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第30話『決意と約束』


 注射器が地面に落ち、甲高い音を立てる。注射を打ったグロウスの見た目には変化はない。

 

 再び始まる死闘、さっきまで消えたように見えたスピードも見えるようになり、反応できるようになった。

 

 それでも三対一でようやく互角程度になっただけ、どれだけ足掻いても、根本の強さは圧倒的にグロウスの方が上だ。

 

 「はぁはぁ、これでもダメなのか……?」

 「いえいえ、貴方がたはとても良く頑張っています。私が殺すのに時間がここまでかかったのは貴方がたが初めてですよ」

 

 そんなこと言っているが、表情から笑みは消えない。それが何を意味しているかは三人とも分かっている。

 

 「あと五分かかるが、耐えれると思うか?」

 「さぁな、隊長が居れば話は変わるが、無線が妨害電波で完全にオシャカになってるしな」

 「データだけでも最悪持ち帰りたいよな」

 

 三人は力なく笑う。どう足掻いても自分たちの先にある未来は死一択だった。

 

 「まぁ、やれるだけの事はやろう」

 「ああ、犬死だけはまっぴらごめんだ」

 

 三人はグロウスを囲むように体制を立て直し、完璧なコンビネーションで間髪入れずに攻撃を与え続ける。

 

 打撃音が部屋に響く。

 

 同時の攻撃も、背後からの攻撃も、全て弾き返される。

 三人の弾丸並みのスピードの攻撃を見切るグロウスの動体視力。

 

 「こういうのはどうですかねぇ!」

 

 グロウスは白衣のポケットに手を突っ込み、尋常じゃないスピードで手をポケットから引き抜いた。

 

 「ぐあ!」

 「くぅ!」

 「─―ッ!」

 

 無数の何かが三人に飛んできた。

 

 三人の動きが止まる。

 

 「銃……弾……?」

 

 グロウスは銃など持っていない。にもかかわらず飛んできた弾丸、理解に時間がかかった。

 

 「これは、貴方がたの銃弾ですよ」

 「ま、まさか」

 

 グロウスは最初の弾丸をくらったのに生きているのではなく、全ての弾丸を素手ですべて受け止め、銃弾が当たったふりをしていただけだったのだ。

 

 「こんな豆粒みたいなものでも貴方がたが動きを止めるには十分です」

 「しまった!」

 

 気づいた時にはグロウスは一人の目の前に無機質な笑みを向けて立っていた。

 

 首を掴み持ち上げる。

 

 グロウスは自分の体重の倍以上ある体をいとも簡単に持ち上げる。

 グロウスの腕を引き剥がすために暴れるも微動だにしない。

 

 「私もですねぇ……」

 

 グロウスの顔から笑みが一瞬消え、手の力をさらに込める。

 

 「流石に飽きました」

 

 ゴキリ、と嫌な音が聞こえた。

 さっきまでもがいていた体から一切の力が無くなり、ダラリと垂れていた。

 

 「貴重な実験材料が手に入りました」 

 

 再びグロウスの顔に笑みが戻る。

 

 パソコンの画面には残り一分の文字。

 

 何としてもデータを持ち帰る。そう思った時には横に立っていた味方の顔に四本のメスが深々と突き刺さっていた。

 

 「もう飽きたと言いましたよね?」

 

 グロウスの顔にもう笑みは無い。

 

 「あと少しなんだ……」

 

 残った一人はUSBの元へ全力で走る。しかし、グロウスも同じようにして目の前までくる。

 

 グロウスの手が心臓に近づく。

 

 「届けぇ!」

 

 USBに手を必死で伸ばす、せめてこれだけでも、その一心で手を必死で伸ばす。

 

 「終わりです」

 

 無残にもUSBまでの距離は数センチのところでグロウスの手が心臓に突き刺さると同時にコピーが完了した。

 

 「届いたぜ……」

 

 男は笑みを浮かべ伸ばした手の中に隠しておいた、プロペラのついた機械をUSBに付け、ニヤリと笑った。

 

 プロペラで飛んでいくUSBを横目にグロウスは怒りの表情を浮かべ、USB追いかけようとするが心臓に刺した腕が抜けない。

 

 「まだ、俺との勝負がついてないだろ?」

 

 離すと同時に大量の血が口から漏れる。

 グロウスの腕をしっかりと左手で掴み、右手に持ったスイッチを見せびらかす。

 

 「き、貴様ァ!」

 

 グロウスは怒りで口調までもが変わる。

 

 グロウスの表情を見て優越感に浸りながらスイッチのボタンを押す。

 

 「ミッション、完了だ……!」

 

 周りはすぐに爆発に包み込まれる。

 

 大量のクリーチャーとアンデットを相手にしていたビリーは研究所の外へと戦いながら追い出されていた。

 なんとか、クリーチャーとアンデットを一掃し、部下を助けに行こうとした時、プロペラのついたUSBがビリーに向かって飛んできた。

 

 ビリーはUSBを見てハッとした。

 

 「まさか!」

 

 急いで研究所に入ろうとすると研究所が大爆発。爆風でビリーは後方へ吹き飛ばされた。

 

 研究所の大爆発、プロペラの付いたUSB、ビリーは全てを理解しその場に崩れ落ちた。

 

 「馬鹿野郎共が……! 自分の命より、データなんかを優先しやがって……!」

 

 ビリーは地面を叩いた。

 

 悔しくて泣いた。

 自分が情けなかった。

 自分が付いていれば、もっと自分が強かったら、最初っから自分一人で任務に出ていれば、後悔がビリーの感情を埋め尽くした。

 

 ビリーはおもむろに無線機を繋いだ。

 

 「こちらビリー。目的のデータを回収しました。しかし、七人の……魔闘士を失いました」

 『そうか……』

 

 無線の相手はボスだった。

 

 「七人は、自らの命をかえりみず、データを回収し、研究所を爆破しました」

 

 ビリーは涙をこらえるように、息を飲み込みながら話した。

 

 『その七人の死は無駄にしない。そのためにもビリー、君は帰ってきて生きて戦うんだ。その、七人の部下のためにも』

 「了解……」

 

 ビリーは立ち上がり、ヘリの着陸地点へと一人で向かった。

 その顔にはもう、涙はなく、部下のための決意の表情へと変わっていた。

第30話を読んでいただきありがとうございます。

書きためていたものに追いついてきてしまったので第31話の投稿は少し間を開けさせていただきます。

2月4日に第31話を投稿させていただきます。

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