最終話「この世界も悪くない」
大量のトゥルフと戦った次の日。健司やシルヴィアが蘇った理由を話すために遥達が普段座っている席に着いた。
全員が健司かシルヴィアの口から何かしらの説明があると期待していたが、二人の口から出た言葉は、分からない、だけだった。
「こればっかりは奇跡とか偶然としか言いようがないな。実際俺たちはあのまま消滅する予定だったからな。俺たちのこと思い出してるのも遥、紫菀、ヒツギ、薫那、マシロ、ビリー隊長、千寿の七人だけだし」
「原理はわかりませんが原因の目星は推測の域を出ませんができてるんですよ」
シルヴィアの言葉にヒツギの目付きが少し険しくなる。
「世界樹……あの大量の魔宝石が暴走気味なのが原因ってところ?」
「はい、でも実際この暴走自体は解決策が見つかってるので心配する必要はありません」
シルヴィアが言う解決策は魔宝石を使い七つの魔神器を作り、それを世界の各地に配置することで安定させるというものだった。
「その提案だけど、かなり難しいわよ」
薫那はシルヴィアに持っていたナイフを一本渡した。
「それがこの世界にある技術の限界。魔宝石を武器に加工する技術はせいぜい数グラムの魔宝石を金属に混ぜ込む程度。全てを魔宝石で作る魔神器なんて夢のまた夢よ」
「確かにエネルギーとしては優秀な魔宝石を武器に加工するのはかなり難しい技術です。しかし、その技術が無いわけではありません」
シルヴィアは束ねられた何十枚もの資料を机に置いた。
「今ある唯一の魔神器であるアクイラを分析して見つけ出した魔神器の制作に使われた技術です」
ヒツギはその資料を手に取り無言でじっと眺めている。蘇った記憶の中にある知識がその内容をヒツギに理解させる。
「ヒツギなら、作れるんじゃないですか?」
「無理じゃないけど……これを七つも作るのには相当時間もかかるし、施設だって国の協力が必要になるよ」
ヒツギの言葉に頭を悩ませていると後ろからノエル達が声をかけてきた。
「私たちが軍に直接掛け合ってみようかぁ? 今回の件でヒツギちゃん達には大きい借りができた訳だし世界の危機だってなったなら話もすぐにとおると思うよぉ」
他に頼れる宛もないため施設の件はノエルに任せることにした。
「そういえばボスの姿が見えないけどいないのか?」
「あぁ、ディランさんは半年前に亡くなったよ」
「なっ?! どうして?!」
驚いて身を乗り出す健司にヒツギはふっと笑う。
「老衰だよ。九十八歳の長寿だったよ」
「ろう……すい……? きゅうじゅうはちぃ……?」
予想外なことに健司はキョトンとしたがすぐに大笑いした。
「健司が育った孤児院の人達もちゃんと居るよ」
「そっか、ボスに会えなかったのは残念だったが一安心したよ」
それから健司とシルヴィアにいなかったこの十数年間の話をした。
それから数ヶ月後、予想以上にことはトントン拍子に進んでいきノエルに頼んでいた施設が用意されていた。
「これは驚いたよ……でもなんでこんなにも早くに用意されたんだい?」
「表向きには世界の危機から守るためぇ、ホントの理由は魔神器の兵器運用、あわよくば量産だねぇ。魔神器の説明に千寿ちゃんの映像を見せたら一瞬で食いついてきたよ」
「しかし、魔神器は人が使えるような代物ではありませんが……」
「ヒツギちゃんのオリジナルじゃなくても作り方さえ分かれば劣化版でも強力な武器が作れると思ってるんだよぉ、きっと」
ヒツギとシルヴィアはため息をついた。
千寿が魔神器であるアクイラを使えたのは過去の世界の影響であり、そもそも魔宝石を大量に混ぜ合わずには複数の魔術を掛け合わせ何時間もかけてようやく出来る。それはヒツギ、シルヴィアが協力してようやく出来る。
前の世界ではそれを一人でやってのける天才がいたが、もう居ない。
「それで、無理って言うのはお偉いさんたちには言ったの?」
「まぁ、そこは言葉巧みにねぇ」
ニコニコと笑うノエル。
それに釣られて笑いながら十分すぎるほど揃えられた設備にヒツギはワクワクが止まらなかった。
「さぁ、大仕事だね」
まず取り掛かるのが魔神器のベースになる武器の制作。
魔神器は従来の武器のように金属に砕いた魔宝石を混ぜるのではなく武器をデータとして魔宝石に魔術で読み込ませそのデータ通りに魔宝石を形成していくことで完成する。
七つの魔神器を作っていくうちに世界樹は安定していき、そして四年半もの年月をかけて全ての魔神器を作り上げた。
壁に並ぶ七つの魔神器。
禍々しくも美しいその姿に、ようやく大仕事を終えたことにヒツギ達は息を漏らした。
「改めて見ると圧巻だねぇ」
「サイズ感もかなり大きいですから余計です」
「四年以上かかるなんて思わなかったけどね」
三人が話していると軍のトップであろう小太りの男が七人の聖騎士を連れて入ってきた。
「さてさて、ようやく全て完成した魔神器は郡の方で管理させてもらう」
「お偉いさんはすぐに約束を忘れるのかなぁ?」
バカにするような目を小太りの男に向けるノエル。
「ないぃ?」
男は眉間にシワを寄せる。
「魔神器を使える人がいたら軍の管理にしていいって契約でしょ?」
「ふん、ここにいる七人は聖騎士の中のトップだ。使えないわけがないだろう」
そう言うと男は七人の聖騎士に指示を出し、聖騎士は各々好きな魔神器を手に取り持ち上げようとする。
七人のうち魔神器を持ち上げることが出来たのは三人のみ、しかし、その三人も魔神器をすぐに元の位置へ戻し少し残念そうに笑いあってから出ていこうとした。
「お、おい! お前たち! 何をしている!?」
「あれは私たちには使えませんよ」
そう言って聖騎士達はどんどん出ていった。
「じゃあ、これはボクたちの管理でいいかな?」
「くぅ……勝手にしろ!」
悔しそうに男が出ていくのを確認するとシルヴィアは魔導書エイボンを取りだし、本の中に魔神器を片付けた。
「魔神器は意志を持つ武器、使用者を自ら選ぶかぁ……通りで紫菀ちゃん達でも使えない訳だぁ」
「厳密には膨大な魔力さえあれば真の力が使えないだけで使えなくはないんです」
「根本的に魔神器がいくつも使われるような状況になんてならない方がいいんだよ」
元々最強の兵器として作られた魔神器。ヒツギ達は平和と安定のためにと作ったが、もし使える人物が現れたとしてその人物が望んだ使い方をしてくれるとは限らない。
「あとはこれを運ぶだけなんだよねぇ? どこに運ぶの?」
「それは魔神器たちが決めます」
ヒツギはグッと伸びをして少しため息をついた。
「長い旅になるだろうなぁ……」
次の日、健司シルヴィアと一緒には外でバイクを用意して待っていた。
「目的地は決まってるのか?」
「そうだね、気の向くままに世界中を旅するのはどうだい? 健司も自分が救った世界を見て回りたいんじゃない?」
「無計画って言えよ」
「私は世界中を見てみたいです」
無表情だがワクワクしてるのがしっぽの動きで伝わってくるシルヴィア。
立ち話をしてても仕方ないと健司とヒツギはバイクにたまがり、シルヴィアは小さな狼へと姿を変え健司の腕の間に座る。
「ねぇ、健司。復讐以外の目的ができてどうだい? 君は今の結果に満足してるかい?」
ヒツギが健司の背中に捕まりながら聞いてくる。
「あぁ、悪くねぇな」
「そうか、それは良かった」
ヒツギは嬉しそうに健司の背中に捕まる力が少し強くなる。
「じゃあ、気の向くままに行きますか!」
「おー!」
「はい!」
健司はバイクを走らせる。荒れ果ててない、綺麗な世界を風を切りながら颯爽と駆け抜ける。
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