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第31話『誘拐』


 壁に囲まれた本部の地下は救助した一般市民が街を作り、店を開き、前とあまり変わらない生活を送っている。場合によっては外の世界が悲惨なことになっているのも知らない人もいる。

 

 そんな街が寝静まる時間に一人の人影が家の中に入っていき、眠る少女を抱き上げる。

 少女は抱き上げられ、目を覚まし自分を抱き上げている人の顔を見て驚いた。

 

 「けんにぃ……?」

 「ああ、待たせたな千寿。助けに来たぞ」

 

 ずっと会いたかった人が目の前に突然あらわれ千寿は堪えきれずポロポロと涙を流す。

 

 「けんにぃ……けんにぃ……ずっと会いたかった。いつか会えるって言われてたけど、寂しかったよぉ……」

 「ああ、俺も会いたかったよ」

 

 健司はそっと千寿の頭を撫でる。

 

 「でも、ちとせを助けに来たってどういうこと? けんにぃはここの強い人と一緒に世界を救ってるて聞いたよ」

 「世界を救ってるのは本当だ。でもここは俺達が戦ってる悪い人の秘密基地なんだ」

 「そ、そうなの?」

 

 半信半疑の千寿。それもそのはずだ、この家の夫婦は千寿を本当の家族のように可愛がり愛してくれていた。

 

 「お前! 何をしている!」

 

 銃を持った男が扉を開ける。

 

 千寿の親代わりをしてくれている人だ。

 

 「千寿! 逃げるぞ!」

 「う、うん!」

 

 窓を割り外へと飛び出す。

 

 「ち、千寿ー!」

 

 健司はスモークグレネードを投げ、魔術を使い家から離脱する。

 魔術によって着いた先は本部からかなり離れた場所にある研究施設だった。

 

 「けんにぃ、本当にちとせは騙されてたの? みんなとっても優しかったのに」

 「千寿には辛いかもしれないが本当なんだ。あそこには悪魔がいるてな、その悪魔は俺と遥の姿をしているんだ」

 「そうだ! はるにぃは一緒に居るの?」

 

 遥のことを聞かれ健司は言葉に詰まってしまった。

 

 「遥はな……もう居ないんだ。あいつらに殺されたんだ」

 「はるにぃが?」

 「そうだ……」

 

 千寿の目から涙がこぼれる。

 そこから歯止めが効かなくなった千寿は大声で泣きわめいた。兄弟が化け物になり、健司と遥と離れ離れになったあの日のように泣きわめく。

 

 「千寿、遥は最後に世界を救ってくれって言ってたんだ。だから、俺と一緒に世界を救おう」

 「世界を……?」

 「そうだ、遥の為にも」

 

 その言葉に千寿は涙を堪え、力強く頷く。

 

 「ちとせ強くなりたい。けんにぃを守れるくらい強くなりたい」

 「ありがとう、千寿」

 

 そう言うと健司は一本の注射器を取り出し、千寿に見せる。その注射器の中にはBD-ウイルスとは少し違う黄色いドロっとした液体が入っていた。

 

 「これは千寿を強くしてくれる物だ。これを注射してから強くなれるまでは辛いが俺に力を貸してくれるか?」

 「……うん!」

 

 千寿はその華奢な腕を前に出す。

 注射器の針が千寿の柔らかな肌をスッと通り抜け、体内に注射器の中身が注入される。

 その液体は血管を通り全身に行き渡る。

 

 「うぅ……けんにぃ……苦しい……」

 

 千寿は心臓を抑えるようにうずくまる。

 

 「大丈夫だ、すぐに終わる」

 

 そして千寿の体に異変が現れ始めた。

 綺麗な金色の髪と同じ色の右の瞳を残し白目が真っ黒に染っていく。そして右側の髪の毛が部分的に白く色が抜ける。

 

 「けんにぃ……」

 

 苦痛に耐えるために全身に込めていた力がフッと抜け、千寿は気絶し倒れた。

 健司はニヤリと笑い倒れた千寿を抱えある男がいる研究室へ運んだ。

 

 「予定よりかなり早く来れましたね。私が死にかけていたというのに」

 

 健司はグロウスに千寿を渡す

 

 「それにしてもよくできた能力ですね。さすが健介さん、言葉巧みにいたいけな少女を連れ去り兵器に変えるとはまさに悪魔ですね」

 「人聞きが悪いな。とりあえず千寿が眠っている間に記憶や精神に一切干渉せずに戦闘知識を埋め込んでくれ」

 

 グロウスに健介と呼ばれた健司の姿をした悪魔は面倒な注文をグロウスにする。

 

 「精神や記憶など残さない方が簡単に言うことを聞く兵器を作れますよ?」

 「記憶や精神や肉体が正常であるからこそ、ちゃんと生きているからこそ相手は殺せなくなる。死体となって暴れる家族は殺せても勘違いで暴れる家族は殺せないだろう」

 

 健介は笑う。

 

 「変身した人間の記憶の一部を見ることが出来る能力ですか、本当に陰気ですね」

 「うるさい、それで? 俺の注文通りに出来るのか?」

 「もちろんです」

 

 グロウスは千寿を研究室の片隅にある手術台の上に置き、左手に魔法陣を作る。

 

 「さてさて、誰の戦闘データをコピーしましょか……」

 

 グロウスは大量に並べられたケースに入れられている人間の脳をじっくりと吟味する、

 

 「それでは私のコピーを殺した部隊の人間のものを使いましょうか」

 

 ケースの中の脳を左手で取り出すと脳の色が吸い取られ、右手から必要なデータのみ脳から抽出され書き込まれた魔法陣が出現する。

 戦闘に関する情報が書き込まれた魔法陣を眠る千寿の頭に近ずける。

 魔法陣は千寿の体へと吸い込まれる。

 

 「これで終わりです。あとはデータが体に馴染むのを待ちながら適当なら訓練をしてください、体は情報にはまだついていけていませんから」

 「他人の知識を取り込み、自分も含め好きな相手に移植できる。あんたらしい能力だな」

 「褒め言葉と取っておきます。」

 

 健介は千寿を抱え、研究室を出ようとする。

 

 「本当に殺せるんですかね? 過去に確実に殺せるタイミングで何度も失敗、これは殺そうとしてないのでは?」

 「…………」

 

 何も言わず部屋を出ていく。

第31話を読んでいただきありがとうございます。

少し休みをいただきましたが本日から再び二日おきに投稿していきますのでよろしくお願いします

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