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第四話 ヤンキーと地味子と楽器屋


 次の日。放課後になると俺はまた同好会に行った。

 勿論、武士彦にギターを教わる為だ。昨日はギターの事を教えてもらって正直楽しかった。武士彦はあんな外見で変な喋り方だが、音楽の事については真摯に教えてくれる良い奴だ。

 この調子で頑張ってギターを弾けるようになりたいものだ。


「失礼する」

「ひゃ、ひゃい」


 一応ドアをノックして中に入ると、どうやら二番手だったようだ。

 楽しみで昨日より早く来たが、どうやら武士彦は来ておらず……というより、同好会の部室には前髪の長過ぎる根暗女の天霧しか部室に居なかった。


「今は天霧……お前だけか?」

「……は、はひ」


 さて、非情に気まずい。天霧に対して何かやったつもりはないが、やはり俺の外見のせいで怯えられているのだろう。こういう反応に慣れてはいるが、同じ室内にいるのにこれだと少しばかりやりにくい。

 だが、しかし!

 俺はこの同好会のメンバーであるので、普通に話せる様になりたい。それに、文化祭でバンドをする予定(俺の中では決定事項だが)なので、そのバンドメンバーに怯えられるのはあまり良いものではないだろう。

 となれば、これは面白おかしくおしゃべりでもして打ち解けておきたいと思うのが俺の本音なのだが、しかしながら、いつも皆に怯えられている俺に女子と楽しくトークというのは、非情にハードルが高い。


「…………」

「…………」


 普段はあまり騒がしいのは好きではないが、今はこの沈黙が辛く、非常に居心地が悪い。この状況を何とかしようと、俺はなんとか声を絞り出す。


「あ~そういえば、俺も少し調べてみたんだが、エレキヴァイオリンって珍しいよな?」

「……で、ですね」

「…………」

「…………」


 そして、再びの沈黙。これは俺が悪いのだろうか?いや、こういう時に責任の所在を求めるのは好ましくない。確か話を長く続ける為には、質問に答えやすく尚且つ相手の好きなことを語らせると一番会話が弾むと聞く。

 ならば、どんな話題だ?オタクが好きと言えばアニメか?だが、女子がアニメを見るのだろうか?くそっ分からない。いや、そもそもアニメの話題を出したとして、俺がついていけないだろうし、それで会話が盛り上がるというビジョンが全く見えない。

 なら、他にはなんだ?学校の話題か?いや、それとも……あ、音楽の話題ならいけるんじゃないか?


「あ、天霧は普段どんな音楽を聴くんだ?」

「……えっと……アニソンです」

「そ、そうか……」

「……はい」


 くそっ、ここでもアニメの壁があるのか!?……いやだが、諦めるのは早い。


「お、俺はな、前に幼馴染のダチとライブに行ったんだ」

「……そ、そうなんですか」

「ああ。確か『|HIGH STAND OUTハイスタンドアウト』というバンドだが聞いたことあるか?」

「……い、いえ」


 パンクロックを知らなかった俺が一発で好きになるほどのバンドなら、バンドやっている奴は皆知っていると思ったが、違うのか。確か俺が好きになったバンドは、雑誌ではなんか『日本のパンクロックの礎になったバンドの奇跡の復活!!』とか書かれていたな。

 という事は、世代が違うのか?10代20代の人もいたが、そういやぁ客層も30代40代の人達も結構いたな。いや、前まで俺も知らなかったから、そんなものなのかもしれない。


「そ、そうか。俺はな、ライブに行くまでバンドというのを気にしたこともなかったし、音楽について何も知らなかったんだが、その日そのライブですっかりファンになったんだ。その演奏を聴いていたら、心を鷲掴みにされたというか、揺さぶられたというか……とにかくそんなバンドだったな。だから、こんな俺でもそんな風に人の心を揺さぶれるような、動かせるようなバンドがしたいと思ったんだよ」

「そ、そう……ですか」

「……ああ」


 あれ?俺は何を話しているんだ?音楽の話題がしたかっただけであって、ここでこの話をする必要があったのだろうか?それにミーハーだと思われたのだろうか?それとも変な奴だと警戒されただろうか?

 くそぅ、やはり俺には一般的な会話はハードルが高いな。

 しかし、なんというかここまで反応がないと『話しかけるな』という合図なのだろうか?もしそうなら、少しばかりへこんでしまう。

 俺は何とも言えない気持ちになり、これ以上天霧の顔を見る事が出来なくなり下を向くと、とても小さな声で声をかけられた。


「……あ、あの」

「な、なんだ!?」


 天霧の声にバッと顔を上げ彼女を見ると、天霧は俺の目を見ずに相変わらず下を向いたままだったが、小さな声で話しかけてくれている。


「……あの、わ、私が、ぎ、ギターを教えましょうか?」

「え?」

「……そ、その、私でよければですけど……み、皆が来るまで……あのその……お、教えますよ?」

「あ、ああ!頼む!」


 天霧の目を見て話すことは出来なかったが、彼女も俺に歩み寄ろうとしていることに気づき、少し嬉しくなった。

 我ながら単純で人にとっては普通のやり取りなのかもしれないが、きっと俺にはこういう『普通の事』が嬉しいのだろう。



 *****



 さて、天霧はギターを教えてくれるとは言ったが、俺は自分のギターを持っていないので、天霧は部室に置いてある武士彦のギターとは違うギターを持ってきて、そのケースを俺の前に置いた。


「……あの、これは卒業した先輩のもの……です」

「そうか」


 俺はそのギターを受け取って、ギターケースから出す。そのギターは武士彦のギターと違い、少しとんがっている印象を与えるギターだった。

 やっぱり、ギターにも色々な種類があるんだろうか?


「あの、そ、それはアイバニーズのRGというシリーズのギターで、ストラトの強化版と言いましょうか、か、改造版と言いましょうか、メタルやハードロックが好きな人が、好んで使うギターの一つです」

「ストラト?メタル?ハードロック?」

「……え、えっと、ですね……ぎ、ギターにも種類がありまして、そ、そのRGはネックグリップが薄くて、速弾きがやり易かったりしますし、音がギターによって違うんです。で、ですから、自分の出したい音や、プレイスタイルや弾きやすさによって、ギターを選ぶんです」

「ほう」


 アレかな?分かりやすく言うと車みたいなものか?

 自動車でも色々と種類やフォルムがあって、性能でも燃費がいいとか足回りが良いあるみたいなものだろうか?プレイスタイルはどんな場所を走るかによって、車を変える的なものか?


「そ、それでですね。メタラーはですね。音楽のジャンルで、ロックとかパンクとかメロコアとかあるのは……その、知っていると思うのですが、メタルが好きな人の事をさ、さ、指しますです、はい」

「へぇー」


 音楽雑誌を見ていても知識がないとさっぱりだったが、これで少しは理解できた。


「じゃあ、武士彦のギターはなんて種類なんだ?」

「え、えっと、宇佐美君のギターはフェンダーUSAのジャズマスターですね」

「そのフェンダーやアイバニーズっていうのは?」

「それは、そのあの、作っている会社名です」


 やっぱり車に例えるのが俺的には分かりやすいな。

 ホ〇ダのフィ〇トとか、ト〇タのア〇アとかそういう事だろう。ギターも会社や種類によって違うって事だな、うん。


「なるほど……その、俺も自分のギターが欲しいんだが、何かおススメとかあるか?正直に言うと、何を買ったらいいかよく分からん」

「え?お、おススメですか?え、えーっと、あの……どんなジャンルの音楽が好きですか?」

「え~っとジャンルだろ?確かあのバンドはパンク?メロコア?ハードロックだっけ?なんかそんな感じだったような気がするな」

「そうですか……で、でしたら、ストラトかレスポールかSGとかその辺でしょうか?あっでも、テレキャスも好きな人は好きですし」

「お、おう」


 くそっ、ストラトもレスポールもSGもテレキャスも言われただけじゃ、分からねぇよ!

 ああ、なるほど。車好きが一部にしか受け入れられないのは、こういう理由だったのか。名前だけ聞いたって、性能やフォルムが分からないし、頭に直ぐに出てこないからな。

 しかし、このままではマズイな……あ!良い事と思いついた!


「あ、そうだ!天霧、お前今日暇か?」

「え?は、はい。あっ……ひ、暇ですけど……」

「なら、ギター買うの付き合ってくれよ!」

「えっ?えぇぇえええ!?」

「ダメか?」

「うぅ~~(暇だって言っちゃったし)……だ、駄目じゃないです」


 天霧が小声で何か言った気がするが、空気を読まずにそこはスルーだ。俺の目的の為にも聞こえなかったことにしよう。


「そうか!ありがとう!」

「……ドウイタシマシテ」


 天霧は少しガックリしているように見えるが、俺は嬉しいので気にしない。

 昨日は武士彦のギターを弾かせてもらい楽しかったが、やっぱり『自分のギター』というものが欲しかった。こんな言い方すると真剣にギターをやっている人には悪いが『ギターを持つ俺カッコイイ』とか少しは思うし、何よりこれで家でもどこでも暇があれば練習が出来るのがでかい。


「それじゃあ、今から行くか?ああ、そういや楽器屋ってここからは遠いのか?」

「……えっと……ど、どうでしょうね……でも、部活終わってからじゃ、じ、時間がないでしょうか?」

「どうすっか――」

「話は聞かせてもらいましたわ!」


 二人して悩んでいると、突然ドアがガラガラと開き、腰に手を当て片手をこちらに突き出した金髪縦ロールが入ってきた。


「は、遥ちゃん!?」

「いや、お前何やってんだ?」


 何が聞かせてもらいましたわだよ。ただの盗み聞きしてただけじゃねぇか。よくもまぁそう堂々としていられるものだ。


「ふんっ、わたくしは貴方が舞に何か良からぬことをしないか見張っていただけですわ!」

「いや、それなら中に入って普通に見張ればいいだろ?」

「……それでは面白くありませんわ」

「……マジか」


 何というかとても残念な気持ちでいっぱいだ。金髪碧眼で整った顔をしているのに、発言といい行動といい格好といい性格といい……なぜこんなにも残念な事になるのだろうか?誰か教えてほしい。

 素材が良いだけに、本当にもったいない。普通にしていればさぞかし綺麗だろうし、モテるだろうに、これが世にいう残念美人という奴なのだろうか?やっぱり人間は外見ではなく性格が、中身が大事だな。

 まぁ、女神に一目惚れした俺が言う事じゃないのかもしれないが、中身だな。大事なのは中身だ。


「……それで、盗み聞きしていた縦ロール様が何の用だ?」

「まぁ、なんて口の悪い人でしょう?これだから鳥の様に中身の軽い頭は嫌なのですわ」

「俺はお前にここまで言われて、キレていない自分を褒めてやりたいがな」

「え~っと、あの……」


 本当にこいつは何なのだろうか?一度ぶちギレして、どつきまわした方がいいのだろうか?その方が世の為になりそうな気がしてきたぞ。きっと、俺と縦ロールのやり取りを不安げに見ている天霧が俺の無罪を証明してくれるだろう。

 それに俺は男だろうが女だろうが、喧嘩を売ってきたら殴る事に躊躇しないからな。フェミニスト共が発狂するかもしれないが、拳の世界でも男女平等だ。殴ってくるなら殴られても文句はないだろう?その覚悟が無いなら煽ってくるなという話だ。


「まぁ、わたくしが言いたかったのは『今日は貴方のギターを買いに皆で楽器屋に行こう』という提案なのですが、どうかしら?」

「それは非常に有り難い申し出だが、出来れば罵られる前に言ってくれれば、もう少し素直な気持ちでお前に礼を言い、優しい気持ちでお前に接することができただろうよ。非常に残念極まりない」

「あら、わたくしとした事がうっかりですわ!うっかりうっかり~ですわ!」

「……なんだこの同好会では、一日誰かがそのうっかりをしないといけない決まりでもあるのか?とんだファ〇キン集団だな」

「では、話している時間も惜しいので行きますわよ!」

「なぁ?天霧?もう本当にこいつ殴っていいか?」

「……え、え~っと?」


 俺は隣にいる天霧に尋ねると、天霧も何とも言えない曖昧な笑みを作った。

 この笑みを正確に言葉にはできないが、俺の意見に消極的な賛成という意味で合っているだろう。きっとそうだ。そうに違いない。



 *****



 まぁ、勿論心の広い俺は金髪ドリルに拳が炸裂することなかった。

 俺と金髪縦ロール早乙女と天霧だけでなく、途中で合流したリンタと武士彦の同好会のメンバー全員で学校の近くにある楽器屋にやって来た。近くという表現をしたが、学校の一番近くという意味で、距離的にはそれなりに遠い。


 店に入ると店員は「いらっしゃいませ~」と迎え入れた後、俺達の事を二度見した。

 まぁ、そうだろうな。俺だって、デブ眼鏡、ネズミ侍、貞子カットの根暗女、金髪碧眼で縦ロールの悪徳お嬢様、如何にも不良そうな強面の俺、とこんな異種格闘技戦のオールスターの様なメンツが固まって行動していたら「え?なんだこいつら?」と思い、次に「こいつらの共通項は何だ?」と疑問に思うだろう。


 勿論正解は『軽音楽同好会』だが、普通の奴ならその正解に辿り着く事はないだろう。初見でこの難問に正解する奴には、ジュースだって飯だって奢ってやるさ。

 そして、店に着いた瞬間に縦ロールの早乙女とデブ眼鏡のリンタは各々の楽器を見に行った。もうここで『みんなで一緒に』という事が終わりを告げた。

 一緒にギター選びをしてくれると言った筈だが、どうなってんだ?この軽音楽同好会ってやつは?それともこの考えに陥っている俺がおかしいのか?誰か教えてほしい。


「それで秋津殿……今日は楽器屋見学でござるか?」

「あ~いや違う。まぁ、それもあるのかもしれねぇが、やっぱり自分のギターが欲しくてな。ギターの良し悪しが分からねぇから、経験者に聞きたかったんだよ。それで俺はどんなギターを買えばいいんだ?天霧が言うには……ストラト、レスポール、テレキャス?とか言っていたが、どれだ?」

「ほほぅ、その三つとは、天霧殿も悪くないチョイスでござるな。むしろ有名どころの三種類とも言えますな」

「う、うん……これってものが無いなら、さ、最初はそっちの方がいいかなって、その思います」

「へぇ~そうだったのか」


 無難で有名どころって事か。まぁ、初心者が持つならそれでいいんだろうな。


「そうでござるよ。どのギターも一長一短……とまでは言わないでござるが、それぞれにクセというか、特徴がありますからな」

「そういや、ギターってギターだけを買っても意味ないんだよな?昨日武士彦が言ってたアンプとか必要なんだよな?」

「そうでござるな。秋津殿は……確か何も持っていないでござろう?」

「ああ。自慢じゃないが、ピックすら持ってないな」


 本当につい最近ギターを弾きたいと思い始めて、ベースとギターの違いを認識した音楽初心者だ。マジで音楽に関する物を何も持っていない。


「でしたら、こういうところだとセットで売られております故、それを買うのもよろしいかと進言いたすでござるよ」

「……ね、値段も安いですしね」

「なるほどな」


 それほど金持っている訳じゃないから、そっちの方が助かるな。


「あーそういや、ギターの他にシールドがいるんだっけか?」

「他には、家用ならミニアンプやチューナー、ギターケースとギタースタンドでござるな」

「あ、あと、ストラップとピックとクロスもですね」

「ギタースタンドとギターケースは分かるが、ストラップとチューナーとクロスってなんだ?」

「ああ、昨日は説明していなかったでござるな。では、ストラップからですな。ストラップはギターを立って演奏する時の肩にかけるアレですな」

「ああ、アレか。アレにも名前あるんだな。紐とか帯じゃなく」

「ははっそうでござるな。それでチューナーはその字の如くチューニング、ギターを調律する為の便利な機械でござるよ。これも色々な種類があるでござるが……この商品はシールドさしてチューニングするタイプでござるな。ちなみに上の太い弦――6弦からEADGBEでござる。音で言うとミラレソシミでござるよ」

「お、おう」


 武士彦はそのチューナーを手に取って俺に説明してくれるが、なんかよく分からないので、初心者でも使いやすいチューナーを買おうと思う。

 あるよな?あってくれよ?頼むぞ制作会社。音楽初心者に優しい物を作ってくれよ。


「く、クロスはギターを拭く専用の布ですよ。ギターを弾いていると、どうしても、その手垢や手の油がついてしまいますので、げ、弦が錆びない様に、楽器を長く使うなら必要なんです」

「なるほどな。それで肝心なギターなんだが……天霧にも聞いたが、結局どうやって選べばいいんだ?」

「そうでござるなぁ。自分のプレイスタイルに合うギターでしたり、ネックの細さや、ボディの重さ、音質……とありますが、ぶっちゃけると自分の気に入ったギターでござるな」

「あ、後はフィーリング……ですね」

「え?マジか?そんなんでいいのか?」


 天霧は色々と言っていたけど、結局はそんなものなのか?そんなのでいいのか?


「まぁ、初めはそれでいいと思うでござるよ?弾いていて音が直ぐにズレる安物はダメでござるが、誰かに強要されて買うよりは、そっちの方がいいでござる。それに言い方は悪いでござるが、音を変えたい場合はどんなギターでも何個かエフェクターをかませれば、それなりに好きな音は出せます故に、好きなものを選ぶべきでござる」

「あ、愛着も沸きます……よ?」

「なるほどな」


 まぁ、確かに人に言われて買うよりは自分で選んで買ったギターの方が愛着も沸くし、練習するのにも意欲が出るか。言われてみればその通りでもあるな。

 てか、聞き流したが、エフェクターってなんだ?いや、今はいいか。先ずは自分のギターだな。


「じゃあ、せめてそのギターの特徴だけでも教えてもらえるか?」

「そうでござるな。さっきの三つのギターなら、高音がテレキャスター、中音がストラトキャスター、低音がレスポールといったところでござろうか?」

「ギターによってそんなに違うのか?」

「け、結構……違いますよ?」


 素人の俺にそんな音の違いが分かるのだろうか?いや、でも経験者であるこいつらが言うぐらいだから違うんだろうな。ハッキリわかるんだろうな。


「そうでござるな……追加で説明すると、テレキャスは繊細な音でありますが、高音がよく響くのでジャキジャキとカッティングなどすると気持良くて、ハマるとやみつきでござる。ストラトは綺麗なクリアな音質で音色のバリエーションが豊富で、色々な音が楽しめるのでオールマイティなギターとも言えますな。最後にレスポールは先ほど言ったように、低音の鳴りと音の太さが特徴的で、パワフルな印象を与え荒々しくも激しい音が出したい人向けで、ロックやハードコアの人にも愛用されているでござる」

「……なるほどな」


 武士彦の説明を受けながら、テレキャスとストラトと順にギターを見ていく。そして、レスポールの番になり、俺は足を止める。


「あっ、俺これにする」


 色々と言われたけど、一目見てこれにすると決めた。


「あれだけ悩んでいたのに即答でござるか!?」

「な、なぜですか?」

「あ~天霧には部室で言ったけどな、このギターは俺が好きなバンドの人が使ってるギターっぽいんだ。そんで、俺がギターと言えばこれみたいな気になっちまってな」

「ハハハ、なるほどでござる」

「ふふっ、それなら、そ、それが良いと思います」

「あれ?こんなんで良いのか?」


 自分で言うのなんだが、こんな理由でいいのだろうか?


「ははっ!それで良いのでござる。かく言う拙者も初めに選んだギターは、好きなアニメキャラが使っていたギターでござる。拙者の初めのギターはストラトでしたな」

「わ、私はお父さんのギターが欲しいって……その、泣いて頼みました」

「なんだよ、お前らも同じ様な経験してんのかよ」

「そんなものでござる」

「……そ、そんなものです」


 俺達はそう言って、笑いあった。そして、その後店員と色々話して無難な初心者セットと必要な物を買いそろえた。


「あ、ピックを忘れてた」

「フフフ、ピックでしたら拙者と天霧殿が選んで買って参りました」

「え?マジで?」

「は、はい。あのお祝いと、今日の記念に、そのどうぞ」

「あ、ああ……ありがとう」


 渡されたのは何の変哲もない三角おにぎりの様なピックだった。

 値段は100円そこらの物だが、普通に嬉しかった。なんというか、仲間として受け入れられたようで、荒んだ思春期を送っている自分としては、こういう気分は久しく忘れていた。


「大事にする……な」

「いえ、使い潰して頂かないと困るでござる」

「……は、はい」

「はっそうだな。ああ……大事に使い潰す事にする」


 嬉しい様な恥ずかしい様な、遥か昔に味わったこの気持ちは、どうしようもなく懐かしい。捻くれた俺の心の中でこいつらを見る目が少し変わったのかもしれない。


 この日から、俺は少しずつこの同好会に本当の意味で馴染んでいった……ような気がした。




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