第03話『第二フェーズ』
第三話を読みに来ていただきありがとうございます。
それでは楽しんで読んで下さい。
子供たちより早く起き、洗面所で傷を洗い包帯を巻き直す。
血は止まったが見てくれはかなり痛々しく、実際触れるとかなりの激痛が走る。
「体の調子はどうだ?」
「今のところ問題は無い」
遥の心配そうに健司を見る目はなんとなく健司の心を締め付けさせる。
「それにしてもシスターは何であんな事になっちまったんだ?」
包帯結び洗面台を遥に譲りながら健司は呟く。
「シスターは感染して殺された人に祈りを捧げに行っていたから……多分だけどその時に感染者の体液が体内に入り込んだんだと思う」
そのまま続く沈黙を破るように遥は蛇口をひねり、顔を洗う。普段ならここで健司は食事の準備に取り掛かるのだが今の健司には何も出来ない。
「遥、俺ちょっと出かけてくるな」
「おい、メシはどうするんだよ?」
「適当に外で買って食うよ。俺と一緒に食うのは危険だからな」
そのまま健司は遥の声も聞かずに孤児院を出ていく。この時、健司はもう孤児院に戻るつもりは無かった。
「さてと、短い余生をどう過ごすかな」
昨日は遥に死んだらすぐに燃やしてくれと言ったが、それも実際遥にとっては酷な話だ。
出ていこうと健司は靴を履いていると突然後ろから何かが飛びついてきた。こういうことをしてくるやつの目星はついている。
「千寿、いつも急に飛びついてくるなってシスターに言われてるだろ?」
「えへへ、けんにぃはどこか行くの? ちとせも一緒に行っていい?」
「ダメ」
健司は短く拒否し首に回されている千寿の腕をほどき立ち上がる。
「ちとせも連れてって!」
「ダメだ」
「なんで?!」
理由を言うことの出来ない健司はここで言葉に詰まってしまう。それに、こうなった千寿はなかなか言うことを聞かない。
「ダメなものはダメだ」
「うぅ……けんにぃ……と、お出かけ、したい……最近けんにぃ遊んでくれない……!」
目に涙を溜めながらごね始めた。そして健司はこれにめちゃくちゃ弱い。
頭を抱え少しため息をついてから「勝手にしろ……」とだけ言って玄関を出る。
千寿の顔は泣き顔からパァっと明るくなり嬉しそうに靴を履いてでてきた。
腰まで届く綺麗な金色のおさげを振り回すようにはしゃぎながら健司の前を歩く千寿。それと反対に俺は帽子を深くかぶる。
帽子をかぶる理由は健司の紫がかった髪は傍から見れば変な色に髪を染めているヤバいやつにしか見えず、それを少しでも隠すためだ。
「けんにぃどこ行く?」
「喫茶店でも行くか」
「わーい! ちとせパフェ食べたい! あと、今日の晩ご飯はけんにぃが作ったオムライスが良い!」
「勝手に今日の献立考えるな」
晩飯食えなくなったら遥怒るだろうな、なんて思いながら健司は包帯をまいている腕を見る。
時間が経つにつれて体に異変がでてきた。しかし、それは死に向かうような感じではなく、むしろ体が軽くなっていく。
「あ! たくやくんだ!」
「え? 拓哉だって?」
確かに千寿の見る先には拓哉が居るが、何かがおかしい。普段とは違う絶大な違和感。
「千寿、俺のそばから離れるな」
「え? う、うん……」
健司の後ろに隠れる千寿と警戒心むき出しの健司を見て拓哉はニンマリと笑みを浮かる。
「随分と怯えられたもんだなぁ」
大げさな手振りをしながら少し健司に近づいてから言葉を続ける。
「それにしてもだ。健司に適合者の可能性があるとは思わなかった。実に嬉しいねぇ」
「適合者? それにお前は拓哉なのか……?」
戸惑う健司の疑問に一度ほうけた顔をするも再び口角を上げ笑みを作る。
「そうだな、自己紹介をしておこう。俺は今世界中で起きているあの騒動の主犯、ヴァサゴだ」
ヴァサゴと名乗る拓哉の姿をした男はそのまま淡々と続ける。
「そしてこの事件は選別だ」
「選別だと?」
「そうだ。感染すれば十時間程度で傷口が腐る。そして、発熱や嘔吐を始めた者はその時点で不適合者だ。これが第一フェーズ」
ヴァサゴが言った条件はシスターがなっていた症状と重なる。しかし、健司は感染から十時間以上経過しているにもかかわらず正常だ。
「そして第二フェーズ。十時間以上経過した者には人間を超越した力が手に入る。それはウイルスによって人間の遺伝子を悪魔の遺伝子に書き変えることで完了する。これが第二フェーズ」
最初は拓哉の悪ふざけだと思っていた健司だったが状況が状況なだけに鵜呑みにしてしまう。
「しかし、その力に耐えきれず精神が崩壊し死んだ事例もあってだな」
「お前のせいでシスターは死んだのかよ」
ヴァサゴは返事をしない。
ただ笑みを作る。
「友達だと思ってたのは俺たちだけなのかよ……ずっと騙してたのか?」
「ああ、そうだ。これは何百年前から続く戦争の続きなんだよ。俺を楽しませろ」
ヴァサゴは狂気的な笑顔を作る。
「殺してやる……! ぶっ殺してやる!」
健司は怒りをあらわにして走り出す。しかし、ヴァサゴは健司を見ることなく腕時計に目をやる。
「そろそろ時間だな」
ヴァサゴがそう呟いた瞬間に健司の体に電流のような痛みが走る。
「ぐあぁぁぁぁあ!」
走り出した健司はコケるようにその場に倒れ込む。
「け、けんにぃ!?」
痛みで叫び声を上げ、うずくまる健司に千寿は駆け寄るが何も出来ずその場であたふたとする。
「これは失敗だな」
「殺す……殺してやる」
ヴァサゴを睨む健司の声はだんだん小さくなっていき最終的に声はなくなりその場で気を失った。
「けんにぃ……けんにぃ……」
倒れた健司をゆすり、起こそうとする千寿だが健司はピクリとも動かない。
ヴァサゴは残念そうな溜息をつきながら健司に近づき、死体を回収しようとするとそれを阻むように千寿が健司に覆いかぶさった。
千寿の小さな体では健司の体はほとんど隠れないがそれでも必死に健司を守ろうとする。
「け、けんにぃに近づかないで!」
千寿の姿を見たヴァサゴは健司に触れようとした手でそのまま千寿に触れようとする。
「お前は適合者になれるかな?」
ヴァサゴは魔力を相手に流し込むことでBD-ウイルスと同じ選別をすることが出来る。それもBD-ウイルスよりも早く症状が現れる。
「──なんだ?」
千寿に伸びるヴァサゴの手が突然止まる。何かに強く掴まれているような感覚がヴァサゴの腕にあるからだ。
健司に掴まれたと思ったが健司は死んでいるのか気絶しているのかわからないが倒れている。
その感覚は次第に明確にり、目に見えるほどにまでなった。
武骨い筋肉質な手に狂気的な爪、鎧武者のような皮膚。その腕を一言で表すなら鬼の腕だった。
「なるほど、これがあいつの……」
掴まれている腕とは反対の手で再び健司に触れようとするヴァサゴだったが、次の瞬間、ヴァサゴの体は強い衝撃よって吹き飛ばされる。
恐る恐る千寿が顔を上げると黒のジーンズにカーキのロングコートに身を包み、栗色の髪をポニーテールした女性が佇んでいる。
「けんにぃを、助けて……」
千寿は目に涙を浮かべながら懇願する。
女性の整っていて美しい横顔には優しい笑みが作られ、何も言わずにグーサインをつくり、吹き飛ばしたヴァサゴの方へ歩いてく。
読んで頂きありがとうございました。
少しずつ話が進んできた第3話でしたが楽しんでいただけていたらとても嬉しいです。
第4話は本日の12時から13時までに投稿しますのでまた読みに来てください。