第02話『第一フェーズ』
二話目も見に来て頂きありがとうございます。
楽しんで読んでいただけたらいいなと思います
通信機が破壊され、耳につけていたイヤホンから音がプツリと切れた。
完全にバレていた。
男は車に乗りこみ逃げようとした時、何かが上から降ってくる。その何かは車のフロント部分に落ち、車はひしゃげてしまいガソリンが引火したのか爆発が起きる。
「くっ!」
男は後ろへ飛び多少爆風を和らげるも背中を地面にうちつけ顔が痛みで歪む。
燃え上がる炎から人影がゆらりと出てくる。あの爆発にも関わらず服が一部焼け焦げているだけで無傷のヴァサゴだ。
「逃がすわけないだろ?」
男はやむを得ず拳銃を引き抜きヴァサゴに向けて発砲するも全弾回避された。
ヴァサゴが右手を軽く振るとその手には拳銃を握った右手首が握られている。
「よくもまぁここまでドンピシャのタイミングで刺客を送ってくるとは監視されていたか?」
ヴァサゴはボールで遊ぶように右手首を投げながら吐き捨てる。
男はこのことが表す意味が理解できず、少しの間ぽかんとした表情をしていたがその右手首が自分のものと気づいた瞬間に激痛がはしる。
「魔宝石が使われた拳銃か。どうやら、人間に肩入れする悪魔は一人だけじゃないらしいな」
あたりに響く男の断末魔の中、ヴァサゴは憎みながらも感心するようにつぶやく。
男はヴァサゴが銃を眺めている隙に逃げ出そうと走り出す。その逃げようとする姿に迷いも恐れもなくただ今日知り得た情報を持ち帰るために動く。
ヴァサゴは少し遅れて逃げ出そうとする男に気づき指先でスっとなぞるように横へ動かす。
男の視界は反転し、地面が近づいてくる。転んだのだと男は思ったがそれは違った。
二回ほど地面を転がり、見えた視界の先には首のない自分の体と興味深そうに銃を眺めるヴァサゴの姿。そのままゆっくりと視界は閉じられ意識も消えていった。
「もう少し情報を聞き出すべきだったなか?」
「驚きましたよ。ここまで回復が早いとは思いませんでした」
さっきの一連の流れを見ていた白衣の男が拍手をしながらヴァサゴの元へ行き拳銃を預かる。
「それではこれからどういたしましょうか? ご命令があればなんなりと、このグロウスにお申し付けください」
「まずは俺の力を奪ったあいつを殺しに行く。お前は選別をするためのDB-ウイルスを撒布を頼んだ」
「了解致しました」
頭を少し下げてからそう言うとグロウスは研究室に戻って行く。
「さてさて、何人生き残るだろうな。とりあえずあの憎らしい悪魔はどこにいるのやら」
DB-ウイルスは感染した人間の遺伝子を悪魔の遺伝子に一部書換えることで人間を超越した力を手に入れる。しかし、これはDB-ウイルスに適合した場合であり、このウイルスに適合する人間などほとんどいない。
そしてこのウイルスは空気感染は極めて低く、感染者の体液を体内へと入れない限り感染することは基本的に無い。
ヴァサゴにウイルスを注射した場所よりさらに奥の部屋。強化ガラスによって仕切らた箱の中には悶え苦しむように壁を叩く三体の元々人であったであろう化け物。
顔や手は幾度となく壁にぶつけたためか傷だらけになり、そこから流れた血が乾燥し肌の一部が赤黒くなっている。
「不適合者は死に、そしても蘇り視界に入った人間を食らう。空気感染など無くともDB-ウイルスは世界に伝染する。それに準備は万全です」
グロウスがボタンを押すと一体の感染者に地上へ出る通路が与えられ、残り二体は自動操縦のヘリに乗せられる。
「あと数日で爆発的に感染者は増え、私の研究は素晴らしいと世界に見せつけられる……クククッ」
堪えていた笑いがこみ上げてくる。どんどん笑い声が大きくなりその笑い声はまさに悪魔の科学者と言わんばかりの声だった。
拓哉がどこかへ行った四日後の土曜日。
世界は少しずつ狂い始めた。
「また同じニュースだ」
遥がテレビを見ながら呟いた。
『動く死者』と言うタイトルでここ二日間は全てのチャンネルで報道されている。
人が人を食い、食われ死んだ人がその後に蘇り同じように人を食らう。
首を飛ばさない限りは動き続けるその姿はまさにゾンビと言うべき姿。
「シスターは大丈夫だよな?」
「ただの風邪だろ、多分……」
遥の質問に自信なく健司は答える。
二人の住む孤児院は海外から来た教会が経営しているものでここに住む子どもは世話をしてくれる人のことをシスターと呼んでいる。
「元々歳もいっているし、最近疲れてるのに無理してたし、そのタイミングで風邪でもうつされたんだろ」
健司の言葉に「そうだな」と言って遥は立ち上がり腕時計を見た。
「そろそろメシの時間だな」
食卓に行くと既に子どもが五人座っていた。
「けんにぃ、はるにぃ、はやくはやく!」
一番年下で小学生なりたての千寿は初めての出前のラーメンにテンションが上がっている。
食事も終わりみんなが少し談笑をしている時、扉の開く音がする。
「あ、シスターだ!」
千寿が嬉しそうな声を上げる。
扉の前に立っていたのはシスターだった。しかし、明らかに様子がおかしい。
黒ずんだ目をギョロギョロと動かし、肌は死体のように白くなっている。
健司と遥はすぐに立ち上がり、子どもとシスターとのあいだに入るようにする。
「シスター? 調子どう?」
遥が恐る恐る聞くも返事はない。
健司は近くにある包丁の位置を確認する。その間にも遥は必死にシスターを呼びかえるも全く返事はない。
そして突如シスターは歯を剥き出しにして走り出す。健司は掴まれたり、噛みつかれたりしないように腹めがけてタックルをする。
シスターを吹き飛ばし、すぐさま包丁を握る。
「遥! チビたちを連れて行ってくれ!」
「でも!」
「チビたちには見せたくない……!」
この言葉にハッとして遥はすぐに子どもたちを誘導し、部屋の外へ出ていった。
「シスター……!」
健司は今にも泣きだしそうな声を出す。
唸りをあげ、再び走り出すシスターの喉元めがけて包丁を振るうがギリギリでためらいが生まれる。
健司の首を食いちぎろうと歯が近づいてくる。防御のため咄嗟に左手を前に出してしまい、左腕を盛大に噛みつかれる。
服越しに歯が食い込み、服に健司の血がじんわりと滲む。健司は激痛で顔をゆがめる。
「シスター、ごめん!」
腕を噛まれたままシスターを押し倒し、馬乗り状態で何度も首を切り裂き何とか首を切断した。
「はぁ……はぁ……」
ようやく噛まれていた腕も離され、よろよろと立ち上がり遥たちが逃げたであろう部屋へ向かう。もちろん血の付いた包丁は捨てて。
「健司! 大丈夫だったのか?!」
「すまねぇ……」
健司は噛まれた腕を見せる。
「俺が死んだら死体をすぐに燃やしてくれ。そうすれば俺が人を襲うことは無いだろうから。チビ共には内緒だ」
「健司……」
血を洗い流し、包帯を一応巻いておく、これからどうやって生き延びるべきなのか。
子ども達を寝かし付け、ようやく自分たちも眠りに入りふと健司はそんなこと考えていた。
健介は自分の意思で隔離された部屋に入り眠りについた。
第二話も読んでいただきありがとうございます。
少しずつ話も動いてきたのでこれからも読んでいただけたら嬉しいです。
第三話は24時から25時までに投稿しますのでよろしくお願いします。