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其は誰が為の叛逆者 〜To break the world〜  作者: 貴乃翔
戻ってきた日常、そして潜む影
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3-11.離別

「はあ、疲れたな……」


 レンはそう言って肩をぐるりと回した。

 彼はエプロンを脱ぎ、今の身なりは制服だけになっている。

 一時間と延長戦の混じった激闘を終え、やっとこさ解放されたレンである。

 レンが聞き耳を立てた通り、ナツメが接客したというのがかなり好印象だったらしく、あっという間に評判は広まり、あれからは客足が途切れることはなかった。それどころか、捌ききれずに教室の外に行列ができるほどだ。

 レン、ヴィンフォースをはじめとした調理隊は、忙殺に忙殺が重なり、ナツメたち接客隊も接客隊で目をぐるぐると回していた。

 その、予想外に激しい忙しさにより、レンたち開幕のシフトを引き継ぐにも時間がかかってしまった。

 というわけで現在、文化祭開始より一時間半が経過していた。


「……で。レン、これからどうする?」


「その前になんで制服じゃないんだよ」


「着替えるのが面倒だからな。それに、宣伝のためにこのままでいろという指令もあった」


 ヴィンフォースの身なりは、さっきと変わらずにメイド服風のゴスロリ系だった。

 これなら否が応でも視線を集め、注目されてしまうと感じたレンはいったん今の時間は入れない屋上へ階段の踊り場まで向かった。

 そこで誰もいないことを確認してから、レンはヴィンフォースに言った。


「新谷でさえあんな調子だったんだ、お前が人目につけばどうなるかわかったもんじゃないぞ」


「ふむ……。たしかに浮ついている空気ではあるし、騒がれたらトラブルになることは間違いがないな」


 レンの一言で言わんとすることを察したヴィンフォースは腕を組んだ。


「それなら、心配はいらない。適当に『わたしという存在は目立たない』という印象操作を振り撒いておく」


「そんなことできるのかよ」


「わたしがここに以前より在籍しているということができたのだから、できない道理はないだろう。レンには効かないのだろうが、任せておけ」


 少なくとも傲慢で言っているわけではなく、経験則から見てのことだったので、レンも一応は安心する。


「なら、そういうことで頼む」


 と念を押してから、レンたちは再度教室のあるフロアへと舞い戻った。


「とはいっても、別に目的地はないわけなんだが、どこか行きたいところでもあるのか?」


「なんだレン、わたしを案内してくれるわけではなかったのか?」


 ヴィンフォースが興味を示した場所に行ってやろうと考えていたレンと、レンが前もって計画し余すとこなくエスコートしてくれると考えていたヴィンフォースは、顔を見合わせた。


「おいまさか」


「無計画、ということじゃあるまいな?」


「いや、俺はヴィンの行きたい場所を優先して回ろうと思ってたんだが」


「わたしはレンが何もかもを先陣切ってやってくれるとばかり思っていたが」


「人任せかよ!」


「貴様が言うか」


「…………、」


「…………、」


 どちらも言葉を失ったところで――


「どうしたの二人とも」


 と、二人に気づいたナツメが話しかける。


「あ、お邪魔だったか」


 レンとヴィンの関係性を思い出したナツメは申し訳なさそうに席を外そうとする。

 それを逃がすまいと、レンは助け舟にすがりついた。


「いや、まったくいいところに来たな新谷。実はこれからどこに行くべきか、悩んでたところなんだ」


「ふ、ふーん?」


 ナツメはなんでここであたしと会話を続けるんだ、と心の中で首をかしげながらも頷いた。

 屋台の立ち並ぶ窓の外を指さし、


「えっと、あたしはこれから腹ごしらえをしに行くところなんだけど」


「じゃあ一緒に行こうぜ。ちょうど何か食べたい気分だったんだ」


「え、あ、うん」


「ふむ、どこかに行くのか?」


「そうだ、その間にヴィンは行きたい場所とか決めておけよ」


「……仕方あるまい。どこまでもレンは無計画だからな」


 どこまでも高飛車な態度にレンは苦言を呈したくなったが、今のところは我慢するところにした。


「ほら、お前ってここに来た当時から棒菓子しか食わないし。そろそろ他のにも挑戦した方がいいと思うんだ」


 前、特に理由はないとか言ってたし、レンはそう言ってヴィンフォースを見る。

 ヴィンフォースは何か思案する顔になってから、


「うーむ……。わたしがあれを食すのに特に理由がないことはたしかだが、だからといって何でも食べようとするほど食に執着はしていない」


「いや、まあ、物は試しってことで一回食べてみろよ」


 そんな会話をしているうちに、校舎の外まで出た。

 出ている店を眺めながら、ナツメは目を輝かせた。


「やっぱ祭りと言えばこれだよね。逆に屋台がないと祭りじゃないというか」


「雰囲気的にはそう思えるが……、こう、考え始めると泥沼だよな」


 純粋に楽しんでいるナツメとは対照的に、レンは暗い空気を醸し出していた。祭りの出し物の相場とか材料費とか考え始めたらそこでもう負けだ。そしてレンはその負け組の一人だった。

 一方ヴィンフォースは、特に感慨もなさそうな感じで、ただ確認するように見回しているだけだ。

 知らなかった文明と交流して気分がハイになるパターンじゃないのか、とレンはテンプレ通りに行かないヴィンフォースに安心したような、少し残念なような、微妙な気持ちになった。


(でもまあ、こいつのテンションが上がったらそれこそキャラ崩壊だからな)


 そう考えて、いい方向に捉えることにした。


「それで、何買うんだ?」


 目移りする看板に目を走らせて、レンは純粋な問いをナツメにぶつけた。


「食べたいものばっかりだけど、最初はお腹の安定化を図るためにたこ焼きだよね」


「お前、どれだけ食べる気なんだ……?」


 今にも飛びつきたそうなナツメの様子を見て、レンの中で腹ぺこキャラの属性が追加されつつあった。


「……ま、いいや。たこ焼きだな。ヴィンもそれでいいな?」


「任せる」


 ヴィンフォースのゴーサインを見て、レンは三人分のたこ焼きを購入し、ナツメとヴィンフォースに手渡した。


「え、あたし自分で買うのに」


「いいんだよ、マラリス戦では協力してもらったし」


「そう? それじゃあ、お言葉に甘えようかな」


 えへへ、と笑ってナツメはたこ焼きの箱を開封し、爪楊枝で一つ取り口に入れた。


「はふはふ……うん、やっぱり美味しい!」


「ああ。屋台の良いことは完全なハズレがないってことだよな」


 美味そうにうっとりするナツメと続いて食べたレンを見て、ヴィンフォースは自分の持つ食べ物に目を落とした。

 何かの実験、という感じで爪楊枝を用い、一つを口に入れる。

 瞬間、ヴィンフォースは顔を顰めた。


「なんだこれは……大味だな」


 やはり唯一許容できるのはあの棒菓子だけだ、と 自らの仮説を立証しただけのヴィンフォースは、文句の一つや二つでも言ってやろうと、己の相棒へ視線を向ける。

 向けた――はずだった。

 だが――


「レ……ン?」


 消えていた。

 その場から、忽然と。

 さっきまでそこにいて、たこ焼きを咀嚼していた相棒の姿が――ない。


「……あれ?」


 ナツメもレンの消失に気づいたようで、何が起こったかわからないと困惑した声を出す。


「え……さっきまで、いた、よね……?」


 確かめるようにレンがいたはずの場所を窺うナツメをよそに、ヴィンフォースは既に次のステップへ思考を走らせていた。


(この刹那の出来事、レンで考えられるとしたら『偽物フェイク』により幻覚を見せていたこと以外にないように思えるが、しかし、わたしまで欺けるほどの技量はないはず。よってレン自らによる消失ではないことは明白だ。それなら――)


 ヴィンフォースはバッと勢いよく振り返りながら、客観的判断による判決を下す。


(――第三者に隔離されたのか……!)

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