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第33話「洗脳」


 千寿が連れ去られてから一週間ほどたったがこれと言った情報もなく不安ばかりがつのる。

 この一週間での進展はビリーとの親睦を深めたことくらいしかない。

 

 今日も千寿の捜索ついでに周囲のアンデッドやクリーチャーを片付けていくが今日の健司は戦い方も荒々しくビリーの指示も聞かず部隊とどんどん離れていく。

 

 「まずいですよ。健司のやつ完全に見えなくなってしまいましたよ」

 

 クリーチャーとアンデッドを片付け、遥は呆れたようにため息をつく。

 

 「健司は千寿ちゃんのことでかなり頭がいっぱい見たいだけど亡くなった他の弟妹にもあんな感じだったのかい?」

 

 ヒツギの質問に遥は少し頭を悩ませる。

 

 「弟妹には基本優しいんだけど、確かに千寿には少し甘いかもしれないな」

 「そうなの?」

 「健司が孤児院に入った時、健司は俺と違って俺はすぐには打ち解けられなくてな。そんときに二歳だった千寿が異様なほど健司に懐いてな」

 

 遥はそこから健司が怒らない程度の昔の話を話し始めた。途中から紫菀が話の中に出てきたりと会話は弾んだが戦場でそんな会話は長くは続かず健司を無線で呼び戻した。

 

 「こちらビリー、あまり単独行動をしすぎると危険だ。一度戻ってこい」

 『隊長! 千寿を発見しました!』

 「なに?!」

 

 全員が無線越しの健司の言葉に目を丸くする。

 

 この一週間、思い当たるところを虱潰(しらみつぶ)しに捜索しても発見できなかったのにこんな研究所もないような場所で発見できるなんてあまりにも都合が良すぎる。

 

 『罠の可能性もありますが正真正銘千寿なので保護します。そちらには周囲を警戒しながら合流します』

 「分かった。こちらはヘリで迎えに行く、GPSは機能しているようだからな」

 『了解しました』

 

 この連絡を聞いたヒツギは興味津々といった表情をしている。

 

 「もしや、隠れた研究所がここの近くにあるかもしれないのか!? ボクは今すぐそれの捜索に行ってくるよ!」

 「お、おい待て!」

 「僕に構わなくてもいいよ。ボクは空間移動の魔法で帰れるし皆は千寿ちゃんを保護してあげて!」

 

 ヒツギはそのまま空間魔法でどこかへ行ってしまった。

 

 「ったく、ヒツギは相変わらずね」

 「ひつぎちゃん行っちゃったね」

 

 悪魔二人はなんの驚きもなく呟く。

 ビリーは仕方なくヘリを呼びヒツギの言う通りに動くことにした。

 

 そしてこのやり取りがされていた数十分前。

 

 「やべ、いつの間にか皆とかなり離れちまった。隊長に怒られるなぁ……」

 

 片っ端からクリーチャーとアンデッドをなぎ倒していた健司の近くにはいつの間にか誰もいなくなっていた。

 

 「はぁ、帰ろ……」

 「けんにぃ!」

 

 来た道を戻ろうとした時に誰かに呼び止められた。懐かしくずっと聞きたかった声が健司の耳に入ってきた。

 

 「千……寿……?」

 

 健司の目の前にいる千寿は健司の知っている姿とは少し違っていた。

 腰まで届く金色のおさげ髪は部分的に銀髪となり、右の白目が黒く染っている。それでも、生きてくれていたことが嬉しかった。

 

 「よかった……! 生きててくれて、本当に良かった……!」

 

 千寿を抱きしめる。

 

 「ちとせはね、強くなったんだよ? こんな見た目になっちゃったけど世界を救える力がちとせにはあるんだよ」

 「千寿? 何言ってんだよ。世界は俺と遥が救うからお前はアウリトーレさん達と──」

 「だからニセモノは……倒す……!」

 

 健司の足元の土が盛り上がり地面の中から何かが飛び出し、咄嗟に後ろへ飛んだ健司の鼻先を掠める。

 健司の鼻先を掠めたのは五本の刀がようにつけられた鳥の羽のような機械。

 

 「魔神器起動……」

 

 その機械は形を変え千寿の背中に装備される。五本の刀のうち一本は千寿の手に握られ残り四本は羽のようになっている。

 赤と黒の刀身に赤と黒の模様の入った柄は不死鳥を思わせる。

 

 「はるにぃの仇。ニセモノは許さない」

 

 言葉と同時に間合いを詰められる。

 

 何とか手に握られた刀を手持ちのナイフで防ぐも背中についている刀の鞘が外れアームにより自在に動き始める。刀は動きの止まった健司の体に外傷を作っていく。

 

 「千寿! 偽物ってどういうことだ!?」

 「ホンモノのけんにぃはそこにいるから。ちとせはもう騙されない」

 

 物陰から人が出てきた。その人は健司と全く同じ顔だった。

 

 「千寿、早く偽者を殺れ」

 「待て千寿! そいつがニセモ──」

 

 突き刺さる五本の刃。

 

 「ちと、せ……」


 千寿が健司を殺そうとしている事実ともう一人の自分がいると言う事実は健司を動揺させ大きな隙を生むには十分すぎた。

 そして健司の体に突き刺さる刀は健司からどんどん魔力を吸い取っていく。

 

 「これは……?」

 「この武器は魔力を吸えば吸うほど強くなるの。毎日ちとせの少ない魔力を少しづつ与え続けてたけどニセモノのおかげで一気に強くなった」

 

 健司の魔法の動力源の血も魔力も大幅に削られすぎた。どんどん体から力が抜けていく。

 健司は刀が体から抜かれた時には魔力をほとんど吸われきり、立っていることすら出来なかった。

 

 「うぅ……」

 

 魔神器を外した千寿は胸をギュッと抑えて少し苦しそうにしていた。

 

 「どうした?」

 「大丈夫……なんでもない……」

 

 千寿は深呼吸をしてから答えた。

 

 そして偽物の健司は千寿に「そうか」といって健司が動けないのを良い事に無線機を奪った。

 誰かと会話をしている。健司の耳にもほんの少しだけ内容が聞こえる。

 

 「隊長! 千寿を発見しました!」

 

 健司は最悪だと思いなが途切れそうな意識を必死に繋ぎとめる。

 

 「じゃあ、あばよ。偽物さん」

 

 離れて行く二人の後ろ姿が小さくなりほとんど見えなくなった時、健司の意識は完全に途切れる。

 千寿が偽物の健司と話す姿は昔の健司と話してい時と何ら変わっていなかった。

第33話を読んでいただきありがとうございます。

第34話も同じように投稿しますのでよければ是非読んでください。

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