4-18.統一
「はい、ということで集まってもらったけれど」
ごくごく紅茶を飲みながらナルミは言った。
放課後の生徒会室。
レン、ヴィンフォース、ナツメ、そしてナルミ――フルメンバーが勢揃いしていた。
レンは前と同じ場所に腰掛けていて、ヴィンフォースは扉に背を預け、ナツメはレンの隣に座っている。もちろんナルミは生徒会長の座にゆったりと座って寛いでいる。この上なくアットホーム感が出ているのはそれだけここに慣れ親しんでいる証拠だろう。
昨日あれだけ交戦しておいて、ヴィンフォースが学校に出てきていいのか、という疑問は、だからこそ、で返すことができる。
無論現在、進行形でヴィンフォースはアコン以外の刺客に命を狙われる身にある。
身にあるのだが、それはイコール家に引きこもっていればいいという結論には直結しない。逆に外出をした方がこの場合はいい。
ルリとリルがヴィンフォースをわざわざ手間をかけて人気のない山に誘き出したように、天界の住人は元が完璧と完全を重んじるので、無闇矢鱈にこの世界とは関わろうとしない。他の誰かに目撃されるなど以ての外である。
だからこそ、ヴィンフォースが他人と近くにいる限り、彼女が突然襲われることはないということだ。
そう考えると、この龍焔ヶ丘高校ほど安全な場所はないのだ。
改めてナルミやナツメから話も聞きたかったヴィンフォースにとっては一石二鳥である。
そして今、本当の当事者であるナツメからの話を聞き終えたところだ。
「ふむ、ついに貴様らにも手を出し始めたか」
腕組みし、神妙な顔でヴィンフォースは発した。
「レンの話を聞いても……どうやら、わたしではなく貴様らの方が警戒されているらしいな」
「だよな。なんとかヴィンを孤立させたいと画策してるとしか思えない」
レンは深く頷いて同調した。
ナルミはそれを見ながら首を傾げて質問した。
「どうしよっか。私ら的には受けるも蹴るもどっちでもいいわけなんだけれど。というか、ナツメちゃんがその場しのぎのために肯定っぽい意見言っちゃってたけど」
「うう……でもあの時はああ言うしかなかったんだよ。無防備なナルミちゃんが近くにいたし」
「ああ、別に今回はわたしだけで事足りる気配はするのだが」
「その余裕は心配になるしかないんだが」
ふっ、と強者の風格を醸し出し始めたヴィンフォースにすかさずレンはツッコミを入れる。
「でもさ」
ナツメはレンを見て言った。
「牙琉くんは当然のごとく、ヴィンフォースちゃんに付き従うんでしょ? 嫌々じゃなくて喜んで」
「なんだよその理解不能を見る目……けど、だからなんなんだ?」
「ヴィンフォースちゃんが自分だけでも大丈夫って言ってるし、牙琉くんが近くにいたらもう怖いものなしなんじゃないの? ちょうどパワーアップしたところなんだしさ」
「とは言ってもな……」
レンがパワーアップしたからと言って、本質的な戦闘能力が上がったわけではないのだ。
……まあ、昨日の『フライ』『エア』『偽物』の重ねがけと精度から、彼の成長は見て取れるのだが。
「ともかくさ、ここは一任しようと思うんだよ」
レンがどう説明したものかと悩んでいるところに、ナルミの声が挟まる。
振り返ると、ふわりと微笑みながら、机に肘をついた手のところに顔を載せたナルミが聞く。
「参加するか、離脱するか。ヴィンフォースちゃんがどっちでもいいって言ってるし、私たちも正直とっちてもいいから、牙琉後輩が決めてよ」
「そういうことを、あたしが言おうとしたんだけど……」
「いいじゃん、ナツメちゃんまどろっこしいんだもん。そんなこと言って、牙琉後輩の言う通りにする気満々だったじゃない」
「それは……そうだけど」
ナツメは少し照れ気味にぐぬぬ、とナルミを睨んだ。
ともかく、そういうことである。
二人には、危ないことから遠ざかりたい気持ちがないわけではないのだ。レンのように、盲目的にヴィンフォースについていくことは普通は難しい。
が、この世界の裏側の要員として、このまま放っておくわけにもいかない。
この答えの出ない板挟みを解消する一番いい方法が、誰かに判断を委ねることである。優柔不断にならざるを得ないなら、誰かにキッパリ決めてもらえばいいのだ。
というわけで、レンに丸投げである。
「そりゃあ、なあ……」
楽勝で協力を取り付けたいのだが、しかしこの中二病、変なところで気を使う謎の紳士的性格をしているのだ。
マラリス戦の時のナツメの様子を見てもわかるよう、吸血鬼の彼女はあまり戦いを好まない傾向がある。レンとは正反対に、無変化か変化で言えば、無変化を取る変わり者(レン目線)である。
だから、彼女に協力を取り付けるのが、本当にいいことなのか考えあぐねている。
なお、ナルミに関してはどっちでもいいか、と適当に考えていた。実は、彼女は運がいいのか悪いのか、天界との接点がほぼ皆無になのだが、どちらかといえば好戦的な態度を示している。
……の、だが、どこかこの話題、既視感があるような気がする……。
「あれ、でもそういえば生徒会長、昨日協力続けるってことで、みたいなこと話さなかったか?」
「ああ、うん、そのつもりだったんだけれど、そのあとナツメちゃんに話したら性急がすぎるって怒られちゃって。だから改めて回答を聞きたかったんだ」
「なるほど……」
たしかに、あれは流れ的な返事になってしまった感が否めない。
となると、今回は真摯な思考も兼ねて、最適な答えをひねり出さないといけないのだが……。
これからあの四名――アコンは抜いていいとして、三名と戦うにあたり、念には念を入れておきたい気持ちはある。いくらヴィンフォースが強かろうが、レンが強くなろうが、万が一という可能性はいつでも付きまとう。
それなら潰せうる限りのことは全て潰しておくべきだ。
心苦しいことも、ないわけではないのだが――この場合は割り切るしかあるまい。
レンは答える。
「それでも、俺は一緒に戦って欲しいと思う」
「はいはい、了解」
「牙琉くんがそう言うのなら。ただし、危ないと思ったらすぐ逃げるからね」
レンの一言で、二人とも吹っ切れたようだ。『傾いた』と言うべきだろうか。
ともかく、これで役者は揃った。
元人間、吸血鬼、この世界の天使、堕天使。
カオスなメンバーではあるものの、その強さは計り知れない。
ヴィンフォースはその様子を見、少し物思いに耽る。
(まあ、わたし一人でもきっと負けることはないが、負担が減ると思えばここまでありがたいことはない。しかし――まさかわたしが、仲間を作るとは、天界にいた頃には夢にも思わなかったな)
天涯孤独のまま、復讐に明け暮れると思っていた。
この世界に来る前にどうしようもない一撃をもらって、もう息絶えるだけになっていたヴィンフォースを偶然にも助けた中二病がいた。
(……そういえば)
と、以前のことを思い出す中で、一つ腑に落ちない点が、後回しにされていた点が思い起こされた。
アレは、誰にやられたのだ?
堕天使化したヴィンフォースは序列十位に匹敵している力を持っている。
それなのに、そんなことは関係ないと、力など些細なことでしかないと嘲笑うようにヴィンフォースの腹部を穿ったあの一撃は、誰のものなのか。
絶対の存在であるコアでさえ、あんなことはしない。いや、できない。その兆候にヴィンフォースが気づかないわけがない。
だが、そうなると可能なものは誰もいないという結論に至ってしまうのだが……。
内心、ヴィンフォースの顔色が暗くなる。
(これは、単なる叛逆だけでは終わらなさそうだな)
そんなことを考えつつ。
外面はいつも通りの澄まし顔で、ヴィンフォースは座る三人に目を向けた。
「その方針で行くと言うのなら、色々とアドバイスをしてやろう」
(今は、目の前のことだけに集中していればいい)
堕天使は復讐を実行するのみだ。
中盤戦が、今始まる。




