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其は誰が為の叛逆者 〜To break the world〜  作者: 貴乃翔
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4-26.窮地

「ナツメちゃ」


 何か得体の知れない恐怖を感じ取ったナルミはひとまずナツメに注意を促した。

 が、それは無駄だった。

 なぜなら、


「うぇえ!? 何サラッと闇夜に紛れてんのぉおおおおお!?」


 注意する暇もなくやられたのではなく、滅茶苦茶早い反応によって緊急離脱を図ったのだ。


「もうっ、ナツメちゃんの有能め!」


 悪態になってない叫びを零し、ナルミは視線を最大脅威へ戻す。

 ルリとリルは相変わらずさっきと同じ場所に並んでいた。

 この間にナルミを襲わなかったのは、そんなことをしなくても勝てるという自信があるからか。

 少なくとも、それは真実だ。

 今までのが遊びのようなもので、今からが本気だとするのなら、ナルミたちの勝機はとてつもなく低い。

 もっとも、その少ない勝機も、ついさっき砕かれてしまったところである。

 一撃必殺であったはずのナツメの吸血。

 それを受けているのに、まだなおリルは立っている。


「うーん、どうすればいいのかなあ」


 先ほどまで集中して感じていなかった寒気を肌に感じつつ、ナルミは突破口を考える。ともかくそれがなければ勝負にもならない。

 まず重要になってくるであろうことは、彼女らの能力の正体である。

一心同体オールシンクロ』。

 そう彼女らは言っていたが……それが出会ってから度々感じていた違和感の元凶なのか。

 語感的に、というか、言葉そのままに受けると、ルリとリルが全てで通じ合っているというような感覚か。今までの彼女らがまさしくそうだろう。

 二人で一つのものを共有しているような――


「さて、お姉さんたち、準備はいいかな?」

「焦らなくても大丈夫、できるまで待つよ」


 無邪気な笑いで、問いかける同一――ナルミの背筋はさっきから凍りつきっぱなしである。

 それでも、努めて言う。


「ううん、もういいよ。準備なんてもとからできる状況じゃないし」


 ……まあ、ナルミとてただでやられる気はさらさらない。

 やりようなら、いくつかある。

 最終的にこの場から逃走することだって視野に入れている。ナツメは吸血鬼のスキルで気付かれずに逃げられるだろうし、ナルミにも脱出方法はいくつか持っている。

 とはいえ、これは一時的措置でしかないのだが……その上で、助っ人を呼べばいい。

 それはあまり望ましくないことだが、万が一の事態を想定するとそれをするのに躊躇はない。


「そう?」

「そう?」


 二人で一つは声を合わせてそう言うと、


「それじゃあ、手早く済ませよう」

「私たちにはまだ次があるんだし」


 揃ってナルミ目掛けて動いた。

 ように思えたが、


「今度は二対二だよ」


 背後から。

 ルリの脚をすくうように――いや、へし折るように、横合いから薙ぐ軌道で蹴りを入れた。

 緊急離脱を図った吸血鬼、ナツメだ。

 恐れをなして逃げ出したと思い込んでいたルリにとって、これは不意打ちである。

 ボ、キィ……と鈍く折れる嫌な音がして、リルと引き離される。


「い……っ!?」


 体勢を立て直し着地を決めてから、遅れて痛覚が追いつく。

 よろめくルリに、吸血鬼は言う。


「たまには二人一緒じゃなくてタイマンもどうかな?」



「うわあ……容赦ないなあ」


 ナツメの動きを見て、思わず顔を顰めつつ、ナルミはリルの方に対応する。

 繰り出される攻撃の数々を、身体能力を自己強化術式によって向上させ、紙一重で避ける。

 服に掠っただけで布が吹き飛んだのには、さすがに冷や汗をかかずにはいられなかったが。


「なるほど、一対一でなら、勝てると思ったわけ?」


「いや、うん、まあ……」


 攻撃の縫い目に掛けられた言葉に、ナルミは言葉を濁した。

 ……正直、ナルミもナツメが緊急離脱で安全圏に逃げたのだと思っていた。

 ありがたいと言えばありがたいのだが、ナルミ的には逃げていてほしいと考えていた。ナツメの実力を疑うわけではないのだが、友人が危機に晒されるのはどこか後ろ髪を引かれるような感覚なのだ。

 だが、そんなことを今さら言えるわけもなく。

 とにかく現在は目の前のことに集中することにした。

 ナルミは電撃の地雷をばら撒きながら飛びすさる。

 その間に、通常は不可視化されている天使の理想通りの純白色な翼を展開した。頭には、神々しい光輪も浮かんでいた。

 この世界の天使としての本領発揮である。

 人間から見て、どの天使よりも天使らしい天使。

 まさに理想形だった。


「ああ、いいね、久しぶりの気分だ」


 手を開閉させたり、身体の駆動を確認しつつ、自らの状態を把握するナルミ。


「へえ、本当に天使だったんだ」


 それを見て、興味深そうに呟くリル。

 あれ、私がカミングアウトしたのは違う方、つまりはルリじゃなかったっけ、とナルミが思ったのと同時に、向こうにも変化があった。

 有り体に言えば、ナルミ同様に天使形態に変化した。

 しかしやはり、ナルミとはどことなく違う。翼の色は白を超越した何かだし、光輪だって神々しい側面を持ちつつ、畏怖を抱かせるような造形だ。


「ふうん、初めて見たや。本当に天使だったんだね」


 ナルミも同じ感想を返す。やはり天使と言われても、それを象徴する装飾がなければ、そうとはわからないものだ。

 しかし……ナルミは内心、本当に天使なのか? と疑問にも思っていた。

 なんだか違う気が、理想形ではない気がする。

 天使は理想を体現するものだと、ナルミは自負しているのだが……世界が違えば、ここまで異なってくるものなのか。

 理想ではなく、あるべき姿、という表現がしっくり来る。

 ともすればそこに付け入る隙があるのかもしれない、とナルミは推測する。


「それじゃあ私たちも始めようか、タイマン」



 回復する前に畳み掛けた。

 痛みで空白になった思考に差し込むように、ナツメは懐に入り込み、へし折ったのとは逆の脚も同じように破壊する。


「……っ!」


 両の足の支えを失ったルリは崩れ落ちた。

 が、そのまま無防備になるのではなく、両手で地面を叩き、飛び上がったのちに翼を展開して地面に脚をつかないことで対処をした。

 一見、押しに押しているように見えるナツメだが、メンタル的には逆にかなり追い詰められていた。

 実力差は歴然としている。

 そのため、ルリに回復を許した瞬間、ナツメの負けは決定するのである。

 不意打ちで痛手を負わせた今こそが、最後の機会なのだ。

 このボーナスタイムを終わらせるわけにはいかない。

 隠密スキルを活用し、瞬く間に背後に接近したナツメは肩に牙を突き立てる。

 が、


「同じ手は喰らわないよ」


 吸血をしてまもなく、翼の質量を身体に受けることとなった。


「ぐ……」


 地面に叩きつけられるナツメ。すぐに、口内に鉄の匂いが充満する。

 しかしその匂いを嗅ぐ前に、無慈悲な追い討ちが身体を叩く。

 上向きの角度に向けて発射されたナツメは、放物線状に飛んでいく。

 また再度、今度はトドメになるであろう一撃の前に、ナツメは進路を無理矢理に変更する。

 彼女があまり使いたがらなかったおぞましい翼を生成して。

 ビジュアル的にはあまりにも化け物らしい見た目だが、使い勝手はお墨付きだ。

 飛行の角度を急激に変えると、すぐそばをルリが通過する。

 今度はナツメがルリを追いかける番だった。

 この間にも、向こうは着々と再生を終えているだろう。不死身の性質を持つナツメには、その目安がよく分かっていた。

 一刻も早く新たな怪我を負わさなければ、とナツメがスピードを増して吸血鬼みたく襲いかかろうとすると、


「うわっ……?」


 それを拒むようにして、ルリの翼が正面から衝突してきた。

 ギリギリその輪郭をなぞるように避けたナツメだが、そこに意識を割かれてしまった。


「どうやら、お姉さんは正面対決には向いてないみたいだね」


 ルリがいつの間にか振り返って面と向かい合っていた。

 ナツメは変わらず猛スピードでルリの方へと向かっている。のだが、今ので意識に隙間ができてしまった。

 初めからこの状況を狙っての行動だったのに、逆に命取りとなってしまった。


「バイバイ、お姉さん」

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