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第25話『もう一人の魔導師』


 女に手を差し伸べるヒツギの姿に健司は少しばかり眉をひそめる。

 

 「ったく、あいつは敵に何してやがんだよ」

 

 少し遠くからヒツギの行動を見ながら最後の一体となったクリーチャーとの間合いを詰め、サバイバルナイフで心臓を貫く。

 

 「そろそろヘリと合流しないとな。あのヤバイ奴が来る前に」

 「それは私の事か?」

 

 突如全身を寒気が襲う。

 

 部屋に入る前に感じた嫌な魔力だった。

 

 健司はすぐさま振り返りナイフを突き立てようとするが獅郎の拳が先に健司の腹にめり込む。

 

 「がはっ!」

 

 健司はその場に膝をつき崩れ落ちた。

 意識はあるものの朦朧とする。

 

 ボディブローでここまでのダメージが加わるなど健司は思いもしなかった。

 獅郎は倒れ込む健司を見下しながらワイングラスを回す。

 ワイングラス内の赤い液体がゆるりゆるりと綺麗に動く。

 

 「私は今機嫌が悪い……」

 

 健司は朦朧とする意識を無理やり持ち直し立ち上がろうとする。

 

 「このワインは保存状態が良くなかったみたいだ。素晴らしいワインが台無しだ」

 

 獅郎はワイングラスを手から離し、立とうとする健司の腹に蹴りを入れる。地面にワインをぶちまけながらグラスが割れる。

 

 今度は後方に大きく吹き飛ばされ洋館の後ろにある洋館の雰囲気を壊さないガレージのシャッターを突き破りガレージ内の車に激突し、健司は停止した。

 

 「健司!」

 

 健司がガレージを突き破る音でようやくこの状況に気がついたヒツギは腕を大きく弓を引くように構える。しかし、ヒツギはいつものように詠唱はせず魔術を発動する。

 

 ヒツギが発動したのは詠唱不要の魔力で作りだした矢を放つ速攻魔術。

 放たれた五本の光の矢は獅郎目掛けて飛んでいく。

 獅郎は突然の魔術に驚く事もなく足を大きく振り上げ、全ての矢を蹴り一つで打ち消した。

 

 「やっぱりダメか……時間稼ぎには十分だったみたいだけど」

 

 健司が吹き飛ばされたガレージからエンジン音が響きわたる。砂埃を掻き分けながらバイクに(またが)った健司が出てきた。

 健司が乗っているオートバイの速度は時速三〇〇キロを超え、さらに魔法で強化されメーターを振り切っている。

 

 健司はバイクの速度を緩めずに獅郎を通り過ぎ、

 

 「うわっ!」

 

 ヒツギを抱き上げ後ろに乗せそのままヘリとの合流地点へ向かった。

 

 獅郎は一瞬で背中が見えなくなった健司を追いかけようともせず、倒れているクリーチャーに注射を打つ。

 

 「いつまで倒れている。そして、ロイお前への罰は後でだ。家に戻っていろ」

 「はい……」

 

 女は涙を拭い、洋館の中へと入っていった。

 

 注射を打たれたクリーチャーは静かに起き上がりガレージからバイクを取り出し健司を追いかけ始めた。

 

 デコボコした地面で普通ならバイクで行けないような道を通り、圧倒的に速い健司に追いついた。

 

 「くそ、この速度についてくるとかどんな化け物だよ」

 「ほら! 健司の左目が赤く光ってる! それに健司の魔法の模様も僕が知ってるのと違う!」

 「今はそれどころじゃねぇよ!」

 

 目の前に現れたクリーチャーの姿を見て健司は心底最悪だと思った。

 

 健司がバイクから降りて戦おうとしたその時、周囲の森から大きなエンジン音が聞こえてくる。

 エンジン音はどんどん近づいてくる。そして一台のバイクが健司とクリーチャーの間に停まった。

 

 「まさかもう二人の魔導師のうちの一人が健司だったなんてな」

 

 健司の名前を知っている人の声は少年で、ヘルメットを脱いでバイクから降り、後ろに乗っている小さな女の子をバイクから下ろす。

 

 カーキ色のファイヤーマンコートにジーンズ姿、少し長髪で健司や遥に比べ華奢な体に少女にも見える顔立ちの少年と白く長い髪に透き通った綺麗な蒼色の瞳の女の子。

 

 「し、紫菀(しおん)……?」

 

 健司の前に現れた少年は健司の友人の槙山 紫菀(まきやま しおん)だった。

 

 「ひつぎちゃん! 久しぶりー!」

 

 紫菀の後ろに乗っていた女の子が眩しいくらい可愛らしい笑顔で手を振ってくる。ヒツギも手をひらひらと振り替えす。

 

 「紫菀……まさかお前が──」

 「話をする前に邪魔者を排除する方がいいんじゃないのか?」

 

 健司が紫菀に気を取られている間にクリーチャーに囲まれていた。

 

 「マシロ、滅龍斬糸(スニークテール)

 「うん、分かった」

 

 紫菀にマシロと呼ばれた女の子が軽く飛び跳ねると女の子は光の粒子のようになり形を変え、紫菀の手の中に集まり、光の粒子からワイヤーへと形を変え、腕に絡みつく。

 

 「支配域(テスカ)

 

 紫菀の声とともに腕に絡みついていたワイヤーが解け、腕の周りをくるくると浮遊する。

 

 クリーチャーが紫菀めがけて走り出す。

 

 健司と戦っていた時より格段に速く成っているが見えない速さではなく、健司は構えカウンターの準備をするが紫菀は動こうとしない。

 

 健司の射程圏内にクリーチャーが入ってきた。健司は大きく腕を引き拳を前に突き出そうとした時、目の前でクリーチャーが細切れに成った。

 

 「うわっ!」

 

 目の前でクリーチャーが細切れになったため健司は派手に返り血を浴びた。

 

 「戻っていいぞ、マシロ」

 

 紫菀が言うとワイヤーが再び光の粒子のようになり女の子の姿に戻った。

 

 「おい、紫菀。色々と説明してもらうぞ」

 「その前にだ、とっととずらかるぞ」

 

 そう言って紫菀はマシロをバイクに乗せヘルメットを被った。

 しぶしぶ健司もバイクに乗ろうとすると既にヒツギが乗っている、それも後ろではなく前に乗っている。

 

 「おい、どけよ」

 「ボクも運転したい」

 「良いからどけ!」

 「ぎゃう!」


 健司はヒツギにデコピンを食らわしバイクにまたがる。

 

 「ボクが運転したっていいじゃないか……」

 

 ブツブツと健司の背中にしがみつきながら文句を垂れる。

 

 健司は紫菀の横にバイクを走らせながら遥との合流地点を目指す。

 

 獅郎から感じた嫌な魔力は感じなくなり、周囲にあるのは動物の気配だけになっていた。

第25話を読んで頂きありがとうございます。

第26話も2日後に投稿するのでよろしくお願いいたします。

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