第37話『寂しくて寂しくて寂しくて……』
偽健司の攻撃をなんとか回避した遥だったがあの骨の装甲をなぜ使えているのか理解出来ず焦りが隠せなかった。
腕の骨のような物は勝手に砕けて消滅したが偽健司は再び作り出そうとはせずに千寿の方をチラッと見みて、少しため息をつく。それまるで面倒くさいものを押し付けられた時のようなため息だった。
「俺なんかにかまってていいのか? 大切な妹が死んじまうぞ?」
遥はその言葉を聞くとハッとして千寿を止めるためにビリーと紫菀に加勢し、薫那もそれに続く。
「これで俺が動く必要はなくなったな」
偽健司は遥達に暴走した千寿の処理をさせようとしていた。しかし、遥達にとってそんな事は重要ではない。
事実、偽健司が千寿のことを押し付けたことにより邪魔される事無く千寿を助ける手立てを考えることが出来た。
さっきまでギリギリの戦いをしていたが遥と薫那が加わり四対一となればいくら暴走していたとしても形成は逆転し始めた。
「どうしますか隊長。俺や遥の魔法であれを破壊出来るんでしょうか? まず破壊する隙がありませんし」
いくら形勢が逆転したからといっても千寿を傷つけずに暴れ狂う四本の刃と千寿が握る刀を破壊するのは至難の業だった。
「俺が抑える。抑えた瞬間に紫菀と遥で二本ずつあの背中の刃を切り落とせ、出来るな?」
「マシロ、あれ切り落とせる?」
「にぃにが魔力をいっぱいくれたらいけると思うよ」
「やれるみたいです」
「俺も何とかしてみます」
薫那はビリーの横につき、支持されるまでもなく自分の役割を実行する。
走り出した薫那は千寿の注意をそらす。
攻撃には一切転じずただ千寿の放つ攻撃を全力で避ける。しかし、五本もの刃を避けるのは至難の業であり、薫那は苦悶の表情を浮かべる。
遥と紫菀は確実に切り落とすために魔力を最大まで込める。
遥は炎を圧縮し剣の刃の部分にまとわせレーザーカッターのようにし、紫菀はマシロにありったけの魔力を流し込み、それをマシロが増幅させる。
暴走した魔力により強大な力で振るわれる魔神器は悲鳴をあげ始めるように火花を散らし始めた。
そしてついに焦れったくなった千寿が薫那を殺そうと薫那にのみ意識を集中させた瞬間にビリーは腕の捕食者を解き、蛇のように地面を這わせ四本の刃と手に握られた刀を拘束する。
「紫菀! 遥! 今だァ!」
「はぁぁぁあ!」
「オラァァァア!」
二人の雄叫びと共に四本の刃が空に舞う。既に暴走により歪みが生まれていた魔神器は切り落とされると言うよりは砕けるようでもあった。
切り落とされた刃の節足動物の足のような部分はカシャカシャと不気味に動きながらオイルのような液体を切り口から垂らす。
「あ……あ……」
千寿の魔力があからさまに乱れる。
不安定な精神に乱れた魔力。そしてほとんど破壊され制御を失いかけている魔神器。
暴走より最悪な事態が起きる。
「あぁぁぁぁぁぁあ!」
魔神器から切られた箇所から魔力のみで構成された無数の細いムチのような刃はその周囲の民家を破壊するように暴れ回る。
そしてその無数の刃は絡まりあい、四本の羽となった。その姿は天使のようだった。
刃で構成された羽を勢いよく広げ、その勢いに近くにいた遥と紫菀はもちろんだが少し離れていたビリーと薫那も吹き飛ばされた。
「クソっ! なんでだよ!」
「そう簡単に事は進まないってわけかよ!」
遥と紫菀は吹き飛ばされた衝撃で痛む体を無理矢理に起こし、何とかしようとする。
その時、人影が遥と紫菀の間を通過する。
「紫菀、遥。あとは俺に任せてくれ」
「えっ……?」
本物の健司だった。
「おい! 健司! そんな無防備に近づいてんじゃねぇ! 死ぬぞ!」
遥の制止の声も聞かずに健司は武器も構えずに千寿にに近づく。暴れる魔力の刃は肌を切り裂き、健司の頬や腕から血が流れる。
「千寿、待たせたな。もうお前が頑張る必要は無いんだ。だから、昔みたいに笑って見せてくれよ」
千寿の目の前、千年が握る刀を振り下ろすと同時にそれを避け、健司は千寿を抱きしめ、注射器に入れられた薬を打つ。
暴れていた魔力の刃はガラスが割れるように消滅し、背中についていた魔神器は落ち、手に握られていた刀は健司に抱きしめられた時に振り下ろし地面に刺さったまま手から離れる。
健司の顔を見た千寿の目には大粒の涙が溢れでる。
「けんにぃ……ごめんなさい……ちとせ、間違えてけんにぃを……」
乱れ不安定になっていた魔力は完全に落ち着き、千寿の洗脳は完全に溶けた。
「気にするな。俺は強いからあれくらい屁でもないよ」
「うぅ……けんにぃ……!」
千寿は健司の胸に顔をうずめ大声で泣いた。
「ずっと会いたかった! ずっと寂しかった! 千寿も役に立ちたかった!」
千寿は涙声で叫ぶ。
「そうか、ごめんな。寂しい思いさせて」
健司は優しく千寿の頭を撫でる。
泣きじゃくった千寿は薬の副作用なのか、安心したせいなのかそのまま健司の胸の中で眠ってしまった。
「健司が使ったあの薬はヒツギが作ったのか? あれで千寿は助かるのか?」
「遥はボクを誰だと追っているんだ? 魔力や魔法の研究をし続けた魔術開発の第一人者であるこの僕が作った薬なんだから問題ないに決まってるでしょ」
ヒツギは大袈裟に笑って見せた。
そんな中、健司は眠った千寿を遥に預け、自分と同じ顔の男を鬼のような形相で睨む。
「てめぇ、覚悟は出来てんだろうな?」
偽物の健司は肩竦めてみせる。
第37話を読んで頂きありがとうございます。
第38話『家族殺し』も二日後に投稿されるのでよろしくお願いします。




