第19話『スープ』
悪魔は健司にスープを取りあげられ不服そうな顔をしている。
「君のせいでボクの晩ご飯が無くなったんだから君の晩ご飯をボクに譲るのが当然だろう!」
「俺は別にお前の飯なんかに何も」
弾丸に撃ち抜かれた鍋がフラッシュバックする。
「……悪魔に食わす飯はねぇ!」
健司は鍋をテーブルの上に起き、悪魔に背を向け一人でスープをすすった。
自分でも驚きの美味さだった。
元々料理はするが材料の無い中作ったスープとは思えなかった。
「な、な、な」
悪魔は健司の対応に驚きのあまり鯉のように口をパクパクさせる。
「ちょ、ちょっと待って! それはいくら何でも酷すぎるよ!?」
健司の背中にしがみついて服を引っ張って揺らしてくる。
「引っ付くんじゃねぇ!」
健司が悪魔を振り払うと、あぎゃ、と変な声を上げ転がってうつ伏せのまま黙り込んだ。
「あ、その……わ、悪ぃ」
少しやりすぎてしまったと悪魔の方を向き謝ると悪魔は一切動かず、その場に悪魔の腹の音だけ鳴り響いた。
「だって……」
「え?」
顔をうつ伏せたまま喋ったためなんといったかはっきり分からなかった。
悪魔は顔だけ健司の方を向け呟く。
「だってあのご飯、三日ぶりだったんだよ? ボクもご飯食べたいよ」
健司は全身から力が抜ける。
初めて本当の脱力というものを知ったと思えるほど力が抜けた。
「な、なんだよ、その目は」
悪魔の目は自分が不幸でたまらないと言うような、願い込むような目だった。
そんな哀れな姿に加え願い込むようなルビーのような瞳で見られたら悪魔嫌いの健司でさえ、自分が悪いんじゃないかと思い始めてしまった。
「チッ……ほら。食えよ」
器にスープを入れ悪魔に差し出した。
悪魔の表情はパァっと明るくなり、受けったスープを飲み出した。
健司も別の器を探し、スープを入れて飲む。
自分のスープの出来栄えを再び感じた後、意を決して悪魔に話しかける。
「で? おまえは何もんだ?」
「悪魔」
食べることに夢中で単語で答えてくる悪魔に健司は苛立つ。
「それは分かってる。ヴァサゴの手下か?」
「ボクが? そんな訳ないでしょ。ボクはむしろ逆だよ」
「逆?」
健司が聞き返すと、悪魔は器を突き出してきた。図々しい奴めと思いながら器にスープを注ぐ。
「ボクはヴァサゴ倒す側。つまり君の味方って事だね。悪魔がみんな敵って訳じゃないよ?」
「証拠は?」
「無いよ」
サラリと答える。
「まぁ、ボクが君の敵なら君にお願いしてスープを貰わなくても殺してスープを飲めばいい話だし」
確かに今の不十分な装備の健司相手なら悪魔の勝率の方が余裕で高いだろう。
「じゃあ、クリーチャーを倒したあの魔法はなんだ?」
「何って言われてもなぁ……魔法じゃなくて魔術だよ、としか言えないかな?」
困ったような表情を浮かべる。
「俺が使ってるような魔法は使えないのか?」
「ああ、昔は使えたよ。君の魔法はいいよね。強力な魔法だし、よっぽど戦闘向きだよ」
悪魔は勝手にスープを器に注ぎながら話を続ける。
「さっきみたいな魔術を実戦で使えるのは悪魔でもそう多くない。だいたいは君みたいな魔法を使ってる」
「昔は使えたってどういう意味だ?」
健司の質問に一瞬固まった後、少し笑みを浮かべた。
「まんまの意味だよ。ボクはある人に頼まれて自分の魔法を人間にあげたのさ。最初は断ったんだけどね、ボクの魔法は体が壊れかねないからって」
「人間って誰にあげたんだ?」
「それは企業秘密」
意地悪げな笑みを浮かべ健司をからかう。
悪魔の話を聞き、健司はボスが言っていたことを思い出した。
『昔にもお前達みたいな悪魔の力を持った人間がいたんだよな』
つまりこの悪魔は過去に健司の様に悪魔の力を持った人間の悪魔か、遥の悪魔。もしくはもう一人の魔術士の悪魔ということになる。
「はぁ……ほんとに今日は厄日だ」
日本刀をなくし、晩御飯を悪魔と食べるはめになり、挙句の果てに半分以上食べられ、健司は少しうなだれる。
悪魔から殺意などは感じないと判断した健司は一応味方であることは認めた。
「悪魔は嫌いだけど、お前は味方みたいだな?」
健司は悪魔の目をまっすぐ見つめて聞く。
「そうだね。信じてもいいよ、ボクは君たちの味方だよ」
健司が、そうか、と言って一応信用すると悪魔は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ああ。そういやまだ名前聞いてなかったな。俺は健司、咲宮 健司だ」
「ボクはヒツギ。よろしく、健司」
眩しい笑顔に健司は身じろいでしまう。
健司は美しすぎるのは毒だなと心の中で静かに思った。
第19話を読んでいただきありがとうございます。
第20話も読んでいただけたら嬉しい限りです。




