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5話:出遅れた運命

「ほら、最後のクエスト行ってらっしゃい」


 中央のカウンターレジで会計を済ませるフカイの男を見送る。


「おうともさ。失敗してもここには顔出すから、もしも落ち込んでたら慰めてくれ」


「はいはい、考えとく」


「じゃあまたな」


「おーい、弁当を振るなってーの」


 せっかく作ってあげた弁当を持っている方の手を振る男。その背中が見えなくなるまでカウンターに突いた肘から先だけで手を振る。

 フカイの男、ジェーノは今日で永久凍結らしい。

 あの男と店で話すようになって随分経ったせいか、素直に寂しいと感じてしまう。


「さて、と」


 中央カウンターから出て、さっきまでジェーノがいた席の片づけを始める。


「相変わらず綺麗に食べてくれるもんだねぇ」


 今日ジェーノに作って上げたブラジオリ(肉巻き肉のトマトスープ煮)も具材はおろかスープのほとんどまで平らげてあり、作った側としては気持ちがいい。

 今回作ったブラジオリは攻撃力そのものとドロップ率のブーストがメインで、そのメインの肉を煮込むスープに使った食材でいつもの速度ブーストを補った料理。


 ジェーノにとって最後の晩餐のようなモノだったはずなのに、なぜだか思い出の料理なんかじゃなくて、新作を作ってしまった。


 なんとなく、これで終わりって思いたくなかったからかな……。


「……はは、ないなーい」


 ダスターで机を軽やかに磨く。


 妙なことを考えそうになったらいつものように軽口にして口から出す。こうしないとなぜか悶々としてしまうから。


 しっかし、パートナーがいないと永久凍結なんて初めて知ったなぁ。


 普通の凍結なら何回か聞いたことがあったけど、永久凍結のコトはジェーノから話してもらうまで知らなかった。

 恐らくこのゲームで初めての永久凍結を迎えるのはあの男なんじゃないかと思う。


 運営だって本当は永久凍結をしたくは無いらしいけど、助成金を貰うための政策ルールらしい。

 ゲームに<政策>、しかもVRMMOにだなんて少し前なら考えられなかった。だけど日本の年齢別人口ピラミッドのシルエットが独楽に(心棒の持ち手と先端も含めた形)なったときから少し常識は変わったらしい。

 詳しいことはジェーノが知ってるはずだし、帰ってきたら話のネタにしよう。


 まぁ、凍結が嫌ならパートナーを作ればいい。っていう考えは別段キツイものじゃないかな。別にフリーの人に話しかけて見せかけだけでも少しの間パートナーの振りをしてもらえれば、それだけで解決することみたいだし。

 でもあの男、ジェーノはパートナーを作らなかった。


「バカな男だなぁ、まったく」


「えー、そうかな。私はロマンチストって嫌いじゃないけどなぁ」


「ロマンチストぉ?ジェーノがぁ?」


 皿を持ってカウンターへ戻ると、皿洗いをしていた同僚のエリーに捕まる。


「納得のいく出会いを待ってたんじゃない?そうじゃないと永久凍結になんてならないでしょう?」


 おっとり口調にゆるふわ金髪ウェーブ。白い肌に青い瞳。分かり易いほどのアニメキャラメイクだ。


「残念ながらそんな純情な理由だけじゃないかなー。過去にフカイ組の中で手を組んで努力した時期があったらしいんだけど、そこで仲間が肉食系に捕まったらしいんだよね」


「あらまぁ、それは……ご愁傷様かな?」


 エリーは洗ったお皿を拭きながら笑顔を崩さずに言ってのけるが、恐らく本心からの言葉。

 この世界の肉食系女子は同じ女からしてもすさまじいモノを感じるレベルなのだ。

 そんな獣たちに捕まった仲間を見てしまえば怖じ気づくのも無理はないのかもしれない。


「あーでもロマンチストでもあるのかな?」


 パートナーを作るなら運命的な出会いが良いとも言っていた気がする。


「今だけ我慢してパートナー探し頑張ったら、人気あるから今日中になんとかなったと思うんだけどなぁ」


「え、人気あるの?フカイの長みたいなカンジなのに?」


 思わず皿を撫でるスポンジの動きが止まる。


「それはニアちゃんがよく知ってるでしょう?」


「……そりゃあ私がジェーノを悪く言うことは出来ないけどさぁ」


 前に一度しつこく言い寄られているエリーを助けに入ったら私自身がピンチになったことがあった。そのときに自然な流れで仲裁に入ってきて、挙げ句の果てにほんの数秒で相手を決闘で打ちのめしてしまった男がいた。

 その男がジェーノで、それ以来よく話すようになったのだ。


「……はぁ、ニアちゃん。もたもたしてると盗られちゃうよ。なんて今まで言ってきたけど」


 エリーは目の前にあったお皿を全て拭き終えて、前掛けで手を拭うと珍しく正面から私の目を見る。


「盗られるどころか、終わっちゃうんだよ?」


「――」


 理由は分からないけれど、そう言われた瞬間、私は動くことも何かを言うことも出来ず、カウンターから出てホールへと戻っていくエリーを見送ることしか出来なかった。


「終わっちゃう……」


 ようやく出た言葉は、誰に向けたものか分からなかった。

今回は久々に戦闘がありませんでした。


タイプ速度がオンラインゲーム全盛期レベルに戻ってきました。

文章を考える速度も上がってほしいところです。

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