第44話『軍事大国ウィルサレム』
何日も歩き続け、海も超えて、吹雪鬼はヴァサゴと戦うための仲間を探していた。
今世間は騒がしく動いている。
ヴァサゴを倒し、世界を悪魔のものにさせないため世界中の国が協力して兵器や強い兵士を用意している。
「ここが噂の世界中の強い人が集まる国、ウィルサレムか」
色々な人から噂を聞いた吹雪鬼が海を越え来た国、その名もウィルサレム。
ウィルサレムの国王は財力と武力が数ある国のなかでトップであり、ヴァサゴ討伐に向けて最も力を入れている国でもある。
そして年に一度開催される大会、英雄決定戦と呼ばれるヴァサゴ討伐部隊のメンバーを決める大会。
その大会は明日から始まるため国は屈強な傭兵や別の国の将軍なども来ている。
「エントリーはどこですれば……わっ!」
吹雪鬼がキョロキョロしながら歩き回っていると曲がり角で誰かとぶつかった。
「いたた……」
「ごめんごめん。大丈夫か?」
尻もちをついた吹雪鬼に手を差し伸べてくれたのは周りにいる屈強な男と比べれば違い少し細身の男の人だった。
「ったく、ディランがちゃんと前向いてないから女の子にぶつかるんでしょ」
横にいた綺麗な女性がディランと呼ばれた男の人を注意した。
「いえ! 私もちゃんと周りを見てなかったので……すみませんでした」
「おいおい、頭なんか下げないでくれよ。ちょ、楓華からも何か言ってくれよ」
ディランは吹雪鬼に頭を下げられ少し同様を見せ、楓華と言う綺麗な女性は少しため息をつく。
「だらしないわね。なにかキョロキョロ探してたみたいだけど何を探していたの?」
「あ、えっと……英雄決定戦のエントリー場所を探してまして」
それを聞いて楓華とディランは驚いた顔をする。それもそのはず、英雄決定戦に女が参加したことは一度もないからだ。
「それじゃあ、ディランと敵同士になっちゃうわね」
「あなたも出場されるんですか?」
「ああ、だから戦うことになったら手加減しないぜ?」
ディランは自信ありげに笑みを作る。
「取り敢えずエントリー会場まで案内してあげるわ。私は楓華よろしくね」
「あ、吹雪鬼って言います」
「俺はディランだ」
吹雪鬼はディランと楓華にエントリー会場まで案内してもらい大会へのエントリーを無事完了した。
その後もディランと楓華に国を案内してもらうことになり腹ごしらえのためカフェに入った。
「それにしても吹雪鬼のその武器、面白いわね。金棒を華奢な吹雪鬼が振り回すのも想像しにくいわ」
「父が残してくれた武器なんです。これを使いこなすのにはかなり苦労しました」
吹雪鬼は金棒を膝の上に置き、父親である羅刹のことを懐かしんだ。
「残してくれたってことはお父さんは」
「はい、九年前に、あと一年前に母も亡くなりました」
「あ、ごめん……」
楓華は踏み込み過ぎたと後悔した。
「そんな、気にしないでください」
「吹雪鬼、ちょっとすまん」
さっきまで黙ってコーヒーを飲んでいたディランが吹雪鬼の二の腕を揉んだ。
「ふにゃ!?」
「ちょ!? ディラン!?」
ふにふにと吹雪鬼の柔らかな二の腕を揉む。
さらに吹雪鬼の来ている服は和服がベースなのだがノースリーブになっている。つまり、地肌に直接触れていることになる。
「うーむ……」
「ディ、ディラン、さん……ダメ、くすぐったい……です……」
吹雪鬼はわかりやすく顔を赤らめ、艶っぽい声を出す。
その声にハッとした楓華は全力で拳を握りしめ、まだ吹雪鬼の体を触るディランの顔面にめり込ませた。
「ゴブゥ!!」
ディランは派手に床へ吹き飛ばされた。
「痛っいな! 何すんだよ!」
「あんたこそ何してんのよ! 吹雪鬼の体を急に触ったりなんてして!」
「ああ、あの! 私は大丈夫ですから!」
顔が赤いままディランを庇う吹雪鬼。
「あんたねぇ……ここは吹雪鬼も怒るところなのよ? この変態を今すぐ牢屋に」
「まてまてまてまて! 突然触ったことは謝る! だが俺の話を聞いてくれ!」
必死に弁解しようとするディランだが楓華は聞く耳を持とうとしない。
「言い訳は署で聞くわ」
「ふ、楓華さん! 今! 今聞いてあげましょう! 私は怒ってませんから!」
「むぅ……吹雪鬼がそう言うなら」
ようやく落ち着いた楓華は一度椅子に座り、色々とげっそりしてしまったディランも席に着く。
「失礼かもしれないが単刀直入に聞かせてもらう。吹雪鬼、お前は人間か?」
「……え?」
吹雪鬼の表情に焦りが見える。
「どういうことよ?」
「英雄決定戦なんかに出るって言ってる割には体の鍛え方が足りないんじゃないか? それじゃあ、そこら辺の町娘と変わらない筋力だ」
さっきまで楓華に気圧されていたディランとは思えないほどの眼光を吹雪鬼に向ける。
「そんな筋力じゃその武器を振るうどころか持ち運ぶことすら困難だろう。技術でどうにかなるもんじゃない」
「はは、凄いですね。そんなことまであの一瞬で見抜くなんて」
図星だった吹雪鬼は苦笑いをうかべる。
「ディランの言う通り私は鬼と人間から生まれました。その父はヴァサゴと戦い敗れ、殺されました」
「まさか羅刹に子供がいたなんて」
口開いたのはディランではなく楓華だった。その口振りはまるで羅刹のことを知っているようだった。
「父を知っているんですか?」
「まぁね、私は悪魔だから」
楓華の言葉は普通の人が聞けばただの比喩表現だと思うだろうが吹雪鬼はそうは受け取らない。すぐさま金棒を構えようとする。
「そう身構えなくて大丈夫だ。楓華はヴァサゴを倒すために俺に力を貸している悪魔だから」
「隠すつもりはなかったんだけどね。吹雪鬼も黙ってたからおあいこってことで、ね?」
楓華はパチリとウィンクをする。
「まぁ、そういう事だ。それに楓華の悪魔としての力は俺が貰ったからな。今は力なんてほとんどないんだ」
「そ、そんなことが出来るんですか?」
「えぇ、タブーなんだけどね? 状況が状況だから仕方なく」
楓華がそう言うとディランは立ち上がりお金を机の上に置いた。
「互いの正体がわかったところで今日は宿探しが残ってるからお開きだ。吹雪鬼がどれだけ強いか楽しみにしてるよ」
ディランは店の出口へ向かう。
「じゃあね、吹雪鬼。またあなたと話せるの楽しみにしてるわ」
楓華もディランのあとを追いかけ店の出口へと向かう。
「あ、はい。楽しみにしてます! ディランさんも大会ではお互い全力で頑張りましょう!」
扉前でディランは振り返らずに手を振るだけで返事を返す。
「ディランさん、強そうな人だったな」
ディランから街をうろつく英雄決定戦の参加者であろう屈強そうな男達とは比べ物にならない強さを吹雪鬼は感じた。
「お母さん、お父さん、私頑張るよ!」
第44話を読んでいただきありがとうございます。
第45話『英雄決定戦』は3月11日に投稿しますのでよろしくお願いします。




