4-0.迅速
これからの計画を決めたコア=ヴィル=シュラインが取ったのは、簡単なことだった。
指揮を執る。
自らが赴く気がないコアにおいて、こうなることは必然と言えた。
少し今までと違うことと言えば、それはコアの末端が消えてから――レンに力を譲渡してから、時を待たずすぐさま行動に起こしたことである。
序列十位はそうして集まった。
いや、マラリスがいないので、序列九位と言うべきか。
序列九位――ルリ=リリール。
序列八位――リル=リリール。
序列七位――アコン=キース。
序列六位――ソファイア=ノーム。
序列五位――デュハン=サリュハン。
序列四位――ギーク=ヨトム。
序列三位――ムート=ザンギエル。
序列二位――シルフォンド=アマリリス。
そして。
彼らの前で、堂々とあくびをしている序列一位――絶対の極致、コア=ヴィル=シュライン。
ここまで来るのに、コアのちょっかいのため、いくらかの休憩期間を有したが、ついに大集結した、というわけだ。
次の動きがあるまで、当分は動かない、というのがコアが定めた方針だったが――だからといって、全く動いていないわけではない。
そもそも、コアが末端である端末を、向こうの世界に送り込んだことで、そのような安寧の日々が続いていたといっても差し支えない。
コア以外の彼らは、マラリスが消えたことによって、少なからず動揺はしていた。とはいえ、マラリス自身、自分から天界を出て行った身、自業自得と言えばそれで終わりなのだが。
なお、マラリスが敗れたという事実は、この時、コアの口から直々に語られた――それまでは、マラリスが天界を出て行ったのだという裏切りの情報しかなかった。
基本的に、世界を挟んでしまえば、その所在を測るのは格段に難しくなり、捕捉するのはさらに難しくなる。
できるのは、絶対の存在である唯一だけだ。
その唯一は、大して大事なことでもなさそうに、サラリと事実を言いのける。
「で。マラリスちゃんがばいばいしてから、様子を見るためにこっちが適当に分身を送り込んでみたんだけど……いやあ、これが意外の意外でね。取るに足らない分身とはいえ、遅れは取らないだろうと思っていたんだけど、倒されちゃったんだよね」
驚愕が一同に走る。
彼らにとっても、コアという存在は大きい。決して届くことのない、象徴のような場所に位置しているのである――だからこそ、この報告は、序列に属するものを震撼させるのには充分すぎた。
実際のところ、コアの分身は倒されたのではなく、レンに『引き換え』の契約で消えただけなのだが、この事実は言えるわけがない。
面白そうだから力を渡してきたなど、それこそ叛逆者である。
だからこの程度の脚色は、当然のことだ。
それを軽快に、ともすれば満足げに窺ったコアは、結果に対してするべきことを話す。
「これは、もう静観している場合じゃないんだよね。ヴィンちゃんのことだから、いつこちら側にちょっかいかけてくるか、わかったものじゃないし。それならこっちから先手を打っておきたいわけなんだよね――」
言って、コアはルリ、リル、アコン、ソファイアの四人に目を向けた。
九位。八位。七位。六位。
どこかの世界の一行と、同じ数の彼らを見た。
「けれど、こっちが総出で出ていくわけにもいかないよね。そうしちゃうとこちらの情勢的には大打撃だし、誰かが見張っておかないと、不測の事態に対応できないしね。だからルリちゃん、リルちゃん、アコちゃん、ソファちゃんの四人に出張してもらおうと考えたんだよね。何か反対意見はあるかな?」
答えはわかり切っていたが一応、コアは全員に決を採る。
誰も、何も言わなかった。
「……うん。じゃあ作戦会議、というか情報提供といこうか。倒されたとはいえ、あの分身は向こう側の調査も兼ねていたからね。その成果を惜しみなく開示することとしよう」
実行する四人以外は帰っていいよ、とコアは退出を促した。
それには誰もが従い、素直にその場を後にする。
そうしてから、コアは残った四人に向き合った。
「それじゃ、まず初めに断っておくよ。もしかするとヴィンちゃんだけが敵だと見据えているのかもしれないけど、実際は違うんだよね。マラリスちゃんは、ヴィンちゃんにやられたわけじゃないんだよね。他でもない、向こうの住人――ヴィンちゃんの仲間が、倒したんだ」
再び、場がざわついた。彼らにとってはこの世界――天界が全てである。他の世界があることは前々から知っていたが、それは下位のもので下位のものでしかなく、見下す価値もないように考えていた。
実際、そうなのだ。思えば、ヴィンフォースが棒菓子以外を口にしなかったのは、単に高位の世界にいた彼女の舌に合うものがないからである。
あやふやで曖昧で不確定。
完璧であり完全である彼らにとって、世界にこのような要素があること自体、許せない事態であった。
その、明らかに下位の世界の、下位存在が、仮にも序列十位であるマラリスを打ち倒したという。
マラリスは序列十位内で最弱ではあるものの、その防御力は他に引けを取らないほど卓逸していた。彼と一対一でやり合うのなら、スタミナ切れの引き分けは逃れられない、というのが彼らの認識だ。
それが負けたとなっては、彼らも警戒せずにはいられない。たとえまぐれであったとしても、これは由々しき事態である。
「でも……コア様」
「そんなことが、有り得るのでしょうか」
ルリとリルが、信じられないように息を合わせて言う。
コアは一つ頷いて、
「倒される前に聞いたんだ――どうやら、こっちが思っていたより、事態は深刻のようなんだよね」
「と、いうことは。うちたちが四人も呼び出されたというのは、その複数の相手に合わせる意図あってのことでしょうか」
「そういうこと」
確認を取るアコンにコアは首肯した。
ここまで来れば、説明はすぐに済んだ。あとはどんな敵なのかということを言い聞かせればいい話だった。
それについては、コア自身、かなり深部まで把握している。
面白がろうとしている物語の、役者を知らないなど、楽しむ側としてはあるまじき行為である。
そしてそれを知ること自体は、コアにとってはやはり些細なことでしかなかった。過去のことまでを深読みすることはできなかったが――可能ではあるものの、そこまで知ってしまってはつまらなくなる気がしたのだ――だいたいの肩書きくらいは理解している。
それを聞き終えた四人は、一様に腑に落ちない顔をした。
ソファイアが、全員を代弁して尋ねる。
「あの……お言葉ですが、ここまで慎重を期すことは、ないかと……」
「うん、まあ、そう思うよね。でもね、ピッタリ見計らって力をセーブするより、予想外でも余りあるようにしておけば、備えあれば憂いなしって感じでいいんだよね」
コアは軽く笑って答えた。
思ってもないことを、思っているように振る舞うのは彼女の得意分野である。
いや、ある意味では思っているのかもしれない。この言の中から、彼女の真意は測ることができなかった。
とにかく、とコアは向き直る。
「きっと油断している今がチャンスなんだよね。だから君たちにはすぐに飛び立ってもらうんだよね。最後に――」
ここでコアは指を立てて続けた。
「別に、倒すだけじゃあなくていいんだよね。得意な分野で頑張ってもらえればそれで。話したいんだったら話してきてもいいし。あくまで第一の目的は、こちらへの攻撃を阻止することだけだってことを、ゆめゆめ忘れないでね」
四人は黙って頷いた。
コアはそれを見届けると、今度は送り出す準備にかかる。
とはいっても、それは数十秒にも満たないことだったが。
「それじゃあ、いってらっしゃい」
いつしか彼らそれぞれの足元には印が走っていて、コアはその四人をシャッターに写しているように、手でフレームを作り、それを通して彼らを見ていた。
「期待しているよ」
パチリ、とコアが片目でウインクすると。
次の瞬間には、彼らはそこにはもういなかった。
「……さて」
コアはふらふらとそのあたりを歩きながら、これからの展開を思案した。
「今回はどんなストーリーが紡がれるのかな?」




