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プロローグ

この物語は『ヤンキー・バトルもの』ではありません。

一応、バンドを中心とした『青春・音楽もの』です。

楽しんで頂けたら幸いです。



 俺――秋津隼人あきつはやとは、この理不尽な世界が嫌いだ。死ぬほど嫌いだ。大っ嫌いだ。

 そうだな、例えば『こんなクソッタレな世界なんて滅んでしまえ!』と叫びたくなる程嫌いだし、もしこの世に世界を滅ぼす魔王がいるのなら、喜んで先兵になる程大嫌いだ。


 人より少し目が細く、人より少し目つきが悪いだけで「んだぁ?てめぇ?何ガンつけてんだぁ?喧嘩売ってんのか!?あぁん!?」と絡んでくる連中が特に嫌いだ。

 本当にいつの時代の不良だよ。堅気にそこまで全力で絡む奴がどこにいるんだよ。いや、どの時代でもそんな奴はいるんだろうけど本当に勘弁してほしい。

 俺が必死に「馬鹿言うな、喧嘩なんて売ってねぇよ!マジで勘弁してくれ!」と拒絶すると「はぁ?ビビってんのか?今更おせぇよッ!」と本気でドツいてきたり、暴言を吐きかけられたり、何人かで道を塞がれたり、殴りかかってくる連中がマジで嫌いだ。


 一方的に殴られるのが嫌なので流れでこっちが殴り返すと、最終的に「勘弁してください!」とか謝るんなら絡んでくるなよ。後、俺を倒して名を上げる為にとか意味が分かんねぇよ。お前らはどこぞの戦国武将かなんかなのか?不良世界の天下統一とかマジで意味が分かんねぇよ。

 ましてや、そんな奴らを返り討ちにしているうちに、俺の事を「不良だ!ヤンキーだ!悪魔だ!」と呼ぶ奴らはもっと嫌いだ。


 世間ではこういうのは『正当防衛』と呼ぶんじゃないのかよ?何もしないでボコボコされてから警察に泣き付けって言うのか?法や大人ってのは、そういうのから一般人や子供を守ってくれるものじゃないのか?先生ってのは、あんな大人と一緒になって、人をゴミでも見る様な目を向ける人じゃねぇよな?


 ふざけんなよ!?殴られたり、頭突きされたり、蹴られたら、刺されたらめちゃくちゃ痛てぇんだ。アイツらは手加減とか知らないから、鉄パイプとかナイフとか普通に出してくるし、アレに殴られたり刺されたりするとガチで痛てぇんだ。無抵抗で殴られると簡単に骨にひびが入るし骨折するし、刺されると洒落にならないくらい血が流れるし、本気で殺されるんじゃないかと思うぐらい意味の分からない事をしてくるからな。頭どうかしてるぞ?マジで!


 一度同じ状況を味わってから言ってみろよ!耐えられるかよ!本当に冗談じゃない!


 そんな生活と風評で、思春期の少年の心が荒まない訳がない。俺は例に漏れず『触れる者全て傷付けるナイフのような少年』になった。まぁ世の中には、ちゃんと見てくれる人もいるのかもしれないが、残念ながらあの時の俺は出会ったことがなかった。その存在に気が付けなかっただけかもしれないが、自分の親ですらあちら側の人間だから本当に嫌になる。


 全くもって忌々しい事この上ない。どうしようもなくクソッタレだ。


 だが、そんなクソみたいな人生を送る俺にも、神とやらは等しく『チャンス』というものを与えてくれるらしく、俺の人生にも転機が訪れた。そして、どうやらどうしようもなく捻くれていたと思っていった俺は、自分が思っていたより、それはそれはとても単純な人間だったようだ。

 世の中全部がクソみたいなもので、クソったれな世界だと思っていた。それが変わったのは、一瞬の出来事だった。

 あれは学園に入学してすぐの事だ。



 ――そう、俺はこの日……恋に落ちた。落ちてしまったのだ。



 その人の名前は、望月美咲(もちづきみさき)という。

 髪型はボブカットで、身長は同年代の女子より少し小さく、明るい笑顔の似合う元気な女の子だ。


 俺は彼女の「秋津君って言うんだッ!これからよろしくねっ!」という言葉と、人懐っこく笑う顔に一発でやられてしまった。ここで「おいおい、何を馬鹿な!?」と思うかもしれないが、一目惚れはファンタジーではなくフィクションでもなく、現実でも起こりうる現象であり、紛うことなくフォーリンラブってしまった。


 まぁ、言い訳のようで格好悪いが、俺だって「お前は不良のくせに、どれだけ単純なんだ?」と思わなくもないが、俺が惚れたのは俺の様な世間様から、不良やヤンキーと呼ばれる者にも屈しない人だ。怯えず、分け隔てなく話しかけてくれる天使の様な人物だ。耐性のない俺が惚れてしまうのも……仕方がない事だったのかもしれない。

 彼女は「ふへへ~秋津君の髪型って少しニワトリっぽいよね~」と少し発言がアレかもしれないが……抜けたところのあるではなく、天然ではなく、馬鹿っぽいではなく――そう、純粋で裏表のない、そんな女神のような女の子だ。


 そして、俺は恋に落ちたその日から毎日真面目に学校に通うようになった。噂のせいで相変わらずボッチで、周りからも『不良』というレッテルが貼られている俺ではあるが、学校に彼女がいるだけで周りの目など気にせず頑張れる気がした。いつもニコニコと何が楽しいのか分からないが、友人と口を大きく開けてバカみたいに……ではなく、無邪気に笑う彼女を見るだけで幸せだった。

 そして、そんな彼女を見守っているだけで、少し世界が好きになった。

 彼女を俺と同じ世界に誕生させてくれたという事で、クソみたいな世界が少しだけ好きになった。



 しかしながら、俺は見守るだけでは我慢できなくなった。ただ、見守るだけでは苦しくて仕方がなかった。俺の中に溢れるパッションがそれを許してくれなかった。ただ憧れるだけでなく、その先を望んでしまった。

 堪え性のない奴だと自分でも思わなくもないが、それ程俺にとって彼女の存在は大きく、俺にとっては大切な事だった。

 だが先を望むといっても、俺は普段の会話も「おう」だの「ああ」だの「分かった」としか返せないシャイボーイであり、不良と呼ばれる自分がシャイボーイなのは如何ともし難い事実ではあるが、そう簡単にこの症状が治るものではないので仕方がない。きっと、これが恋の病だ。現代医学ではどうしようもない難病だな。

 他の女子相手ならもう少し話せるのだが、彼女の前ではどうしてもダメだった。恋とはこれほど厄介なのかと、恋に落ちてから初めて知った。なので、そんなどうしようもない自分を変える必要がでてきたのだ。いや、変えねばならなかった。

 こうして、俺の改造計画が必要となった。


 しかし、決意したからといって直ぐに何か出来る訳でもなく困っていると、幼馴染のダチに「遊びに行かないか?」と誘われた。何かヒントになればと我が女神の事を相談する為に遊んでみると、ダチは「まぁ、悩んでてもしょうがねぇだろ?そんな事より、今日最近復活したヤバいバンドのライブがあんだよ。実はチケット二枚あるから気晴らしに行こうぜ!」という誘いに乗り、ライブハウスに向かった。

 ここで「あれ?相談した意味は?」と思わなくもないが、ダチがうじうじ悩む俺の事を考えて誘ってくれたと思っておいた。きっと、その方が両者にとって都合が良いのだから、あまり深く考えてはいけないのだろう。


 さて、問題はそのライブハウスだ。俺は音楽を熱心に聞く方でもないし、バンドなんか生で見た事すらなかった。ギターとベースの区別がつかないくらい興味を持っていなかったので、当然ともいえよう。

 勿論そんな俺がライブハウスなど行った事がなく、その時が初めてだったので、少し緊張しながら中に入った。そして、その中に入ると密封された空間にこれでもかと人が詰まっていて、この時の俺はよく分からなかったが、SEと呼ばれるライブが始まるまでの音楽がかかっており、その空間には何か浮ついた空気を感じた。

 俺は出演するバンドやライブハウスというものがよく分からなかったので、最前列に行こうとするダチと別れて壁を背に一番後ろを陣取り、腕を組んでライブが始まるのを待った。正直ライブなんてどうでもよくて、付き合いで来ただけで只々早く帰りたいと思っていた。



 ――そう、ライブが始まるその時までは、だ。



 そして、ライブが始まり……言葉を失った。

 観客の怒号と呼んでも良いほどの大きな歓声。

 左右大きなスピーカーから出る音の圧力。

 踊り狂い叫ぶ観客。

 演奏する人の凄まじく動く指と腕。

 そして、心を揺れ動かせる圧倒的な歌声。


 気が付くと俺は壁から体を離し、組んでいた腕をだらりと下げ、馬鹿みたいに口をポカンと開けステージを見つめていた。


 聞いた事のない曲の筈なのに、口遊みたくなるメロディー。

 何か心に訴えかける歌詞。

 体が躍りだしたくて、何か叫びたくなる衝動に駆られる曲。

 腹に刺さり内臓を揺らすほどの音と、何かが俺の琴線触れたのかは分からないが、何故か心が揺さぶられた。

 照明に照らされて輝く汗のせいか、それとも別の何かなのか分からないが、彼らがキラキラと輝いて見えた。

 顔なんてイケメン俳優と比べたら残念な筈なのに、顔ではない何かが、この人たちの方が圧倒的にカッコイイと俺に訴えかけた。


 そして、演奏を聞いていると自分の感情が抑えきれなくなり、とうとう我慢が出来なくなってしまい、曲の盛り上がりと共に前の団子のように固まっている観客に突っ込み、心の中の想いを叫ぶ。

 すると、その観客も笑顔でそれに応える様に共に体を揺らしぶつかり叫ぶ。


 自分でも意味が分からなかった。

 何がしたいのか本当に分からなかった。

 それでも、興奮した。

 心が揺さぶられ、圧倒された。

 グチグチと悩んでいた筈なのに、それすら頭から吹っ飛んで、只々踊り狂った。

 そう、この時を、この一瞬を、彼らの歌と演奏に酔いしれた。



 ――それに何より楽しかったのだ。



 ライブが終わり、俺とダチと耳がピアスだらけのチャラい兄ちゃんは、一先ずファーストフード店に行った。

 ライブの興奮冷めやらぬテンションで、まるで初めておもちゃを買ってもらった子供の様にはしゃぎ、いつの間にか仲良くなったライブに来ていたチャラい兄ちゃんも交えて、先ほどのライブの事を熱く語り合った。そして、同時に俺は「これだ!」と思った。いや、むしろ「これしかない!」とさえ思った。

 この熱い想いを、ダチと名も知らぬチャラい兄ちゃんに向かい、俺は大きな声で宣言した。



 ――そう「俺はバンドをやる!バンドをやって女神にこの想いを伝える!」と。



 これが青くて痛々しくて、けれども、キラキラに輝く黄金へと続く、俺の冒険への第一歩だった。




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