第17話『化け物同士』
健司は自分が死んだかどうかは現状では分からなかったが自分がどういう場所にいるか理解し始めた。
水の中ではないことを理解し、体はまだ少し濡れていることを理解し、背中にあるゴツゴツした石の感触を理解した。そう、岩の感触を。
「死んでも痛みがあるとはな。岩がゴツゴツして寝にくいってことはここは地獄か」
寝ぼけているのか訳の分からないことをブツブツと言いながら起き上がる。
そこでようやく生きてることを理解し、自分が流れてきたであろう川を見る。
「こりゃ、桃太郎もびっくりだな」
「あはは、大丈夫そうで良かったよ」
突然声が聞こえる。
驚いた健司は声のした方へ振り向く。
振り向いた方は森が広がり、森と川辺の境目に生えている一本の木にもたれかかって少女が座っていた。絶世の美女ならぬ絶世の美少女という言葉がぴったり当てはまる少女だった。
濃い藍色の長い髪に宝石のルビーようなの瞳は誰が見ても見入ってしまうほど綺麗なものだった。
その少女は黒の丈がかなり短いズボンとニーハイ、それにへそ出しのシャツという少し目のやり場に困る格好をしている。
健司が少し見とれていると、美少女はキョトンとした表情で健司の顔を覗き込む。
少女との顔の距離が近くなる。
少女のこの行動と邪な考えをしていた事とが合わさって、健司は大きく身じろいでしまう。
約一年間女の人に合わなかったのに久々に出会った少女が絶世の美少女など、平常心でいられるわけがないが健司は平常心を装う。
「大丈夫?」
「え!? あ、あぁ……大丈夫だ」
慌てて返事をしたところで健司は自分の置かれた状況を思い出し、腕時計に目をやる。
「落ちた時から……だいたい三十分か、お前が助けてくれたのか?」
「いや、ボクは打ち上げられてた君をここまで運んだだけ」
少女は微笑みながら訂正してきた。
クリーチャーの行動力から考えて、そろそろ近くにいてもおかしくはない。
あれこれ考えていると健司の想像した最悪のパターンが目の前に現れた。
「かなり流されてきたんだろうけど、一体何があったん──」
「チッ!」
「のわっ!!」
健司はとっさに少女の腕をつかみ逃げようとするが、石に足を取られ、木の根に足を取られた時程ではないが宙を舞う。
「今日はついてないなぁ……」
自分の不運に泣きそうになりながら少女を庇うように転がる。
「急に何するの! 痛いじゃないか!」
馬乗りになった少女は怒りを露にしながら健司の胸ぐらを掴み前後に揺らす。
「すまん。でも今それどころじゃない!」
「それどころじゃない? それが君を川から引きが上げ介抱してあげたボクに対する君の態度なのか!」
少女は更に怒りを健司にぶつけてくる。
「危ねぇ!」
発砲音が響き、地面を転がった健司と少女の頭の上を弾丸が通る。
健司は少女を肩で担ぎ、脚に魔法を発動し、一気に走り出した。
「おお、ホントに大変なことになってる」
感心するように、後ろの五つの影を眺める。
「やっとご理解いただけましたか!」
皮肉を叫びながら健司は再び森の中を全速力で疾走する。
「あー! ちょちょちょちょっと! 今の攻撃でボクのご飯が!」
「あ? ご飯?」
健司がチラッと後ろを確認すると弾丸で貫かれ無残な姿になった鍋とその周囲に液体がこぼれている。
「ボクの……ご飯……」
肩の上で大袈裟に項垂れる少女を無視して森の中へ飛び込み走り続ける。
クリーチャーもここで健司を完璧に仕留めたいらしく、しつこく追い続ける。
何とか振り切ろうと走り続けていると、少女は気を取り直したのか呑気なことを言い出す。
「ねぇ、逃げるより倒した方が楽なんじゃないの? 見たところ君なら倒せそうだけど」
肩の上に乗りながら言い放つ少女に、どう考えたらその考えに至るんだ、と少し苛立った。
「ミニガン四つに突っ込んだらどんなスピードでも避けきれるわけないだろ」
「現に今逃げれてるんじゃないの? それに、ボクならなんとか出来るけどなぁ」
「逃げれてるのは奇跡みたいなもんだ。てか、お前みたいに武器も持ってない奴が倒せるわけ――」
健司はこの時この少女について何も知らないまま担いで走っていることに気づいた。
まず、健司と年齢もたいして違わないであろう少女が武器も持たずにたった一人で生きていけるほどこの世界は甘くない。
「おい、お前は今までどうやって生き延びた? アンデットに出くわなさなかったなんて有り得ねぇし、目立った武器も持ってないみたいだな」
走りながらのため途切れ途切れになりながら質問するが、少女は至って当然のように言い放つ。
「魔術だけど?」
健司はドキリとした。
魔法とは違う魔術の存在を以前ボスに教えて貰っていた。
魔術の魔法との違いは誰でも訓練すれば使えるようになるものであるということ。しかし、結局のところ普通の人間の魔力じゃ使えず使えるのは悪魔と一部の魔力量が多かった人間のみ。
人間は使えると言ってもアンデッドと対等に戦えるレベルで使える者は滅多にいない。
『悪魔と出くわした場合ヴァサゴの支配下である可能性が高いからな。倒せる確証がない場合はすぐに逃げろ』
ボスの言葉が健司の頭によぎった。
「お前……悪魔か?」
恐る恐る確認をとる。
もしかしたらもう一人の魔導師は魔術を使えるかもしれない、そんな淡い希望を抱く。
「ん? そうだけど?」
健司の中で希望が砕ける音がした。
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