第二話 ヤンキーとギターと部活動
軽音楽同好会に入会する事になり、入会届を受け取り記入し俺は他のメンバーと挨拶をした。
デブ眼鏡の名前は綾小路倫太郎と言い、顔に似合わず苗字も名前も格好良かったので、なんかムカつくから『リンタ』と呼ぶことにした。お次のネズミ侍は宇佐美龍彦という。これまた珍しくカッコイイ名前なので『武士彦』と呼ぶことにした。
付けたあだ名は俺のせめても抵抗でもあり、ネーミングセンスについては触れてはいけない。それに、それぞれこういうあだ名が初めてだったのか、少し嬉しそうにしていた。
もしかしたら、こいつらは俺と一緒でボッチなのかもしれない。その点だけで言えば、こいつらとも仲良くできるかもしれない。
最後にやけに前髪の長い貞子カットの根暗女は天霧舞という。
一応女子だし、まぁ他の二人の様に変な名前で呼ぶと可哀想なので、あだ名はなしだ。貞子と呼んだらただの悪口なので、そこだけは気をつけようと思う。
そして、悪徳お嬢様の金髪縦ロールこと早乙女遥とは、その日の内にとても仲良くなった。他の奴らが人見知りなのか、やはり俺の外見が怖いのか、警戒しているのか、それともこいつは外の人との交渉役なのか分からないが、この日はこいつとばかり話していた気がする。
そうだな、具体的に言うと互いに『縦ロール』『鳥頭』と罵り合うほどの仲になった。
誰がどう見てもとても良好な関係だ。ああ、本当に。
なかなか先の思いやられるクソったれな関係だろ?
*****
俺が『軽音楽同好会』の部室に突撃した、次の日。
昨日と同じように分かりもしない音楽雑誌を広げていると、我が女神望月美咲がちーちゃんと一緒に俺の席へとやって来た。
ちーちゃんは俺に近づきたくないのか、もしくは怖いのか、望月の服を掴んで離さない。
流石は俺の中で『小動物系女子』と今話題な女の子だ。面白いぐらいにプルプル震えてやがるぜ、この野郎。
「おはよう、秋津君!」
「お、おはようございます」
「ああ」
「それで、昨日言ってた『軽音楽同好会』はどうだったかな?」
「ああ、入会した」
「本当――」
「えっ?ほ、本当ですか!?」
俺のその言葉に、女神との会話にいつもはノータッチのちーちゃんもあまりの驚きの為に思わず食い気味に声が出てしまったのだろう。
そのせいか「しまった!?」と口を押さえて、俺から目を逸らしている。
「ちーちゃん?どうしたの?」
その様子に我が女神望月は首を傾げながら、ちーちゃんに尋ねる。
「え~っと……その……な、なんでもないよ?うん、本当だよ?」
ちーちゃんは明らかに何かあるだろうという態度を取りつつも、口では否定の言葉を紡ぎだす。
だが、ちーちゃんよ……それでは流石に誤魔化すことなどできないぞ?
「ちーちゃん、それはどういう意味だ?言ってくれ」
勿論俺はちーちゃんの逃亡を許さない。ちーちゃんの目を見て、飲み込んだ言葉の続きを吐くように問う。脅すつもりはないが、ちーちゃんはいつものように怯えてしまう。
そんな小動物系女子のちーちゃんは、俺の言葉に面白いほど体を震わせてこちらを見て、ぼそぼそと口を開く。
「は、はひっ!?えっと……そのあの……」
ただ、ちーちゃんの言いにくそうなそのリアクションが問題だ。
なんだ?そのリアクションは?……やめてくれ、とても不安になる。あの同好会はキモオタっぽい奴らと、オホホと笑う縦ロール以外に、何か他にも不安要素があるというのか?
まさか、あれ以上に何か問題があるのか?
答えてくれ、切実に。俺は昨日からあそこの同好会のメンバーになってしまったのだ。不安でしょうがないじゃないか。
「えっと……その……あの後、色々と調べたんですけど……その『軽音楽同好会』の会員の方は、その……アニメが好きだったり、コスプレしたりしていると……その、代々とても個性的な方が多いと……その聞いていたもので……」
「はぁ…………なんだ、そんな事か」
「え!?秋津さんは大丈夫なんですか?」
ちーちゃんは『信じられない!?』とでも言いたそうにこちらを見る。
いやまぁ、それだけでも普通の人には十分問題なんだろうがな。しかし、俺にとっては『そんな事か』で片付ける事が出来る。
正直に言うと、もしかしてそれ以上の『言いづらい何か』があるかと思い冷や冷やした。
周囲に『不良』と呼ばれてはいるが、これでも一応は『一般人』と同じ感性を持つ俺には、アレ以上濃いキャラ達は想像する事が出来ない。
なにせ、通常の会話に『ワタクシ』『拙者』や『オホホ』『ですわ』と『フヒヒ』『ござる』に『~氏』『~殿』だぞ?もう十分にキャラが濃いだろ?それ以上なんてどんな奴がいるんだよ?是非とも教えてほしい。
それに比べて『アニメが好きだ』という情報なんて今更だな……そう今更なんだよ、ちーちゃん。
「大丈夫だ、ちーちゃん。俺だって初めは奴らの格好を見て、奴らの趣向には焦ったが、少し話してみたら同好会のメンバーは普通……とは言い難いが、ほらなんだ?……アレだ、うん……いや、大丈夫だ。何も問題ない。ああ、大丈夫だ。俺はやれるさ。大丈夫だ」
俺はまるで自分にそう言い聞かせるように、ちーちゃんの言葉に頷く。
あんな外見だが、俺と同じで中身は普通……の筈だ。俺のこの思考に俺の願望などこれっぽっちも入ってはいない。入ってはいない筈だ。
「そっかぁ~良かったね!これでギターを練習できるね!」
「ああ」
女神が「良かった」と言って、こんな風に晴れやかにほほ笑むんだ。個性的な面々の集まる同好会であっても、何も問題がある筈などないだろう、うん。
「……そ、そうなんだ」
それで、今回は会話が終わってしまったが、ちーちゃんの心配そうな声がとても印象的だった。
*****
その日の授業が終わり放課後になった。
これといって訳はないのだが、俺は自分の机で数分間呼吸を整え精神統一をする。俺がこれをするのは不良チームの『百鬼夜行』に殴り込みに行った時以来だ。『手を出さなければ手を出さない』や『堅気には手を出さない』を信条にしていた俺でも殴り込みを行かざるを得ない、思い出したくもない嫌な事件だった。
それはさておき何が言いたいかというと、あの時と同じぐらいに精神統一が必要なぐらい何かに追い詰められているという事だ。
「よしっ」
これといって訳はないのだが、気合が入った所で、部活棟の四階の軽音楽同好会の部室に赴く。
「大丈夫、大丈夫だ。何の問題もない。問題なんてこれっぽっちない。大丈夫だ」
これといって訳はないのだが、自分に「大丈夫」と繰り返し言い聞かせる。
昨日は初見だったので先制で良い一撃をもらい思いの外動揺してしまったが、今の俺は中に奴らがいると分かっている。なので、面食らう事はないだろうし、気後れする事もないはずだ。
俺は学生らしく部活に精を出す。ほら、何の問題もない。
「どうぞ」
「失礼する」
昨日と同じように二三度ノックして中に入ると、既にメンバーは揃っていた。
「秋津氏、ふひっ」
「秋津殿。遅かったでござるな」
「あら、鳥頭少し遅くてよ」
「…………」
「あ、ああ」
大丈夫だ。俺は大丈夫。圧倒されてもいないし、気圧されてもいない。
昨日だって普通に話せていたじゃないか。ちーちゃんの言葉に惑わされるな。言霊なんてスピリチュアルな事は信じるな。平常心を保て。大きな括りで言えば、相手は俺と同じホモサピエンスで霊長類だ。それにほら?ミミズだってアメンボだって生きているんだ。友達なんだ。
そう考えれば、大丈夫、大丈夫だ。
「ふぅ……ああ、悪かった。それで今日は何をするんだ?文化祭に向けた練習か?それとも曲作りか?」
そう、昨日は自己紹介と俺がここ『軽音楽同好会』に早くなれる様に、今こいつらが座っている机でお茶会みたいな事をした。
ついつい「女子かッ!」とツッコみたいが、昨日はきっと俺が馴染めるようにと気を遣って態々やってもらったのだ。俺だってそれに文句をつけるほど狭量ではない。
「え?」
「ん?昨日は俺の為に歓迎を兼ねてのお茶会だっただろ?違うのか?」
「え、ええ。そうですわよ」
「なら、今日はお前らもなんかするんだろ?」
「も、もちろんですわ!ねぇ?」
「そ、そうなんだな!」
「そうでござるよ!」
「……っ!……っ!」
それぞれが目を泳がせて俺の言葉にうんうんと頷く。
なぜだろう?何か焦っている様な気がするが?そんな風に思っていると、ネズミ侍が急に立ち上がる。
「あっ!あーそうでござった!」
「ん、どうした?武士彦?」
「いえいえ、拙者としたことがついうっかりでござったよ!今日はでござるな、秋津殿にギターの何とやらを教えようと思ったのでござるよ!うっかりうっかり~でござった」
「え?マジか?ギター教えてくれんのか!?」
「も、勿論でござる!」
「マジか!ありがてぇ!俺は楽器全然やったことがなかったからな」
「フフフ。では、あちらでギターに触れてみるでござるよ」
俺とネズミ侍こと武士彦は、昨日武士彦が使っていたスピーカーの前に移動する。
武士彦はケースからギターを取り出し、それをいじりながら説明を開始する。
正直俺のテンションは爆上がりだ。
「では、まずギターについてござるな。ギターを弾くのなら、ギターについて少し覚えないといけない事もあるので、一緒に覚えていくでござる」
「ああ、頼む」
「ギターとは弦が六本の弦楽器でござる。そして、エレキギターはアコースティックギターと違い、それ単体では音が出ないのでござる」
「ん?音は鳴るよな?」
「いや、言い方が悪かったでござるな。エレキギターは『アンプ』に繋げることによって『本来の音』が鳴る、と表現したほうがいいでござるな」
「アンプってこのスピーカーだろ?」
俺は手元にあるスピーカー――いや、アンプをコンコンと叩く。
「そうでござるな。まぁ、正確にはアンプは電気信号を増幅する装置でござるが……まぁ、大体はスピーカーも内蔵されているものがほとんどなので、そう思って頂いても構いませんな」
「お、おう」
よくわからんが、ここは頷いておこう。
電気信号がどうのこうのと、詳しく聞いても分からなそうだしな。それとこれからは、スピーカーではなくちゃんとアンプと呼ぼう。
「そして、このアンプとギターを繋ぐケーブルを『シールド』と呼ぶでござるよ」
「なんか無駄にカッコイイ名前だな」
「フフフ、そうでござろう?説明ばかりではつまらないでござろうから、先ずは音を鳴らしてみるでござるか?」
「え?いいのか!?」
「ええ、構わないでござる」
そう言ってネズミ侍の武士彦は、アンプにシールドを突き刺し、アンプの電源を入れ、ギター本体についている丸っこいツマミを回し、何度か弾いてから自分のギターを俺に渡してくれた。
「ピックという三角形のプラスチックのつめを使って鳴らすでござるよ?ああ、ピックの持ち方は右手の人差し指の側面にのせる様にして、親指で挟む感じで……こう持つでござる」
「お、おう」
俺は初めてのギターにワクワクしながら、ピックを持って鳴らしてみる。しかし、武士彦が鳴らしたような綺麗な音は鳴らず、不協和音が部室に鳴り響いた。なぜだ!?
「…………なぁ?」
「あーこちらの説明不足でござったな。先程拙者が弾いた様に綺麗な音を出したい場合は、コードを押さえるでござる。ギターはですな、左手で弦を抑えて弾く必要があるでござるよ。特にコードというものを覚える必要があるでござる。左手の指で弦を抑えて、コードやコードネームと呼ばれる鳴らしたい音の形を覚えるのでござるな。例えばこれがCのコードでござる」
「宇佐美氏~。その説明だと分かりにくいのでは?」
武士彦が説明していると、同じくベースをいじっていたデブ眼鏡ことリンタが、説明をインターセプトする。
まぁ、確かにいきなりコードと言われてもよく分からない。今の説明だと『演奏に必要な何か』程度の理解力で、やはり指は六本も必要ないと分かったぐらいだ。
決して俺が馬鹿なわけではない。決してな。
「綾小路殿。拙者が考えるに、初心者には先ず『ここを抑えて、こう弾くと綺麗な音が鳴る』という事から始めた方が良いと思うのでござるよ。秋津氏は楽器未経験者でござるからな。他の楽器などの音楽をやってこなかった人にいきなり座学で、和音だったり、メジャースケールだったり、ここを押さえてドの音が鳴り、ミの音が鳴り、ソの音が鳴り一緒に鳴らすとCのメジャーコードです。同様にド、ミ♭、ソでCのマイナーコードです、と言われても全く分からないでござろう?」
「……確かにそうかな?秋津氏も分かりにくいかな?」
「ああ、全く。キッパリと、さっぱり理解できない。メジャースケール?Cマイナーコード?なんだ?呪文か?」
「はははっ。まぁ、初めはそうでござろう?なので、拙者は理論などの勉強は一先ず横に置いておくとして、まずは何個かコードを覚えてしまって『ギターって意外に簡単に弾けて面白い!』と思ってもらいたいでござるよ」
おお!なんか音楽を語る武士彦がカッコよく見える!外見はネズミ侍なのに、なんかすげぇ!でも、リンタも俺に教えようとしてくれたからな、礼は言っておかないと。
「リンタのその理論だのなんかが大事なのは分かったが、やっぱり武士彦の言う通り俺もギターでちゃんとした音を鳴らしてみてぇんだ」
「そっかぁ」
「いや、リンタもアドバイスしてくれようと思ったんだろ?ありがとな」
「ふ、ふひっ。どういたしましてなんだな」
まぁ、リンタの心遣いはありがたかったが、流石に「ふひっ」と笑われるとキモいから今度からは笑う度に注意しよう。夢に出たら流石の俺でも笑って流せない。次は殴ってでも止めるしかないな。
「では、秋津殿よろしいでござるか?」
「あ、ああ。続きを頼む。俺は本当に初心者だからな。出来れば音楽知識皆無の俺にもわかりやすく、嚙み砕いて説明してくれると非常に助かる」
俺が楽器初心者で、音楽用語が多いと理解しにくいだけであって、俺は決して馬鹿な訳ではない。
「了解でござる。では、さっき言っていたコードでござるな。そのコードというのは和音でござる。和音というのは……そうでござるな『二つ以上の音を同時に鳴らした綺麗な音』と思って頂くでござる。なぜコードが必要かという説明は……まぁ、詳しくはまた今度でござる。それでギターでは、そのコードはAからGまでのアルファベットで表記され、決まった所を押さえると綺麗な音が鳴るでござる。では、実際にコードを押さえてみるでござるよ」
大丈夫だ。これぐらいなら、まだ話についていける。つまりアレだろ?ギターにおけるドレミファソラシド的なアレだろ?
どうだろう?違うのか?……いやまぁ、後で聞いてみよう。今は言われたことを覚えるのが先だ。
「では、分かりやすいローポジションでやってみるでござる」
「ローポジション?」
「そこからでござったな。まず、ギターは人の体の様に例えられるでござる。この先っちょが頭で『ヘッド』と呼び、この長い部分が首で『ネック』と呼び、一番大きなところが胴体部分で『ボディ』と呼ぶでござる。それで、ヘッド側をローポジション、ボディ側をハイポジションと呼ぶでござるよ」
「って事は、今回のローポジションは上の方か?」
「そうでござる。ちなみに、ネックに無数にある線の様なでっぱりはフレットと呼ばれていて、ヘッドから数字で若い順でござる。それで、指で弦を押さえるのは、このフレットとフレットの間を押さえるのでござる。その時の間を1フレットや2フレットと表現するでござる」
「ふむふむ」
これがギターの基礎だよな?いや、まだ大丈夫。
「では、先ずは簡単なAから押さえてみるでござる。1フレットと2フレットの間――つまり2フレットに人差し指で4弦、中指で3弦、薬指で2弦でござる。あーあと、難しいかもしれないでござるが、押さえる時は指の先端付近で押さえるでござるよ」
「4弦?3弦?」
「ああ、そうでござったな。弦は一番太い弦が6弦で、一番細い弦が1弦でござる。ギターを抱えたら、一番上が6弦で一番下が1弦でござる」
「お、おう」
俺は言われたように指の先端を使って押さえるが、なんか押さえづらい。
「え~っと……ネックを握る様にそれでいて指が他の弦に触れない様に気を付けるでござる。何も押さえてない弦の事を『開放弦』と呼ぶでござるな。なので、コードのAは6弦ミュート、5弦開放弦、432弦が1フレットと2フレットの間、1弦が開放弦でござる」
「す、すまん。そのミュートとは?」
やばいな。専門用語と覚えることが多い気がする。いやだが、負けるな。これぐらいどうって事はない。まだ、初歩の初歩だよな。
「そうでござった。ミュートというのは音を出さない様にする事でござる。ええっと、ここでは空いている親指で弦に触れればいいでござる」
「触れるだけで良いのか?」
「そうでござるな。音を出さないようにするのが目的なので、力いっぱい押さえすぎると音が鳴ってしまうでござるよ」
「なるほど」
言われた通りに、指で押さえてみたが、慣れない指の形で手がプルプルする。
「で、できたがどうすればいい?」
「鳴らしてみるでござる」
俺は右手のピックで上から鳴らしてみるが、武士彦の言う綺麗な音とは程遠い。
「なんか、音が汚いぞ?」
「ああ、それはでござるな。ギターという楽器は、弦をすべて鳴らす必要がない場合あるでござる。この場合は、6弦は鳴らさなくていいでござる。5弦より下から鳴らしてみるでござる」
「おうよ」
もう一度鳴らしてみると先ほどよりはいいが、まだ綺麗ではない。
「武士彦、なんでだ?」
「たぶんでござるが、指が違う弦に当たってしまいミュートした状態になっていると考えられるでござる。なので、一弦ずつ鳴らしてみるでござる」
「おう」
ミュートはもう覚えたからな。もう一度鳴らしてみると、薬指が1弦に当たっているようで『ペンッ』と変な音が鳴った。
「秋津殿、指は立てるでござる。さぁ、もう一度」
「おう。今度こそ!」
すると、今回は綺麗な音が鳴った。
「鳴ったぞ!」
「鳴ったでござる!」
俺達はこんな小さなことで喜びに舞い上がる。自分でもなんでこんなに嬉しいのか分からないが、とにかく嬉しい。
「これがローポジションのAでござる」
「なるほど」
「では、先ほど言ったCのコードをやってみるでござるか?」
「おう」
それから俺は武士彦に言われるがままに、ローポジションのコードを教わった。武士彦は無知な俺にも色々と言葉を尽くして教えてくれた。見た目と言葉遣いはアレだが、こいつは良い奴なのかもしれない。
『見た目は~だ』なんて思っているとは、自分が一番嫌な事なのにな。今度からは、少しばかり考え直さないといけないな。
*****
コードを教わっているといつの間にか遅い時間になっていたので、俺達は帰宅することにした。
「ところで、俺はずっと武士彦に教わっていたが、そういえば他の奴らは何をやってたんだ?縦ロールはドラムのスティックにすら触れてなかったようだが?」
俺の質問に部室にいた面々は固まった。
「なんだ?俺は何か悪い事を言ったのか?」
「あ~いや、そのでござる……」
「あ、秋津氏。なななんでもないんだな」
「そ、そうですわよ!」
「…………」
こちらとしてはただの質問のつもりだったのだが、こいつらにとっては違ったようだ。
こういう時は日本人らしく空気を読んで「そうか、気のせいか」と言うのが正しいのだろうが、俺はこの同好会に入ってしまったので、何かマズイ事をされて活動停止にでもなられると困る。
なので、もちろん追及の手を緩めることはしない。
「おい、縦ロール……吐け」
「だから何でもないと言っているでしょう!?」
「人は疚しい事があると声を荒げて煙に巻くと聞くが?」
これはアレだな。逆ギレしてうやむやにするパターンだ。
この理不尽な誤魔化し方は、結構使い勝手が良いせいで、ヤクザやヤンキーが良く使う厄介な手段だ。特に気の弱い奴に対して使われるから、自分が悪くない時は決してここで折れてはならない。
「何なのですか貴方は!?こ、こちらは女の子同士の乙女な会話でしてよ?無断で入ってきては女子に嫌われましてよ?」
「むっ……そうか」
縦ロールは明らかに言葉を詰まらせて、目が泳いでいる。昨日の様な堂々とした縦ロールらしからぬ行動だ。気のせいだろうが心なしか縦ロールがヘタっている気もする。
まぁしかし、その返しは些か卑怯な気もするが、そう言うのなら引かなければならないだろう。
「リンタ……は、ずっとベースをいじってたよな?」
「そ、そうなんだな」
「武士彦は……俺にギターを教えてくれていたからな」
「そうでござるな」
「天霧は……」
「……っ!?」
「……まぁ、言いたくなさそうだし、今日の所は引いておこう」
あまりやり過ぎると、折角怯えられずに普通に話せるようになったのに、この不良の外見のせいでまた怯えられても困るしな。
その日は少しもモヤモヤするが俺もギターを弾く事が出来たので、満足して寄り道をせずに帰宅した。




