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第38話『家族殺し』


 健司はゆっくりと自分の偽物に近づく。

 

 「待て健司! そいつはお前が思っている以上に強い! 全員で協力して戦うんだ!」

 

 ビリーの言葉に健司は足を止める。

 

 「隊長達はボスの助けに行ってください。ヒツギが言うには二〇〇弱のアンデットの軍勢が来てるのでそっちの相手をお願いします」

 「だが一人では! 戦力を分散させるんだ! そうすれば勝機は確実に見える!」

 

 健司はビリーの必死の説得に少し笑った。その笑いはビリーを馬鹿にしている笑いではなく、自分の理にかなっていない行動に呆れた笑いだった。

 

 「隊長の言う通りですよ。でも、あいつは俺一人で倒さないとダメなんです。もうこれ以上あいつの事で誰かに迷惑はかけれない」

 

 健司が自分の偽物へ向ける殺意の視線を遥は一度だけ見た事があった。

 

 「迷惑なわけがないだろ! 俺はこれ以上部下を失うわには」

 「隊長」

 

 ビリーを止めたのは遥だった。

 

 「ここは健司に任せましょう。健司は死にかけることはあっても死にませんよ、それにどうせヒツギは残るんだろ?」

 「もちろん。相棒だからね」

 

 遥とヒツギの健司を完全に信用している目はビリーに次の言葉を出させなかった。それは紫菀も薫那も同じ目をしていた。

 

 「健司、俺はお前と、お前達と出会ってまだまだ日は浅い。だから信用出来ていない部分もある……だから、俺は今お前を信用する。生きて帰ると約束しろ」

 

 そう言ってビリーは市民街の出口へと遥達を連れて走っていった。

 

 「隊長……ありがとうございます……」

 

 健司は聞こえないと分かっていながらボソッとビリーへの感謝を口に出す。

 

 「化け物のくせに相変わらず人間ごっこが好きらしいな。いいかげん自分が生きてちゃダメな存在なのくらい理解したらどうだ?」

 

 諭すように言ってくる自分と全く同じ顔の男を健司は嘲笑った。

 

 「それはお前もだろ。俺を殺すどころか二回も失敗してるじゃねぇか。いや、今回ので三回目か」

 「運が良かっただけでイキがりやがって、だったら今回はちゃんとぶち殺してやるよ」

 「殺れるもんなら殺ってみなよ」

 

 殺意むき出しで向き合い、少し口角を上げながら挑発し合う二人をヒツギは少し離れた場所から眺める。

 鬼の力の制御が必要になった時にヒツギは戦闘に参加するという健司との約束をしっかり守っているのだ。

 

 「いいかげん顔を隠すのもやめようか」

 

 男は首の根元をつかみ皮膚を剥がすように健司の顔を剥がすとその顔は若干健司に似ている四〇代後半の男だった。

 

 「さぁ、始めようか?」

 「戦闘は既に始まってるだろうが」

 「そうだな。なら始めよう息子殺しを……!」

 「死ぬのはお前だクソ親父! 聖絶(アナテマ)!」

 

 走り出した健司は既に自分の父親である健介との間合いを完全につめきっていた。

 紅い模様の浮かび上がる健司の腕が伸びきる瞬間に合わせて健介は健司の攻撃を相殺する。

 炸裂音のような大きな音を鳴らし、健司と健介の足とものコンクリートには大きなヒビが入る。

 

 互いの動きは一瞬だけ止まったものの攻撃が終わることは無くそのまま続けられる。

 

 「まさか互角にやりあってくるとは……少しびっくり」

 「昔と今じゃ随分と性格も変わったもんだな! 今度は半殺しじゃなくてほんとに殺してやるよ!」

 「変わった、か……それはお前が知らないだけだ」

 

 健司の蹴りを後ろへ大きく飛び感傷に浸るように少しため息をついた。

 

 「何も知らないお前のために昔のことを話してやろう。お前の母さんは、菜乃(なの)はお前の姉さんを殺したんだよ」

 「は? 姉さんだと?」

 

 突然の言葉に健司は目を丸くする。

 

 「羅刹の伝説は聞いたことがあるか?」

 「そ、それがどうした?」

 

 ヒツギが話した健司の鬼の力の話が健介の口から出てきたことに健司は驚きで声が震えた。

 

 「あれには少し間違いがある」

 「間違い?」

 

 健司は少し離れた位置にいるヒツギの方を見るがヒツギは驚いている様子はないが興味深そうに話を聞いている。

 

 「色々な人間に取り憑いたと言われているがそうじゃない。特定の一族にのみ取り憑くんだ」

 「鬼虎族(きとぞく)だね」

 「ほほう、お前の相棒は随分と勤勉らしいな。悪魔でもこの話を知っているのは珍しい」

 

 健介は感心しながら話を戻す。

 

 「そして鬼虎族は最も優秀な鬼虎族の血を持つ子が鬼の力を宿して産まれる。それが一〇〇〇年に一度なのか一年に一度なのか分からないが産まれる。それが死んだお前の姉さん、名前は(あずさ)だ」

 「そんな事が信用出来るはずが……」

 「そいつが言ってることはホントだよ」

 

 明らかに動揺する健司の言葉を否定したのは健介ではなくヒツギだった。

 過去にヒツギは鬼に関する本を読んだことがあった。そこには健介が言った事と同じことが書かれていたのだ。

 

 「でも、なぜ健司の姉が鬼の力を持ったにも関わらず健司が鬼の力を持っているのか聞かせてもらってもいいかい?」

 「羅刹は鬼虎族の赤子になら条件を満たせば移り変わることができる」

 

 羅刹が移り変わるための条件は取り憑いている人間の血を同じくらい優秀な鬼虎族の血を持つ人間の体内に入れること。そして、健司は幼い頃に事故で輸血が必要になりその時姉である梓後が使われた。

 この時、健司は姉よりも優秀な血を持つ者と判断された。

 さらに厄介な事にこの優秀な血というあやふやな定義により、羅刹がどの子に宿るかは人間には予測することが出来ない。

 

 「俺の一族の男とは鬼虎族の女は結婚することが義務付けられている。なぜなら俺の一族が鬼殺しを昔からしていた皐月族(さつきぞく)の人間だからだ」

 

 皐月族の男は鬼虎族の娘と結婚し産まれてきた子が鬼の子であれば殺し、羅刹の復活を数千年前から続けていた。

 

 健司の姉は鬼の力による殺人衝動により野良猫や野鳥を殺すなど常軌を逸した行動をし始め、黒かった髪はうっすらと紫がかった。

 健司の母親は涙すら出なくなるほど泣き続け、最後には自分の手で娘を殺し、その死体を呆然と抱き抱えていた。

 

 「俺も菜乃と同じようにショックで数日間は呆然としていたがお前のためだとなんとか持ち直したんだ」

 「嘘だ……俺はそんな記憶は知らない。姉さんがいたことなんて俺は……」

 

 健司は苦しそうに頭を抱える。

 

 それから数年がたったある日、健司の髪の色が少し黒っぽい紫色に変色し始めた。

 髪の色に紫が突如混じり出した場合は鬼の力が目覚め始めているということになる。

 

 母親は親は娘を失った苦しみから健司を殺そうとする健介を止め始めていたのだ。

 

 「輸血をした時点で梓が死ねばお前に力が移るようになっていた。掟のために梓を殺し、唯一残ったお前も鬼の力を持つから殺す」

 

 皮肉のように笑いながら言う。

 

 「鬼の力を持っていてもちゃんと育てれば普通の人と変わらない子になる。それが菜乃の言い分だった……だが、それは無理な話みたいだな」

 「ちが……俺は……」

 

 健司にとって認めたくない真実、知りたくなかった事実に動揺して言葉が出ない。

 

 自ら消し去った過去が少しずつ蘇り、激しい頭痛に見舞われる。

 

 「お前が産まれなかったら菜乃は自殺なんてしなかったのに」

 「か、母さんが……?」

 「そうだ、お前をあの孤児院に捨てたあと、すべての責任を背負い自殺した」

 

 健司の思考が停止する。

 

 「お前のせいで菜乃は死にお前の姉さんの死は無駄になった」

 「…………」

 「お前は生きてちゃいけないん存在なんだよ」

 

 健司の消した記憶が完全に蘇った。

第38話を読んでいただきありがとうございます。

次話 第39話『破滅の刃』よければ続きも読んでいただければ幸いです

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