺の技
当たれば相手をほぼ確実に倒せる一撃。しかし、前方からまっすぐ飛んでくる攻撃を避けることなどディランにとっては容易く、避けられてしまった。
これで勝利を確信したディラン。しかし、吹雪鬼の攻撃はまだ終わってはいなかった。
舞い上がった砂の中、左右から同時になにか巨大なものがかなりの速度で飛んできた。
飛んできたのはディランの斧と大剣。
大剣は回避し、斧は受け止めたがその瞬間、首筋にヒヤリとした金属の感触を感じた。
吹雪鬼の刀が当たっていた。
強い風が吹き、舞っていた砂が飛ばされ観客も二人の状況が見れるようになった。
「私の勝ちです」
「こりゃ完敗だな」
ディランは持っていた斧を手放し両手を上げて敗北を認めた。
そしてさっきまでざわついていた観客は再び大声で完成をあげた。
「どうやって負けたのか分からなかった。最後の一連の動きはなんだったんだ?」
「秘密です」
吹雪鬼は再びいじわるな笑みを浮かべ闘技場の出口へと向かった。
「秘密なら仕方ねぇな。あとで楓華にでも聞いてみるか」
ディランもそうボヤきながら吹雪鬼について行くように闘技場を後にした。
こうして第十回英雄決定戦は幕を閉じた。
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第49話『戦争の合図』は3月19日に投稿しますのでよろしくお願います。




