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其は誰が為の叛逆者 〜To break the world〜  作者: 貴乃翔
波乱のスクールライフ
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12.始まりのハジマリ

「あわわわわわわわ……」


 ナツメは口に手を当てあたふたしていた。

 始終、吸血鬼の視力のいい目でヴィンフォースの様子を確認していたためだ。

 あれはいけない。

 絶対に。

 あんなもの敵に回せば、地球はおろか宇宙まで壊滅するのではなかろうか。そのくらいは思えてしまうほどの衝撃だった。


(今でこそ味方でいてくれてるけど、気まぐれでドカン、なんてことも有り得るんじゃ……)


 そんなことを考えていると、ストッと。

 落下高度とか速度とか、そういうのを感じさせないほど静かにヴィンフォースが窓をくぐり抜け教室に降り立った。


「どうだ、吸血鬼。この世界が『侵略されそうになっている』ことくらいはわかっただろう」


「そ、そうだね……」


 へなへなと、ナツメは腰が抜けて椅子に座り込んでしまった。


「それにしても、別次元だったから……。やっぱり、ヴィンフォースちゃん頼みになっちゃうよね」


「……いいや、そんなことはないな」


「え?」


 てっきり役立たずでお役御免かと思っていたのに、ヴィンフォースは目を細めて否定する。


「貴様らにだって頑張ってもらわねばな。……何かの手違いでここを壊されては拠点の立てようがないしな」


 後の小声はあまり聞き取れなかったが、どうやら自分もこき使われることになるのか、とナツメは思う。

 しかし、貴様『ら』とはどういうことだろうか……?

 そんなナツメの疑問を解消するがごとく、締め切られた教室のドアがガラガラと開いた。

 現れたのは、


「やっぱりここか。おいヴィン、しっかりやったぞ」


「え、えー……説明好きってあの子なの。私またシバかれそうじゃない? ねえ?」


「牙琉くんと、ナルミちゃん?」


「んあ。新谷も一緒なのか?」


 不自然なくいるナツメにここまでの一週間の間のヴィンフォースの動向は全く知らないレンは首を傾げた。当然ながら、ただものではないことは把握しているものの、まさかの吸血鬼だったとは思い至ってもいない。


「ちょうどいい。実は貴様ら三人には提案が……」


「その前に説明してくれよ。生徒会長にどう言えばいいかわからないから黙って連れてきたんだけど」


 ヴィンフォースを遮る形でレンが割り込み、ナルミを指さした。

 セリフを中断させられた堕天使は唇を尖らせつつ、


「たしかにそれもそうか。だがこれでは三度手間になるな……」


 と、面倒くさがるようにポーズ。

 三度手間、という言葉にヴィンフォースがナツメに事情を話したところまで察した深読み人間もどきレンはため息をつく。


「いいから早くやれよ。勿体ぶってたらいつまでたっても話が進まないだろ」


「……しょうがない、愚かな者どものため、骨を折ってやるか」


 ナツメは全く遠慮がないレンとのこの会話に怖さを禁じえなかったが、どうやら仲がよろしいようで、気を損ねたということはないらしかった。


(付き合ってるっていう印象操作はあながち間違いじゃないのかな?)


 ナツメは考えて気を使わなくていいレンを羨ましがりながら、二回目となるヴィンフォースの話に耳を傾けた。


 ☆


「――にゃるほどねえ♪」


 机を囲むようにして座った四人の一人、ヴィンフォースがあらかたの事情(ナツメに話したものと同じだった)を語り終えると、我が意を得たりとばかりに頷いた。


「天使は天使でも、全くの別世界の中の、っていうことだね」


「……貴様もかなり話がわかるな」


 ナツメのこともあり、もっと補足しなければいけないと思っていたヴィンフォースは感心していた。


「まあ、返り討ちにされた時から私の常識は放棄されちゃってるし。今だって受け入れられたわけじゃないけど納得するしかないというかね」


 レンの方をチラリと見つつ、ナルミは首を振った。レンが片翼を所持しているのにも気づけなかった彼女は自分の認識が何もかもが信じられない状態なのである。


「あ、そうだ、えっと……なんでナルミちゃんがいるの?」


 ポケッと交わされる会話を右から左へ受け流し、ナツメはぐるりとのらりくらり流されていた話題に戻す。


「それはわたしだ。……というか、全部わたしだ」


 ヴィンフォースは腕組みをして言うと、聞き分けの悪いナツメのために追加説明を行う。


「これからは、貴様らにも活躍してもれわねばならない。わたし一人でこと足りる、なんてことが覆る場合だって有り得るからな。そのため貴様らにはレベルアップをしてもらう必要があり、今回は手っ取り早く衝突させてみた、ということだ」


 事実、戦力外だったレンが並の天使を倒せるようになったのだからな、とヴィンフォースはレンとナルミを視界に捉えて賞賛した。


「そしてナツメには敵がどういう存在かを確認して欲しかったからわたしの傍に置いておいた」


 なるほど、とナツメは思う。

 この堕天使は、先のことを見据えて、さらに強大な敵の出現に備えて、自分たちを役に立つように育てようとしているのだ――だいたい、そんなところだろう。

 しかし。

 なぜ、次があると確信しているふうなのだろう?

 常に最悪を想定している――そういえば感心ものだが、なにゆえこんなにも現実味溢れるのだろうか。

 そこまで疑念を抱いてから、ナツメはその考えを振り払う。

 馬鹿馬鹿しい。そんなことを思う暇があったら、まず自分がどうやって生き延びていくべきかを考えるべきだ。

 だって、世界の命運は侵略者を撃退できるか否かだけではなく、

 目の前にいる堕天使も握っているのだから。

 ナルミはあっという間に味方認識にしてしまったようだが、ナツメは注意深かった。

 信じられるのは、自分だけ。

 誰がどんなものを腹に抱えているかは、本人以外に知る由はないのだから。


「で、今回こそ本題に移りたいのだが」


 一同への説明があらかた終わったところで、ヴィンフォースは取り仕切るように注目を集める。


「わたしが貴様ら三人を召集したのは、他でもない。素質があるからだ。人間ではないからな。人間だと到達できる限界はたかが知れる」


 しれっとレンをも人間ではないと形容したのは、事実そうであると暗に言っているのか。

 たしかに骨折からわずか数秒で完治するなどとても人間の芸当ではないが、そうなると、レンという人間だった生き物は、いったいどういう括りの中に存在するのだろうか。


(堕天使の影響を受けたから堕人間……? いや、人間っていう要素がそもそもなくなってるのか。となると人外……っていうのも違う気がする。うーん、しっくり来ないな……)


 頭でこんなくだらない論争を繰り広げつつ、レンはヴィンフォースが次に何を言うのか、耳を澄ませた。


「そして、わたしもそうなのかは知らないが、少なくとも貴様らは個々で存在するよりは集団で存在していた方が何かと便利だ。競い合うことで伸びしろが増えたりすることもあるしな。つまり、わたしが言いたいことはだな……」


(……あ)


 と、そこで、レンは自分を形容するにふさわしい言葉に思い至る。

 むしろ、その印象とはほど遠いかもしれないが、少なくともそう言われて納得できる言葉ではあった。



 怪物。



 非現実をこよなく愛し、ついには足を踏み入れてしまったもの。

 そうして、人間を脱落して、やめてしまったもの。

 なるほどたしかにそういう存在は怪物の二文字で表現するに限る。進んで人間をやめるなど、狂気の沙汰であり、それこそ人間の考えることではない。

 自称中二病。

 それが怪物にまで成り下がったと改めて考えたレンは、ふっと息を零す。

 もちろん、歓喜のあまりの、である。

 彼の場合、むしろ怪物に『成り上がった』、というべきなのかもしれない。

 ねじくれていて、歪んでいて、異常。

 それが牙琉レンである。

 だから、彼は決意する。

 堕ちるところまで堕ちようと。

 どんな結末が待っていようが、この道を突き進んでいこう、と。

 パートナーの堕天使の復讐劇に加担し、破滅して破滅し、破滅させてやろうと。

 思ったのであった。

 それはもはや、怪物の域すら超えているのかもしれない。

 牙琉レンは怪物、というスタートラインに立ち、ゴールの見えないレースに身を投じようとしているのである。

 否、もうスタートしている。

 その行く末がどうなのかは、誰にもわからない。

 幸せなのか、

 不幸せなのか。

 それこそ、神のみぞ知ることだ。

 もう火蓋は、切られている。


「この四人で、一つのグループを作ろうと思っている。ちょうど学校も同じだし、連携を取るには何かと都合がいいだろう?」


「いいね。それじゃ、あってないような生徒会をそれに改造しようか」


「いいのかよ、生徒会長」


「うん。何より面白そうだしね☆」


「グループって言えば、名前だけど。どんな名前にする?」


「あんまり凝らないでいいだろう。そのままで」


 ヴィンフォースはもう考えてある、と言うふうに言った。


「世界治安維持隊、英語の略称でWSOというのはどうだろう」


「なんか、それっぽいな」


「いいねー、私はそれをそのまんま読んでダブルソーで呼ぶね」


「ダブルソーって……ノコギリじゃん」



 各々、それぞれ違う思惑を抱いて。

 どんな方向へ向かうのか、それすら予測不可能で。

 まだ序章にも入っていない、フライングのような大前提の出来事を得た上で。

 この時から、彼らの物語はついに始動したのであった――。

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