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其は誰が為の叛逆者 〜To break the world〜  作者: 貴乃翔
戻ってきた日常、そして潜む影
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3-16.問答

 何がわからないかといえば、序列一位というのなら今ここでレンが追い詰められていることだ。

 マラリスがやられて、本腰を入れ始めたというのなら一応わかる。束の間の休息期間は、ただの準備期間だったのだと、そう説明することができる。

 だが――それは、レンを倒しにかかることには直結しない。言ってしまえば、標的は自ずとヴィンフォースのはずなのだ――天界の元凶としては彼女以外に思い至らないだろうし、レンはそもそもその存在を把握されてすらいなかっただろう。

 ならば、どうして。

 序列一位だと言った目の前の幼女――コア=ヴィル=シュラインは、レンを的確に狙って、蹂躙し、挙句の果てにこのような状況になっているのか。


「ああ、あとあと――」


 コアはそんな疑問など知ったことではないと言うように、続ける。


「ここに今存在しているのは、コア=ヴィル=シュラインの端末なんだよね。末端、とでも言うべきか。身体をぷちってちぎって出てきたコア=ヴィル=シュライン。だからこんな未成熟で未完全な姿を晒しているというわけなんだよね。申し訳ないね。まあ当然、こっちとて、序列一位という立場上、みすみす身を晒すわけにはいかないし」


 ……レンの頭はパンク寸前だった。もたらされた新たな情報は、状況の把握を得意とするレンだからこそ、混乱するものだった。

 破格すぎる。

 先まで、『絶対領域アブソリュートフィールド』なる究極アルティメット級魔術を使ってなお元気そうにしているのは、コアの魔力所有量がヴィンフォースを遥かにしのぐからであると、一応は現実を受け入れられないながらも納得していた。

 だがどうだろう。

 この、目の前の、レンを一方的な暴虐で翻弄したコア――それが、本体の一部にも満たないと。

 今、そう言ったのか。

 それでは、コア本体とは、いったい。

 どれほどの強さで、どれほど絶対的で、どれほど理不尽で、どれほどの不条理なのか。

 レンには微塵も想像がつかない。

 冗談抜きで、地球を丸ごと壊せるほどには、力を持っている――そんなふうに、抽象的で大それたくらいにしか、レンには考えられない。

 さっきから一言も発しないレンを不思議に思ったのか、コアは不思議そうな顔をした。そしてゼェゼェと息にならない息をしているのを見て、それどころではないのだと思い至った。


「……ああ、そっか。お兄さん、苦しくて声も出せないんだね。ごめんね、少しやりすぎちゃったみたいなんだよね。でもでも、ところが、『絶対領域アブソリュートフィールド』にかかれば――はい、発言どうぞ」


 その、一声だけで。


「……あ――ああ?」


 自然と息苦しさが霧散し、レンの喉は異常なく言葉を発すことができるようになっていた。

 いや。

 できるようになったのはただそれだけで――他は変わらず、依然としてレンはピクリとも肢体を動かすことはできないし、さっきから密かに試みている魔術も構築から破綻していた。

 この領域内では、彼女が絶対。

 許可がなければ、何も出来ない。

 それを思い知らされる。

 だが口だけは達者に、虚勢を張る。

 一ミリでも弱気な声を出してしまえば、もう終わりだと直感していた。


「お前、何が目的だ。そもそも、なんで一位がわざわざこの時期に出向いてきたんだ。こういうのは一番下から来るものだろ」


「およ? わかってるねえ、こっちもちょうどそんな感じで行こうと思ってたんだよ。お兄さんとは気が合うなあ。でもね、わざわざ出向いたのには意味があるんだよね――」


「――っ!」


 そっ、とレンの頬を撫でるコア。

 一瞬にして逆毛立つレンに、コアは面白がるように「反応いいなあ」と言うと、宣言した。

 全てがその行動理念に則っていると言わんばかりに――それ以外では行動なんてしないと言うように。

 おそらく全てを超越してしまうとこんな表情をするのだろう――つまらないのに笑っている、矛盾した表情のままに言い切る。



「――そうした方が、面白いから。それだけに限るよね」



 レンは息を呑む。

 それはまるで、自分のようだと――中二病を煩う自分がヴィンフォースについていく、たった一つの理由と類似――いや、同じ、だった。

 そこに至る過程こそ違えど、持つ思いが同じ――さすがにレンも、何かしらの因縁を感じずにはいられなかった。


「あは。そう考えてみると、お兄さん、面白いよね――元はただの人間だったんだよね? なのに、どういう紆余曲折を経たのか、今では部分的に天使に、いや、堕天使と言った方がいいかな。とにかく、人間をやめた。邪悪な堕天使に脅迫紛い迫られて、仕方がなくというのなら話は別だよ。けれどさ――お兄さん。ヴィンちゃんは、そんなことしないよね。いったい、どういう理由で人間をやめちゃったんだよね?」


「…………、」


 語るまでもない。

 どう説明しても、根底にあるのは――コアの今言ったことと、何ら変わらない。

 だからこそ、レンは無言で返した。

 それに何か察したのか、コアはくつくつくつと可笑しそうに笑う。


「あはははは。傑作だよ本当に。お兄さんみたいな人種、違うね、生きとし生けるものという大きな括りにしてもいい――そんな思想を持つものなんて、このコアを除いて一人もいないんだよね。そもそもお兄さんの場合、狂ってる。どうしようもなく、狂い切っている」


「どういう――意味だ」


「字面通りだよ。人がどこまで思想を飛躍させたところで、お兄さんのように異常なのは生まれることはないよね。あれ、となると――お兄さん」


 カクンと首をかしげ、コアはポカンとレンの顔を見据えた。

 例えば背理法で、それまでそれが真であると思っていたことが偽だったのをふと知ってしまったような、そんな反応。

 絶対的な絶対は取るに足らない人間もどきに問いかける。


「お兄さんってまさか――元から人間じゃなかった?」


 先ほど話していた前提から丸ごとひっくり返しかねない質問だった。


「……は?」


 レンには意味不明という声を出すことしかできなかった。

 だって、レンには親がいて、妹がいて――人間の親から生まれるのは当然人間であり、人間の妹がいるのならその兄は人間であるだろう。

 ……しかし、その決めつけは果たして合っているのだろうか。

 合っていると、断言、できるか?


「あ。もしかして、行き過ぎたことを聞いちゃったかな?」


 やば、と口もとに手を当てて、口を噤むコア。

 無論、コアはヴィンフォースと同行しているのがレンということを知っているだけであり、その個人の詳細は実のところ把握はしていない。

 それを聞き出すための巧みな話術だったのだが……どうやらレンにすら思い当たることがなかったらしい。

 となると、レンが元人間なのか、そもそも最初から違うものだったのかは、誰にもわからないことであるらしい。


(失敗失敗。だけど、特にこれといって気にすることではないよね。どの出身だったところで、こっちの脅威足りうることはないんだし。まあ、できれば人間でないことを祈りたいよね。それならきっと――面白くなるから)


「……ま、雑談はここまでにして、本題に入るんだよね。お兄さんが疑問に思っていた、序列一位自身が出向いた理由――これからを面白くするための、ひと仕事」


 未来のことに思いを馳せたのか、微笑んだまま、コアは舌なめずりをした。

 ぞわり――とレンの背筋には悪寒が走る。

 いったい、自分は何をされようとしているのか。二人きりでこうして事ここに至ることから鑑みて、向こうはレンに用があるのだろうとは、誰にでも理解ができた。

 これからを面白くする――コアの言い分に、レンは想起する。

 突然に最強が来るパターンも、あるにはある。レンは数多くの虚構フィクションには触れてきていたので、それくらいは容易くたどり着いた。

 そしてその場合。

 叩きのめされた主人公は――。


「さあ、バランス調整の時間だよ」


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