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第103話『新たな世界』


 窓から差し込む光と鳥の鳴き声で目を覚ます。長い夢を見ていた気がするがどんな夢かは思い出せない。ルビーのように綺麗な赤い瞳の目を擦り、キッチンに向かい朝食を済ませる。

 それから諸々の準備も済ませ、短パンとニーハイに足を通し、これもまた少しだけの短いシャツの袖を通す。

 

 「これは……?」

 

 コートに手を伸ばそうとした時に普段着てきてるコートと見たことも無いコートがハンガーにかけられていた。

 手に取ってみるとそのコートはヒツギには明らかに大きく袖は余る上に裾は地面スレスレ、それにかなり使い込まれていた。

 

 「ボク、こんなの持ってたっけ?」

 

 そう呟いた時、服の上にぽたぽたと水滴が落ちる。ヒツギは驚いて顔に触れると涙を流していた。

 

 「あれ、なんで……?」

 

 止まらず溢れ続ける。

 このコートを見ると胸が締め付けられた。涙の理由は分からないがこのコートが自分にとってかけがえのないものに感じて仕方なかった。

 ひとしきり泣いたヒツギはそのコートに袖を通した。地面スレスレの裾は仕方ないが袖は何度も折り込み何とか手は出た。

 どう見ても不格好ではあるがヒツギはそのコートに何かしらの安心感があった。


 「さて、今日はどんな依頼があるかなぁ」

 

 藍色の髪をなびかせ、ヒツギは家を出る。

 

 「あ、ヒツギさん! おはよーございます!」

 

 元気よく挨拶をしてきた金と銀の腰まで届く長いおさげを揺らす制服姿の少女、千寿。

 

 「おはよ、今から学校かい?」

 「はい!って、いつもとコートが違うんですね。なんか見た事あるなぁ……」

 「そうなんだ、不格好だけどなんかこのコートを着ると安心するって言うか……」

 

 コートの話を少ししながら、ヒツギの目的地は千寿の学校の道中にあるため途中まで二人で行くことになった。

 

 「そろそろ、進路とか聞かれるんじゃないの?」

 「そうなんですよ……でも、ハンターになりたいって言ったら先生から猛反対されちゃって」

 

 バツが悪そうに頬を掻く千寿。

 

 「ハハ、確かに先生は反対するだろうね」

 

 ハンターはこの世界に突如として現れた化け物トゥルフ。トゥルフの討伐を基本として依頼され報酬さえ貰えれば基本的には何でもするいわゆる何でも屋だ。そして、この世界は騎士、軍人とハンターと似たような職がある。

 軍人は王国に使え、正式な訓練や試験などを通してようやく慣れる。そしてその中でも優秀な者がなれるのが騎士であり、この時千寿は通う戦術学校では騎士になれる見込みのある生徒だった。

 

 「ハンターをやってるボクが言うのもなんだけど、ハンターより騎士や軍人になる方がいいと思うけどなぁ」

 

 ハンターは試験のなければ訓練もない、金さえ払えば何でもする危ない連中だと思ってる人も多い。

 

 「むぅ、ヒツギさんまで……強くても騎士と軍人は国のために動くから人助けできないじゃないですか」

 

 不服そうに頬をふくらませる千寿に、ごめんごめんと笑うヒツギ。

 

 「じゃあ、ボクはここで、学校頑張ってね」

 「はい、ヒツギさんもお仕事頑張ってください!」

 

 千寿は少し先の方で歩いている友人をみつけ、そっちの方へと歩いていった。

 

 「ほんと似てきたな……」

 

 フッと笑ったヒツギだったが誰と比べたのか頭の中ではっきりしなかった。一瞬、立ち止まって考えたが分からず首を傾げながらビリーが経営する食事処へと入っていく。

 奥の方の席に遥と薫那が座っている。

 

 「おはよ、紫菀とマシロちゃんは?」

 「おはようってもう昼前よ、 それにその不格好なコートはどうしたのよ? 明らかに男物じゃない」

 

 時計の針は十一時を少しすぎている。

 

 「薫那は細かいなぁ。ボクがどんな服を着たって別に構わないだろ?」

 

 ヒツギが席に座るとウェイターが水を持ってきた。

 

 「ありがと」

 「紫菀とマシロだけど、山岳地帯のトゥルフ討伐に朝から行ったよ」

 「え、ボク達を誘わないで行ったの?」

 「違うわ、紫菀は誘われた側よ」

 「あー、ノエル達か」

 

 数ヶ月前に軍人からハンターになり、かなりの実力を持っていると話題になっている五人の人物。

 軍人からハンターになる人はほとんどいない。過去にいたのは様々な問題を抱えているために軍を辞めさせられたヤバい奴か軍で活躍できないがハンターでなら活躍できると勘違いした実力のない奴らだった。

 ただ、今回は今までとは違った。軍から来たノエル、弘、琴音、ミンディ、圭斗の五人は何か問題がある様子もなく、実力も現在活動しているハンターの中でも上位の実力がある。

 

 「じゃあ、ボクも依頼を見に行くけど、一緒に行かない?」

 「ええ、いいわよ。そろそろ私も見に行こうと思ってたところだし」

 「紫菀は居ないがいつものメンツだな」

 

 そう言って三人は手頃なトゥルフの討伐依頼を受けた。

 

 「これなら二日くらいのキャンプで済みそうだな。近くに湖をあるし」

 

 討伐依頼は始まりの大地と呼ばれる場所の近くだった。始まりの大地はこの世界で最初に作られた場所と言われていて中心には魔宝石で作られた巨大な樹木、世界樹と呼ばれる。

 魔宝石はこの世界の道具の動力源など様々な分野で使われている。しかし、その世界樹の周囲には危険なトゥルフも多く、基本的にはハンターにかなりいい額で依頼が来る。

 

 「そういえば、ヒツギに聞きたいことがあるんだが」

 「ん? なんだい?」

 「千寿にオムライスとかって作ったことがあるか?」

 

 遥に聞かれて首を傾げるヒツギ。

 

 「作ったことないと思うけど」

 「そっか……」

 「何かあったのかい?」

 

 遥が言うには千寿を引き取って育ててくれているアウリトーレ夫婦に聞かれたようだった。千寿がオムライスを要望し作ったが味が違うらしく遥に聞いてその通りのレシピで作ったがそれも味が違うとの事だった。

 

 「千寿も誰に作ってもらったか覚えてないって言っててな」

 

 そんな会話をしていると目的地に到着した。遠くからでもよく見える世界樹を見ながらヒツギが眉をひそめる。

 

 「どうかしたの?」

 「いや、なんでもないよ」

 

 薫那はヒツギの反応は少し気になったがわざわざ言わないということは依頼には支障はないと思うことにした。

 

 「三ヶ所で大量発生したトゥルフを討伐って依頼だったがこれは思ったより多いな」

 

 最初の目的地付近で望遠鏡を覗きながら遥が面倒くさそうにボヤいた。そこにいるトゥルフの数は五十から七十近く居た。トゥルフの種類にもよるがそれなりに実力のあるハンターでも一度に相手できるトゥルフの数は五から十とされている。

 

 「まだ問題ない数ね」

 「そうそう、文句言ってないでいくよ」

 

 ヒツギの転送魔術で大量のトゥルフの真ん中に転送される。それにすぐさま数体のトゥルフが反応し襲いかかってくるが薫那の両手に持つハンドガンから銃声が鳴り響き眉間を撃ち抜かれ黒い霧となり消滅した。

 銃声により全てのトゥルフが戦闘態勢に入る。ここからは近接戦闘がメインの遥を主軸に戦っていくが楽々とは行かずとも特に危険なことも無くトゥルフを全て倒した。

 

 「今日は移動もあったしここらでキャンプにしようか。残りの二箇所は明日の朝から向かうってことで」

 

 そう言って遥はキャンプの準備を始めた。

 それから不測の事態なんてものは起きず、強いて言うなら食事中で少し雨が降ってきててんやわんやした程度だった。

 二日目、再びトゥルフの討伐を行っていたが最後の三ヶ所目で問題が起きた。目的地に着いたがトゥルフの姿がひとつも見えない、しかし、戦闘の形跡のみ残っている。

 

 「別のハンターにも依頼してたってことか?」

 「それはないわ。依頼主は色々なハンターをたらい回しにされてたみたいよ」

 「ここらへんだけなんかおかしくない?」

 

 ヒツギの言葉に遥と薫那は首を傾げる。

 

 「おかしいって何がおかしいんだ?」

 「戦闘の残留魔力に人間じゃないものが混ざってる。それに、世界樹から発せられる魔宝石のエネルギーもかなり大きな力で乱れている」

 

 ヒツギは持っていた試験管に世界樹の魔宝石を少し削り回収した。

 

 「ここらのトゥルフの大量発生にも関係しているかもしれない」

 「じゃあ、とりあえず依頼は達成したってことで帰るとするか。調べるにも道具はヒツギの家だろ」

 「じゃあ、依頼主に連絡するわね」

 

 薫那は依頼主に連絡し、依頼は達成され報酬は各自に三分の一づつ配られた。

 それからヒツギは自室にこもって不安定な世界樹と周囲に残っていた人間のものでは無い残留魔力について調べた。

 世界樹が膨大すぎる力を抑えることが出来なくなり始め、不安定になり始めていた。そして、残留魔力は遥や紫菀と同様に悪魔の魔力と悪魔に近い何か別の魔力であることがわかった。

 

 「まずい……世界樹をこのまま放っておくと世界は確実に破滅する……」

第103話を読んでいただきありがとうございます。第104話は9月19日に投稿予定なのでよろしくお願いします。

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