川
過去の体験から意識を現実に戻すと、先ほどまでいたコンクリートの街並みとは違っていた。
周りを見渡すと真っ暗で何も見えなかった。しかし、目の前にぼんやりと明かりが見える。そちらの方に歩いていくと大きな川があった。
(なんだあの人混み気持ち悪い。)
川には何艇か舟が止まっていた。沢山の行列が出来ており、それらはその舟に乗るために並んでいるようであった。
昔から人混みというのが苦手であったので、その人混みから逃げるように、暗がりに逃げていった。
川から遠ざかると先ほどまであった明かりが少しもなく、暗闇が広がっていた。
(俺はここで何をしているのだろう。さっきの川は一体なんだ?早く家に帰りたい。)
そんなことを思いながら、暗闇で1人体育座りをしていた。
一体、何時間経ったのだろうか。いや、もしかしたら数分かもしれないし、数秒かもしれない。何せ暗闇で何も見えないし、やることもなくボーっとしていたから、時間の感覚がない。
「ねえ、君。何してるの?」
「うわぁっ!!」
急に掛けられた声に驚いて情けない声を挙げてしまった。
(こいつは誰だ?そもそも俺に声をかけたのか?)
声をかけてきたのは、少年...いや、少女か?どちらにも見える中性的なヤツだった。背も多分小さく小学生ぐらいに見える。顔は...ん?なんかこいつ光ってないか?
「何で睨むのさー」
(ん?いつの間にか睨んでいたらしい。そんなつもりはなかったんだけどな。)
「ねぇ、どうして何も喋らないの?」
「あぁ...」
(ああ、そういえば心の中で会話してるつもりになっていたな。久しく人と喋ってなくて、声を出すのを忘れていた)
「やっと声聞けたね!ねぇ、おじさんはどうして舟に乗らないの?」
(はぁ?そもそも何で乗ると思ったんだ?それに人が一杯いるあんなところに行けるか!ってそんなこと子どもに言えないよな)
「ひ、人が一杯いて嫌だからだ」
(あ!何てこと言ってしまったんだ!こんな子どもに!)
「人が一杯いると嫌なの?」
(くっ...恥ずかしい...)
「...そうだ」
「どうして人が一杯いると嫌なの?」
(は?どうしてかって?人が苦手だからだよ!)
「...」
「......?」
(くっ、コイツ、何で無言なんだよ...
話さないといけないのか...?)
「...」
「......」
「ひ、人が苦手なんだよ!」
「人が苦手なんだぁ~!
人のどんなところが苦手なの?」
(何でコイツはこんなに聞いてくるんだ!ほっといてくれよ!)
「ほっとけ!!」
「......」
(あ...黙った...子どもに対して言い過ぎたかな......でも、これでほっといてくれるだろう...)
「...なぁ、何でまだいるんだ?」
「え?おじさんがほっとけって言うから、諦めてここにいるだけだよ?」
「ほっとけって言ったよな?」
「だから、話しかけてないじゃん。ここにいたいからいるだけだよ?ダメ?」
「...ダメじゃない」
「じゃあ、ここにいるね」