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5-1.追憶

 そこは、完全と完璧、この二つの要素が支配する、完成された世界だった。日々問題が山積みな地球とは遥かにレベルの差が違いすぎるほどに、その世界は完結していた。

 問題など何もなく、実現不可能とも言われる完全民主主義の世界を、全員で形作っていた。

 一言で言えば平和だった。

 異端者など出てこない。出てきたら即処断していたわけではなく、そもそも出てこなかった。

 それが、天界という別世界だ。

 天界というシステムが回り続ける限り、ここには永遠があった。

 災害はなく。被害者はなく。

 誰もが天寿をまっとうし、再び輪廻転生する。

 これだけならばめでたしめでたしだ。

 しかし、ならばこんなことにはなっていまい。

 そう、そんな完璧で完全な世界にも、ついに変革の時が来たのだ。

 これはある種、完璧と完全など保っていられるわけがないという神のお達しだったのかもしれない。

 突如として生まれたのである。

 この世界にはあまりにも極まりすぎた双極が。

 誰でも、前代未聞の変化には戸惑い、適応するには時間がかかる。理解できないと跳ね除けてしまうのも日常茶飯事と言えよう。

 しかしまあ、天界の住人はその点しっかり弁え、ある対応を取った。

 すなわち。

 まだ理解の範疇の一方を取って理解が不可能な一方を切り捨てるということをした。

 彼らにとってそれが最善の選択だったかもしれない。

 だが、最善と言ったところで必ずしもそれが利益を被るわけではないのである。

 そう考えれば、彼らが取った行動は苦渋の選択だったと言えなくもない。

 どちらにせよ、悪い展開がこの先には待っていたのだから。

 誰も救われない。

 ともすれば、その双極が生まれた時から、安定していた天界の基盤は大きく揺さぶられていて、もう崩れるのを待つだけとなっていたのかもしれない。

 今となってはそんな想像を巡らせずにはいられない。

 この時の天界はこれは神の所業であると、私たちを試すための試験のようなものなのではないかと、そう双極を理解した。

 それゆえに、拾うべきはどちらか、切り捨てるべきはどちらかを、常識に則って選んだ。

 どうあっても手に余るというのに。

 愚かで賢い者たち。

 しかし彼らを責めることはできない。どうあっても、こうなることは必然なのだ。

 白と黒が出てきたところでもう手遅れなのだ。

 終極をもたらす。

 彼らの役目はそれだけだ。

 して、天界はそれを取捨選択でどうにかしたわけだが……当然ながら、そこには本人たちの意思は伴わない。

 本人たちがどう思っていたのかは、本人以外に知りようがない。どうにか知ろうと努めたところで、極まり切った彼らの思考は理解できるものではないだろう。

 簡潔に彼らの感情を陳腐に表現するとすれば、

 白は退屈を見出し、

 黒は憎悪を見出した。

 そうなるだろう。実際にはたった二文字では表すことのできない複雑な感情が彼らの中には渦巻いていたであろうことは言うまでもない。

 白はそのまま頂点に君臨し。

 黒はそのまま底辺に落第した。

 雲泥の差。が、これが当てはまってしまうのも当然と言うように、白と黒はその色に恥じることなくあまりにも正反対すぎたのだ。

 立場も正反対に、対極に落とし込まなければ、いとも容易く壊れてしまう。

 とはいえ、頂点に君臨した白が幸せだったのかと言えば、そうではない。先述のように、白はその完璧と完全な世界に、退屈を見出してしまった。満ち足りていて完結している世界にそんな感想を抱いてしまうほどに超越していた。

 飛び越えるところまで飛び越えていた。

 そんな白が、現状に満足できるはずがなかった。

 退屈という生きている存在にとって一番の敵と、白は戦わなければいけなかった。

 超越しすぎている白にとって、それは苦痛の伴うことではなかったものの――少なくとも精神的には心労が絶えなかった。

 恵まれているように見えて不幸せ。

 残念ながら、そんなことは多々あることだった。

 そして――黒。

 見るからに不幸せな彼女はその例にもれず不幸せだった。

 どん底だった。

 余裕がありすぎるあまりに不幸せだった白とは比べ物にならないほど。

 ここで一つ、一旦考えてみよう。

 世界に嫌われるとは、どのようなことだろう。

 それも、悪行を重ねたわけでもなく、何をしたでもないのに、恨まれる。怨まれる。

 負の感情をどこからも浴びせ続けられる。

 それも、生まれたその瞬間からだ。

 誰にも想像すらできない苦しみを受け続けた。

 限りなく異端だった彼女を、さらなる異端へと染め上げた。

 黒が叛逆者になったのは、最終的に後押ししたのは、世界そのものだった。

 いなくなってしまえという思いを受け入れ、世界の外へと飛び去って行った――堕ちていった。

 復讐を果たすために。

 浴びせ続けられた悔恨を、そっくりそのままお返ししてやるために。

 それ以前になぜ、そこまで忌み嫌われていた黒が処断されずに済んだのか。

 それは踏ん切る度量がなかった、という他ない。

 いくら異端で忌むべき存在と見なされていたところで、その存在を抹消しようとまでは考えられることがなかった。あくまで、自分たちとの差異を黒色を通して知ることができていればそれでよかった。

 その点では畏怖されていたとも言えるだろう。

 さて。

 ここまで天界のあらましを簡易的に語ってきたものの、やはりこれは大元の筋でしかなく、そして客観的に過ぎない。

 これから堕天使が唯一の信頼のおける中二病に話す物語の、あらすじに過ぎない。

 あくまで前提条件として。

 堕天使――ヴィンフォースはこうして異なる世界に出現した。

 彼女の意思で。

 あるいは天界の意思で。

 結局これは過去の話で、どうしようもなく変えられない、やるせない物語である。

 あの絶対、コア=ヴィル=シュラインならばあるいはタイムスリップによる歴史改変など、それこそ朝飯前なのかもしれないが、ヴィンフォースとしてはたとえそれができたとしても、それをすることはないだろう。

 腸が煮えくり返る話だ。

 たとえ彼女が天界の者どもと友好な関係を築くことができたところで、本能的に彼らのことごとくを切り裂き、破壊し、滅ぼし尽くすことだろう。

 どうあったところで、彼らがヴィンフォースと相容れることはない。

 ヴィンフォースは過去の記憶を探る中で、腹立たしい気分になりながらも、そう確信する。

 使命。

 あまりにもしっくりくるその言葉。

 果てに堕天使にまで成り下がった彼女は訥々と、包み隠さずにこれまでにあったことを、あってしまったことを共有する。


「そうだな――」


 ヴィンフォース=シュバルゲンという存在を語る上で、彼女がここに至る理由を語る上では、彼女の誕生のその時から始まることは欠かせない。

 いかにして其は誰が為の叛逆者となったのか。

 生まれつきの漆黒が、ついには自らを生み出した世界ごとぶち壊すなどという考えに、どのようにして至ったのか。


「――まず、語弊を正しておくが、天界での『生まれる』という現象はこの世界のものとは抜本的に異なる。輪廻転生が常識となっている天界では、瞬間的に、そこに出現する、それが誕生だ」


「ああ……まあそんな気はしてた。この世界の子孫繁栄ってどこか回りくどいものがあるからな……死んだ瞬間にどこかからポンと出現するって言う方がわかりやすいし」


 レンが理解を示したのを確認して、ヴィンフォースは続けた。


「だからわたしの半生も、そうした突然から始まったわけだ――そして」


 ヴィンフォースは言う。


「どうやら、わたしは生まれた瞬間、その時から既に、天界という世界においての『敵』――だったらしい」

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