第100話『終わりの手前』
クネクネと気味の悪い動きをしている化け物。千寿はふっと短く息を吐き、一瞬で化け物との間合いを詰める。
至近距離で振るわれる高速の触手。五本の刃で受け止め、受け流し、体を宙で踊らせ避ける。
化け物は背中からさらに四本の触手を生やし合計六本の触手を千寿に振るう。
シールド型のガジェットも使い六本の触手をギリギリで受け止める。この間にも何度か刃は化け物の体を切っているが傷口は直ぐに塞がりダメージが入ってるようには見えない。
そして触手を受け止めようとした時、触手が二股にわかれ細くなった触手は千寿の耳の穴を狙う。それをギリギリでアクイラが後ろへ飛びかわす。
「ありがとう、アクイラ。やっぱりあの時の力を使わないと勝てそうにないから、ね?」
『OK.My master.』
翼となっている刃が抜け落ち地面に突き刺さる。
『Exceed mode』
刃が抜けたところから虹色の光の糸が無数に出てくる。その糸は絡まり合い翼の形成していく。
千寿の左目の白目が黒く染まる。その姿は暴走した時とほとんど同じ状態だった。違うのはあの時のように形も歪で濁った色ではなく美しい色と形というところだった。
化け物は六本の触手を千寿に振るう。その速度はさっきよりも格段に早く、その一撃はさっきよりも確実に重かった。
千寿はそれを翼で弾く。
広範囲で振るわれる翼と触手、ここに人がまじれば一瞬でみじん切りになるだろう。
触手を弾く度に翼は砕けるが一瞬で修復され再び触手を弾く。翼の修復で魔力を消費し続ける千寿の方が不利に見えるこの状況。しかし、一本の触手が翼に弾かれちぎれた。そこからその触手への連撃。
触手の再生が間に合わない。否、触手は再生すらされずただ一方的に千寿の翼によって切り刻まれていく。
そして、あっという間に触手を全て失い残るは足の二本のみになった。
「アクイラ!」
『Change cannon mode』
盾型のガジェットが内側を合わせるように接合、地面に知っていた刃が風力発電の羽ようにガジェットの周りに集まり高速回転。
千寿の翼は元の細い光の糸に戻り回転する刃に吸い込まれ、ガジェットの先端に七色に光る球体が形成される。
『Count three…… two…… one……』
形成された球体はカウントが進む事に光が強くなる。
『Zero』
「セイクリッド・ブレイカー!」
放たれる七色の光線。その光は一瞬で化け物を包み込み、跡形もなく消し去った。
ガジェットと刃は元の位置に戻り、アクイラは冷却するため蒸気を放出する。
これで一安心と思った千寿だったが遠くから爆発音が聞こえた。それも一回ではなく何度もなり続ける。
「アクイラ、行ってみよ」
「Yes,My master」
爆弾のした方へ飛んで向かうとそこには爆発から逃げながら男と戦っている健司がいた。
「けんにぃ!」
千寿はすぐに爆発の発生源を探す。
「Master!」
アクイラが千寿の方向を無理やり変える。千寿の向いた先、健司から少し離れた位置に杖を構える一人の女性。
その女性に高速で接近する。
千寿の一撃を女性は魔術で受け止める。するとさっきまで続いていた爆発が止まる。
「千寿!」
健司は戦っている男、獅郎から何とか距離を取り千寿の元へと急いだ。
「何してるんだ。ビリー隊長や他のみんなはどうした?」
「みんなここから避難させたよ」
「は?」
千寿はさっきまでに起こったことを端的に健司に説明した。健司はそれに対して怒ることも無くただ呆れたようにため息をついた。
「なんて無茶しやがるんだ……」
「けんにぃの妹だからね」
意地悪げに笑う千寿に健司も笑い返す。
「千寿がこんな所に来るのは反対だったんだが……まさか助けられる時が来るとはな」
「千寿はけんにぃやはるにぃ、それにみんなを守るためにアクイラと強くなったんだよ?」
『Yes!』
ずっと健司に助けられてばかりだった千寿にとって健司の役に立てることが嬉しかった。
「はぁ……じゃああの女の方を戦って動きを止めてくれ、あいつは基本的には魔術を使うから千寿とアクイラのスピードを活かせ」
「分かった!」
千寿は低空飛行から切り上げる。
それを魔術で防ぐ。そういった攻撃を繰り返しながら千寿は健司との距離をどんどん離していく。
「いいのか? あんなに小さな子供戦わせて」
獅郎は一度距離を取られてからここまで急ぐことなくゆっくりと健司の背後に近づいていた。
「どうやら俺が思ってるより強いらしいんだわ」
振り返ると同時に蹴りを放つ健司、それに合わせ獅郎も蹴りを放ち二人の脚がぶつかり合う。
健司は既に聖絶を使い身体能力をあげているにもかかわらず獅郎の脚をへし折ることは出来ない。
そこからさらに攻撃を加えるも防がれ、受け流され、避けられる。獅郎も攻撃を仕掛けるが健司も同様に防御する。二人の実力はほぼ互角だった。
「前にあった時と比べかなり強くなったな」
「偉そうにいいやがって!」
健司の拳を大きいバックステップで避けながら獅郎は一度距離をとった。
「あんたはなんでそんなに強いんだ? どう見ても普通の人間だし、魔法や魔術を使ってる様子もない」
健司の質問に獅郎はふっと笑う。
「ヴァサゴ様が封印されてから復活するまでの長い年月をかけて人間で最も優れた遺伝子の身を集め配合させ続けた結果産まれたのがこの私だ」
一瞬で距離を詰め放たれる拳。
健司はそれをギリギリで受け止める。
「それにしたってこの威力は異常だ」
「簡単な話だ、人間のリミッターを解除する手術を受けたんだよ」
人間には体が壊れないように常にリミッターがかかっている。それを解除すれば尋常ならざる力が手に入る。俗に火事場の馬鹿力と言うやつだ。
「なるほど、完成された人間の肉体はそのリミッターの解除に耐えれるってことか」
「その通りだ」
獅郎の放つハイキックで健司は吹き飛ばされる。腕で防いだが全身の骨が軋むような痛みを感じた。
「なるほど……どおりで強いわけだ」
健司は立ち上がり右足に着けたホルスターに入っているリボルバー、レイジングブルに手をかける。
「飛び道具か?」
「いいや、違う」
健司はレイジングブルのハンマーを叩き弾丸を爆発させる。
獅郎は何をしたのか一瞬理解できなかったがその一瞬が大きな隙となった。
健司は既に目の前、固く握られた拳がもう目の前まで来ていた。咄嗟に防ぐがあまりの威力に骨が悲鳴をあげる。
地面を滑るように後方へ数メートル飛ばされ獅郎は驚きしか無かった。
「なるほど……これがヴァサゴ様が私ではもう彼には勝てないということの意味か……」
この戦いが始まる前に獅郎はヴァサゴに「あくまでも人間のお前ではもう健司は倒せんだろうな」と言われていた。
「獅郎、あんたには悪いが速攻で終わらせる」
健司のボディブローが腹部に刺さる。そこから更に蹴りも混じえた連撃を獅郎にくらわせる。
獅郎は膝をつき、勝負は決まったように見えた。
「私はまだ終わらない……」
獅郎は錠剤を手に取りそれを飲み込んだ。
「あと少し付き合ってもらおうか……」
獅郎の体は血管が浮きでてきており、筋肉もさっきよりも膨張している。変化としてはその程度、見た目の変化は小さいが獅郎を取り巻く雰囲気が変わった。
健司は先手必勝とばかりに攻撃を繰り出すが獅郎はそれをいとも簡単に避けた。さっきより明らかに体の動きが速い。
避け際に健司の腹部に三発拳を打ち込む。さっきよりも明らかに重たい。
「獅郎、あんた死ぬぞ」
健司に言われ、獅郎はニヤリと笑いながら攻撃を続ける。二人実力は再び互角になった。
繰り返される連撃の中、獅郎の体は悲鳴をあげていた。動く度に激痛が走る。
そしてついに獅郎の体は限界を迎え、一瞬だけ全身の力が抜け倒れそうになる。その瞬間を健司は逃さない。
健司は二連続でレイジングブルのハンマーを叩き、健司の右腕が黒く染まり銀色の模様が浮び上がる。
「聖絶の刃!」
放つ健司の全力の一撃。
獅郎に当たる直前、千寿と戦っていたはずの女が転送魔術により割り込んできた。
今更止めることなどできず健司の拳は女の心臓を撃ち抜いた。
「獅郎……さ……ま」
女はそのまま獅郎の胸へと倒れ込んだ。獅郎はその女を愛おしそうに抱き抱えた。
「助かったよ……だが、すまない……私も直ぐにそっちに行くことになるだろう」
獅郎がそっと女を寝かし、立ち上がったその時、遥たちがヴァサゴが戦っている地下への入口から黒い霧のようなものが現れた。
「あれは!?」
「外からの侵入を防ぐ壁だ。これでお前は中に戻ることは出来ないだろう……」
獅郎は最後の一撃を健司に当てるまでに構える。何故こんなにも優しい人間が悪魔のためにここまでするのか健司には理解できなかった。
「ある意味、尊敬するよ」
「私も君と出会えてよかったよ。最後に彼女に昔のように優しくできた」
獅郎は健司との間合いを詰め、自分の全身全霊をかけた一撃を放つ。健司はそれを防ぎもせず、真っ向から受止めた。
顔面を捉え、健司の体が大きく仰け反る。そこで健司はぐっと歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。
「はあぁぁぁぁあ!」
振るわれる拳。
「聖絶の刃ァ!!」
獅郎の心臓を撃ち抜き。獅郎は満足気な表情で倒れ、そこから一切動かなくなった。
健司は獅郎の死体を女のそばに置き、黒い霧の方へと向かった。
そこには千寿の姿もあった。
「ったく、敵をほったらかして何してんだよ」
「割り込まない方がいいかなって千寿なりに空気読んだんだよ?」
黒い霧、中に入ろうとすると強い力で押し返された。
「くそ、どうする……」
「ねぇ、アクイラ……」
『All right,My master』
アクイラは砲撃モードへと変形し、刃を周囲で高速回転させた。
「千寿? 何するつもりだ?」
「絶対にみんなで帰ってきてね」
千寿は自分の持つ全ての魔力をアクイラに流し込む。
『Count three…… two…… one……zero……』
「セイクリッド・バスター!」
砲撃が黒い霧にあたり光を撒き散らしながら少しずつ霧を削っていく。そして砲撃は霧を貫きかなり大きな穴ができた。しかし、その穴は直ぐに閉じようとする。
「まずい! 急がねぇと!」
健司が走り出そうとした時、体がふっと宙に浮いた。驚いて振り返ると健司の背中にはアクイラが着いていた。
千寿の足元には転送魔法が作られており、千寿は元の服装に戻っていた。
「アクイラ、けんにぃをお願いね」
「Yes,My master!」
そしてアクイラに連れられヴァサゴの元へ行くと状況は悲惨だった。
遥も紫菀もマシロも薫那も倒れていた。唯一、辛うじてシルヴィアとユニゾンしているヒツギがたっているだけの状態だった。
「やぁやぁ、健司。少し来るのが遅かったな」
健司は急いでヒツギの元へと行った。ヒツギが健司の胸へ倒れ込むと同時にユニゾンが解除されシルヴィアが現れた。
「すみません、マスター……」
ユニゾンしていたシルヴィアもダメージを受けていた。
「ごめん……健司……ボクたち……勝てなかったよ……」
ヒツギは涙を流した。
「遥や紫菀たちは……?」
「大丈夫、死んではいないよ……」
「そっか」
健司はひとまず安心した。
「ヒツギ、ボロボロのところ悪いんだがみんなを手当してやってくれ」
「わかった……でも健司は?」
「俺はあいつをぶっ殺してくる」
健司はヒツギから離れヴァサゴを睨む。
「シルヴィアも悪が一緒に戦ってくれるか?」
「もちろんです。マスター、これを」
シルヴィアから修羅刀を受け取り、ヴァサゴに一歩近づく。
「さてさて? 楽しませてくれよ?」
「お望みどおり殺してやるよ!」
第100話『最後の手前』を読んでいただきありがとうございます。
第101話は8月1日に投稿予定なのでよろしくお願いいたします。




