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第104話『久しぶりないつも通り』


 ヒツギは家を飛び出し、遥や紫菀が依頼を受けていないことを祈りながら店に急いだ。

 幸いいつもの席で談笑しているところを見つけ一瞬だけヒツギが安心したその時、街中にけたたましいサイレンが鳴り響く。

 そのサイレンに周囲の人々は唖然としているが何かが起こったことは理解出来ているため何かしらの指示が出るのをじっと静かに待っていた。

 

 「早く街の中心のシェルターに逃げてください! もうすぐここに大量のトゥルフがやってきます!」

 

 叫ぶヒツギに目線が集まるが誰一人動こうとしない。

 

 「おい、ヒツギ! トゥルフが大量に来るってどういうことだよ!」

 

 遥達がヒツギに駆け寄ってきて、ヒツギが説明しようとすると一人の若い軍の男が店に飛び込んできた。

 

 「無数のトゥルフを確認したため、一般市民はすぐにシェルターに誘導します! すぐに表に止めてある車に乗り込んでください!」

 

 店の外は騒がしく、何台もの軍の車がシェルターに向かって走っていた。

 そしてようやく人々は自体の深刻さを理解した。

 

 「まずは子供とお年寄りから車に乗り込んでください! 車に乗り込めなかった人はシェルターに向かって移動はしてください! 軍の車が往復しますのでその時に乗ってもらいます!」

 

 軍の指示により一般市民は避難させられ、元軍人のノエル達は頼み込まれ別の軍人と共に店を出ていき、店には店長のビリーとヒツギ達だけになった。

 

 「ヒツギ、とりあえず状況の説明をしてもらってもいいか?」

 

 エプロンを脱いだビリーが聞いてきた。

 

 「さっき言った通り大量のトゥルフがここに向かってる。大量発生の原因は世界樹の暴走だね」

 「世界樹の暴走?」

 

 紫菀が怪訝そうな顔をする。

 

 「そう、トゥルフは魔力のみで動物を象った化け物で倒せばただの魔力に戻り、いずれ魔宝石になる。つまり逆のことも言えて魔宝石からトゥルフは生まれる。暴走の原因は分からないけど魔宝石の塊である世界樹の暴走は大量のトゥルフを生み出した」

 「じゃあ、私たちがこの前の依頼は前兆だったってこと?」

 

 ヒツギは無言で頷く。

 

 「数はわかってるのか?」

 「正確な数までは分からないけど三〇〇は超えてると思う」

 「三〇〇以上か……私たちと軍で相手をすればここからさらに二〇〇程度の増加なら問題ないんじゃないか?」

 

 ビリーの考えにヒツギ以外は同意しているようだったがヒツギの表情から察するに事態はそこまで単純じゃないらしい。

 

 「前の任務で倒したトゥルフのデータと過去にとったデータを照らし合わせると肉体を構成している魔力が倍近くに増加してたんだよ。元が弱いから戦ってる時は気づかなかったけど……でもボクの予測では今来てるトゥルフは全てAランク以上」

 

 その言葉に全員の動きが一瞬止まった。魔力量で強さの決まるトゥルフにはランクがありS、A、B、Cの基本四ランクに分けられここからさらに細分化される。

 

 「Aランクが三〇〇以上か……そうなると人手が少し足りないな」

 「とりあえず、全員バラけて軍の人をサポートするほうがいいだろ。そうでもしないと死人が出る」

 

 そうこうしているうちに外から爆発音が聞こえ始めた。軍とトゥルフの戦闘が始まった。

 

 「とりあえず急ごう!」

 

 全員店から飛び出す。

 

 ヒツギはいくつか別れている部隊の一つへ行くとそこではノエルが指揮をしていた。

 

 「ノエル! 部隊の状況は?!」

 「ヒツギちゃん! 助かったよぉ、さすがにかなり厳しくてぇ」

 

 ノエルの指揮や作られた数々の武器によりギリギリトゥルフと互角に戦っている状態だった。

 

 「これ借りるよ!」

 

 ヒツギはノエルのトランクから剣を一本取りだし、自分に身体強化魔術を使い数名の軍人が苦戦している数体のトゥルフ一瞬で倒す。

 周囲で爆煙が上がったり、岩石が浮遊していることから遥や紫菀も戦い始めていた。紫菀や遥が加わった部隊は少しづつではあるがトゥルフを押し始めていた。しかし、ヒツギが加わった部隊は未だにトゥルフに押されてる状態だった。

 

 「やっぱ、ボク一人加わるだけじゃキツかったかな……」

 

 ヒツギが加わった部隊以外にはあとから二人づつ加わっている上に加わる戦力がかなり大きい。それに比べヒツギは一人加わった上にヒツギは他の軍人を守るために動くため長い詠唱による広範囲魔術が使えない状態だった。

 もう一人ハンターを探してくるべきだった、そんなふうに考えた次の瞬間、目の前にいた数体のトゥルフが一瞬にして倒された。

 そんなことが出来る軍人は現状この部隊にはいない。ヒツギはその目の前に立つ、六本の剣を背中に背負った金髪の長いお下げ髪を揺らす少女に驚きを隠せなかった。

 

 「千寿!?」

 「助けに来ましたよ!」

 

 学生である千寿が避難せずに戦場へ来るなんてありえない。実際、周囲に千寿と同じ制服を着た者はいないため増援として学生が送られていた訳では無い。

 

 「なんでここにいるのさ! 避難は?!」

 「振り切ってきました!」

 

 本当は叱りたいところだったがヒツギにとって千寿が来てくれたことはかなり有難かった。

 

 「それにその剣は?」

 「通りすがりに軍人さんから拝借してきました」

 

 千寿が持っているのは軍人に支給される基本武器の一つで鞘に収める度に魔力を吸収し、切れ味を上げる少し特殊な剣だ。

 

 「はぁ、じゃあボクの前衛をお願いするよ。特大の範囲魔術をお見舞するためにね」

 「はい!」

 

 千寿は両手に剣を握り戦場を舞う。六本の剣を切れ味が落ちる度に入れ替え、軍人が苦戦するトゥルフをいとも簡単に倒していく。

 これが騎士になれる実力を持つ者の実力か、と感心しながらヒツギは詠唱を始める。

 ヒツギの足元に三つの魔法陣、そして取り囲むように帯状の魔法陣が周囲に浮遊する。

 膨大な魔力の動きに遥や紫菀もヒツギが一気にキメにかかろうとしていることを察し、そのことを部隊の指揮をしている者に伝える。

 あとはヒツギの詠唱が終わるまでトゥルフを抑えておくだけ。しかし、ことはそれほど上手くは進まない。

 

 トゥルフに疲れなんてものは無いが人間は違う。軍人の体力はどんどん削られていき戦えなくなる者が増えてきた。

 そして連携を組んでいた数名の軍人が一気に体制を崩され、それを目掛けてトゥルフが襲いかかる。遥や紫菀は距離が遠く間に合わない、ヒツギは詠唱によりその場から動けない。

 そこで動いたのは千寿だった。しかし、咄嗟に割って入った千寿だったがガードも攻撃も間に合わない。千寿はぐっと歯を食いばり、これから来るであろう激痛と衝撃に備えた。

 

 「千寿!」

 

 ヒツギが叫んだ瞬間、銃声が鳴り響き、大きな鳥のような影が千寿の横を通り過ぎる。

 その鳥のような影は銃撃により怯んだトゥルフを切り裂き、千寿の前で動きを止めた。

 取りに見えた翼は刃でできた機械だった。そして、その姿を見た瞬間、記憶が映像として流れ込み、千寿は様々なことを思い出した。

 

 「アク……イラ……?」

 「Yes,My master」

 

 アクイラと呼ばれた機械は千寿の事をマスターと呼び、その声は無機質な機械音声でありながらどこか嬉しそうだった。

 

 「俺たちに会ったら記憶まで蘇るのか?」

 「個人差はあるかもしれませんが関係性が強かった場合、ありえない話でもないと思います」

 

 銃を撃ったマントの男が感心したようにフードが不自然に盛りあがったローブを被っている少女に話しかけていた。

 

 「はは……こんなことが怒るなんてね……」

 

 ヒツギは力なく呟いた。

 

 「久しぶり、でいいのかな? 健司、それにシルヴィアも」

 

 ヒツギは少し呆れたように、しかし嬉しそうに微笑みながらフードの男を話しかける。

 

 「おいおい、もっと泣いて喜んでくれてもいいんじゃないか? ある意味感動の再開だろ?」

 「そうです。私も泣いて喜んでくれると思ってました」

 「いやいや、記憶が急によみがえってきて思考が追いつかないからそれどころじゃないよ」

 

 健司はマントを脱ぎ捨て、シルヴィアはフードを脱ぎ、獣のような耳を顕にした。

 

 「苦戦してるみたいだな」

 「まぁ、少しね。範囲魔術を使えるまでの時間を稼ぐのがかなり難しくて」

 

 ヒツギはバツが悪そうに笑う。

 

 「じゃあ、いつも通り俺が時間を稼いでやるよ。シルヴィアはヒツギとユニゾンして詠唱時間の短縮のサポートを」

 「分かりました。ヒツギは行けますか?」

 

 大丈夫とヒツギは頷き、シルヴィアとユニゾンする。髪の毛が青みがかった白に変わり、目がシルヴィアと同じ金色に変わる。

 

 「この感じ、すごく懐かしいよ」

 「ヒツギはそうなるんですね。私的にはついさっきまでヒツギとユニゾンしてましたから」

 

 シルヴィアの言葉に、不思議な感覚だ、とヒツギは笑い。それに釣られるようにシルヴィアも少し笑った。

 

 「ほんとに健司なのか?」

 

 遥は驚きを隠せないでいた。

 

 「まぁ、一応な。こうなった経緯はこれを全部片付けた後に話すよ」

 「ほんと、急に記憶が蘇るって情報量多すぎて思考が止まりそうになったぞ」

 

 紫菀と遥と健司は肩を並べ、目の前を地面を埋め尽くすほどのトゥルフに武器を向ける。

 

 「軍人はもうほとんど戦えないけど遥と紫菀は大丈夫なのか?」

 「問題ない」

 「あぁ、むしろ守る手間が省けて楽だ」

 

 そりゃいいや、と健司はニヤッと笑って走り出す。それを合図に紫菀と遥も健司に続く。

 遥と紫菀にとっても軍人がほとんど居なくなり全力を出せるようになった現状では圧倒的に多いトゥルフをどんどん薙ぎ倒していく。

 

 「アクイラ、千寿と戦ってくれる?」

 『Yes! Connection(接続) comp(完了)letion.Wear(プロ)ing(テクト) The(ウェア) Pro(装着)tectwear』

 

 アクイラが千寿の背中に装着され、千寿の制服から銀の美しい刺繍や装飾が各所に施された黒い丈の短いノースリーブのワンピースへと変化する。腰周りにマントのように着いている翼のようなガジェットは黒をベースに金の光のラインで模様が描かれている。

 

 「ヒツギ! 私も詠唱の手伝いをするわ!」

 「薫那! 助かるよ!」

 

 薫那がヒツギに駆け寄り、ヒツギのそばで詠唱のサポートを始める。

 

 千寿は低空飛行しながらトゥルフをどんどん切り裂いていき、健司は修羅刀を使い鬼術を駆使してトゥルフを薙ぎ倒し、遥は炎でトゥルフを焼き付くし、紫菀はマシロが変身したワイヤーと大剣を使い一度に大量とトゥルフを細切れにする。

 

 トゥルフの数はなかなか減らないが数分間トゥルフを倒し続け、周囲はトゥルフが死ぬ時に変わる黒い霧で若干包まれていた。

 そしてついにヒツギの詠唱が終了した。

 

 「みんな下がって!」

 

 ヒツギの合図で全員が一気に下がると、全てのトゥルフのいる地面を覆い尽くすほど巨大な銀色の魔法陣が展開され、その真上に同じ大きさの水色魔法陣も展開される。

 

 「凍てつき、」

 

 ヒツギの言葉と同時に水色の魔法陣から雪が降りその雪に触れたトゥルフは触れた箇所からたちまち凍り始めた。

 

 「砕け散れ」

 

 そして次の言葉に反応して銀色の魔法陣から無数の刃が出現し凍ったトゥルフを砕いた。

 周囲は一瞬だけ霧となったトゥルフによって暗くなったがすぐに霧はなくなり陽の光が注がれた。しかし、氷の魔術により周囲の気温は著しく下がった。

 

 「さぶ!」

 

 健司は慌てて脱ぎ捨てたマントを羽織った。

 

 「やっぱり氷魔術は強力だけど制御が難しいな」

 「これからの課題ですね」

 

 トゥルフの姿はなくなり一安心したところでヒツギとシルヴィアが呑気に話していた。

 

 「そうだ! 健司とシルヴィアのこと! これは一体どういうことなんだい?」

 

 全員が集まったところでヒツギが聞いてきたが、自分で聞いておきながらヒツギは、やっぱ待って、と言って止めた。

 

 「それよりも言うことがあるね。これがあってるかどうかは定かじゃないけど」

 

 そう言ってヒツギは健司とシルヴィアに笑顔を向け、

 

 「おかえり」

 

 そう言った。

 一瞬だけ健司とシルヴィアはキョトンとしたがすぐにヒツギと同じように笑う。

 

 「あぁ、ただいま」

 「はい、ただいま戻りました」

第104話『久しぶりないつも通り』を読んで頂きありがとうございます。

第105話は10月3日に投稿予定なのでよろしくお願いします。

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