第102話『新しい未来へ』
シルヴィアとユニゾンした健司は修羅刀を構え、背中に翼のように取り付けられたアクイラにより、地面をスレスレを飛行するように高速で移動しヴァサゴに斬り掛かる。
ヴァサゴは健司の一撃を防いだがその攻撃の重さとスピードに一瞬だけ焦りが見えた。
「右目も失いダメージの蓄積もある今の状況じゃ今までどうりふざけて勝てる状況ではなさそうだな」
弱くなったと言うには無理があるが遥と紫菀、そしてヒツギの攻撃は確実にヴァサゴのダメージになっていた。
ぶつかり合う健司とヴァサゴの剣。シルヴィアとユニゾンし、アクイラを使い、聖絶を発動させヴァサゴと互角の戦いを見せる。
「せっかく羽があるんだ。空中戦でもするか?」
「なに?」
剣がぶつかり合う中、ヴァサゴの肩甲骨付近から翼が生え、高く跳躍する。それを見た健司は嫌そうな顔をしながらアクイラを使いヴァサゴを追いかける。
健司にとって初めての空中戦。健司にとって少し不利な状況へと持っていかれた。
「移動はアクイラに任せても大丈夫か?」
『No problem.』
『動きの方は私もサポートしますのでマスターは攻撃と防御に専念してください』
アクイラとシルヴィアは健司の意識を読み込み、健司が望む通りに宙を飛び回る。
高速で移動しながら行われる戦闘。遥や紫菀はヒツギに手当てをしてもらい辛うじて意識を取り戻しその戦闘を見ていたがほとんど目では追うことが出来なかった。
さっきまで互角だったヴァサゴと健司だったが徐々に健司の勢いが増していき、ヴァサゴはどんどん防御ばかりになっていった。ヴァサゴは防御にも限界を感じ、逃げるように健司から距離をとる。
一見優勢に見えた健司だったがかなり息が荒れている。長期戦になれば現状の優勢、劣勢は逆転するだろう。
「なぜお前たちはそこまでして戦うんだ? 俺みたいに戦闘が好きな訳でもないにもかかわらず。俺を倒したことで英雄にでもなりたいのか?」
「あぁ? 英雄? そんなもんに興味はねぇよ」
突然話しかけてきたヴァサゴに少し驚きながらも体力を回復する時間を稼ぐためと思い会話にのる。
「最初はただの復讐心だった。だが、今は違う。この数年で守りたいものが山ほどできた、そのために俺は戦うんだ」
「そうか、そうか……復讐心ではなく守りたいもののために戦うか」
ヴァサゴは笑いをこらえるように肩を震わせる。
「だったら、その戦う目的がなくなったらお前はどうなるんだろうな? すんなり殺されるのか?」
ヴァサゴは砲撃を動けない状態のヒツギ達に放つ。しかし、健司はヴァサゴがその行動に出ることは読んでいたため、焦ることも無くヴァサゴの攻撃かヒツギ達を守る。
「お前のやり方はもう分かってるんだよ」
ヴァサゴの砲撃を吸収した修羅刀は彫られた文字が赤く発光する。そしてその吸収した魔力を健司は斬撃としてヴァサゴにとばした。
ヴァサゴはその斬撃を避けながら健司との距離を一気に詰める。
「残念だがそいつらを助けた時点で終わりだ」
「なに?」
次の瞬間、ほんの一瞬だけ健司の視界が歪み、倒れそうになる。そしてその一瞬が敗北を確定させた。
「お前が吸収した魔力に少し細工をしておいた。効果は正直微妙だが今回は十分すぎる効果だったな」
ヴァサゴの拳が健司の肋を破壊し、首を掴んで地面に叩きつけ、足を踏みつぶし骨を砕いた。健司の視界が歪んでからわずか二秒ほどで戦えない体になった。
立てなくなった健司の首をつかみヴァサゴが笑っているとギリギリ動けるようになった遥と紫菀がヴァサゴに攻撃を仕掛ける。
ヴァサゴは掴んでいた健司を投げ捨て、遥の剣を素手で砕き、首を掴む。修羅刀を拾った紫菀には腹部に蹴りを入れてからかかと落としでそのまま地面に押さえつけた。
「遥ァ!」
「にぃに!」
薫那とマシロは動けるほど回復しておらず立ち上がろうとするだけで体に痛みが走り立ち上がれない。
「遥……紫菀……」
両足を砕かれ立ち上がれない健司は地面を這うように必死に手を伸ばす。
「さぁ、お前の言う守りたいものってやつを一つづつ潰していったらどうなるんだろうな」
ヴァサゴはにんまりと笑う。
「まずは……遥だな」
遥は必死に抵抗するがヴァサゴの動きは一切止まらない。遥の胸にゆっくりと手を突き刺す。
「があぁぁぁあ!」
遥の叫び声が響く。
「やめろォ!」
紫菀がヴァサゴの足の下でもがくが強い力で押さえつけられ動くことが出来ない。
「はい、一人目」
ゆっくりと手で心臓を包み込み、握り潰した。叫び声をあげていた遥の声が気味悪く途切れるように消え、大量の血を口と胸から流す。
「遥ァ!」
健司は必死に叫ぶ。
完全に力が抜けた遥をヴァサゴは投げ捨てた。
「そんな……いやぁ……」
薫那は動かなくなった遥のそばまで行き、崩れるように膝をつき、呆然と涙を流しながら眺めた。
「次は薫那にするか、良かったな。すぐに会えるぞ」
薫那はゆっくりとヴァサゴを憎しみのこもった目で睨みつける。
「薫那……ダメだ……」
小さく呟いたヒツギだったが動くことができない。ただ眺めることしかできない。
薫那はハンドガンを引き抜きヴァサゴに向ける発砲するがそれは簡単に避けられ、ヴァサゴは薫那のハンドガンを奪った。
「これで二人目だ」
マガジンに入っている残り弾丸全てを薫那に撃ち込み、薫那はそのまま遥に覆い被さるように倒れた。
「やめろ……やめてくれ……」
健司は涙を流しながら懇願する。
「次は紫菀だな」
ヴァサゴはさっき砕いた遥の剣を手に取る。刃が三〇センチほどしか残っていないその剣を紫菀に向ける。
紫菀は修羅刀を手にしてヴァサゴに向かって走り出すが対抗できるはずも無く、全ての攻撃が避けられる。
「これであと二人」
首に優しく刃を当て、斬る。
「にぃに……やだよ……にぃに……」
マシロは泣きながら何度も紫菀に呼びかけるがもう反応は返ってこない。
ヴァサゴはマシロの首を掴んで持ち上げる。
「うっ……く……」
「大丈夫だ。すぐに会えるからな」
鈍い音が響いた瞬間、マシロの体から力が抜けた。そのまま手を離し、紫菀の上にマシロを落とす。
「さてさて、最後の一人だ」
「頼む……やめてくれ……お願いだァ! もうやめてくれ!」
懇願する健司をヴァサゴは無視する。
ヒツギは身体強化魔術を使いヴァサゴに拳を振るうがあっけなく止められ腹部に膝蹴りを入れられる。口から大量の血が漏れる。
ヒツギはヴァサゴの膝蹴りの痛みに堪えながら顔を上げると健司と目が合った。
「ヒツギ……ダメだ……」
ヒツギは口を動かすが健司には聞こえない。ただ口の動きで何を言っているのか健司は理解した。
「ごめんね、健司」
そして、ヒツギが微笑みを作ると同時にヴァサゴの腕がヒツギの心臓を貫く。
「あ……あぁ……」
ようやくヒツギの傍に来れた健司は声も出せずただ呆然としていた。近くに倒れる仲間の死体、あまりのショックに感情に脳が追いついていなかった。
『マスター……』
そんな健司をヴァサゴは少し離れたところに腰を下ろし、嬉しそうに眺めている。
そして徐々に感情に脳が追いつき、自分の目の前で怒っていることをゆっくりと理解していく。それを同時に健司の中で今までとは比にならないほどの殺意と憎しみが生まれた。
「殺す……殺してやる……」
ゆらりと健司は立ち上がる。砕かれた両足は完全に元通りになっている。しかし、今の健司にとってそんなことはどうでもよかった。
『マスター! 止まってください!』
健司の体の異変に気づいたシルヴィアが必死に止めるが健司には一切届かない。ゆっくりとヴァサゴに近づいていく。
『……E……rror……EE……EEError……』
アクイラから火花が散り五本の刃が一本ずつ抜け落ちていく。
『C……Ch……Change…… ruin mode』
魔力で形成された新たな翼。見た目は千寿か暴走した時に酷似しているがそれよりも禍々しく、強大な力を感じる。
『マスター! アクイラ!』
あまりにも強大すぎる力はシルヴィアにも制御できず、むしろ力を増幅させる役割を無理やりやらされる状態になっていた。
「最後にふさわしいじゃねぇか」
ヴァサゴが立ち上がった瞬間、既に健司は目の前で拳を固く握り締めていた。咄嗟にガードするがたった一撃で全身の骨が軋むような衝撃。受け止めきれずヴァサゴは吹き飛ぶ。
「おいおい、強くなり過ぎだろ……」
ついにヴァサゴの顔から笑みと余裕が消えた。
ヴァサゴを殴った右手は骨が折れ、皮膚を突破っているがそれも一瞬で何も無かったかのように元通りになった。
健司は止まることなくヴァサゴを追撃する。
防御を全て捨てた全力で拳を振るうだけの戦い方、普段なら避けられカウンターを食らうのは目に見えている戦い方。しかし、ヴァサゴですら対応しきれない程のスピード、攻撃を当てようがひるまない勢い、そして何よりも一撃で死にかねない攻撃。
ヴァサゴは今までと立場が逆転したようなに気分になった。否、実際に立場は逆転しつつある。
しかし、突然健司の動きが止まり大量の血を口から吐き出した。この隙にヴァサゴは剣を手に取った。
「そりゃそうだ。そんな力を使って体が耐えれるはずない」
「お前を殺すまで耐えれれば、後はどうだっていい」
健司は口についた血を拭い、手を出すとそこに修羅刀が引き寄せられるように飛んできた。
「だったら耐えてみろ」
ヴァサゴが動く。
ヴァサゴの攻撃を健司は翼で防ぎ修羅刀を振るう。ヴァサゴはそれを体を翻し避ける。剣がぶつかる度に凄まじい衝撃が周囲に伝わる。
健司は確実に殺せる攻撃を何度もヴァサゴに振るい続け、ヴァサゴはそれを威力を殺すように流し、健司の体が限界を迎える瞬間を待つ。しかし、あまりにも強く全ての力を殺し斬ることはできず徐々にヴァサゴが押されていく。
そしてそんな中、健司のスピードとパワーはさらに上昇する。それにヴァサゴが焦った次の瞬間、健司がバランスを崩し再び大量の血を吐き出す。
ヴァサゴはチャンスとばかりに剣を振り上げる。
飛び似る鮮血。
「これで終わりだな……ヴァサゴ……」
ヴァサゴの剣は健司には届かず健司の持つ修羅刀がヴァサゴの心臓を貫いていた。
ヴァサゴの口から大量の血が溢れ出る。
二、三歩後ろへよろめき倒れるように座り込んだ。自分に突き刺さる修羅刀を見てフッと笑う。
「初めて自分よりも強い相手と戦ったことの興奮と焦りのせいか……」
ヴァサゴは突き刺さった修羅刀を引き抜く。
「まぁいい。随分楽しませてもらった。世界をわざわざ書き換えたりしなくても大満足だ」
いつものようにニヤリと笑みを浮かべてそう言うとヴァサゴの体はどんどん砂のようになり崩れ、最後は跡形もなくなった。それを確認した健司はアクイラを外し、シルヴィアとのユニゾンを解除した。
「ヒツギ……みんな……仇は取ったぞ」
健司はもう動かないヒツギにコートをかけた。
「ごめん……ごめんな……俺がもっと強かったら……」
健司は力なく座り込む。
「これからどうしていけばいいんだろうな……今更思うよ、みんなで一緒に殺された方がずっと良かったんじゃないかって」
「マスター……」
シルヴィアは健司に一冊の本を見せた。
「もし、この世界をヴァサゴの存在しない皆さんが生きている世界に書き換えれるとしたら、やりますか?」
「そんなことできるのか?」
シルヴィアは頷く。
「私を含む全ての魔導書、ここにある全ての魔宝石、魔神器のアクイラ、そして今のマスターの力、全て合わせればできます」
健司はシルヴィアから最後の魔導書を受け取る。
「するに決まってるだろ」
「そうですか……ただ、マスターがそこ新しい世界に存在することはありえません」
「……分かった」
最後の一冊をヴァサゴが用意していた機械にはめ込み、シルヴィアとユニゾンし、アクイラを装着した。
アクイラの翼を地面に突き刺し魔宝石から魔力を吸収する。
「俺はともかく、シルヴィアとアクイラはどうなるんだ?」
「もちろん、マスターと同じように存在そのものが消えると思います」
「お前らはそれでいいのか?」
健司は申し訳なさそうに聞くとシルヴィアは笑った。
「ええ、構いません。私はマスターのものですから」
『Yes! No problem!』
「そっか、ありがとな」
健司も優しく笑う。
「新しい世界、見れないのは残念だがアイツらがきっと最高の世界にしてくれるだろうな」
「はい!」
『Yes!』
そして、世界は眩い光に包まれた。
第102話を読んで頂きありがとうございます。
第103話は9月5日に投稿予定なのでよろしくお願いいたします。




