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5-0.過去(1)

 その後一週間は平穏な日々が続いた。

 ナルミたちすなわちダブルソー(WSO)のメンバーは毎日のように放課後に集まって報告会、及び対策会議を開いていた。

 とはいえ、対策といってもそんな大それたことはできない。どちらかといえば向こうの裁量で衝突の日時は決められているようなものなのだから。


「その点、お前が立てた計画っていい意味でも悪い意味でも外れてるよな」


 金曜日。

 今日も何事もなく話し合いを終え、もう暗い夜道をヴィンフォースと肩を並べて歩いている最中に、レンは言った。


「……なんだその不名誉な物言いは」


「いやさ、だってお前、当初は一人一人引き摺り下ろしてぶっ潰すとか言ってたんだぜ? どれだけ時間かかるんだよ。それで今回は運のいいことに向こうの方から来訪してきてくれたじゃねえか。一概にそれが運良くと言っていいのかはわからないが」


 運悪く、と言ってもそれはそれで通じるものがあるが。


「ふむ……まあ、ナルミやナツメという協力者がいたからそう言えるのだろうが、もしわたしとレンだけだった場合、わたしはともかくレンがどうなっていたか知らんぞ」


 貴様が要らん格好をつけて、二人の身を案じて遠ざけた場合だな――と、ヴィンフォース。

 要らん格好をつけてとは人聞きの悪い、とレンは言い返したくなったが、しかし俺たちに任せておけ、のようなノリで彼女らを遠ざけ、その上で負けたらそれこそ洒落にならず、格好もとても悪い。

 そう考えると、自分が至極真っ当な選択をしたようだとホッとしつつ、主人公が戦う女の子に戦いをやめさせ、代わりに自分がボロボロになるあのパターンは、なんだか非効率的だよな、なんて根も葉もないことを考えるレンだった。

 いくら格好良くしても、死んだらそこで終わりなのだ。

 要らん格好をつけずに良かった、とレンは納得しつつ、もしものIFに想像の翼をはためかせる。


「……けど、お前あの二人組にはもう少しで勝てそうだったとか言ってなかったか? それなら残る敵はソファイアだけになるから」


「おいおい、レン。貴様横取りをした分際でそんな偉そうなことを言うなよ。貴様がソファイアやルリ、リルを倒してきたのはわたしも認めるが、それはあくまで弱っている状態だ。くれぐれも錯覚するなよ」


「ああ、まあ、簡単なことだったと言うつもりもないんだが……ふむ、こう考えてみるとなんでアコンが来たのか疑問でしかないな」


 あんなどっちつかずなやつは、別に向こうにとってもこちらにとっても有効打になることはない。『傾かない』彼女はどちらにも利益をもたらさない。


「全くだ。人選ミスか、あるいは順番に則りたかったのだろうがな」


「あ……なるほどな」


 妙に納得する。

 九位、八位、七位、六位――今回は序列で表してみるとこんな綺麗な順番だった。

 コアがやりそうな段階だ――レンがその立場にあってもそうする。飛ばし番号は後々気持ちが悪いから気持ち的に挟みたくないのだ。

 と、それはわかったのだが、一つ。


「それならあいつはどこにいるんだ?」


「あいつ?」


「ほら、結局意味不明なまま終わったあいつだよ」


「む、あやつのことか?」


「そうそう」


「たしかに消息不明ではあるな」


「というか目の前にいるんだけどな」


 そう言って。

 ピタリとレンとヴィンフォースは立ち止まった。

 目の前には自宅があった。

 帰宅途中なのだから、目的地は自宅で当たり前で、すぐにでも入って行きたい所存であった二人ではあったが――それを良しとできるはずもない光景があった。

 玄関からはレンの妹であるルンが身体を外に出してたった今来客の応対をしているようだった。

 別にルンが今家にいるのがおかしいということではない。もう充分日も暮れようとしているところだし、通常であっても家にいる時間帯である。

 問題なのはルンと相対している存在だ。

 アコン=キース――序列七位にして『傾かない』中立を司る存在、それでいて概念そのものでもあるという彼女。

 その特性上、どこにも無干渉で気にせずとも無問題だったところの彼女が――そこにいた。

 ルンと、仲良く談笑していた。

 そうして話が一段落したのか、ルンが一歩下がると道を開け、そこに礼儀正しくお辞儀をしながらアコンが入っていった。

 ……ポカン、と。

 しばらくの間、レンとヴィンフォースは茫然とその場に立ち尽くした。

 あまりにも唐突がすぎて、予想外すぎた。

 もはや彼女の存在など、あってないようなもので、今後一切自分たちと関わり合いになることなどありえないと決めてかかっていた二人は立ち直るのに相当な時間を要した。


「お……おい、ヴィン」


「……なんだ」


「あいつ、何のためにここに来たんだと思う?」


「わからん。……だが、貴様の妹を人質にとって立てこもる、なんて可能性も捨てられないことは事実だ」


「いやさすがに、あんな楽しそうに話してたくらいだらそんなことはない……とは言えないな」


「…………、」


「…………、」


 一瞬の沈黙があったあと。

 二人は足を揃えて一目散に家に駆け込んだ。あまりにも、さながらルリとリルのように呼吸が合いすぎていたため、玄関のドアで双方ぶつかり合うという事故が起きた。

 しかしそんなことには構っていられない。

 今にもルンには魔の手が迫っているのかもしれないのだから――!


「な、なに、どうしたの。さっきすごい衝突音がしたんだけど」


 一番可能性のありそうなリビングに飛び込んだところ、案の定ルンはそこにいた。

 ぐでー、とソファで寛いでいた。

 人質とか、そんな印象は皆無だった。

 驚いた調子のルンをよそにレンは視線を巡らせるが、リビングにアコンの姿は見て取れなかった。

 ホッとしたような気持ちになりつつも、どこか警戒感を拭えない。

 それなら彼女はどこに行った?


「あ、そうだ」


 と、そこに答えを差し伸べるようにルンが言う。


「なんか、お兄ちゃんとヴィンさんのお友達っていうお姉さんが来たから、お兄ちゃんの部屋に上げておいてあげたよ」


「……お前、危機回避能力ないなあ……」


 お友達と騙られただけで家に上げてしまう妹のことが心配になるレンだった。これが不審者だったとしたら本気で洒落にならない。

 しかも同世代っぽくもない、あろうことかお姉さんの年齢の人に、だ。

 不審者と疑えよ。

 と、思わず当たってしまいそうになったところを何とか踏みとどまる。もしかすると、疎遠な人間であると妹からも思われていたレンの知り合いと聞いて、嬉しくなってしまっての行動なのかもしれなかった。

 代わりに、俺に知り合いなんていねえよ、と聞きようによってはとても悲しいことを言い捨てて、レンとヴィンフォースは階段をのぼって二階へと上がり、自分の部屋に入る。


「や」


 中では、待ちかねたと言わんばかりに。

 手を挙げて、堂々と彼らを出迎えた。

 だがそんなのはお構いなしで、レンはドタドタと慌ただしく部屋に入ると、あっという間にその挙げた手を捻りあげ、マウントポジションまで漕ぎつける。


「……あり?」


 仰向けにレンを見上げる姿勢になったところで、今さらな声をあげるアコンだった。


「おかしいなあ、うちたちは対立する理由なんてないはずなのに、なんでこんないかがわしい体勢に?」


「なんだそのとぼけ方は。ついさっき自分から干渉してきたんじゃねえか」


 圧倒的有利な、しかしビジュアル的に(男子高校生と若いお姉さんの二人では)若干の問題のある体勢から見下ろすレンに、やはりアコンはものともしない態度だ。

 ヴィンフォースもアコンが見下せるポジションにつくと、


「なぜ来た?」


 と、短く尋ねた。

 特に抵抗もせず、いつも通り飄々としたアコンは態度を変えず、肩を竦めた。


「なんでそんなすぐにバチバチやろうとするのさ。うちの特性は二人とも知ってるでしょ?」


「そうだな。その通りだ。それを俺はつい最近知ったばかりだ。だがお前、この時に訪ねて来たっていう事実が見るからに匂うだろ」


 それでも警戒を解かないままの彼らを見かねて、アコンは早々に目的を吐いた――とはいえ隠す必要もない、真っ当な理由だったのだが。


「ちょっとばかしこのところ気になることがあってね。レンくんやヴィンフォースちゃんなら知ってると思って来たんだよ。危害を加えるなんて滅相もないから安心してね」


 そして、レンを正面から見据えて、


「だから、お願いだからこの体勢やめてくれないかなー……陵辱――じゃなくて、屈辱的な気分になっちゃう」


 そう言って、中立は苦笑いした。

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