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第47話『想い思い出』


 吹雪鬼に話しかけることも無く青年は闘技場へと一人向かって行く。

 吹雪鬼は青年に対して何か引っかかるようであまり気乗りしない表情のまま嫌そうに闘技場へと向かう。

 

 観客の盛り上がりは最高潮だった。さっきのディランと騎士王の戦いの熱は冷めぬまま吹雪鬼と青年の戦いにも期待が高まっている。

 

 「あの、私あなたに何かしましたか?」

 

 吹雪鬼は闘技場で青年に思い切って聞いてみたが青年は答えてくれず、ただ悲しそうな顔をした。

 青年は悲しそうな顔をさっきまでの怖い顔に戻して腰に付けられた剣を抜く。輝く美しい銀色の刀身を持った刀が姿を現す。

 

 青年の居た場所に大きな砂埃が上がる。

 観客が砂埃が上がったことに気づいた時にはもう青年は自分の攻撃範囲内まで吹雪鬼との距離を詰めていた。

 

 吹雪鬼は金棒を手に取りギリギリのところで刀を受け止め、闘技場に甲高い金属音が鳴り響く。

 

 「僕はこの時をずっと待っていた」

 

 鍔迫り合いで吹雪鬼との距離が縮まった時に青年は呟くように言ってきた。

 吹雪鬼にはその青年の言っていることの意味は理解できなかったが青年の顔を至近距離で見て昔の記憶がふと蘇る。

 

 「そう、くん?」

 

 そうとは今から父である羅刹がヴァサゴを倒すために家を出てから吹雪鬼はある村へと引っ越した。その時に最初に吹雪鬼と仲良くしてくれた少年、皐月 蒼汰(さつき そうた)のことだった。

 

 青年は名前を呼ばれたことに驚いた顔をした。これは自分が蒼汰であることを肯定したようなものだ。

 

 「この時をずっと待ってたってどういうことなの? 私と戦うことを望んでいたの?」

 「ああ、そうだ。僕はお前を殺すために強くなったんだ!」

 

 鍔迫り合いをしていた吹雪鬼と蒼汰だったが蒼汰の力に吹雪鬼は押し負け少し後方へとさがった。

 

 「なんで! 私たちあんなにも仲良くしてたのにどうしてそんな考えになるの!」

 「僕の父さんは君の父親に殺された! 僕は復讐をしようとしたが君の父親はヴァサゴに殺されていた。だから、代わりに君を殺すんだ。そうすれば英雄を失った僕達一族の心も多少は救われる」

 

 羅刹は強くなるために強い人間をくらい続けていた。食らった何百何千という人の中に蒼汰の父親も入っていたのだろう。

 

 「だから! 僕は君を殺さないとダメなんだ!」

 

 吹雪鬼は声を出すことも出来なかった。大切な友達だと思っていた人の父親を自分の父親が殺したのだから、その責任を恨みを娘の自分が受けるのは仕方ないと思ったからだ。

 

 それでも吹雪鬼は金棒を握り直した。

 まだ死ぬ事は出来ないから、罰を受けるのはヴァサゴを倒してからだと自分に言い聞かせる。

 

 吹雪鬼と蒼汰が同時に動く。

 

 舞う砂埃が観客席から二人の姿を見えなくする。しかし、聞こえてく高速でぶつかり合う金属音が二人の戦闘の凄まじさを物語っていた。

 

 「そうくんはなんで、私が憎くて殺そうとしてるのにそんなに悲し顔をしているの?」

 「黙れ、僕は君を殺すんだ!」

 

 蒼汰は自分に言い聞かせるように悲しそうな顔のまま刀を振るい続ける。

 

 「父さんは確かにたくさんの人を殺した。だから、家族の私が責められても文句を言えないのは分かってるよ。でも! 私はまだ死ねないの!」

 

 さっきまでほとんど攻撃へ転じなかった吹雪鬼が蒼汰の刀を全力で弾き飛ばし、蒼汰の手から刀が離れる。

 そこから更に金棒を振りかぶり殺さない程度に。しかし、確実に戦闘不能にできる力で振り下ろす。

 

 刀が手から離れた蒼汰は焦ることなく振り下ろされる金棒の手元をアッパーカットのように掌底で打ち上げると蒼汰と同様に吹雪鬼の手から金棒が手から離れる。

 

 武器を手放した二人は武器を取りに行こうとはせず選んだ戦闘方法は素手喧嘩(ステゴロ)だった。

 

 さっきまでの甲高い金属音は消えてしまったが代わりに人を殴る鈍い音が聞こえる。

 吹雪鬼と蒼汰は闘技場を大きく使って戦うことはなくなったがその場で常人では追いつけない速さで拳を交わす。

 

 攻防一体の二人。

 

 吹雪鬼の蹴りが蒼汰の鼻先をかすめ、蒼汰の拳が吹雪鬼の頬をかすめ、拳に相手へ当てた強い感触があったとしてもガードされていたり、なかなか攻撃が決まらない。

 

 吹雪鬼と蒼汰は攻撃を繰り返しながら少しづつ動き地面に落ちている武器へと近づく。

 

 ある程度武器との距離が近くなりタイミングを見計らい吹雪鬼が先に武器を取るために動いた。

 蒼汰はそれに続くように武器を取るために動く、武器との距離は蒼汰の方が近くにあり先に動いた吹雪鬼よりも直ぐに武器を手に取れた。

 

 吹雪鬼も武器を手に取れたが既に蒼汰は攻撃をする体制になっていた。タイミングは最悪、ガードは確実に間に合わない。

 

 「やぁぁあ!」

 

 吹雪鬼は拾い上げながら金棒を思いっきり振るった。凄まじい勢いで金棒が蒼汰めがけて飛んで行く。

 蒼汰は金棒をくらい軽く吹き飛びその場に仰向けで倒れてしまった。

 

 蒼汰も含めここにいる全ての人が吹雪鬼が金棒を投げたと思った。しかし、それは間違いだった。

 蒼汰の近くに転がっているのは金棒をではなく金棒の持ち手より上の部分だった。

 

 蒼汰は立ち上がろうと手をついた時、人影が地面に現れた。上を見れば吹雪鬼が飛び上がって降ってきたのだった。

 

 吹雪鬼の手には刀身の横幅が大きい不思議な青龍刀のような刀が握られていた。

 蒼汰は降ってくる吹雪鬼に合わせて刀を振るう。吹雪鬼は蒼汰の首めがけて刀を構える。

 

 砂埃が巻きあがる。

 

 「なんで止めたんだよ」

 「そうくんだって……止めてるよ?」

 

 吹雪鬼が蒼汰の上に馬乗りになる状態で二人の刀はお互いの首ギリギリで止められていた。

 

 蒼汰は刀を離し少し溜息をつき、涙をこらえるように目を服の袖で抑えた。

 

 「村の皆から頼まれたって吹雪鬼を殺せるわけ、ないだろ……」

 「そうくん……」

 

 吹雪鬼も刀を横へ置いた。

 

 「どれだけ憎もうとしても憎めない。何度恨もうとしても恨めないんだよ」

 「なんで……? 私を殺したって誰もそうくんを責めたりなんてしないよ?」

 

 蒼汰は涙を拭い起き上がり、真剣な眼差しで吹雪鬼を見つめる。

 吹雪鬼は馬乗り状態から蒼汰が起き上がったためかなり距離が近くあたふたしたあと目を逸らしてしまった。

 

 「僕は吹雪鬼を恨んだり憎んだりする前に、君のことが昔から好きだったんだ」

 「……え?」

 

 突然の告白に観客は大盛り上がりだったが吹雪鬼は何を言われたか理解出来ずに固まってしまった。

 

 「何度でも言うよ。僕は君が好きなんだ。君が村を出て行った後に君の親のことを聞いたけど、それよりも僕は君と会えなくなることの方がショックだった」

 

 今度は抱きしめながら告白をする蒼汰。さらに盛り上がる観客、そしてようやく何を言われたのか理解した吹雪鬼の顔がみるみる赤くなる。

 

 「いや、あの、その……! 私は、でも、え〜っと……だから私も……」

 

 顔を真っ赤にして俯きながら吹雪鬼は呟くように蒼汰の告白への返事をする。

 

 「私も、そうくんが好き……です」

 「はは、これは僕の負けだよ」

 

 観客席から今大会一番の完成が上がった。

 

 「おいおい、俺との決勝があるのにこんな感じで終わるのかよ」

 

 ディランは大歓声の中一人苦笑いだった。

第47話を読んでいただきありがとうございます。

第48話『鬼と悪魔』は3月17日に投稿するのでよろしくお願いします。

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