2-11.対策、拮抗
……しかし、あまりにも急を要したので、レンの手札不足、ないし手数不足は否めない。そのため、レンはひとまず様子見に徹することにする。
追撃が来ないことを認め、マラリスは拍子抜けの感を受けながらも言った。
「じゃあ、こっちからも行くよ」
言うが早いか、虚空から光の矢が生み出されると、それらはそのままレンのもとへと最短距離で、残像が見えるほどの速度で襲いかかる。
レンは慌てず騒がず、『エア』を発動した。
レンの頭上のある地点で、光の矢は何かに阻まれるように動きを止めて、しばらくぶれた後に、地面に落ちる前に霧散する。
『エア』によって、空気を集め、攻撃時と同じ要領で盾を作ったのである。
(……あまり、一つ一つの矢自体は強くないのか。これで防げるのなら、そこまで焦る必要はないか)
それを確認すると、レンは空気の盾を解除し、『フライ』によって残りの光の矢を避ける。
その間、レンはマラリスのいる場一帯に下降気流を発生させた。
「何回やっても無駄だよ」
言って、マラリスは真上に結界を展開させ、風を完封し防いだ。
しかし、レンの思惑は攻撃ではない。今、レンが起こしたのは圧縮も何もしていない、なんの脅威もない勢いだけの風である。
よって。
「な……」
マラリスが、徐々に下降を始めた。
「知ってるぜ。お前のその結界は、何も位置が完全に固定されるわけじゃない。強い圧力をかければ、当然のようにズレる」
「……なるほど。手の内は知れてるってわけか」
マラリスは、レンの意図を知ると、逆らおうともせずに結界を解除、そのまま地に降り立つ。
「それでどうしたの、って感じだけどね。キミだって空を飛べるなら、こんなことする意味もないだろうに」
「地に足つけて、殴り合いも一興だろ?」
即座に、レンはマラリスの背後まで移動していた。今回は風を起こすのではなく、真空の地帯を作り利用する高速移動である。
これには、サンプルがある。レンの持っている魔法バトルものの、とある技だ。レンの魔術構築スピードは他を凌駕するような速さだが、漫画やアニメといった部類で確認しているものの場合、それはさらに速くなる。そこで見たものを、コピーして自分の想像世界へペーストすればいいからだ。一から組み上げなくていい分、圧倒的な速さを実現できる。
そして、マラリスの背後を取ったレンが、振りかぶって右ストレートをお見舞いしようとしたところに――
「何を馬鹿なことを」
マラリスは、見向きもしなかった。
腕一つ動かさず、レンに結界を張ることによって拳を防御した。
「殴り合いだって? そんな真似、するわけがないだろ」
レンが拳を放ち若干のラグができたところに、同時展開していた光の矢が、レンを襲う。
「……!」
レンは『フライ』によって強引にこれを間一髪で回避する。
しかし避けるだけではなく、初撃で使った大気の濁流を簡易的にしたものを打ち込む。
「無駄だって」
今度は光の矢を束ねたような光線をぶつけ、綺麗に相殺させる。
まるで、わざと出力を同じにしているようだった。
それだけに留まらず、レンは立て続けに空気の弾を放ったが、結果は同じようなものだった。
攻撃が通らない。
(やっぱり、そこが問題か……。火力不足ってんなら生徒会長の時みたく不意を突く必要があるが――)
レンは冷静に状況を見極めようとしたが、反撃として繰り出された光の矢により、それは中断をやむなくされる。
隙がない。
レンは、焦りを覚え始めた。
攻撃をすれば完全にねじ伏せられ、その間隙を縫って確実に攻撃を仕掛けてくる。
攻撃自体は対応するのに容易なものの、このままではジリ貧であることは知れていた。
レンは良くない状況に舌打ちをして、回避に徹する傍ら、マラリスについて、情報を整理することにした。
(攻撃に防御、どちらも完全に兼ね備えている。なるほどたしかに、これは――)
→→→
ヴィンフォースは、レンに『エア』を伝授して終わりにはしていない。もちろん、戦う敵、マラリス=エガーデンについても言及していた。
「マラリスの使用する起源は、『万能要塞』というものだ」
「随分と大仰な名前だな」
「しかし、序列の十位という最低の立ち位置とはいえ、腐っても起源だ。それ以上を扱えるわたしにとっては脅威でこそないが、手前の複合をついさっき使えるようになった貴様にとってはかなりの難敵となるだろう」
「ああ。それはわかってる。で、その『万能要塞』ってのは、どういう概念なんだ?」
「その名の通り、要塞に関するものを扱える、万能の魔術だ」
「……例としては?」
「わたしたちが目の当たりにした光の矢、結界、砂煙。考えてみれば、要塞には備わっている防衛設備だろう。マラリスのこれは言ってみれば、難攻不落の防御に特化した魔術だ」
「かなり厄介だな。防御重視というのは、俺にとってやりにくい。何せ火力がないからな」
「……ふむ。たしかに、『エア』を用いたとしても、あの結界やらを突破するのは至難の業だろう」
「じゃあ、どうするって言うんだよ」
「これも含め、わたしが回復するまでの時間稼ぎをしろと言ったのだが、まあ、マラリスを突破するのは全くの不可能、というわけでもない。策は――ある。それも即興で思いついたものだが、しっかりとマラリスへダメージを与えることができるだろう」
「……どうするんだ?」
「それはだな、至極簡単なことで――」
←←←
思い返しながら、レンはダメージを受けないよう動き続ける。
(……まだだ。まだ、その時じゃない。引き出せるだけ引き出させたあとに、実行するからこそ、これは意味を持つ)
カウンターで突風をぶつけるも、マラリスはもう慣れてしまったのか、なんてこともなく無効化をし、十倍返しと言わんばかりの光の矢による弾幕を張った。
レンは右腕を、薙ぐように左へ振り回した。
呼応するように起こる風が、光の矢を真横へ一掃した。
と。
そこで、両者の動きがいったん、止まった。
しばし、睨み合い。
やがて、マラリスは首を傾げて言った。
「ねえ……まさかキミ、これしかできないの?」
失望したというよりかは、意味がわからないという顔色だった。
「こんなの、やってもやんなくても変わらないじゃん。ボクの攻撃は通らず、キミの攻撃も通らない。面白みのない消化試合だ。意味がない」
「そうかよ。だが、わからないぞ、俺がまだ隠し玉を持っているかもしれないだろ」
「そんなことを口走る時点で、隠し玉がないことは明白だよ。しかしさ、いったいこの勝負は、いつまで続くんだろうね?」
マラリスも、レンも、この状況が行き詰まっているのはわかり切っていた。
決定打がない。
それは確実な一手を持っているよりさらに厄介な事柄だった。
やれやれ、とマラリスは首を振り、
「――なんて、誰が思うかな?」
と、笑った。
直後。
「ぐ。ぁ……!」
レンの身体が、意図せずに座標を変えていた。
原因は、彼がさっきまでいた場所付近の地面。
ボコッ、と。
嘘のように形を変形させた、柱と言うべき形状の地面が、レンの身体を叩いたのだ。
完全に不意打ちだったので、レンはモロにダメージを食らう。
衝撃を受けた影響で肺の空気が漏れ出て、呼吸困難になり、少しの間行動不能となる。
その隙を突かないマラリスではなかった。
続けてレンの飛ばされた先の地面が変形をする。そびえ立った地面は純粋な壁を形成し、移動しているレンの勢いを利用してレンに打撃を与える。
「が、っ……」
まだ、終わりではなかった。
衝突により移動するエネルギーを失ったレンは、重力に従い地に落下する。
それを待ち構えるように。
地面という凶器が下から突き上げた。
レンは、宙を舞う。
無防備に。
「チェックメイト、かな」
マラリスが言葉を零した瞬間。
空中をも覆い尽くす矢の大群が、レンを目掛け、撃ち放たれた。




