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第45話『英雄決定戦』


 差し込む日差しと鳥の鳴き声、それに加えて人々の賑やかな声に目を覚ます。

 

 昨日、ディランと楓華と別れてからなんとか見つけた格安の宿に泊まり、何不自由無く眠ることが出来た。

 

 「思ったよりもお祭り騒ぎ。過去に死人だって出てる大会とは思えないな」

 

 英雄決定戦は武器の使用は自由、決着はどちらかが敗北を認めるか戦闘不能にするしかない。

 気絶や武器の破壊、手足の骨を折るなど様々な形で勝敗は決まるがこの大会は殺すなとは言われていない。

 

 英雄になりたくば死ぬ気で来い、ここで死ぬということは実戦に出たところで死ぬだけだ。

 

 これがこの大会を開いた軍事大国ウィルサレムの王の言葉らしい。

 残虐な王と言われてもおかしくはないこの言葉を誰一人として否定しなかった。人間はそれほどまでにヴァサゴという存在に恐怖し、焦りを覚えていた。

 

 「戦えない人は戦える人を金で支援して戦える人は英雄になるために戦うか」

 

 吹雪鬼は皮肉のようにつぶやく。

 

 「ヴァサゴを人間が倒せるはずないのに」

 

 そんなことを呟きながら服を着替えて宿の代金を払い大会会場へ向かう。

 

 「お嬢ちゃんも大会出場者かい? いやぁー、今回の大会は楽しくなりそうだねぇ。楽しませてくれよ?」

 

 会場へ向かう途中に汚らしい巨漢が吹雪鬼を舐めまわすように見ながら話しかけてきた。

 吹雪鬼は男を完全に無視し続けるが運の悪いことに目的地は同じ。

 

 あまりに不愉快だったため、一度痛い目に合わせてやろうと吹雪鬼が拳を握ったその時、男が前方へ軽く飛んだ。

 

 「おっさんゴメンな。急いでたもんで急に止まれなくてぶつかっちまった」

 「ディランさん?!」

 

 男を飛ばしたのはディランだった。

 

 「このガキ!」

 

 癇癪を起こした男はディランの両肩を掴み投げ飛ばそうとした。しかし、ディランは全く動かない。

 

 「鍛え方が足りないな」

 

 ディランは自分の両肩を掴む太い腕を思いっきり握った。

 

 「ぐがぁ!」

 

 男は変な声を出し、ディランを掴んでいた手を離しその場で情けない声を上げてもがいている。

 

 「おっと、やりすぎた。続きは大会でな」

 

 ディランは男の太い腕を手から離し、軽く吹雪鬼に手を振ってから悠然と会場へ向かった。

 

 「朝から大変だったわね」

 「楓華さん、ディランさんと一緒に行かなくていいんですか?」

 「私は出場しないからね、観客席よ。吹雪鬼も頑張りなさいよ、いくら普通の人間って言っても強い人ばっかりが集まってるんだから。鬼の吹雪鬼でも苦戦するかもね」

 

 楓華はそう言い残して客席の方へと向かっていくその姿はこの街を歩くどの女性と比べても優雅で美しかった。

 

 「強い人がたくさん……!」

 

 吹雪鬼は少し気合を入れ直して会場の中へと入っていった。

 

 闘技場では国王の挨拶があり、それが終わり次第大会は開始された。

 

 試合がまだの吹雪鬼は控え室に入る。

 見渡す限り女性の参加者は吹雪鬼だけのようでほかの参加者からは色々な目で見られた。

 

 「あの人……」

 

 何十人もいる参加者の中から一人の青年が吹雪鬼の目に止まった。年齢は吹雪鬼と同じくらいだろうか、優男な雰囲気を醸し出す綺麗な顔立ちだった。

 

 「よっ、吹雪鬼。知り合いでもいたか?」

 

 青年を見続ける吹雪鬼に先に会場へ着き、控え室に入っていたディランが話しかけてきた。

 

 「いえ、知り合いというか見たことある気がするなぁって思っただけです」

 「ほほーん、あの優男だな?」

 

 ディランは青年を見るとさっきまで楽しそうだった雰囲気が消え、急に真面目な顔になった。

 

 「今回の大会は今までで一番過酷な大会になりそうだな。あーあ、面倒くせぇ」

 「そうなんですか?」

 「多分な。あ、そういやトーナメント表は見たか? 俺と吹雪鬼が戦えるのは決勝だってよ」

 「まだ、見てませんでした!」

 

 吹雪鬼がハッとしてトーナメント表を見に行こうとしたその時、控え室にこの国の兵士が入ってきた。

 

 「吹雪鬼選手! 試合ですのですぐさま闘技場にきてください」

 「え?! もう始まるの?!」

 「お前第二試合だったぞ」

 「それをもっと早く行ってくださいよー!」

 

 吹雪鬼は大急ぎで控え室を出て行き、闘技場に足を踏み入れた。

 

 驚くほどの歓声が吹雪鬼の鼓膜を叩いた。

 

 「よう、お嬢ちゃん。今度こそ二人っきりで色々楽しもうか?」

 

 観客の声に圧倒されていた吹雪鬼が対戦相手の方を見ると驚くことにここへ来る前、ディランに痛い目に合わされた男だった。

 

 「俺はずいぶんと運がいいらしいなぁ。あんときは邪魔されたが今は誰一人お前を助けられないぜ?」

 

 試合開始の合図の鐘が鳴り、男は巨大な体を揺らしながら吹雪鬼との距離をゆっくりと詰めてくる。

 男の表情には絶対的な余裕が浮かんでいる。

 その余裕は自分と吹雪鬼との二倍以上ある体格差から来るのだろう。

 

 「じゃあ、軽く眠ってもらおうか? 起きたらじっくりと可愛がってやるから楽し――」

 

 男は話している途中で地面に倒れ込んだ。

 ざわめく場内。ほとんどの人が何が起きたのか理解することが出来ていなかった。

 

 「はぁ、なんの準備もなしに相手の攻撃圏内に入ってくるなんてヴァサゴが相手なら死んでるね」

 

 吹雪鬼は振袖をひるがえして闘技場から出ていく。その時ちょうどディランとすれ違った。

 

 「さっきの顎への一発を何人の出場者が見ることが出来ただろうな」

  「私の実力の証明は出来ましたか?」

 「決勝が楽しみだ」

 

 ディランは笑って、熱気に包まれた闘技場へと向かっていった。

 吹雪鬼は多くの出場者が自分の対戦を今か今かと待っているピリピリした空間へと入っていく。

 

 だれも吹雪鬼が帰ってくると思ってなかったのか少し驚いた顔をしている。しかし、すぐにその顔はさっきまでの怖い顔へと戻った。

 

 「やっぱりここはおっかな」

 

 吹雪鬼が少しこのピリピリとした空気に気圧されているともう試合を終わらせたディランが話しかけてくれた。

 

 「ディランさん、私この感じに耐えれないかもしれません」

 「巨漢をワンパンしたやつのセリフとは思えないな。まぁ、正直こんなところでピリピリしてる奴は負けるだろう」

 

 そんなことを周りの人に聞こえるようにわざと言うのもだから吹雪鬼は軽く青ざめる。

 険悪だった雰囲気はさらに険悪になる。

 

 「ちょ! ディランさん!?」

 

 一人の出場者が表情に怒りを表して立ち上がろうとしたがそれは一人の青年によって止められた。

 

 「僕達の試合が始まりますよ」

 

 怒りをあらわにしたまま男は闘技場へとズカズカ歩いていった。青年はやれやれと言った表情で男のあとを追いかける。

 

 不意に吹雪鬼は青年と目が合った。その青年の目はさっきまでとは違い、吹雪鬼にあからさまな敵意を向けていた。

 

 「お前、あいつになにかしたのか?」

 「わ、分かりません……」

 

 全く心当たりのない吹雪鬼は青年が去った後に深いため息をついた。

第45話を読んでいただきありがとうございます。

第46話『人を超えた領域』は3月13日に投稿するのでよろしくお願いします

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