第01話『日常の終わり』
久々に連載で投稿を開始いたしました。
王道の基準を知りませんが私的に王道だと思うのでゆっくり楽しんでもらえたらなとおもいます。
「最近変なニュースがよく流れてるよな。あのなんだっけな……」
顔の整った茶髪の男、桐島 拓哉が下校途中に何気なく話題を持ち出した。
「海外の原因不明の奇病か? 狂犬病みたいな症状が見られて人を襲い、警官に全員射殺されたやつだろ?」
そんな拓哉の話題に乗っかてきたのは、目つきのあまり良くない深い紫色の髪を持つ男、咲宮 健司。
「ウイルスなのか、寄生虫なのかも分からないみたいだな。ネットニュースじゃ狂犬病事件なんて言ってるし」
健司に続き、穏やかな見た目で黒髪の咲宮 遥も話題に参加してきた。
兄弟とは思えない健司と遥がなぜ同じ苗字なのか。それは偶然同じ苗字だったというわけでなく、二人は同じ孤児院に住んでいるからだった。
二人とも捨てられた理由は酷いもので、遥は今から十年前、遥が八歳の時に交通事故で両親を亡くした。それも飛行機の墜落という大事故から乗員約二〇〇名の中から唯一それも無傷での生き残り。
世間では奇跡と言われていたが同時に、「遥のせいで飛行機が墜落した」「遥は悪魔の子供だ」そんな風に言う者もいた。
噂を聞いた親戚は遥を気味悪がり、誰ひとりとして遥を家族として迎えようとせず、忌み嫌った。遥自身も幼いながらに自分がいてはいけない存在だと理解し、今の孤児院に住まわせてもらうよう自ら頼んだ。
健司は九年前、平和だったはずの家庭が崩壊した。眠る夜にふと目が覚めると父親が馬乗りになり手には大きなナイフが握られていた。
母親は健司を守ろうとするが押しのけられ、暗く顔が見えない父親が健司の目の前に立つ。
そこから健司は記憶が無い。
気がつけば血だらけの父親の顔に自分の拳がめり込んでいたのだ。
あまりの光景に健司は自分がやった事だと認識できなかった。体が恐怖に震える。
その姿を見た母親は健司に「ごめんね」と言い、今の孤児院に健司を預け姿を消した。
孤児院で出会って以降、二人は兄弟のように共に時間を過ごした。
二人とも今の生活に満足しているし、小さな子供も多く二人は最長年だったため自然と子どもの世話や家事、料理のスキルが身についている。
健司が孤児院に来てから健司の父親が孤児院に健司の事を逆恨みしてなのか、殺すために来た事があった。
そのとき、健司の父親は健司を化け物と呼んでいた。「健司を、その化け物を殺すことが自分の人生最後の責任だ」と叫んでいた。
斧を振り回し、健司を殺そうとした時に警察の発砲により病院送りになり、その後逮捕され今では牢屋の中らしい。
健司はそれをきっかけに孤児院を立ち去ろうとしたものの全員に止められたため、今も孤児院で暮らしている。
それから学校にも行き、拓哉とも出会い今日もいつも通りの日常を過ごしている。
そんな日常が少し非日常な光景になる。
「桐島 拓哉さんですか?」
黒いセダンから降りてきたスーツ姿の男が話しかけてきたが拓哉は全く動じることもなく「そろそろだと思ったよ」とだけ言ってセダンに乗り込む。
「健司、遥、悪いけど俺用事があるからここで帰るな。じゃあな」
走り出すセダンを遥と健司はただ眺めながら手を振って見送ることしか出来なかった。
「なんであの二人の前で迎えに来るんだよ。明らかに怪しいだろ」
「申し訳ありません。命令でして……」
「はぁ……もうそろそろ時間なんだろ? だからあいつも急ぎで俺を呼んだんだ」
走行しているうちに病院のような施設に着いていた。しかし、人の気配が全くと言っていいほどない。
「こちらです」
男に案内されながら地下への通路を進んでいくと薬品の匂いが漂う部屋へたどり着く。
案内をした男は車の前に戻り拓哉が用事を終わらせて帰ってくるのを待つ。
「待っていましたよ……」
肩までかかる髪と痩せこけた頬、白衣を着る肩幅も狭く、病的に痩せている男がニンマリと不気味な笑顔を作って待っている。
「悪魔の血を持つ選ばれし人……いいえ、今は正真正銘の悪魔と言いましょうか?」
アタッシュケースを部屋の奥から取り出し、その中にある注射器の準備を進めながらブツブツと呟くように話している。
注射器の中に入れられた液体は赤黒く、少しドロっとしている。
「DB-ウイルス。あなたに教えられた調合法や技術のおかげで完成しましたよ。人間による実験をした結果は人格を失い凶暴化、これをあなたに打てば……」
男は続きを話さずにニヤリと笑う。
「これでもう人間のフリをする必要もなくなるってわけだな」
「まさか悪魔が本当に人間を乗っ取るなんて、神話のようなことがあるとは思いもしませんでしたよ」
「俺の体は朽ちてしまったからな」
拓哉の姿をした悪魔の腕に白衣の男は注射器を刺し、中の液体を注入する。
「まぁ、それのおかげで私の研究は完成しました。それに加え貴方様のような悪魔にこの身を尽くせるのは本望です」
「このたった一つの魔宝石から悪魔の研究をし、ここまで悪魔について知り得た人間は貴様だけだろうな」
悪魔は禍々しくも美しい緑色の光を放つ野球ボールほどの大きさの宝石に触れながら白衣の男を褒め称える。
魔宝石、それは悪魔の力をつまり魔力を高純度で含んだ宝石、この石を少量加え作られたものはナイフであれば切れ味は数倍になり折れることもない。
拳銃を作ればただの弾丸でも装甲車をやすやすと貫くことが出来る。
「滅相も御座いません。貴方様がいて下さらなければ私は今も頭を抱え込んでいたことでしょう」
白衣の男は深々と頭を下げながら謙遜の言葉をつらつらと並べていく。
「それでは最後にその魔宝石を取り込めば徐々にですが力も完全に戻るでしょう」
悪魔は魔宝石に触れる。
魔宝石の放つ緑色の光は石から抜けていき煙のように悪魔の腕に絡みつき、体内へと入っていく。
「ついにこの俺ヴァサゴが完全復活を成し遂げる。それじゃあ景気ずけに迷い込んだ馬鹿な犬を殺してみるか、なぁ?」
ヴァサゴは服に貼り付けられた通信機をつまみ、そのまま破壊した。
第1話を読んでいただきありがとうございます。
まだまだ話は序盤の序盤なので続きを楽しみに待っていただけたらとても嬉しく、励みになりますのでよろしくお願いします。
本日の第2話は12時から13時に投稿したいと思っているのでよければ読んでください