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第41話『約束の料理』


 千寿を救出し、健介が死んでから四日が過ぎた。千寿は取り調べや身体検査などで健司たちと会えるのはもう少し先になりそうだった。

 ボスとも市民街の修復や警備体制の強化などでここ数日はずっと忙しくまともに会話ができる暇なんてなかった。

 

 それから何日か経ち、ボスは相変わらず忙しいままだったが、千寿に会える許可がおりた。遥は健司をすぐさま会いに行かせようとする。

 

  「千寿に会ってもいいってボスから許しが貰えたんだから早く会いに行ってやりな」

 

 遥は健司をすぐさま会いに行かせようとする。

 

 「そーだぞ、遥の言う通りだ。早く千寿に会いに行ってやりな」

 「紫菀まで……」

 

 市民街の現状はかなり悲惨な状態となっていた。家は何十軒と破壊されコンクリートの地面は所々にヒビが入り、いつ地面が崩れてもおかしくなかった。

 

 「今はそんなことしてる場合じゃ……」

 「ったく、健司は分かってないわね」

 

 後ろから薫那が口を挟んできた。

 

 「千寿ちゃんは健司にすごくベッタリだったんでしょ? ずっと会いたいって気持ちを抑えてきたんだから会ってあげてきなさいよ」

 

 ポンと健司は背中を押された。

 

 「それに、健司の抜けた穴はヒツギで埋めるから大丈夫よー」

 「え?! か、薫那?! ボ、ボク力仕事はちょっと遠慮したいんだけど……? あ、ちょ! 襟首掴まないでー!」

 

 そのまま首根っこを掴まれたままヒツギはズルズルと薫那に運ばれてゆく。

 

 「まぁ、そういう事だ」

 「俺と紫菀もそろそろ行くな」

 

 紫菀と遥はヒツギと薫那を追いかけるようにてくてくと歩いていった。

 

 「はぁー、お言葉に甘えるとするか」

 

 健司は遥達の言うように千寿に会いに行くことにしたが、千寿がいる病室には直行せずに食堂へ向かった。

 ここではここで働く戦闘員や工作員や科学者が食事をする以外に病室にいる怪我人や病人の食事も作っている。

 

 「あのー、すみません」

 「どうしたんだい? まだお昼には少し早いんじゃないかい?」

 

 健司が厨房を覗くとコック帽を被ったおじさんが広い肩幅を揺らして笑いながら聞いてきた。

 厨房にいる他の人達は健司をチラッとは見たが直ぐに自分の作業に戻った。

 厨房にたっている人は全員そろって厳つい見た目の人ばかりだった。

 

 「少しお願いがありまして、今日の病室に運ぶ食事を一人分だけ俺に作らせてくれませんか?」

 「君がか? しかし、怪我人や病人には健康に良くバランスのとれた食事を食べてもらうようにしているからなぁ」

 

 コックは少し困った顔をする。

 

 「そこをなんとか、つい最近病室に入った千寿という子に作ってあげないものがあるんです」

 「あぁ、あの金髪と銀髪の可愛らしい子だね。あの子は食事を残すことも多くてね、栄養が足りてるか心配なんだが。君はあの子とどういった関係なのかね?」

 「兄妹なんです」

 

 コックは健司と千寿が兄妹と知ると少し微笑んでわざとらしく唸り、腕を組み、顎を触る。

 

 「あの子に食べさせる料理を今私に食べさせ、私が美味いと思えれば特別に許可しよう」

 「本当ですか!」

 「あぁ、コックに二言はない」

 

 コックは他の料理人達に話をつけ厨房の少しのスペースを貸してくれた。

 

 腕をまくり、手を綺麗に洗う健司の後ろ姿を見て他の料理人達は何かをボソボソ話していた。

 「あのコック長に美味いなんて思わせれるのか?」「無理に決まってるだろ」などと次々と好き勝手に言っている。

 

 そんな言葉を健司は全て無視する。そしていつも通り調理を始める。

 

 玉ねぎをみじん切りにしてボウルにうつしそのボウルの中に鶏のミンチ肉とコーンを一緒にいれた。

 他に用意した、じゃがいも、ニンジン、キャベツ、なすびを切り、これは別々のボウルへ入れた。

 

 みじん切りにした生姜とニンニクとベーコンを鍋に入れオリーブオイルで炒めていき、そこへ玉ねぎを入れ少し色が着くまで炒める。

 そして、じゃがいも以外野菜も入れさらに炒める。そしてここで塩をひとつまみだけ入れる。

 野菜がしんなりし始め、じゃがいもとミキサーで潰したトマトを入れる。最後に水で水分調整をして煮込んでゆく。

 

 「手際はプロ並みにいいな」

 

 コック長は健司の無駄のない動きに少しだけ驚きの声を漏らした。

 

 健司は煮込んでいる間にフライパンでケチャップと玉ねぎと鶏のミンチ肉とコーンを入れ炒めていく。

 そこへ冷ましておいた白ご飯を入れ水分が飛ぶまで炒め続け、水分が飛んだところでお皿へと形を整えてよそう。

 

 フライパン火にかけ油をしき、キッチンペーパーで拭き取り塩を少し入れた卵三つ分の溶き卵をフライパン逃がし込む。

 それを手早くフライパンの中でかき混ぜ、多少火が通って来たところでフライパンの端に卵を集めくるんくるんと回し卵焼きのようにする。

 そっと形を整えたケチャップライスの上に置き、包丁で真ん中に線を入れると綺麗に割れ、ふわとろのオムライスが完成した。それと同時に煮込んでいたミネストローネも完成した。

 

 「どうぞ」

 

 健司はオムライスとミネストローネをコック長の前に置いた。オムライスにはデミグラスソースがかけられている。

 

 「それではいただこう」

 

 コック長はオムライスをスプーンですくい、口へと運ぶ。ゆっくりと咀嚼し飲み込む。

 

 「これは、驚いた。私が今まで食べたオムライスの中でも五本、いや三本指には入るぞ」

 

 そう言ってコック長はオムライスを全て食べ切ってしまった。それを見ていた他の料理人たちは唖然としてた。

 

 「こんどはこのミネトローネだな」

 

 たっぷりの野菜とスープを口の中へ運ぶ。

 

 「うむ! オムライスほどの衝撃は無いがこのミネストローネもまた美味い!」

 

 もう一口、もう一口とコック長はミネストローネも食べ切ってしまった。

 

 「いやはや、実に美味かった。約束通りこの料理を妹に食べさせてやりな」

 「ありがとうございます!」

 「なんなら私は君を雇いたいくらいなのだが。どうだい私の元で働くのは?」

 「全てが終わったら考えます」

 

 そう言って健司は再びオムライスを作り、ミネストローネをよそい千寿の元へと運んだ。

 

 部屋に響くノック音、千寿はこの音が鳴る度に会いたい人が来てくれたのではないかと期待を胸に扉の方を見てきた。しかし、その人はここへ来たことがない。

 千寿はもうその人と会うことを諦めていた。自分がしたことは決して許されることではないのだから、そう思っていた。

 

 「千寿? 入るぞ?」

 

 扉を開け食事を持ってきてくれた人を見て千寿は目を丸くした。

 

 「けん、にぃ……?」

 「どうしたんだ?」

 

 千寿の表情は一瞬だけ明るくなったが、すぐにその明るさは消えてしまい健司から目を離す。

 

 「怒ってないの?」

 

 髪の色は金と銀に別れているがいつもどうりの腰まで届く長いおさげの毛先をいじる

 

 「俺がお前に怒ることがあるのか?」

 「だって……」

 「はいはい、そんなことはどうでもいいからさっさと飯にしな」

 

 健司は千寿の前にオムライスとミネストローネを置くと、千寿は「あ……」と声を漏らした。

 

 「あの日の約束覚えててくれたの?」

 「さぁ? それはどうだろうな」

 

 千寿は健司からスプーンを受け取りオムライスをすくって口に運ぶ。

 もう一口、もう一口とどんどん口にオムライスを運んでいく。

 

 「おいしい、おいしいよ……」

 「そうか」

 

 千寿は涙を流しながらオムライスとミネストローネを食べる。

 ミネストローネもオムライスも食べ切ってようやく涙を拭う。しかし、拭っても拭っても涙が溢れでる。

 

 「寂しかった……! ずっと会いたかった……! ずっと、心配だったんだよ……?」

 

 千寿は健司の胸に飛び込み盛大に泣きじゃくりながら自分の思いを言い続けた。

 

 「でも、生きててよかった……殺しちゃったのかと思った。あの時、けんにぃが迎えに来てくれたって本当に思っちゃって……ちとせ嬉しくて、騙されたの……」

 「ごめんな、心配かけて。全部片付けたら迎えに行こうと思ってたんだ」

 

 それからも泣き続ける千寿に健司もどうしていいか分からなくなり何か言葉を必死に探し一つだけ思いついた。

 

 「飯を食い終わったらなんて言うんだ? ちゃんと笑顔で言ってみな?」

 

 健司の言葉に千寿は一瞬だけキョトンとしたがすぐに涙を流した顔でぎこちないがとびっきりの笑顔を作る。

 

 「けんにぃ、ごちそうさま!」

第41話を読んでいただきありがとうございます。

第42話『昔ばなし』は2月26日に投稿しますので宜しくお願いします。

そして、第42話を投稿後に1週間前後のお休みをいただきます。詳しい日程は第42話のあとがきに書かせていただきます。

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